第1部 第1章 第2節 森林整備の動向(6)
(6)社会全体で支える森林(もり)づくり
(全国植樹祭と全国育樹祭)
「全国植樹祭」は、国土緑化運動の中心的な行事であり、天皇皇后両陛下の御臨席を仰いで毎年春に開催されている。令和7(2025)年5月には、「第75回全国植樹祭」が埼玉県で開催された。天皇陛下は、ケヤキ、スギ(少花粉)、トチノキをお手植えになり、ヒノキ(少花粉)、アカシデをお手播きになった。令和8(2026)年には、「第76回全国植樹祭」が愛媛県で開催される予定である。また、「全国育樹祭」は、皇族殿下の御臨席を仰いで毎年秋に開催されている。令和7(2025)年10月には、「第48回全国育樹祭」が秋篠宮皇嗣同妃両殿下の御臨席の下、宮城県で開催された。令和8(2026)年には、「第49回全国育樹祭」が和歌山県で開催される予定である。
(多様な主体による森林(もり)づくり活動が拡大)
近年、気候変動の分野では、「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」の提言等に加えて、令和7(2025)年3月にサステナビリティ基準委員会(SSBJ)が、気候関連開示基準を含む国内のサステナビリティ開示基準(SSBJ基準)の公表を行うなど、企業の気候関連のリスク及び機会に関する情報開示の動きが進んでいる。自然資本の分野においても、「自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)」の提言等により、企業が自然資本への依存度等の評価を行いつつ、事業活動全体が自然資本と生態系サービスに及ぼす影響や、その損失による事業活動への影響等に関する情報開示に向けた取組が進められている。
これらを背景として、企業の社会的責任(CSR)活動や自然資本に対する取組として、森林(もり)づくりに関わろうとする企業が増加しており、顧客、地域住民、NPO等との協働、募金等を通じた支援、企業の所有森林を活用した地域貢献など多様な取組が行われている。企業による森林(もり)づくり活動の実施箇所数は増加しており、令和6(2024)年度は2,002か所で実施された(資料1-17)。
林野庁では、森林(もり)づくり活動を行いたい企業等と森林所有者、林業関係者等とのマッチングや活動場所のコーディネート等の取組を支援している。
また、令和7(2025)年4月には、森林に関わる企業を対象に、TNFD情報開示を行う上での参考となるよう、「森林の有する多面的機能に関する企業の自然関連財務情報開示に向けた手引き」を作成し、公表した。
さらに、令和8(2026)年3月には、企業等による森林(もり)づくり活動の促進や森林の機能に対する理解醸成を図るため、林地における水資源貯留機能を簡易的に測定できる手法(*41)を公表した。
このほか、平成20(2008)年に開始された「フォレスト・サポーターズ」登録制度は、個人や企業などが日常の生活や業務の中で自発的に森林整備や木材利用に取り組む仕組みとなっており、その登録数は令和8(2026)年3月末時点で7.3万件となっている。
くわえて、SDGsや2050年カーボンニュートラルの実現に貢献する森林(もり)づくりを推進することを目的として、令和4(2022)年に「森林(もり)づくり全国推進会議」が発足した。経済、地方公共団体、教育、消費者、観光等各界の企業・団体が会員となり、森林(もり)づくりに向けた国民運動を展開している。令和7(2025)年11月には第4回森林(もり)づくり全国推進会議が開催され、企業による防災・減災や生物多様性保全に資する森林(もり)づくり活動等の取組や、産官学民連携による森林(もり)づくりの取組等を行っている会員からの事例報告に加え、地域の森林に関する課題に取り組む高校生によるSDGsアイディアの発表が行われた。今後も引き続き、企業等による森林(もり)づくり活動の普及啓発に取り組むこととしている。
(*41)森林の水源涵養機能のうち水資源貯留機能については、地形、地質条件、森林土壌の発達など様々な条件が複雑に関わって発揮されるものであるが、本手法は、林地における水源涵養の効果を簡易に数値化する観点で、各種の条件を単純化して提示したものである。
(森林の地球温暖化防止への貢献等の見える化)
