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第1部 第3章 第1節 林業の動向(3)


(3)林業経営の効率化に向けた取組

我が国の森林資源は、戦後造成された人工林を中心に本格的な利用期を迎えているが、林業経営に適した森林を経済ベースで十分に活用できていない。その理由として、私有林の小規模・分散的な所有構造に加え、山元立木価格が長期的に下落傾向にあったことや森林所有者の世代交代等により、森林所有者の森林への関心が薄れていることなどが挙げられる(*29)。

循環的な林業を行うに当たっての収入と経費を比較すると、50年生のスギ人工林の主伐を行った場合の木材収入は、平成30(2018)年の山元立木価格に基づく試算では94万円/haとなる(*30)が、これに対して、「平成25年度林業経営統計調査報告」によるスギ人工林50年生(10齢級(*31))までの造林及び保育にかかる経費は、全国平均で121万円/ha(地域によって114万円/haから245万円/haまで)となっている(*32)。また、経費の約9割が植栽からの10年間に必要となっており、初期段階での育林経費の占める割合が高い状況となっている(資料3-17)。

このような中、「伐って、使って、植える」という森林資源の循環利用のサイクルで、安定的な林業経営を行うには、施業の集約化や、育林を含む林業の作業システムの低コスト化、木材の販売収入の拡大等により、林業経営の効率化を図ることが重要な課題となっている。


(*29)我が国林業の構造的な課題については、「平成29年度森林及び林業の動向」の16-22ページを参照。

(*30)スギ山元立木価格2,995円/m3(111-113ページ参照)に、スギ10齢級の平均材積315m3/ha(林野庁「森林資源の現況(平成29(2017)年3月31日現在)」における10齢級の総林分材積を同齢級の総森林面積で除した平均材積420m3/haに利用率0.75を乗じた値)を乗じて算出。

(*31)齢級は、林齢を5年の幅でくくった単位。苗木を植栽した年を1年生として、1~5年生を「1齢級」と数える。

(*32)地域によりばらつきがある。また、林齢によって標本数が少ないものがあることから、集計結果の利用に当たっては注意が必要とされている。



(ア)施業の集約化

(a)施業の集約化の必要性

森林所有者自らが適切な経営管理(*33)(所有者自らが民間事業者に経営委託する場合を含む。)を行う意向を有している場合であっても、我が国の私有林の所有構造が小規模・分散的であるため、個々の森林所有者が単独で効率的な森林施業を実施することが難しい場合が多い。このため、隣接する複数の森林所有者が所有する森林を取りまとめて路網整備や伐採等の森林施業を一体的に実施する「施業の集約化」の推進が必要となっている。

施業の集約化により、作業箇所がまとまり、路網の合理的な配置や高性能林業機械を効果的に使った作業が可能となることなどから、様々な森林施業のコスト縮減が期待できる。また、素材生産においては、一つの施業地から供給される木材のロットが大きくなることから、径級や質の揃った木材をまとめて供給するなど需要者のニーズに応えるとともに、供給側が一定の価格決定力を有するようになることも期待できる。


(*33)「森林経営管理法」において、「経営管理」は、森林について自然的経済的社会的諸条件に応じた適切な経営又は管理を持続的に行うことと定義されている。



(施業集約化を推進する「森林施業プランナー」を育成)

施業の集約化の推進に当たっては、森林所有者等から施業を依頼されるのを待つのではなく、林業経営体から森林所有者に対して、施業の方針や事業を実施した場合の収支を明らかにした「施業提案書」を提示して、森林所有者へ施業の実施を働き掛ける「提案型集約化施業」が行われており(*34)、これを担う人材として「森林施業プランナー」の育成が進められている(*35)。

林野庁では、提案型集約化施業を担う人材を育成するため、平成19(2007)年度から、林業経営体の職員を対象として、「森林施業プランナー研修」を実施している。同研修として、平成27(2015)年度までは、組織としての体制強化を目的とする「ステップアップ研修(*36)」等を実施してきたが、平成28(2016)年度からは、地域ごとの特性を踏まえたより実践力のあるプランナーの育成を図るため、「プランナー研修(*37)」等を新たに実施しており、平成30(2018)年度までに、1,100名が当該研修を修了している。

