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林野庁

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第1部 第3章 第1節 林業の動向(4)


(4)林業労働力の動向

森林の施業は、主に、山村で林業に就業して森林内の現場作業等に従事する林業労働者が担っている。林業労働力の確保や安全な労働環境の整備は、林業の成長産業化等を通じた山村の活性化のためにも重要である。

(林業労働力の確保)

林業労働力の動向を、現場業務に従事する者である「林業従事者」の数でみると、長期的に減少傾向で推移しており、平成27(2015)年には45,440人となっている。このうち、育林従事者は長期的に減少傾向で推移している一方で、伐木・造材・集材従事者は近年増加している(*81)。

林業従事者の高齢化率(65歳以上の従事者の割合)は、平成12(2000)年以降は低下し、平成22(2010)年には21%となったが、我が国全体の65歳以上の就業者が増加し、全産業の高齢化率が上昇する中で、林業従事者についても5年前から上昇し、平成27(2015)年には25%となっている。一方、若年者率(35歳未満の若年者の割合)は、平成2(1990)年以降は上昇して平成22(2010)年には18%となり、その後は全産業の若年者率が低下する中で、林業従事者についてはほぼ横ばいで推移し、平成27(2015)年には17%となっている(資料3-25)。林業従事者の平均年齢をみると、全産業の平均年齢46.9歳と比べると高い水準にあるが、平成27(2015)年には52.4歳となっており、若返り傾向にある。


一方、日本標準産業分類(*82)に基づき「林業」に分類される事業所に就業している「林業就業者(*83)」には、造林や素材生産など現場での業務に従事する者のほか、事務的な業務に従事する者、管理的な業務に従事している者等が含まれており、平成27(2015)年には、全体で63,663人となっている(*84)。

林野庁では、平成15(2003)年度から、林業に就業した若年者を中心に、林業に必要な基本的な知識や技術の習得を支援する「「緑の雇用」事業」を実施して、新規就業者の確保・育成を図っている(*85)(資料3-26)。


また、近年、全国各地で就業前の若手林業技術者の教育・研修機関を新たに整備する動きが広がっている。林野庁では、林業大学校等に通う者を対象に給付金を支給する「緑の青年就業準備給付金事業」を実施して、就業希望者の裾野の拡大や、将来的な林業経営の担い手の育成を支援している(*86)。

このほか、都道府県知事が指定する林業労働力確保支援センターにおいて、新たに林業に就業しようとする者に対し、林業の技術等を習得するための研修や、林業への就業に向けた情報の提供、相談等を行っている。


(*81)総務省「国勢調査」。同調査における「林業従事者」とは、就業している事業体の日本標準産業分類を問わず、林木、苗木、種子の育成、伐採、搬出、処分等の仕事及び製炭や製薪の仕事に従事する者で、調査年の9月24日から30日までの一週間に収入になる仕事を少しでもした者等をいう。林業従事者数等について詳しくは、第1章(23-24ページ)を参照。

(*82)公的統計を産業別に表示する場合の統計基準として、事業所において行われる経済活動を、主として、生産される財又は提供されるサービスの種類(用途、機能等)などの諸点に着目して区分し、体系的に配列した形で設定したもの。

(*83)国勢調査における「林業(就業者)」とは、山林用苗木の育成・植栽、木材の保育・保護、林木からの素材生産、薪及び木炭の製造、樹脂、樹皮、その他の林産物の収集及び林業に直接関係するサービス業務並びに野生動物の狩猟等を行う事業所に就業する者で、調査年の9月24日から30日までの一週間に収入になる仕事を少しでもした者等をいう。なお、平成19(2007)年の「日本標準産業分類」の改定により、平成22(2010)年のデータは、平成17(2005)年までのデータと必ずしも連続していない。詳しくは、「平成24年度森林及び林業の動向」138ページを参照。

(*84)総務省「平成27年国勢調査」

(*85)「「緑の雇用」事業」について詳しくは第1章(27ページ)も参照。

(*86)「緑の青年就業準備給付金事業」について詳しくは、第1章(35ページ)も参照。



(高度な知識と技術・技能を有する林業労働者の育成)

林業作業における高い生産性と安全性を確保していくため、専門的かつ高度な知識と技術・技能を有する林業労働者が必要となっており、林業技術者の能力の適切な評価、待遇の改善等が図られることが重要となっている。このため、林野庁は、事業主による教育訓練の計画的な実施、能力に応じた昇進及び昇格モデルの提示等を支援するほか、段階的かつ体系的な研修を促進するなど、林業労働者のキャリア形成を支援している。また、キャリアアップにより意欲と誇りを持って仕事に取り組めるよう、段階的かつ体系的な研修の修了者については、習得した知識、技術・技能のレベルに応じて名簿に登録する制度が運用されている。