企業等が実施する森林整備の取組について、その成果を二酸化炭素吸収量として認証する取組が33都府県において実施されている(*42)。
また、カーボンニュートラルへの貢献や生物多様性保全などの観点から、企業等が実施した森林整備の認知度を高めるとともに、更なる取組の拡大・促進を図るため、顕彰制度「森林×ACT(アクト)チャレンジ」を令和4(2022)年に創設した。令和7(2025)年は、応募総数30件(森林づくり部門26件、J-クレジット部門4件)の中から、4件(グランプリ1件、優秀賞3件)を表彰した(*43)。
(*42)林野庁森林利用課調べ。
(*43)「森林×ACTチャレンジ」受賞者の紹介は46ページを参照。令和6(2024)年に「森林×脱炭素チャレンジ」から「森林×ACTチャレンジ」に名称を変更。
(森林関連分野の環境価値のクレジット化等の取組)

農林水産省、経済産業省及び環境省は、平成25(2013)年度から省エネ設備の導入、再生可能エネルギーの活用等による 温室効果ガスの排出削減量や森林管理による温室効果ガス吸収量をクレジットとして国が認証する仕組み(J-クレジット制度)を運営している。
J-クレジット制度のうち、森林吸収分野では、森林整備を実施するプロジェクト実施者が森林吸収量の認証を受けてクレジットを発行し、それを企業や団体等が購入することにより、更なる森林整備等の推進のための資金が還流するため、地球温暖化対策と地域振興を一体的に後押しすることができる。企業等のクレジット購入者は、入手したクレジットを「地球温暖化対策の推進に関する法律」に基づく温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度(SHK制度)における報告やカーボン・オフセットなどに利用することができ、このような取組により、経済と環境の好循環が図られることが期待される。令和3(2021)年度には吸収量算定に係る現地調査に代えて航空レーザ計測データの活用を可能とするとともに、令和4(2022)年度には、主伐後の再造林の実施による吸収源の確保に取り組むプロジェクト実施者等を後押しできるよう吸収量の算定方法を見直すなど、クレジットの創出を行いやすくする形で制度改正が行われた(*44)。
現在、森林吸収分野として承認されている森林経営活動、植林活動及び再造林活動の3つの方法論に基づき、平成25(2013)年度の制度開始から令和7(2025)年度末までの累計で355件の森林管理プロジェクトが登録されており、このうち令和7(2025)年度の新規登録件数は94件で過去最大となっている。クレジット認証量は、同期間の累計で240.1万CO2トンであり、このうち100.5万CO2トンが令和7(2025)年度に認証された(*45)(資料1-18)。認証量が大幅に伸びた主な要因は、認証見込量10万CO2トン超の大規模プロジェクトの認証が始まったことによるものである。
再生可能エネルギーの分野では、木質バイオマス固形燃料の方法論が承認されており、令和7(2025)年度末までの累計で、169件のプロジェクトが登録され、クレジット認証量は211万CO2トンとなっている。
令和5(2023)年度以降は、J-クレジットを扱う取引プラットフォーム開設の動きが活発化している。東京証券取引所では、令和5(2023)年度にカーボン・クレジット市場を開設し取引所取引を開始しており、同市場における令和8(2026)年3月末時点での森林由来J-クレジットの取引実績は、累計19,953CO2トン、取引平均価格は1CO2トン当たり5,584円となっている(*46)。その他にも、民間主導による森林由来J-クレジットの取引に特化したプラットフォームも開設されている。また、令和8(2026)年度から本格的に稼働する排出量取引制度(GX-ETS)では、制度対象者は各年度の排出実績量について10%を上限としてJ-クレジット等による控除が可能となり、J-クレジットの需要拡大につながる可能性がある。こうした動きにより、森林関連分野を含むJ-クレジット全体の取引が更に活性化することが期待される。
