このページの本文へ移動

林野庁

メニュー

第1部 特集 第5節 森林・林業施策全体で進める災害に強い地域づくり


(多様な森林づくりと森林計画制度に基づく森林施業等の推進)

森林の有する国土保全機能をはじめとする多面的機能を適切に発揮させるためには、自然条件や社会条件に応じた多様な森林づくりを進めていく必要がある。

このため、林野庁では、森林法に基づき、保安林制度に基づく伐採規制のほか、森林計画制度(*13)の下で都道府県が策定する地域森林計画における伐採や造林の方法の指針の提示、市町村が同計画に適合して策定する市町村森林整備計画における山地災害防止機能・土壌保全機能や水源涵(かん)養機能など重視すべき機能に応じたゾーニング、伐採造林届出制度(*14)に基づく指導、森林経営計画の認定等により、適正な造林・保育・伐採等の森林施業の確保や、自然条件等に応じた長伐期化・複層林化を推進している。

とりわけ、伐採造林届出制度においては、令和4(2022)年度より、適正な伐採と更新の確保のため、伐採後の報告の追加や、市町村による搬出方法の確認・指導の強化等に取り組んでいる。

一方、森林所有者の経営への関心の薄れ、森林の所有者不明や境界不明確等により間伐や再造林等の森林整備が進んでいない状況となっている。このため、森林整備事業等による森林整備への支援や、造林コストの低減に向けた技術の開発・普及、森林経営管理制度等による森林の経営管理の集積・集約化等に取り組んでいる。


(*13)森林計画制度については、第1章第1節(2)41ページを参照。

(*14)伐採造林届出制度については、第1章第2節(1)48ページを参照。



(災害に強い路網の整備)

路網は森林の整備・保全や効率的な木材の生産・流通に不可欠な基盤であり、その整備に当たっては、災害の激甚化や走行車両の大型化等への対応を踏まえた路網の強靱化及び長寿命化を図っている。これにより、豪雨等による災害が地域で発生した際には、被災した国道や市町村道の代替路として孤立集落の発生抑止・解消にも貢献している(事例 特-1)。

事例 特-1 令和3年8月の大雨で孤立集落解消のため林道を代替路として活用

令和3(2021)年8月15日、長野県王滝村(おうたきむら)において、2日間にわたり降り続いた雨に伴う王滝川の増水により村道に陥没が発生し、同村滝越(たきごし)地区が孤立状態となった。翌16日には、孤立住民は長野県が運用する防災ヘリコプターで村の中心部に避難したが、村道復旧の見込みが立たなかったことから、国有林林道を代替路として活用することを王滝村と林道管理者である木曽(きそ)森林管理署で調整し、18日には木曽森林管理署において林道の一部路面の補修を実施し、19日には林道を通行し避難している住民の一時帰宅が実現した。

国有林林道(御岳御厩野林道、濁川保安林管理道)


(気候変動対策への貢献)

気候変動に伴う山地災害・洪水被害の激甚化・多発化に対応して治山対策と森林整備を推進することは、気候変動に対して国民生活の安定を図る適応策として重要なものであり、「気候変動適応計画」(令和3(2021)年10月閣議決定)においても自然災害に係る適応策の一つとして位置付けられている。

また、治山対策と森林整備により森林を維持・造成することは、将来にわたり森林の二酸化炭素を吸収する機能を持続的に発揮させることにつながる。さらに、森林から搬出された木材を建築物等に利用することは、大気中の炭素を長期的に貯蔵することになる。このような森林・林業・木材産業の貢献は、「地球温暖化対策計画」(令和3(2021)年10月閣議決定)において、令和12(2030)年度の新たな森林吸収量目標約3,800万CO2トン(平成25(2013)年度総排出量比約2.7%)として計上されており、2050年カーボンニュートラルの実現に必要な吸収源対策として位置付けられている。

このように、我が国の森林は、気候変動の適応と緩和の両面において重要な役割を担っている。


(「緑の社会資本」としての森林)

生態系を基盤として災害リスクを低減する「Eco-DRR(*15)(生態系を活用した防災・減災)」という考え方は、気候変動等による災害リスクの増大に加え、人口減少・高齢化による国土全体の管理水準の低下、インフラの老朽化による維持管理コストの増大が見込まれる中で、人工構造物の設置のみによる防災・減災と比較して整備・維持管理にかかるコストを抑えられる可能性があること、平時にも多様な生態系サービスを発揮すること等から注目されている。また、自然環境が有する機能を社会における様々な課題解決に活用しようとする「グリーンインフラ」という考え方もある。

平成30(2018)年12月に閣議決定された国土強靱化基本計画においても、Eco-DRRやグリーンインフラの考え方が位置付けられた。また、令和5(2023)年3月に閣議決定された「生物多様性国家戦略2023-2030」の中でも、基本戦略2の「自然を活用した社会課題の解決」における推進施策にEco-DRRやグリーンインフラの考え方が位置付けられている。

森林の持つ山地災害防止機能・土壌保全機能や、海岸林の持つ防風や津波被害の軽減といった防災機能は、生態系が災害リスクを低減する機能そのものであり、治山対策等による森林の機能の維持・向上は、Eco-DRRやグリーンインフラの考え方にも符合する取組といえる。

このように、森林は防災・減災を含めて国民生活に様々な恩恵をもたらす「緑の社会資本」であり、今後も治山対策を含めた森林・林業施策全般により適切に整備及び保全していくことで、その機能を発揮させ、持続可能な地域づくりに貢献することが期待される。


(*15)「Ecosystem-based disaster risk reduction」の略。


お問合せ先

林政部企画課

担当者:年次報告班
代表:03-3502-8111(内線6061)
ダイヤルイン:03-6744-2219