また、平成21(2009)年度から、「ステップアップ研修」を修了又はそれと同等レベルに達している事業体に対して、外部審査機関が評価を行う実践体制評価(*38)を実施しており、平成30(2018)年度までに、15の事業体が同評価に基づく認定を受けている。

さらに、都道府県等においても地域の実情を踏まえた森林施業プランナーの育成を目的とする研修を実施している。

一方、これらの研修修了者は、技能、知識、実践力のレベルが様々であることから、平成24(2012)年10月から、「森林施業プランナー協会」が、森林施業プランナーの能力や実績を客観的に評価して認定を行う森林施業プランナー認定制度を開始した。同制度では、森林施業プランナー認定試験に合格した者、実践体制評価の認定を受けた事業体に所属し、提案型集約化施業の取組実績を有する者等を「認定森林施業プランナー」として認定しており、平成31(2019)年3月までに、2,133名が認定を受けている(*39)。


(*34)提案型集約化施業は、平成9(1997)年に京都府の日吉町森林組合が森林所有者に施業の提案書である「森林カルテ」を示して森林所有者からの施業受託に取り組んだことに始まり、現在、全国各地に広まっている。

(*35)「森林施業プランナー」の育成について詳しくは、第1章(17ページ)も参照。

(*36)「ステップアップ研修」は、「基礎的研修」修了者のスキルアップを図るとともに、同修了者と経営管理者、現場技術者等が一緒に参加して、組織として提案型集約化施業に取り組むことを学ぶ研修。

(*37)「プランナー研修」は、森林施業プランナー資格の取得を目指し、地域における提案型集約化施業に必要な知識及び技能を習得するため、地域ごとに実施する研修。

(*38)提案型集約化施業を実施するための基本的な体制が構築されているかについて、外部評価を受けることで、林業経営体が抱える課題を具体的に把握し、取組内容の質の向上に結び付けることが可能となる。

(*39)森林施業プランナー認定制度ポータルサイト「認定者一覧」



(b)森林経営計画制度

平成24(2012)年度から導入された「森林法(*40)」に基づく森林経営計画制度では、森林の経営を自ら行う森林所有者又は森林の経営の委託を受けた者が、林班(*41)又は隣接する複数林班の面積の2分の1以上の森林を対象とする場合(林班計画)や、所有する森林の面積が100ha以上の場合(属人計画)に、自ら経営する森林について森林の施業及び保護の実施に関する事項等を内容とする森林経営計画を作成できることとされている。森林経営計画を作成して市町村長等から認定を受けた者は、税制上の特例措置や融資条件の優遇に加え、計画に基づく造林や間伐等の施業に対する「森林環境保全直接支援事業」による支援等を受けることができる。

同制度については、導入以降も現場の状況に応じた運用改善を行っている。平成26(2014)年度からは、市町村が地域の実態に即して、森林施業が一体として効率的に行われ得る区域の範囲を「市町村森林整備計画」において定め、その区域内で30ha以上の森林を取りまとめた場合にも計画(区域計画)が作成できるよう制度を見直し、運用を開始した。この「区域計画」は、小規模な森林所有者が多く合意形成に多大な時間を要することや、人工林率が低いこと等により、林班単位での集約化になじまない地域においても計画の作成を可能とするものである。これにより、まずは地域の実態に即して計画を作成しやすいところから始め、計画の対象となる森林の面積を徐々に拡大していくことで、将来的には区域を単位とした面的なまとまりの確保を目指すこととしている(資料3-18)。

しかし、森林所有者の高齢化や相続による世代交代等が進んでおり、森林所有者の特定や森林境界の明確化に多大な労力を要していることから、平成30(2018)年3月末現在の全国の森林経営計画作成面積は525万ha、民有林面積の約30%となっている。