林野庁では、プロジェクト実施者となる森林・林業関係者の裾野拡大や森林由来J-クレジットの創出・活用拡大を後押しするため、セミナー等を通じた制度の普及や優良事例の情報発信に取り組んでいる。また、令和7(2025)年3月には、森林整備による生物多様性の保全や水源の涵(かん)養、資源の循環利用、地域経済への貢献等の便益を非炭素プレミアム価値として、企業等の需要者に対して訴求するための「森林吸収系J-クレジットの非炭素プレミアム価値を訴求するための手引き」を作成し、公表している。他の排出削減系のクレ ジットにはない非炭素プレミアム価値を訴求することにより、森林由来J-クレジットの取引が選好され、その販売収益が森林整備の財源として活用されるとともに、それを購入する需要者が投資家等からも評価されるような好循環が期待される(事例1-5)。
事例1-5 森林由来 J-クレジットを通じた企業との連携による森林の価値訴求と持続可能な森林整備の取組
三重県尾鷲(おわせ)市では、林業が古くから基幹産業として地域の発展に寄与してきたが、近年は林業従事者数の減少や放置林の増加が地域の課題となっている。このような状況を踏まえ、同市はゼロカーボンシティ宣言の中で「22世紀に向けたサステナブルシティの実現」を掲げ、林業の新しい価値づくりとして森林由来J-クレジットの創出・販売に力を入れている。
その取組の一環として、同市が戦略パートナーとして協定を結んでおり、NFT(注)を環境保全に紐づけるサービスの運営を行っている株式会社paramita(東京都新宿区)との連携の下、市有林から創出したJ-クレジットを販売している。また、販売の取組を通じて、二酸化炭素の価値だけでなく、森林がもたらす水源涵(かん)養や生物多様性等の価値訴求も行うなど、森林由来J-クレジットを購入することの意義を分かりやすく示すことで、企業の呼び込みを行っている。
このような森林の価値訴求に関する取組は、クレジット販売収益の活用にとどまらない森林整備にもつながっている。同市で生産される水産物を調達する外食事業者は、海の環境保全が持続的な事業に直結するとして、山と海が近接する同市に対して企業版ふるさと納税を行い、森林や藻場の再生活動の支援に貢献している。
こうした取組をきっかけとして、令和8(2026)年1月には、同市におけるネイチャーポジティブ経営を企業と議論し合う「尾鷲ネイチャーポジティブアクション会議 in みなとみらい」を神奈川県横浜市で開催した。国内の主要な大手企業、環境保全に取り組むNPO、地方公共団体、研究機関などから100名を超える担当者が一堂に会し、尾鷲市のこれからの森林整備や林業の在り方、自然資本の価値についてディスカッションが行われた。同会議では、協賛する8企業等により、海・山・里山が一体となった自然を有する尾鷲市を舞台としたネイチャーポジティブ経営についての事業提案が行われた。
このように、森林由来J-クレジットの創出・販売を契機とした新たな関係人口の創出や森林の価値の積極的な訴求に取り組んでおり、森林の価値を最大限に生かしたサステナブルな地域づくりのための取組が進められている。
注:金融取引で利用されるブロックチェーン技術を用いて、デジタル資産の唯一性と所有権を改ざんできない形で証明する仕組み。
(*44)J-クレジット制度の見直しについては、「令和4年度森林及び林業の動向」トピックス4(32-33ページ)を参照。
(*45)J-クレジットの登録件数及び認証量は、国内クレジット及びJ-VERクレジットからの移行分を含む。
(*46)森林吸収分野以外の主なJ-クレジットである省エネルギー分野と再生可能エネルギー分野の取引実績はそれぞれ357,311CO2トン、719,746CO2トン、1CO2トン当たりの取引平均価格はそれぞれ2,927円、4,590円(電力と熱の加重平均)となっている。
(森林環境教育の推進)
森林内での様々な体験活動等を通じて、森林と人々の生活や環境との関係についての理解と関心を深める森林環境教育の取組が進められている。その取組の一例として、学校林(*47)を活用し、植栽、下刈り、枝打ち等の体験や、植物観察、森林の機能の学習等が、総合的な学習の時間等で行われている。学校林を保有する小中高等学校は全国で約2,200校あり、その保有面積は1.6万haである(*48)。
また、子供たちが心豊かな人間に育つことを目的として、「緑の少年団」による学習活動、地域貢献活動、レクリエーション活動が行われている(*49)。令和8(2026)年1月時点で、全国で2,955団体、31万人が加入している。
