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林野庁

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第1部 トピックス


1.太陽光発電の適正な導入に向けた林地開発許可制度の見直し

2.しいたけの植菌地を原産地とする表示がスタート

3.林業従事者が生きがいを持って働ける魅力ある林業へ ~「林業労働力の確保の促進に関する基本方針」の変更~

4.J-クレジット制度の活用等を通じて森林整備と企業等の脱炭素の取組の好循環を創出

5.国有林野における樹木採取権制度による事業がスタート


1.太陽光発電の適正な導入に向けた林地開発許可制度の見直し

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水源の涵(かん)養等の公益的機能の発揮が特に要請される森林については保安林に指定して伐採や土地の形質変更を規制し、また、保安林以外の民有林において1haを超える開発を行う場合には林地開発許可制度により都道府県知事の許可が必要となっています。一方で近年、太陽光発電設備の設置を目的とした林地開発が増加し、災害や景観等への懸念から、地域との共生に向けた制度の見直しを求める声が高まってきました(図表1)。

このため、林野庁では、令和元(2019)年に太陽光発電設備の設置を目的とした開発の特殊性を踏まえ、自然斜面への設置であっても急傾斜地では防災施設を確実に設置することや、地域の景観や周辺地域の環境への影響を踏まえた森林の配置基準の設定など、許可基準の整備を行いました。さらに、令和4(2022)年には、「太陽光発電に係る林地開発許可基準に関する検討会」を設置し、当該許可基準整備後の状況について検証・分析等を行いました。林野庁で実施した現地調査等の結果によると、1ha以下の小規模な林地開発全体の中で太陽光発電設備に係るものの割合は約2割であるのに対し、土砂流出等が発生した事例に限るとその割合は約7割と高い値になりました。また、太陽光発電以外の開発面積1haにおける発生割合と同水準となる太陽光発電に係る開発面積は0.57haと試算されました(図表2)。この結果を踏まえ、太陽光発電設備に係る林地開発については、許可が必要とされる面積規模を0.5ha超とすることが適当である等の方向性が示されました。


この提言を受け、林野庁では、令和4(2022)年9月に森林法施行令及び同法施行規則を、同年11月に関連通知を改正し、太陽光発電設備に係る林地開発については、令和5(2023)年4月から規制対象となる開発面積の規模を0.5ha超に引き下げることとしました。これらの見直しは、経済産業省等の関係省庁が共同で立ち上げた「再生可能エネルギー発電設備の適正な導入及び管理のあり方に関する検討会」が令和4(2022)年10月に取りまとめた提言にも取り入れられています。

林野庁では、森林の公益的機能の発揮と調和した形で太陽光発電設備の適正な導入が図られるよう、引き続き取り組んでいきます。

→第1章第3節(1)を参照

2.しいたけの植菌地を原産地とする表示がスタート

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しいたけは、原木に穴を開けて種菌を植え付け林内等の自然に近い条件で育てる原木栽培と、おが粉にぬか等を混合して固めた培地に種菌を植え付けた菌床を用いて施設内で培養する菌床栽培により生産されています。

いずれの場合も、原木や菌床培地に種菌を植え付けた場所(植菌地)と、しいたけを採取した場所(採取地)が異なる場合があります。これまで、しいたけの原産地については採取地を表示することとされていましたが、近年は、海外で植菌・培養された輸入菌床に由来するしいたけが増えてきており、これと国内で植菌・培養された菌床に由来するしいたけとを消費者が区別できない状況となっていました。

しいたけの栽培管理上、培養初期段階の環境がしいたけの子実体(*1)の形成に大きな影響を及ぼすため、しいたけの栽培の実態を反映するとともに、消費者の自主的かつ合理的な食品選択の機会を確保する観点から、令和4(2022)年3月、消費者庁が「食品表示基準Q&A」を改正し、しいたけについては植菌地を原産地として表示するよう原産地表示のルールを見直しました。ただし、消費者への周知及び事業者の表示切替えの準備のため、生しいたけについては令和4(2022)年9月末まで、しいたけ加工食品については令和5(2023)年3月末までは改正前のQ&Aによる表示ができる経過措置期間としました。これについて、林野庁では、消費者庁、都道府県、全国農業協同組合連合会、流通関係団体等と連携し、しいたけ生産者、流通・加工事業者等への周知を行いました。なお、原産地表示のルールが改正された令和4(2022)年4月以降、海外からのしいたけ菌床の輸入量に減少がみられています(図表)。