資料3-18 森林経営計画制度の概要

(*40)「森林法」(昭和26年法律第249号)

(*41)原則として、天然地形又は地物をもって区分した森林区画の単位(面積はおおむね60ha)。



(c)森林情報の把握・整備

森林経営計画の作成など施業の集約化に向けた取組を進めるためには、その前提として、森林所有者や境界等の情報が一元的に把握され、整備されていることが不可欠である。


(所有者が不明な森林の存在)

我が国では、所有森林に対する関心の低下等により、相続に伴う所有権の移転登記がなされないことなどから、所有者が不明な森林も生じている。

所有者が不明な森林や不在村者が所有する森林では、森林の適切な経営管理がなされないばかりか、施業の集約化を行う際の障害となり、森林の経営管理を集積していく上での大きな課題となっている。

なお、平成29(2017)年度に地籍調査(*42)を実施した地区における土地の所有者等について国土交通省が集計した調査結果によると、不動産登記簿により所有者の所在が判明しなかった土地の割合は筆数ベースで全体の約22%であり、特に林地については、28%を超えている(*43)。


(*42)「国土調査法」(昭和26年法律第180号)に基づき、主に市町村が主体となって、一筆ごとの土地の所有者、地番、地目を調査し、境界の位置と面積を測量する調査。

(*43)国土交通省「国土審議会土地政策分科会企画部会国土調査のあり方に関する検討小委員会第8回資料」



(境界が不明確な森林の存在)

我が国では、森林の所在する市町村に居住していない、又は事業所を置いていない者(不在村者)の所有する森林が私有林面積の約4分の1を占めており、そのうちの約4割は当該都道府県外に居住する者等の保有となっている(*44)。また、平成29(2017)年度末時点での地籍調査の進捗状況は宅地で54%、農用地で74%であるのに対して、林地(*45)では45%にとどまっている(*46)。

このような状況から、境界が不明確で整備が進まない森林もみられる。

平成27(2015)年に農林水産省が実施した「森林資源の循環利用に関する意識・意向調査」では、林業者モニター(*47)に対して森林の境界の明確化が進まない理由について尋ねたところ、「相続等により森林は保有しているが、自分の山がどこかわからない人が多いから」、「市町村等による地籍調査が進まないから」、「高齢のため現地の立会いができないから」という回答が多かった(資料3-19)。また、こうした状況の下、森林所有者に無断で立木が伐採された事案も発生している(*48)。


(*44)農林水産省「2005年農林業センサス」。なお、2010年以降この統計項目は把握していない。

(*45)地籍調査では、私有林のほか、公有林も対象となっている。

(*46)国土交通省ホームページ「全国の地籍調査の実施状況」による進捗状況。

(*47)この調査での「林業者」は、「2010年世界農林業センサス」で把握された林業経営体の経営者。

(*48)詳しくは第2章(70-71ページ)を参照。



(所有者特定や境界明確化など森林情報の把握に向けた取組)

森林所有者の特定に向けては、平成24(2012)年度から、新たに森林の土地の所有者となった者に対して、市町村長への届出を義務付ける制度(*49)が開始され、相続による異動や、1ha未満の小規模な森林の土地の所有者の異動も把握することが可能となった(*50)。あわせて、森林所有者等に関する情報を行政機関内部で利用するとともに、他の行政機関に対して、森林所有者等の把握に必要な情報の提供を求めることができることとされた(*51)。

さらに、林野庁では、平成22(2010)年度から、外国人及び外国資本による森林買収について調査を行っており、平成30(2018)年4月には、平成29(2017)年1月から12月までの期間における、居住地が海外にある外国法人又は外国人と思われる者による森林買収の事例(44件、計148ha)等を公表した(*52)。林野庁では、引き続き、森林の所有者情報の把握に取り組むこととしている。

