第1部 第1章 第2節 森林整備の動向(5)
(5)森林経営管理制度及び森林環境税・森林環境譲与税
(ア)森林経営管理制度
(制度の概要)

これまで、私有林では、森林経営計画の作成を通じて施業の集約化を推進してきたが、森林所有者の高齢化や相続による世代交代・不在村化、未登記等により、所有者の特定や境界の明確化に多大な労力がかかることから、民間が主体の取組だけでは森林整備が進みにくい状況にあった。このため、平成31(2019)年4月に森林経営管理法が施行され、市町村が主体となって森林の経営管理を行う森林経営管理制度が導入された。
同制度では、市町村が、森林所有者に対して、経営管理の現況や今後の見通しを確認する調査(以下「意向調査」という。)を実施した上で、市町村への委託希望の回答があった場合には、市町村が森林の経営管理を受託することが可能となる。市町村は、森林の経営管理を受託する際に経営管理権集積計画(*34)を作成し、受託した森林のうち、林業経営に適した森林は、経営管理実施権配分計画(*35)を作成した上で、一定の要件を満たす地域の民間事業者(*36)に再委託する。再委託を受けた林業経営者(*37)は間伐や主伐・再造林(*38)などの森林整備を実施する。一方、林業経営に適さない森林は、市町村森林経営管理事業等により市町村が自ら管理する。
また、所有者の一部又は全部が不明な場合等に、所有者の探索や公告、都道府県知事による裁定など一定の手続を経て、市町村に経営管理権を設定することを可能とする特例(所有者不明森林等の特例)も措置されている。
(*34)市町村が森林所有者から森林の経営管理を受託する(市町村に経営管理権を設定する)際に作成する計画。
(*35)市町村が経営管理権を有する森林について、民間事業者への再委託を行う(経営管理実施権の設定をする)際に作成する計画。
(*36)民間事業者については、(ア)森林所有者及び林業従事者の所得向上につながる高い生産性や収益性を有するなど効率的かつ安定的な林業経営の実現を目指す、(イ)経営管理を確実に行うに足りる経理的な基礎を有すると認められるといった条件を満たす者を都道府県が公表している。
(*37)経営管理実施権の設定を受けた民間事業者。
(*38)経営管理実施権配分計画に基づき主伐を実施する場合は、主伐後に植栽を行う必要がある。
(制度の進捗状況)
令和6(2024)年度末までに、意向調査については、約118万haで実施されており、回答があった面積のうち、約4割について市町村への委託希望があった。
市町村が所有者から経営管理を受託する際に作成する経営管理権集積計画については、41道府県431市町村で28,938ha作成され、うち343市町村で11,822haの森林整備(市町村森林経営管理事業)が実施された。また、民間事業者への再委託を行う際に作成する経営管理実施権配分計画については、24道府県86市町村の3,715haで作成され、56市町村で884haの森林整備が実施されている。
そのほか、林業経営体へのあっせん、市町村と所有者との協定の締結、市町村独自の補助の活用等の手法も含めると、市町村への委託希望の森林のうち約4割で森林整備につながる動きがみられている。しかしながら、林業経営者への再委託は低位にとどまっており、林業経営に適した森林における循環利用への貢献は限定的となっている(資料1-14)。また、所有者不明森林等への対応については、令和7(2025)年度末までに12市町において特例措置が活用されている。
このように同制度を活用した森林整備は全国で進められており、制度の推進に当たっては、周辺市町村の関係者との連携による体制整備や都道府県等による市町村支援など、地域の状況に応じて様々な取組が展開されている(事例1-3)。

事例1-3 地域に応じた森林経営管理制度の取組
上田市では、防災・減災を主な目的として、これまで施業履歴がなく管理されていない森林を針広混交林へ誘導するため、森林経営管理制度を活用し、市町村森林経営管理事業により、除伐や間伐を実施する方針を示している。
ハザードマップで警戒区域等が設定され、集落等の保全対象がある地域において、令和5(2023)年度までに意向調査及び地元説明会を進め、令和6(2024)年度に22haの経営管理権集積計画を作成した。そのうち6haについて間伐を実施するなど、森林整備を推進している。