さらに、林野庁では、平成23(2011)年に、雇用管理改善や能力評価の導入に向けた「人事管理とキャリア形成の手引き(*87)」を作成し、普及に取り組んでいるほか、平成25(2013)年度からは、能力評価制度を導入する林業経営体に対して、専門家の派遣等を通じた支援を行っている(*88)。


(*87)林野庁ホームページ「林業事業体の雇用管理改善と経営力向上の取組について」

(*88)林業労働者のキャリア形成等について詳しくは、第1章(26-29ページ)も参照。



(林業における雇用や労働災害の現状)

林業作業の季節性や事業主の経営基盤のぜい弱性等により、林業労働者の雇用は必ずしも安定していないことがあり、また、雇用が臨時的、間断的である場合など、社会保険等が適用にならないこともある。

しかし、近年は、全国的に把握が可能な森林組合についてみると、通年で働く専業的な雇用労働者の占める割合が上昇傾向にあるとともに(資料3-27)、社会保険等が適用される者の割合も上昇している(資料3-28)。この傾向は、通年で作業可能な素材生産の事業量の増加によるものと考えられる。また、月給制の割合も増えているほか(資料3-29)、賃金水準も全体的に上昇している(*89)(資料3-30)。


林業労働における死傷者数は、長期的に減少傾向にあり(資料3-31)、その要因としては、高性能林業機械の導入や路網整備等による労働負荷の軽減や、チェーンソー防護衣の普及等が考えられる。一方で、林業における労働災害発生率は、平成29(2017)年の死傷年千人率(*90)でみると32.9で、全産業平均の15.0倍となっており、全産業の中で最も高い状態が続いている(*91)。


平成29(2017)年までの3年間の林業労働者の死亡災害についてみると、発生した119件のうち、年齢別では50歳以上が70%となっており、作業別では伐木作業中の災害が71%となっている(資料3-32)。


(*89)森林組合の雇用労働者の雇用条件等について詳しくは、第1章(28ページ)も参照。

(*90)労働者1,000人当たり1年間に発生する労働災害による死傷者数(休業4日以上)を示すもの。

(*91)厚生労働省「労働災害統計」



(安全な労働環境の整備)

このような労働災害を防止し、健康で安全な職場づくりを進めることは、林業労働力を継続的に確保するためにも不可欠である。このため、林野庁では、厚生労働省や関係団体等との連携により、林業経営体に対して安全巡回指導、労働安全衛生改善対策セミナー等を実施するとともに、「「緑の雇用」事業」において、新規就業者を対象とした伐木作業技術等の研修の強化、最新鋭のチェーンソー防護衣等の導入等を支援している。また、林業経営体の自主的な安全活動を推進するため、林業経営体の指導等を担える労働安全の専門家の派遣等に対して支援している。

一方、厚生労働省は、平成30(2018)年2月、平成30(2018)年度からの5年間を計画期間とする「第13次労働災害防止計画」を策定した。同計画では、「林業」が、死亡災害の撲滅を目指した対策を推進する重点業種に位置付けられている。同計画に基づき、厚生労働省、林野庁、関係団体等が連携して、死亡災害が多発している伐木等作業における安全対策の充実強化を図ることとしている。平成31(2019)年2月には、厚生労働省において労働安全衛生規則等関連法令の見直しが行われた(*92)。

また、林業と木材製造業の事業主及び団体等を構成員とする林業・木材製造業労働災害防止協会(*93)は、国の労働災害防止計画を踏まえ、「林材業労働災害防止計画」を策定するなど、林材業の安全衛生水準の向上に努めている。

さらに、民間の取組として、伐木作業に必要な技術及び安全意識の向上に向けた競技大会も開催されている(*94)。

このほかにも、地方公共団体による安全に特化した林業研修体制の構築や、林業科の高校生を対象とした普及啓発など、労働災害の防止に向けた取組が進められている(*95)(事例3-1)。

事例3-1 高校生を対象に林業労働安全を学ぶ出前授業を実施

愛知県立田口高等学校林業科と岐阜県立岐阜農林高等学校森林科学科において、林業労働災害や林業機械操作のシミュレーターを用いた出前授業が行われた。

林業労働災害のシミュレーターは、森林・土木関連のコンサルティング企業が開発したもので、チェーンソー形コントローラーの操作により、かかり木処理での災害など伐木時に発生することが多い7つの林業労働災害をバーチャルリアリティで疑似体験することが可能となっている。生徒の中には、バーチャルの世界で自分に向かって倒れてくる樹木を避けようと悲鳴を上げながら走り出す者もみられ、生徒からは、「木がこちらに倒れてきた時はとても驚いた」等の声も聞かれた。