境界の明確化に向けては、従来は個別に管理されていた森林計画図や森林簿といった森林の基本情報をデジタル処理し、システムで一元管理することで、森林情報を迅速に把握することが可能な森林GISや高精度のGPS、ドローン等を活用して現地確認の効率化を図る取組(*53)が実施されている。また、「国土調査法」に基づく地籍調査も行われているが、林地における実施面積の割合は平成29(2017)年度末時点で45%となっており、令和元(2019)年度までに50%とすることが目標とされている(*54)。このような中で、林野庁と国土交通省は、これらの森林境界明確化活動と地籍調査の成果を相互に活用するなど、連携しながら境界の明確化に取り組んでいる。

林野庁では、「森林整備地域活動支援交付金」により、森林経営計画の作成や施業の集約化に必要となる森林情報の収集、森林調査、境界の明確化、合意形成活動や既存路網の簡易な改良に対して支援している。また、精度の高い森林資源情報等の把握や共有に森林クラウド等のICTの活用を図る取組も進めている。

なお、所有者情報の整備や境界明確化に取り組む一方で、所有者が不明なままの森林については、森林経営管理法において、一定の手続を経れば市町村等が経営や管理を行うことができることとする特例が措置された。


(*49)「森林法」第10条の7の2、「森林法施行規則」(昭和26年農林省令第54号)第7条、「森林の土地の所有者となった旨の届出制度の運用について」(平成24(2012)年3月26日付け23林整計第312号林野庁長官通知)

(*50)都市計画区域外における1ha以上の土地取引については、「国土利用計画法」(昭和49年法律第92号)に基づく届出により把握される。

(*51)「森林法」第191条の2、「森林法に基づく行政機関による森林所有者等に関する情報の利用等について」(平成23(2011)年4月22日付け23林整計第26号林野庁長官通知)。

(*52)林野庁プレスリリース「外国資本による森林買収に関する調査の結果について」(平成30(2018)年4月27日付け)

(*53)境界確認の効率化の事例については、「平成27年度森林及び林業の動向」の91ページ、「平成28年度森林及び林業の動向」の93ページ及び「平成29年度森林及び林業の動向」の31ページ等を参照。

(*54)「国土調査事業十箇年計画」(平成22(2010)年5月25日閣議決定)



(林地台帳の整備)

平成28(2016)年5月の「森林法」の改正により、市町村が統一的な基準に基づき、森林の土地の所有者や林地の境界に関する情報等を記載した「林地台帳」を作成し、その内容の一部を公表(*55)する制度が創設され、平成31(2019)年4月から本格運用されることとなった(資料3-20)。これに向けて、平成30(2018)年度までに、林地台帳の基礎となる森林情報のデータベース化等の整備作業が市町村等によって進められた。

平成28(2016)年度に林野庁から都道府県・市町村に配布された整備・運用マニュアル等に基づき、林地台帳の整備を進めており、林野庁では平成29(2017)年度から市町村が林地台帳を効率的に管理・活用するための森林GISの整備等に支援している。

林地台帳の整備により、森林組合等が所有者情報をワンストップで入手できることによる施業集約化の促進等が期待されている。


(*55)森林の位置や地番の確認を行いやすくして保有森林への関心を高めるほか、森林所有者による林地台帳情報の修正申出を喚起するため、林地台帳の一部及び台帳に付帯する地図を公表(公表することにより個人の権利利益を害するものを除く。)。また、地域の森林整備の担い手による集約化の取組を促進するため、同一の都道府県内で森林経営計画の認定を受けている林業経営体等に対しては、情報提供が可能。



(d)施業の集約化等に資するその他の取組

(山林に係る相続税の特例措置等)

大規模に森林を所有する林家では、相続を契機として、所有する森林の細分化、経営規模の縮小、後継者による林業経営自体の放棄等の例がみられる。林家を対象として、林業経営を次世代にわたって継続するために求める支援や対策について尋ねたところ、保有山林面積規模が500ha以上の林家では、「相続税、贈与税の税負担の軽減」と回答した林家が53%で最も多かった(*56)。

