第1部 第1章 第3節 森林保全の動向(4)
(3)森林被害対策の推進
(野生鳥獣による被害の状況)

野生鳥獣による森林被害面積は近年減少傾向で推移しており、令和6(2024)年度は前年度から904ha減少し4,256haとなっている。このうちシカによる被害は、森林被害面積全体の約6割を占めており(資料1-26)、長期にわたるシカの生息頭数の増加及び生息域の拡大によって森林被害は依然として深刻な状況にある。

シカによる被害の内訳としては、食害による植栽木の成長阻害や枯死、木材価値の低下のほか、下層植生の消失等による土壌流出などがある。
環境省によると、北海道を除くシカの個体数(*65)の推定値(中央値)は、令和5(2023)年度末時点で230万頭(*66)であり、依然として高い水準にある(*67)。また、シカの分布域は、昭和53(1978)年度から平成30(2018)年度までの間に約2.7倍に拡大し、近年では東北地方や北陸地方、中国地方において分布域が拡大している(*68)。
その他の野生鳥獣被害としてはノネズミやクマなどによる被害がある。この中でもツキノワグマは、本州以南において、立木の樹皮を剝ぐことによる枯損(こそん)や木材価値の低下を引き起こしている。
(*65)北海道については、北海道庁が独自に個体数を推定しており、令和6(2024)年度末において東部地域30万頭、北部地域21万頭、中部地域22万頭、南部地域5~18万頭と推定。
(*66)推定値は、120~443万頭(90%信用区間)。
(*67)環境省プレスリリース「全国のニホンジカ及びイノシシの個体数推定等の結果について」(令和8(2026)年4月23日付け)
(*68)環境省プレスリリース「全国のニホンジカ及びイノシシの個体数推定及び生息分布調査の結果について(令和2年度)」(令和3(2021)年3月2日付け)
(野生鳥獣被害対策を実施)
造林地等における野生鳥獣対策としては、シカ等の侵入を防ぐ防護柵や、立木をクマによる剝皮被害から守る防護テープ、苗木を食害から守る食害防止チューブの設置等が行われている。また、各地域の地方公共団体、鳥獣被害対策協議会等によりシカ等の計画的な捕獲、捕獲技術者の養成等が行われている。
環境省と農林水産省は、令和10(2028)年度までにシカ及びイノシシの個体数を平成23(2011)年度比(*69)で半減させる捕獲目標を設定している。令和6(2024)年度の捕獲頭数は、シカ73.9万頭(前年度比2.2%増)、イノシシ64.3万頭(前年度比23.2%増)(*70)であった。半減目標達成に向けて引き続き捕獲強化が必要であり、シカの生息頭数が増加している地域を対象とした集中的な捕獲や県境をまたぐ捕獲の強化、効果的・効率的な捕獲に向けたICT等の新技術の普及、捕獲従事者の育成等を実施している。
林野庁では、森林整備事業により、森林所有者等による造林等の施業と一体となった防護柵等の被害防止施設の整備や、囲いわな等による鳥獣の誘引捕獲等に対する支援を行うとともに、シカ等による森林被害緊急対策事業等により、林業関係者等による森林内での効率的な捕獲を促進するための生息場所の確認、捕獲個体処理施設の配備等、捕獲に必要な条件整備への支援を行っている。生息密度は低いものの生息分布が拡大している地域においても、今後シカ被害の拡大が懸念されることから、生息状況把握の取組についても支援を行っている(事例1-9)。
事例1-9 シカの鳴き声の音声解析による生息把握技術(ボイストラップ法)のシカ対策への活用
シカの生息密度が低い地域での生息把握調査の手法については、オスジカが発する鳴き声を検知するボイストラップ法が有効であることが明らかになっている。
山形県は、現状ではシカの生息密度は低い状態で推移しているが、近年、シカの定着・増加とそれに伴う被害発生が危惧されている。このような地域においては、シカの生息状況の変化を正確に把握する必要があるが、直接観察や痕跡発見が困難であり、自動撮影カメラや痕跡調査ではシカの生息状況の有効な情報を得にくいことが課題となっている。
このような中、山形県がボイストラップ法を用いた生息状況の把握を行った結果、これまで目撃情報のほとんどなかった地域においてシカの生息が確認されるとともに、鳴き声の違いから、一部の地域ではオスが縄張りを形成するだけでなく、メスの流入など繁殖の段階に進む可能性があることが確認された。
同県では、この調査結果を基に、新たにシカが定着しつつある地域においてシカの利用場所等を特定し、捕獲活動を進めることとしており、ボイストラップ法は、生息分布拡大の最前線の地域におけるシカ対策を検討するための手法の一つとして普及が期待されている。