ハーベスタの操作シミュレーターは、林業機械メーカーが現場作業員のために開発したもので、パソコン上で伐採・玉切り等ができるようになっている。生徒からは、「シミュレーターなら誰かが怪我をすることなくやり直しができる」「自分が本当に運転しているような気分で緊張した」等の声が聞かれた。

シミュレーターの体験後、実際の災害事例を基に、「機械・施設・用具」、「環境」、「作業方法」、「人的要因」という4つに分けて災害防止に取り組む考え方について学んだ。

この出前授業を通じ、将来林業に従事する生徒が林業の労働災害防止の重要性を学ぶことができたほか、林業に従事する方々に安全確保の大切さを生徒から伝えていくことにより、林業の死傷災害が減少していくことが期待される。

これら2つのシミュレーターは、林業大学校や森林組合等の安全教育での活用が徐々に広がってきている。


(*92)(ア)受け口を作るべき立木の対象を胸高直径20cm以上に拡大、(イ)事業者に対する速やかなかかり木処理の義務付けと、かかり木処理における、浴びせ倒しやかかられている木の伐倒の禁止、(ウ)伐倒木の高さの2倍の範囲の立入禁止、(エ)事業者に対する、チェーンソー作業時の下肢防護衣の着用の義務付け、(オ)チェーンソー作業に係る教育の充実等が盛り込まれた。

(*93)「労働災害防止団体法」(昭和39年法律第118号)に基づき設立された特別民間法人。

(*94)競技大会については、「平成26年度森林及び林業の動向」の120ページを参照。

(*95)安全に特化した研修体制の構築について詳しくは、「平成29年度森林及び林業の動向」の107ページを参照。



(林業活性化に向けた女性の取組)

女性の森林所有者や林業従事者等による林業研究グループが1970年代から各地で設立され、森林づくりの技術や経営改善等の研究活動を実施してきたほか、子ども達への環境教育、特用林産物の加工・販売など森林資源を活用した地域づくりを展開している。また、都道府県の女性林業技術系職員による「豊かな森林づくりのためのレディースネットワーク・21」は、会員相互の情報共有や技術革新を目的に設立され、25周年となる平成30(2018)年には記念フォーラムを開催し、女性の活躍を通じた森林・林業の発展に向け、情報発信が行われた。

学生や様々な職業の女性らから成る「林業女子会(*96)」については、平成22(2010)年以降、全国各地で結成されており、活動の輪が各地に広がっている。


(*96)平成22(2010)年に京都府で結成されて以降、平成30(2018)年末現在、24グループが活動している(海外1グループを含む)。



コラム 原木運送事業者が集い、東北地区原木トラック運送協議会を設立

東北では、主伐期を迎えている豊富な人工林資源を背景に、近年、大規模な木材加工場や木質バイオマス発電施設が相次いで整備され、地域別の素材生産量では国内の約4分の1を占めている。また、今後も新たな施設の稼動を控え、更なる生産量の増大が期待されている。

木材需要が増大し、国産材の安定供給を図る上で木材流通も広域化する中、原木を運送する運送事業者の役割はますます重要となってきている。しかしながら、運送事業者全般にわたる慢性的なドライバー不足に加え、原木運送事業者は、山間部の未舗装道路の走行や、気象条件にも影響される山土場での積込み作業等、特に厳しい条件の下で仕事をしており、林道等の補修や積込みしやすい土場の整備を荷主や管理者に依頼しなければならないケースもあるが、あくまで運搬依頼のみを受ける立場であることなど、個々の事業者の対応では限界がある課題も多く抱えている。

このような課題に事業者間で連携して取り組むことを目的に、東北各県の原木運送事業者が集まり、平成29(2017)年、原木運送事業者の団体としては国内初の「東北地区原木トラック運送協議会」が設立された。結成2年目となる平成30(2018)年には、原木運送事業の改善に向けた林業団体への要望活動や、原木輸送トラックの開発についてメーカーへの要望等を実施してきており、今後も、労働安全対策や環境保全対策を実施していきたいとしている。

お問合せ先

林政部企画課

担当者:年次報告班
代表:03-3502-8111(内線6061)
ダイヤルイン:03-6744-2219

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