一方、生産者等においては、ほだ木(*2)や菌床に国産材が使用されていることを表示するマークを付す等の取組も進められており、このような一般消費者の選択に資する情報提供により国産しいたけの需要拡大が期待されます。

→第2章第2節(1)を参照


(*1)菌類の繁殖器官。菌糸がある程度成長すると、適当な環境の下で子実体を形成する。いわゆる「きのこ」の部分。

(*2)原木にきのこの種菌を植え込んだもの。



3.林業従事者が生きがいを持って働ける魅力ある林業へ
  ~「林業労働力の確保の促進に関する基本方針」の変更~

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我が国において人口減少や高齢化が急速に進展する中で、将来にわたり森林を適切に整備・保全していくためには、その担い手となる林業労働力の確保が重要な課題となっています。

こうした中、令和3(2021)年6月に閣議決定された「森林・林業基本計画」では、「グリーン成長」の実現に向け、再造林の推進や、新たな技術の導入の推進、労働安全対策の強化等が掲げられ、さらに、政府全体として「人への投資(*3)」がクローズアップされている状況等を踏まえ、令和4(2022)年10月に、「林業労働力の確保の促進に関する法律」に基づく基本方針を変更しました。

新たな基本方針では、

(ア)「新しい林業」の実現に必要な造林やICT等の知識や技術、技能を持つ人材の確保・育成

(イ)極めて高い労働災害の発生状況を改善するため、伐木作業及び小規模経営体の安全対策強化や、高性能林業機械等の導入・開発の促進

(ウ)地域の実態に応じた林業への新規参入・起業、自伐型林業や特定地域づくり事業協同組合の枠組みの活用、地域間の労働力のマッチング等の取組の促進

(エ)女性の活躍・定着に向けた交流機会の創出や職場環境改善の促進、外国人材の適正な受入れに向けた特定技能制度の活用の検討等

を新たに記載し、林業労働力の確保に関する方向性を示しました。

今後、新たな基本方針を踏まえ、都道府県や林業関係団体等の関係者との連携により林業従事者が生きがいを持って働ける魅力ある林業の実現に向けた取組を推進していくこととしています。

→第2章第1節(3)を参照


(*3)経済財政運営と改革の基本方針2022(令和4(2022)年6月7日閣議決定)



4.J-クレジット制度の活用等を通じて森林整備と企業等の脱炭素の取組の好循環を創出

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国内における地球温暖化対策のための排出削減・吸収量認証制度(以下「J-クレジット制度」という。)は、省エネルギー設備の導入や森林整備等の取組による二酸化炭素等の温室効果ガスの排出削減量や吸収量をクレジットとして国が認証する制度です。J-クレジット制度において、脱炭素に取り組む企業等に森林整備の取組によって創出されたクレジットを購入してもらうことで、その収益により更に森林整備が促進され、「地球温暖化対策計画」における令和12(2030)年度の温室効果ガス排出削減目標の達成や2050年カーボンニュートラルに貢献することが期待されます。

このような観点から、クレジットの創出を推進するため、J-クレジット制度運営委員会(*4)の下に設置された森林小委員会において議論を重ね、令和4(2022)年8月に森林管理プロジェクト(*5)に係る制度の見直しを行い、