国有林野においても、森林管理署等が実施するシカの生息状況調査等の結果を地域の協議会に提供し、知見の共有を図り、効果的な被害対策の実施等に取り組んでいる(*71)。
また、クマ類による人身被害が人の生活圏や森林内で多発している状況を踏まえて、令和6(2024)年4月には、「鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律施行規則」の一部が改正され、クマ類が指定管理鳥獣に指定された。さらに同月、クマ類の地域個体群を維持しつつ、人とクマ類のすみ分けを図るための施策を取りまとめた「クマ被害対策施策パッケージ」が公表され、これに基づく取組が行われてきた。
令和7(2025)年11月には、クマによる死者数が過去最多を大幅に更新し、国民の安全・安心を脅かす深刻な事態となっていることを踏まえ、「クマ被害対策パッケージ」が新たに策定・公表された。同パッケージでは、関係省庁が連携し、実効性の高い対策を着実に、かつ、段階的に実行することにより、人の生活圏からクマを排除するとともに、周辺地域等において捕獲等を強化することで、増えすぎたクマの個体数の削減・管理の徹底を図り、人とクマのすみ分けを実現することとしている。林野庁では、クマ類の生息環境の保全・整備の取組として、針広混交林や広葉樹林への誘導、病害虫被害の防除を行うとともに、人の生活圏への出没防止の取組として、林縁部における雑草木の刈払い等による緩衝林帯の整備を推進することとしている。
(*69)平成23(2011)年度におけるシカの個体数は310万頭、イノシシの個体数は121万頭(環境省における令和3(2021)年度末時点の推定値)。
(*70)環境省速報値。シカの捕獲頭数は、北海道のエゾシカを含む数値。
(*71)国有林野における鳥獣被害対策等については、第4章第2節(1)206ページを参照。
(「松くい虫」による被害の状況)
松くい虫(*72)被害は、マツノザイセンチュウという体長約1mmの外来の線虫が、在来のマツノマダラカミキリ等に運ばれてマツ類の樹体内に侵入し枯死させるマツ材線虫病である。松くい虫被害は、⾧期的に減少傾向にあるものの、北海道を除く46都府県で確認されており、我が国最大の森林病害虫被害である。
松くい虫被害量(材積)については、令和5(2023)年度には夏季の高温少雨等により12年ぶりに増加し、令和6(2024)年度は前年度比23.8%増で、39.0万m3となった(資料1-27)。
林野庁は、令和7(2025)年度までに、保全すべき松林(*73)の被害率が1%未満に抑えられている都府県の割合を100%とする目標を設定しており(*74)、令和6(2024)年度は85%となっている。また、保全すべき松林の被害先端地域(*75)の被害率が全国の被害率を下回ることも目標としているが、令和6(2024)年度における全国の被害率0.41%に対し、被害先端地域は0.51%となっている。
これらの目標達成に向け、都府県と連携しながら、保全すべき松林を対象として、薬剤散布・樹幹注入等の予防と被害木を伐倒してくん蒸処理を行うなどの駆除を支援するとともに、マツノザイセンチュウに対して抵抗性を有する抵抗性マツの植栽や、保全すべき松林の周辺における広葉樹等への樹種転換を推進している。
抵抗性マツについては、林木育種センターが品種の開発を行い、令和6(2024)年度までに624品種を開発している(*76)。令和6(2024)年度には、これらを用いた抵抗性マツの苗木が59万本生産され、マツ苗木の約8割を占めるようになっている(*77)。また、より抵抗性の高い第2世代のアカマツとクロマツを開発し、原種苗木の生産・配布を進めている。さらに、林野庁では、令和5(2023)年度から、抵抗性マツで造成された海岸防災林における松くい虫被害リスクと効果的な被害対策に関する調査を支援している。
(*72)松くい虫は、森林病害虫等防除法により、「森林病害虫等」に指定されている。
(*73)保安林等公益性の高い森林を対象に都道府県知事等が高度公益機能森林又は地区保全森林として定めた松林。
(*74)森林・林業基本計画(令和3(2021)年6月閣議決定)に則し政策評価を行うために設定された測定指標における目標値。
(*75)高緯度、高標高など被害拡大の先端地域となっている区域。
(*76)林野庁研究指導課調べ。
(*77)林野庁整備課調べ。
(ナラ枯れ被害の状況)
「ナラ枯れ」は、ナラ菌が体長5mm程度の甲虫であるカシノナガキクイムシ(*78)によってナラ類やシイ・カシ類の樹体内に持ち込まれ樹木を枯死させるナラ・カシ類萎凋(いちょう)病である。