このような中で、山林に係る相続税については、これまで、評価方法の適正化や評価額の軽減等を図る措置を講ずるとともに、平成24(2012)年4月には、森林施業の集約化や路網整備等による林業経営の効率化と継続確保を図るため、効率的かつ安定的な林業経営を実現し得る中心的な担い手への円滑な承継を税制面で支援する「山林に係る相続税の納税猶予制度(*57)」が創設された。さらに、平成29(2017)年度の税制改正では、同制度について、一つの小流域内に存する5ha未満の山林のうち、一定の要件を満たす山林を納税猶予の対象に加えるなどの拡充が行われた。


(*56)農林水産省「林業経営に関する意向調査」(平成23(2011)年3月)

(*57)一定面積以上の森林を自ら経営する森林所有者を対象に、経営の規模拡大、作業路網の整備等の目標を記載した森林経営計画が定められている区域内にある山林(林地・立木)を、その相続人が相続又は遺贈により一括して取得し、引き続き計画に基づいて経営を継続する場合は、相続税額のうち対象となる山林に係る部分の課税価格の80%に対応する相続税の納税猶予の適用を受けることができる制度。


コラム 森林情報の共有化、オープンデータ化の取組

政府は、林業の成長産業化に向けて、航空レーザ計測等による詳細な森林情報(立木、地形情報)の把握、クラウドによる資源、生産、需要情報の共有など、先端技術を活用したスマート林業の実践的取組を推進していくこととしている。

森林クラウドは、地方公共団体及び林業事業体を情報通信回線でつなぎ、森林情報を相互に共有及び利活用する仕組みである。これにより、令和元年度から市町村が本格運用する林地台帳の情報からなる森林所有者情報と、空中写真や森林簿といった都道府県が管理する森林資源情報等をリアルタイムで共有することも可能となる。さらに、伐採及び伐採後の造林の届出等の電子申請の導入により、森林簿の更新作業の効率化等を図ることも可能である。

林業経営には、森林資源の情報はもとより、路網情報や、所有者情報、境界情報が必要不可欠であり、従来、国や自治体への申請手続を経て、紙媒体やCD-Rで林業経営体に共有されていたこれらの情報が、森林クラウドによりリアルタイムで共有されることで、林業経営全体の効率化を図ることが可能となる。

これらの背景から、森林クラウドは、平成30(2018)年10月末時点で8県において導入済みであるなど、各地の自治体で導入が進みつつある。

さらに、個人情報を除く林小班界や樹種、林齢等の森林情報を、二次利用しやすい形式により、誰でもダウンロードできるようにオープンデータ注として公開をしている自治体もある。ダウンロードしたデータを他の地図等と組み合わせて使用することにより、学術研究や現場教育に活用することや、一定の施業履歴のある森林資源の賦存状況と木材加工施設等との距離から木材供給シミュレーションを作成するなどの川中・川下への活用等、森林組合や素材生産業者のみならず、多様な者が様々な分析に森林情報を活用することが可能となる。

林業・木材産業の成長産業化の実現に向けて、このような森林情報の活用に向けた取組がますます進んでいくことが期待される。


注:国、地方公共団体及び事業者が保有する官民データのうち、国民誰もがインターネット等を通じて容易に利用(加工、編集、再配布等)できるよう、次のいずれの項目にも該当する形で公開されたデータのこと。1.営利目的、非営利目的を問わず二次利用可能なルールが適用されたもの、2.機械判読に適したもの、3.無償で利用できるもの(参照:オープンデータ基本指針(平成29年5月30日高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部・官民データ活用推進戦略会議決定))

森林クラウドの導入例

(イ)低コストで効率的な作業システムの普及

素材生産は、立木の伐倒(伐木)、木寄せ(*58)、枝払い及び玉切り(造材)、林道沿いの土場への運搬(集材)、椪積(はいづみ)(*59)といった複数の工程から成り、高い生産性を確保するためには、各工程に応じて、林業機械を有効に活用するとともに、路網と高性能林業機械を適切に組み合わせた作業システムの普及・定着を図る必要がある。また、我が国では木材販売収入に対して特に初期段階での育林経費が高い状況にあることから(*60)、主伐後の再造林の確保に向けて、造林作業に要するコストの低減を図る必要がある。