(ア)主伐後に再造林を計画する場合等には、プロジェクトの登録に当たって収支見込みが赤字であることの証明が不要

(イ)主伐後に再造林する場合には、クレジットの発行に当たって標準伐期齢等までの吸収分を排出量から控除することが可能

(ウ)伐採木材に固定される炭素量の一部を吸収量の算定対象に追加

(エ)森林保護活動が実施された天然生林を吸収量の算定対象に追加

等の改正を行いました。

また、クレジットの取引を円滑にするため、経済産業省では、カーボン・クレジットの市場取引に関する実証事業として、令和4(2022)年9月に、東京証券取引所への委託によりJ-クレジット制度による認証を受けたクレジットの同取引所における取引実証を開始しました。

さらに、「脱炭素」という視点等から企業等が支援等をして行った森林整備の認知度を高めるとともに、このような企業等の取組の意義や効果を消費者やステークホルダーに訴求することの一助となるよう、林野庁では、新たな顕彰制度「森林×脱炭素チャレンジ」を創設し、令和4(2022)年は10件(グランプリ1件、優秀賞9件)を表彰しました。

事例1 栃毛木材工業の取組

株式会社栃毛木材工業は、令和4(2022)年8月に栃木県内で初めてクレジットの認証を取得し、足利銀行の仲介で、県内企業3社に50CO2トンずつ販売した。プロジェクト登録に当たっては、株式会社栃毛木材工業が所有・管理する山林約2,200haのうち、182haを対象にしており、令和11(2029)年3月末までの8年間で10,319CO2トンのクレジットを創出する見込みである。適切な森林管理で二酸化炭素吸収量が評価されることにより、立木販売とは別の観点で収益になり、カーボンニュートラル視点での経営基盤の強化につながることが期待され、持続可能な山林経営を目指している。

事例2 九州電力の取組

九州電力株式会社は、同社独自の取組である「森林資源を活用したJ-クレジット創出・活用事業」の第1弾として、福岡県久山町(ひさやままち)及び九州大学都市研究センターとの間で締結した「持続可能なまちづくりに関する包括提携協定」に基づき、森林の適切な維持管理がなされている久山町の町有林で、久山町と協働しJ-クレジット創出の実証事業を行っている。令和4(2022)年にプロジェクトの登録申請が承認され、令和10(2028)年3月末までの8年間で、合計約1,500CO2トンのクレジット創出を見込んでおり、企業のカーボンオフセット等への活用を予定している。


→J-クレジット制度については第1章第2節(5)を参照

→「森林×脱炭素チャレンジ」の受賞者については36ページを参照


(*4)J-クレジット制度は、農林水産省、経済産業省及び環境省が運営する制度であり、運営委員会と認証委員会の2つの有識者委員会の審議を踏まえ、運営している。

(*5)J-クレジット制度における森林分野(森林経営活動、植林活動及び再造林活動)での温室効果ガスの吸収活動。



5.国有林野における樹木採取権制度による事業がスタート

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樹木採取権制度は、効率的かつ安定的な林業経営の育成を図るため、国有林野の一定区域において公益的機能を確保しつつ、一定期間、安定的に樹木を採取することができる権利を民間事業者に設定する制度です。同制度に基づき、令和3(2021)年9月から、区域面積200~300ha程度(皆伐相当)、権利存続期間10年程度を基本に、全国10か所で樹木採取区を指定しました。その後、公募を経て令和4(2022)年2月から10月までの間に全国8か所で樹木採取権を設定し、伐採等の事業が順次開始されているところです。

国と樹木採取権者が契約を締結し、皆伐を行う場合は1伐採箇所の面積が5haを超えないようにするとともに、保護樹帯を設定するなど国有林の伐採ルールに則り事業が行われています。伐採後は、国が樹木採取権者と造林請負契約を締結し、確実に再造林を実施することとしています。

また、樹木採取権者は、川中・川下の事業者と連携し、新たな木材需要の開拓に取り組むこととされています。近畿中国森林管理局岡山森林管理署管内にある新見(にいみ)樹木採取区の例では、樹木採取区から生産される素材(丸太)は、樹木採取権者である株式会社戸川木材と協定を結んだ川中・川下の事業者に供給され、構造用集成材、こん包材といった外材の需要を代替する用途に使われることに加え、地域のバイオマス発電所の燃料用チップ材に活用されることとなっています。