ナラ枯れによる枯死や倒木等の被害は、令和5(2023)年度に北海道、令和6(2024)年度に愛媛県で初めて確認されるなど、これまでに45都道府県で発生しており、被害区域が拡大している。令和6(2024)年度の被害量(材積)は前年度比44.2%増の18.8万m3となっており、高水準で推移している(資料1-28)。
林野庁では、特に守るべき樹木及びその周辺において、健全木への粘着剤の塗布やビニールシート被覆等による侵入予防と被害木のくん蒸による駆除等を推進するとともに、令和5(2023)年度から被害拡大地域の状況や防除対策の効果、被害木を含めた広葉樹材の利活用等についての実態調査を支援している。また、ナラ枯れ被害は高齢級化した森林の大径木に多くみられることから、伐採・更新を行い若返らせることによる被害を受けにくい健全な森林づくりを推進している。
(*78)カシノナガキクイムシを含むせん孔虫類は、森林病害虫等防除法により、「森林病害虫等」に指定されている。
(外来カミキリムシの確認)
国際自然保護連合(IUCN)が世界の侵略的外来種ワースト100に挙げているツヤハダゴマダラカミキリは、令和2(2020)年に兵庫県で発見されたことを皮切りに、本州各地で生息が確認されている。本種は、海外において幅広い樹種の樹木に甚大な被害を及ぼしており、その中の多くの樹種は日本国内の森林にも自生しており、被害を受ける可能性があることから、林野庁では、関係省庁や地方公共団体と連携して注意喚起や情報発信を行うなど監視強化に努めている。また、令和5(2023)年には、本種が「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律」に基づく特定外来生物に指定されたことから、飼養や運搬等の禁止事項や防除を行う際の手続などについて周知している。
(林野火災の状況と対策)
令和6(2024)年における林野火災(*79)の発生件数は831件、焼損面積は1,073haであった(資料1-29)。
令和7(2025)年2月から3月には、岩手県大船渡(おおふなと)市や岡山県岡山市、愛媛県今治(いまばり)市などにおいて、また令和8(2026)年に入ってからも3月までの間に、山梨県上野原(うえのはら)市、大月(おおつき)市において大規模な林野火災が発生した。林野火災は、例年冬から春までに集中して発生しており、発生原因のほとんどは不注意な火の取扱い等の人為的なものである。このため、林野庁では、入山者が増加する春を中心に、消防庁と連携して「全国山火事予防運動」の実施やパトロールの強化などの啓発活動を行っている。また、令和6(2024)年度には、林野火災の発生の危険性が高い日と場所を特定した重点的な警戒活動を可能とするため、林野火災発生危険度予測システムを構築し、普及を図っている。
また、令和7(2025)年2月に岩手県大船渡市において、過去60年で最大規模の林野火災が発生したことなどを踏まえ、林野庁では、消防庁と共に「大船渡市林野火災を踏まえた消防防災対策のあり方に関する検討会」を開催し、今後取り組むべき火災予防や消防活動等について検討し、同年8月に報告書を公表した。同報告書を踏まえ、林野庁では、林野火災に係る広報・啓発の強化や防火水槽などの山火事防止施設を備えた消火活動にも活用できる林道の整備、延焼しにくい多様な林相への誘導など、林野火災に強い地域づくりを進めていくこととしている。
(*79)林野火災とは、森林、原野又は牧野が焼損した火災をいう。山火事や森林火災と呼ばれるものも林野火災に含まれる。
(森林保険制度)
森林についての火災、気象災、噴火災による損害を塡補する森林保険(*80)の運営は、国立研究開発法人森林研究・整備機構が実施している。契約面積は、令和6(2024)年度末時点で51.2万haと減少傾向が続いているが、毎年、林野火災や自然災害が発生しており、令和6(2024)年度は、火災、雪害、水害等の災害による損害に対して、総額約2億円の保険金が支払われた。
森林所有者が自ら災害に備える唯一のセーフティネットである森林保険を活用し、様々なリスクに備えることの有効性は近年ますます高まっていることから、本制度の普及のため、公式キャラクターや森林保険の解説動画を公開するなどのSNSの活用による情報発信の強化に取り組んでいる。
(*80)森林保険法に基づく公的保険。
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林政部企画課
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