山形市では、施業履歴のない私有林の人工林において、林業経営に適した森林は林業経営体へ再委託し、適さない森林は市による森林整備を実施している。
市、県、林業関係団体等で構成される「山形市森林経営管理推進会議」を開催し、事業を進める上での課題や検討事項について関係者間で協議を行い、これまで61haの経営管理実施権配分計画を作成して、林業経営体への再委託につなげている。
令和6(2024)年度には2haの主伐・再造林を実施した。
苫小牧市では、森林経営管理制度の推進に当たり、林業経営の効率化や森林管理の適正化が図られることが期待できる森林を対象にモデル地区を設定した。このうち0.17haの森林の所有者が不明であり、将来的に倒木被害が発生するおそれがあることから、整備が必要と判断し、令和7(2025)年1月に所有者不明森林の特例を活用し、同年9月に経営管理権を設定した。
周辺の森林と一体的に危険木の伐採も含めた間伐を実施し、健全な森林の育成を目指して取り組んでいる。
(制度の改正)
同制度の運用については、積極的な取組がみられる一方で、林業経営体など地域の関係者と市町村との連携が不十分で集約化につながっていない、林務担当職員を始めとした市町村職員の不足等により市町村の体制が十分でないなどの課題もある。
こうした状況を踏まえ、令和7(2025)年5月には、現行の仕組みに加えて、受け手となる林業経営体など地域の関係者が森林の経営管理の将来像を共有し、経営管理の集約化を通じた森林資源の循環利用を進める新たな仕組みを創設することや、市町村の事務負担の軽減などを内容とする「森林経営管理法及び森林法の一部を改正する法律」が国会で成立した。
林野庁では、同法の施行に向けて、都道府県や市町村などに対して改正内容の周知を行い、同法は令和8(2026)年4月に施行されている(資料1-15)。

(イ)森林環境税・森林環境譲与税
(税制の概要)
森林の有する公益的機能は、地球温暖化防止のみならず、国土の保全や水源の涵(かん)養など、国民に広く恩恵を与えるものであり、適切な森林整備等を進めていくことは、我が国の国土や国民の生命を守ることにつながる。一方で、森林所有者や境界が不明な森林の増加、担い手の不足等により手入れが行き届いていない森林の存在が大きな課題となっている。このような現状の下、森林の恩恵を受ける国民一人一人が負担を分かち合い森林を支える仕組みとして、平成31(2019)年3月に「森林環境税及び森林環境譲与税に関する法律」が成立し、森林環境税及び森林環境譲与税が創設された。
森林環境税は、令和6(2024)年度から課税が開始され、個人住民税均等割の枠組みを用いて、国税として1人年額1,000円が賦課徴収されている。森林環境譲与税は、市町村による森林整備等の財源として、森林環境税の収入額を、市町村と都道府県に対して、私有林人工林面積、林業就業者数及び人口による客観的な基準で按(あん)分して譲与されており、令和6(2024)年度から、譲与割合はそれぞれ55%、20%、25%となっている。
(森林環境譲与税の使途と活用状況)

森林環境譲与税は、令和元(2019)年度から先行して譲与されており、その使途は、市町村においては、間伐や人材育成・担い手の確保、木材利用の促進や普及啓発等の森林整備及びその促進に関する費用に充て、都道府県においては、市町村の支援等に関する費用に充てるものとされている。譲与額は令和元(2019)年度の総額200億円から段階的に引き上げられ、令和6(2024)年度以降は平年度で総額約600億円が譲与される。
市町村及び都道府県における活用額は、令和5(2023)年度の464億円から令和6(2024)年度は520億円に増加しており、令和7(2025)年度の予定では656億円が計画されている。市町村における取組状況を使途別にみると、令和6(2024)年度は、全体の82%の市町村が間伐等の森林整備関係、41%の市町村が人材育成・担い手の確保、63%の市町村が木材利用・普及啓発に取り組んだ。取組実績としては、令和6(2024)年度の間伐等の森林整備面積は約6.4万haで、令和元(2019)年度の10倍以上になるなど、取組が着実に進展している。また、流域の上流と下流などの関係にある地方公共団体が連携した取組も広がりをみせており、令和6(2024)年度は78件の取組が実施された(*39)(資料1-16、事例1-4)。