樹木採取権者への聞き取り調査では、安定的な事業地の確保により経営の見通しが立てやすくなり、雇用の拡大や高性能林業機械の導入につながるなどの効果を期待する声が多く聞かれました。また、協定を結んだ川中の事業者からも同制度により安定的な原料調達が見込めるという声が聞かれるなど、樹木採取権者の経営基盤の強化に加え、地域における木材のサプライチェーンの強化にもつながることが期待されます。なお、今後は、令和4(2022)年12月に公表した「今後の樹木採取権設定に関する方針」に基づき、指定手続に新規需要創出動向調査(マーケットサウンディング)を導入し、製材工場の新・増設等による木材需要増加の確実性が高い地域において樹木採取区を指定するなど、より効果的な運用を図ることとしています。

→第4章第2節(2)を参照


「農林水産祭」における天皇杯等三賞の授与

林業・木材産業の活性化に向けて、全国で様々な先進的な取組がみられます。このうち、特に内容が優れていて、広く社会の賞賛に値するものについては、毎年、秋に開催される「農林水産祭」において、天皇杯等三賞が授与されています。ここでは、令和4(2022)年度の受賞者(林産部門)を紹介します。

天皇杯 出品財:経営(林業経営) 渡邊 定元 氏 静岡県富士宮(ふじのみや)市

渡邊氏は、定年退職後、株式会社白糸植物園を設立し、以後28年間「持続的経営林づくり」を進めています。将来木の候補の成長の妨げとなる準優占木を伐採する中層間伐を繰り返すことで継続的に収益を得つつ、林齢150年生で100本/haの優良木が1千万円/haの資産価値を持つ高収益林を造成することを目指しています。また、強度の降雨に耐え得る「防災水源涵(かん)養路網」の整備により、生産性の高い作業システムを構築しています。富士山南麓域で約1,000haの森林経営受託契約を結び、これまでに数千万円の間伐収益を所有者に還元しています。

内閣総理大臣賞 出品財:技術・ほ場(苗ほ) 長倉 良守 氏 宮崎県宮崎市

長倉氏は、家業の苗畑等を承継後、株式会社長倉樹苗園を設立しました。挿し木による林業用苗木生産を行い、令和3(2021)年度時点で、宮崎県内スギ苗木需要の16%を賄っています。穂木を自己調達する以外に、森林組合等と連携して品種の明確な穂木を大量に調達する仕組みを構築し、毎年安定的に苗木を生産するとともに、培土を使わず穂木を発根させる「空中挿し木法」等の技術によって年間を通して挿付けを行っています。また、背負い式コンテナ苗用植栽機の共同開発など、新たな技術の開発にも積極的に取り組んでいます。

日本農林漁業振興会会長賞 出品財:女性の活躍(林産) 穴井 里奈 氏 熊本県阿蘇(あそ)郡南小国町(みなみおぐにまち)

穴井氏は、夫の家業承継のため南小国町へ移住し、家業の製材業の傍ら、夫婦で応募したビジネスプランコンテストで最優秀賞を受賞したことをきっかけに、株式会社Forequeを設立し、小国杉を活用したアロマオイルや家具の企画・製作・販売をスタートさせました。従来の林産物のイメージを刷新するライフスタイルブランドを確立し、小国杉の魅力を国内外に発信するとともに、地元観光地との連携事業により南小国町への集客にも大きく貢献しています。また香りやデザイン等、女性の感性も求められる場面が多いため、社員のほぼ半数が女性です。


森林×脱炭素チャレンジ

林野庁では、企業等による森林(もり)づくりを「脱炭素」の視点等から顕彰する「森林×脱炭素チャレンジ」を創設しました。ここでは、第1回となる令和4(2022)年の受賞者と取組内容を紹介します。そのほか、応募のあった企業等を、森林整備を通じて脱炭素に貢献する「グリーンパートナー」として林野庁ホームページで公表しています。

グランプリ(農林水産大臣賞)アサヒグループジャパン株式会社
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優秀賞(林野庁長官賞)
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