さらに、高校生が造林手や木工職人などの名人を訪ね、一対一で聞き書きし技術や生き方を学び、その成果を発信する「聞き書き甲子園(*50)」については、令和7(2025)年度、93人の高校生が15地域(22市町村)を訪れ聞き書きをするとともに、その成果発表の場となるフォーラムが令和8(2026)年3月に開催された。
くわえて、身近な森林を活用した森林環境教育に取り組む保育所・幼稚園・認定こども園が増えてきている。令和7(2025)年11月には、幼児期からの森林とのふれあいを一層推進するため、行政機関、専門家等による発表や意見交換等を行う「こどもの森づくりフォーラム(*51)」が、全国植樹祭の関連事業として奈良県で開催された。
このほか、林野庁においては、林野図書資料館が、森林の魅力や役割、林業の大切さについて分かりやすく表現した漫画やイラストを作成・配布しており、地方公共団体の図書館等と連携した企画展示等や地域の小中学校等の森林環境教育に活用されている(資料1-19)。
(*47)学校が保有する森林(契約等によるものを含む。)であり、児童及び生徒の教育や学校の基本財産造成等を目的に設置されたもの。
(*48)公益社団法人国土緑化推進機構「学校林現況調査報告書(令和3年調査)」
(*49)公益社団法人国土緑化推進機構ホームページ「緑の少年団」
(*50)農林水産省、文部科学省、環境省、関係団体及びNPOで構成される実行委員会の主催により実施されている取組。平成14(2002)年度から「森の聞き書き甲子園」として始められ、平成23(2011)年度からは「海・川の聞き書き甲子園」と統合し、「聞き書き甲子園」として実施。
(*51)林野庁、関係団体及びNPOで構成される実行委員会の主催により実施。令和5(2023)年度から全国植樹祭の関連事業として開催。奈良県は令和9(2027)年に全国植樹祭を開催予定。
(緑の募金による森林(もり)づくり活動の支援)
「緑の募金(*52)」は平成7(1995)年に制定・施行された「緑の募金による森林整備等の推進に関する法律」に基づく寄附金募集の取組であり、法律に基づく取組となってから、令和7(2025)年をもって、30年の節目を迎えている。
令和6(2024)年の「緑の募金」には、総額約20億円の寄附金が寄せられた。寄附金は、(ア)水源林の整備や里山林の手入れ等、市民生活にとって重要な森林の整備及び保全、(イ)苗木の配布や植樹祭の開催、森林ボランティア指導者の育成等の緑化推進活動、(ウ)熱帯林の再生や砂漠化の防止等の国際協力に活用されているほか、地震、台風、豪雨、山火事等の被災地における緑化活動や木製品提供等に対する支援にも活用されている(*53)(事例1-6)。
事例1-6 「緑の募金」を活用した山火事被災地への支援
「緑の募金」では、令和7(2025)年2月から3月にかけて岩手県大船渡(おおふなと)市等で発生した大規模な林野火災を受けて、同年3月に「復旧支援使途限定募金」の支援対象に新たに「山火事」を追加し、林野火災の被害により失われた森林の復旧等を目的とした募金を受け付けている。
大船渡市においては同年7月に、森林ボランティア活動を実施している三陸森の会(青森県青森市)が緑の募金を活用して、登米町森林組合(宮城県登米(とめ)市)と三陸中部森林管理署の協力の下、間伐材を使用した「組手什(くでじゅう)(注)」を簡易収納棚として組み立て、林野火災で被災した34世帯の仮設住宅居住者に提供する支援活動を行った。仮設住宅の収納場所には限りがあることから、被災者から組手什の利便性に対して喜ぶ声が寄せられている。
緑の募金を運営する公益社団法人国土緑化推進機構は、今後も被災地の支援を継続していくこととしている。
注:釘やねじを使用せずに木材をはめ込むだけで棚等が組み立てられる加工木材。
(*52)森林整備等の推進に用いることを目的に行う寄附金の募集。昭和25(1950)年に、戦後の荒廃した国土を緑化することを目的に「緑の羽根募金」として始まり、現在は、公益社団法人国土緑化推進機構と各都道府県の緑化推進委員会が実施主体として実施。
(*53)緑の募金ホームページ「災害復旧支援」
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