(*58)林内に点在している木材を林道端等に集める作業。

(*59)集材した丸太を同じ材積や同じ長さごとに仕分けして積む作業。

(*60)木材販売収入と初期段階での育林経費について詳しくは、118ページを参照。



(路網の整備が課題)

路網は、木材を安定的に供給し、森林の有する多面的機能を持続的に発揮していくために必要な造林、保育、素材生産等の施業を効率的に行うためのネットワークであり、林業の最も重要な生産基盤である。また、路網を整備することにより、作業現場へのアクセスの改善、機械の導入による安全性の向上、労働災害時の搬送時間の短縮等が期待できることから、林業の労働条件の改善等にも寄与するものである。さらに、地震等の自然災害により一般公道が不通となった際に、林内に整備された路網が迂(う)回路として活用された事例もみられる(*61)。

林業者モニターを対象に路網整備の状況と意向を尋ねたところ、現在の路網の整備状況は50m/ha以下の路網密度であると回答した者が約6割であったのに対し、今後の路網整備の意向は50m/ha以上の路網密度を目指したいと回答した者が約6割となっている(資料3-21)。


このような中、我が国においては、地形が急峻(しゅん)で、多種多様な地質が分布しているなど厳しい条件の下、路網の整備を進めてきたところであり、平成29(2017)年度末現在、林内路網密度は22m/haとなっている(*62)。

「森林・林業基本計画」では、森林施業の効率的な実施のために路網の整備を進めることとしており、林道等の望ましい延長の目安を現状の19万kmに対し33万km程度としている。特に、自然条件等の良い持続的な林業の経営に適した育成単層林を主体に整備を加速化させることとしており、林道等については令和7(2025)年に24万km程度とすることを目安としている。また、「全国森林計画」では、路網整備の目標とする水準を、緩傾斜地(0°~15°)の車両系作業システムでは100m/ha以上、急傾斜地(30°~35°)の架線系作業システムでは15m/ha以上等としている(資料3-22)。


(*61)国有林林道が活用された事例については、「平成23年度森林及び林業の動向」の11ページ及び「平成28年度森林及び林業の動向」の182ページを参照。

(*62)「公道等」、「林道」及び「作業道」の現況延長の合計を全国の森林面積で除した数値。林野庁整備課調べ。



(丈夫で簡易な路網の作設を推進)

林野庁では、路網を構成する道を、一般車両の走行を想定した幹線となる「林道」、大型の林業用車両の走行を想定した「林業専用道」及びフォワーダ等の林業機械の走行を想定した「森林作業道」の3区分に整理して、これらをバランスよく組み合わせた路網の整備を進めている。

丈夫で簡易な路網の作設を推進するため、林業専用道と森林作業道の作設指針(*63)を策定し、林業専用道については、管理、規格・構造、調査設計、施工等に関する基本的事項を、森林作業道については、路線計画、施工、周辺環境等について考慮すべき基本的な事項(*64)を目安として示している。

現在、各都道府県では、林野庁が示した作設指針を基本としつつ、地域の特性を踏まえた独自の路網作設指針を策定して、路網の整備を進めている(*65)。平成29(2017)年度には、全国で林道(林業専用道を含む。)等(*66)762km、森林作業道14,899kmが開設されており、林野庁では、今後も、森林資源が充実し林業経営の集積・集約化が見込まれる地域を中心として路網整備を推進していくこととしている。


(*63)「林業専用道作設指針の制定について」(平成22(2010)年9月24日付け22林整整第602号林野庁長官通知)、「森林作業道作設指針の制定について」(平成22(2010)年11月17日付け22林整整第656号林野庁長官通知)