森林環境譲与税の活用を促進するため、林野庁と総務省は、令和4(2022)年度から、市町村が森林環境譲与税を活用して実施可能な具体的な取組項目を整理した「森林環境譲与税を活用して実施可能な市町村の取組の例」を公表している。森林環境譲与税に対する国民の理解が深まるよう、引き続き市町村等における森林環境譲与税の一層の有効活用を促すとともに、森林環境譲与税を活用した取組成果の一層の情報発信に取り組むこととしている。
事例1-4 地域に応じた森林環境譲与税を活用した取組(注)
南三陸町では、町を4地域に区分し、各地域においてモデルケースとなる経営管理権集積計画の作成を行うことで、同計画作成に向けた町全体のスキームの構築と問題点の洗い出しを実施している。
4つのモデルのうち1か所では42.35haの計画作成が完了し、令和6(2024)年度は、市町村森林整備事業(切捨間伐)14.78haを実施した。また、別の箇所では計画作成に向けた改善点等のフィードバックも行っている。【事業費:781万円】
長岡市では、森林整備を一層推進するため、林業経営体等が国及び県の補助を受けて実施する森林整備について、市による上乗せ補助を実施している。
令和6(2024)年度は、森林環境保全直接支援事業による再造林と間伐・保育事業に加え、新たに花粉症対策である林相転換特別対策による森林整備等にも支援することとし、同対策による主伐・再造林0.79haのほか、森林環境保全直接支援事業による再造林、下刈り、間伐への上乗せ補助を実施した。【事業費:2,621万円】
中之条町では、地域における急速な人口減少や高齢化に伴い、山林所有や森林経営に対する関心の希薄化が課題となっている。
このため、森林の手入れを行える人材の安定的な確保に向けて、森林所有者や森林経営に意欲を示す者等を対象に刈払機やチェーンソーの取扱いなどの基本的な林業技術の習得を目的とした「林業実践学校」を開講し、刈払機講習会に64名、チェーンソー講習会に7名が参加した。【事業費:199万円】
鹿嶋市では、将来を担う市内の子供たちに、身近にある海と森がそれぞれの役割を果たしながらつながっていることを学んでもらうため、大子町と連携して体験ツアーを開催した。
鹿嶋市内の小学校4~6年生20名が参加し、大子町において森林の役割などの講義や間伐体験を通じて海と森のつながりを学ぶとともに、間伐した木材を同町内小学校の学校林内の階段に使用するなど、同町内の小学校との交流も深めた。【事業費: 109万円】
注:事業費は森林環境譲与税を財源とした額を記載。
(*39)地方公共団体への聞取り結果による。地方公共団体により様々な形の連携があるため、必ずしも全ての取組を網羅したものではない。
(ウ)市町村に対する支援
森林経営管理制度を円滑に進めるためには、市町村の役割が重要であるが、林務担当職員が不足している市町村もある。このため、林野庁では、人材育成、体制整備等を通じて、市町村の支援に取り組んでいる。
人材育成については、市町村への技術的助言・指導を行う者(通称:森林経営管理リーダー)を養成するため、都道府県の地方機関やサポートセンター等の職員を対象とする「森林経営管理リーダー育成研修」を開催しており、7年間で51か所で開催し、計1,067人が参加した。
体制整備については、市町村が森林・林業の技術者を雇用する「地域林政アドバイザー制度(*40)」の活用を促している。林野庁は、アドバイザー活用希望のある市町村の情報を林業技術者団体等に提供するとともに、当該市町村の一覧を林野庁ホームページで公表している。令和6(2024)年度には、219の地方公共団体で353人のアドバイザーが活用された。
このほか、都道府県でも、森林環境譲与税の活用により、市町村に提供する森林情報等の精度向上・高度化、都道府県レベルの事業支援団体の運営支援、市町村職員の研修等、地域の実情に応じた市町村支援の取組が展開されている。
(*40)平成29(2017)年度に創設され、市町村が雇用(法人委託)する際に要する経費については、特別交付税の算定の対象となっている。なお、平成30(2018)年度から都道府県が雇用(法人委託)する場合も対象となった。
お問合せ先
林政部企画課
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