(*64)例えば、周辺環境への配慮として、森林作業道の作設工事中及び森林施業の実施中は、公道又は渓流への土砂の流出や土石の転落を防止するための対策を講ずること、事業実施中に希少な野生生物の生育・生息情報を知ったときは、必要な対策を検討することとされている。

(*65)なお、林業専用道については、現地の地形等により作設指針が示す規格・構造での作設が困難な場合には、路線ごとの協議により特例を認めることなどにより、地域の実情に応じた路網整備を支援することとしている。

(*66)林道等には、「主として木材輸送トラックが走行する作業道」を含む。



(路網整備を担う人材を育成)

路網の作設に当たっては、現地の地形や地質、林況等を踏まえた路網ルートの設定と設計・施工が重要であり、高度な知識・技能が必要である。このため、林野庁では、林業専用道等の路網作設に必要な計画や設計、作設及び維持管理を担う技術者の育成を目的とし、国有林野をフィールドとして活用するなどしながら、平成23(2011)年度から「林業専用道技術者研修」に取り組んでいる。平成29(2017)年度までに2,196人が修了し、地域の路網整備の推進に取り組んでいる。

また、森林作業道を作設するオペレーターとその指導者の育成を目的として、平成22(2010)年度から研修を実施し、平成29(2017)年度までに、これから森林作業道づくりに取り組む初級者を対象とした研修で2,101人、高い技術力を身に付け地域で指導的な役割を果たすオペレーターを育成することを目的とした、中級者等を対象とした研修で1,629人を育成した。

これらの研修の受講者等は、各地域で伝達研修等に積極的に取り組んでおり、平成29(2017)年度は全国で151回の「現地検討会」を開催し、2,685人が参加した。このように、現場での路網整備を進める上で指導的な役割を果たす人材の育成にも取り組んでいる。


(高性能林業機械の導入を推進)

高性能林業機械(*67)を使用した作業システムには、林内の路網を林業用の車両が移動して、伐倒した木を引き寄せ、枝を除去して用途に応じた長さに切断し、集積する場所まで運搬するといった作業を行う車両系作業システムや、伐倒した木を林内に張った架線で吊り上げ、集積する場所まで運搬する架線系作業システムがある(資料3-23)。車両系作業システムは、比較的傾斜が緩やかな地形に向いており、路網が整備されていることが必要である。架線系作業システムは、高い密度で路網を開設できない傾斜が急な地形でも導入が可能である。


我が国における高性能林業機械の導入は、昭和60年代に始まり、近年では、路網を前提とする車両系のフォワーダ(*68)、プロセッサ(*69)、ハーベスタ(*70)等を中心に増加しており、平成29(2017)年度は、合計で前年比9%増の8,939台が保有されている。保有台数の内訳をみると、フォワーダが2,474台で3割弱を占めているほか、プロセッサが1,985台、プロセッサと同様に造材作業に使用されることの多いハーベスタは1,757台となっており、両者を合わせて4割強を占めている。このほか、スイングヤーダ(*71)が1,059台で1割強を占めている(資料3-24)。平成29(2017)年度において、素材生産量全体のうち、高性能林業機械を活用した作業システムによる素材生産量の割合は7割となっている(*72)。


また、我が国の森林は急峻な山間部に多く分布することから、林野庁では、急傾斜地等における効率的な作業システムに対応した次世代の架線系林業機械の開発・導入を推進しているとともに(*73)、高度な索張り技術等を備えた技能者の育成に取り組んでいる。

このほか、ロボット技術の活用など安全性や省力化等を目指した林業機械の開発も進められており、丸太の品質を自動判定できるハーベスタや無人走行できるフォワーダ、林業用アシストスーツの開発等が進められている。


(*67)従来のチェーンソーや刈払機等の機械に比べて、作業の効率化、身体への負担の軽減等、性能が著しく高い林業機械のこと。

(*68)木材をつかんで持ち上げ、荷台に搭載して運搬する機能を備えた車両。

(*69)木材の枝を除去し、長さを測定して切断し、切断した木材を集積する作業を連続して行う機能を備えた車両。

(*70)立木を伐倒し、枝を除去し、長さを測定して切断し、切断した木材を集積する作業を連続して行う機能を備えた車両。

(*71)油圧ショベルにワイヤーロープを巻き取るドラムを装備し、アームを架線の支柱に利用して、伐倒した木材を架線により引き出す機能を備えた機械。木材を引き出せる距離は短いが、架線の設置、撤去や機械の移動が容易。

(*72)林野庁研究指導課調べ。

(*73)高性能林業機械の開発については、「平成28年度森林及び林業の動向」の19-20ページを参照。



(造林コストの低減に向けた取組)

林野庁では、造林作業に要するコストの低減のため、伐採と造林の一貫作業システムの導入、コンテナ苗(*74)や成長に優れた苗木(*75)の活用、低密度での植栽等を推進している。

伐採と造林の一貫作業システムは、グラップル(*76)等の伐採や搬出に使用した林業機械を用いて、伐採してすぐに伐採跡地に残された末木枝条を除去して地拵(ごしら)えを実施し、フォワーダ等の機械で苗木を運搬した上で植栽を行うものである。このため、地拵えと苗木運搬の工程を省力化することとなり、労働投入量の縮減などにより作業コストを大きく縮減することが可能となる(*77)。

また、低密度での植栽では、植栽に要する経費の縮減が期待できる一方で、下草が繁茂しやすくなる、下枝の枯れ上がりが遅くなり完満な木材が得られなくなるおそれがあるといった課題がある。このため、試験地を設定して、成長状況の調査や技術開発・実証等に取り組んでおり、低密度植栽による育林技術体系を作成するなどの例も出てきている。

このほか、林野庁では、傾斜地での造林作業を省力化する機械の開発も進めている。


(*74)コンテナ苗については、第2章(71-72ページ)参照。

(*75)成長等に優れた優良品種の開発については、第2章(72ページ)を参照。

(*76)木材をつかんで持ち上げ、集積する機能を備えた車両。

(*77)労働投入量の縮減等について詳しくは、「平成28年度森林及び林業の動向」の13ページを参照。



(ウ)ICTの活用による林業経営の効率化の推進

林業経営体の収益確保や森林所有者の所得向上を図るためには、需要に応じて出材する丸太の質(*78)・量を調整することや、それを実現するために出材可能な丸太の質・量を即時に把握することなど、生産管理手法の導入が必要となっている。

近年は、ICTを活用した生産管理手法の導入が進められており、出材する木材の数量や出荷量等をICTを用いて瞬時に把握する取組等が進展している(*79)。また、土場に椪積された丸太の径級を人工知能(AI)により自動解析して流通業者、加工業者等と瞬時に共有できるスマートフォンアプリが販売されるなど、AIを活用する取組も進められている。

また、レーザ計測やドローンによる森林資源量等の把握や、解析されたデータの路網整備や森林整備の計画策定等への活用も進んでいる(*80)。

林野庁では、適切な生産管理のできる人材の育成やICTを活用した生産管理手法の開発等を推進している。


(*78)伐倒対象の選木や伐採した木材の造材方法によって決まる「径級(直径)」や「長さ」、出材先の製材機械や用途等によってその許容範囲が決まる「曲がり」、樹種や個体差、生育環境等によって左右される「強度」や「耐朽性」、「色」、「年輪の疎密」等が、需要に応じて求められる「丸太の質」に当たると考えられる。

(*79)ICTを活用した生産管理手法に係る事例については、第1章(41ページ)、「平成29年度森林及び林業の動向」の100ページ、「平成27年度森林及び林業の動向」の26ページ等を参照。

(*80)レーザ計測の活用等に係る事例については、「平成29年度森林及び林業の動向」の94ページ、100ページ、「平成28年度森林及び林業の動向」の22ページ等を参照。


お問合せ先

林政部企画課

担当者:年次報告班
代表:03-3502-8111(内線6061)
ダイヤルイン:03-6744-2219

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