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林野庁

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第1部 第3章 第2節 木材利用の動向(2)

(2)建築分野における木材利用

(ア)建築分野における木材利用の概況

(建築物の木造率)

木材は軽くて扱いやすい割に強度があることから我が国では建築資材等として多く用いられてきた。

我が国の令和4(2022)年の建築着工床面積の木造率は45.5%であり、これを用途別・階層別にみると、1~3階建ての低層住宅は80%を超えるが、低層非住宅建築物は14%程度、4階建て以上の中高層建築物は1%以下と低い状況にある(資料3-9)。


このように、建築用木材の需要の大部分を低層住宅分野が占めているが、最も普及している木造軸組工法(*36)の住宅における国産材の使用割合は全体として5割程度にとどまっており、低層住宅分野において国産材の利用を拡大していくことが重要である。

一方、新設住宅着工戸数が人口減少等により長期的には減少していく可能性を踏まえると、非住宅・中高層建築物での木造化・木質化を進め、新たな木材需要を創出することも重要となっている。


(*36)単純梁形式の梁・桁で床組や小屋梁組を構成し、それを柱で支える柱梁形式による建築工法。



(建築物全般における木材利用の促進)

木材の利用の促進について

都市(まち)の木造化推進法第10条に基づき、木材利用促進本部(*37)は、令和3(2021)年10月に建築物における木材の利用の促進に関する基本方針(以下「建築物木材利用促進基本方針」という。)を策定し、建築物での木材の利用の促進を図っている。

地方公共団体においては、令和5(2023)年2月末時点で、全ての都道府県と1,634市町村(94%)が都市(まち)の木造化推進法第11条及び第12条に基づく木材の利用の促進に関する方針を策定しており、建築物木材利用促進基本方針に沿って改定が進められている。


(*37)都市の木造化推進法第26条~第28条に基づき設置された組織であり、農林水産大臣を本部長、総務大臣、文部科学大臣、経済産業大臣、国土交通大臣、環境大臣を本部員としている。



(イ)住宅分野における木材利用の動向(*38)

(住宅分野における木材利用の概況)

新設住宅着工戸数は、令和4(2022)年は前年比0.4%増の約86万戸、このうち木造住宅が前年比4.9%減の約48万戸となった。新設住宅着工戸数に占める木造住宅の割合(木造率)は、全体では55.6%、一戸建て住宅では90.9%と高くなっている(資料3-10)。


令和4(2022)年の木造の新設住宅着工戸数における工法別のシェアは、木造軸組工法(在来工法)が78.8%、枠組壁工法(ツーバイフォー工法)が19.1%、木質プレハブ工法(*39)が2.1%となっている(*40)。


(*38)製材・合板等の木材製品の種類別の詳細については、第3節(4)152-158ページを参照。

(*39)木材を使用した枠組の片面又は両面に構造用合板等をあらかじめ工場で接着した木質接着複合パネルにより、壁、床、屋根を構成する建築工法。

(*40)国土交通省「住宅着工統計」(令和4(2022)年)。木造軸組工法については、木造住宅全体からツーバイフォー工法、木質プレハブ工法を差し引いて算出。



(住宅向けの木材製品への品質・性能に対する要求)

耐震性や省エネルギー性能の向上などの住宅におけるニーズの変化(*41)を背景に、住宅に用いられる木材製品について、より一層の寸法安定性や強度等の品質・性能を求めるニーズが高まっている。

この結果、建築用製材において、寸法安定性の高いKD(人工乾燥)材の割合が増加している(資料3-11)。また、木造軸組工法の住宅を建築する大手住宅メーカーでは、柱材と横架材で寸法安定性の高い集成材の割合が増加している。このうち、横架材については、高い曲げヤング率(*42)や多様な寸法への対応が求められるため、ヨーロッパアカマツ(レッドウッド)集成材等の輸入材が高いシェアを持つ状況にあるが、柱材ではスギ集成柱が普及するなど国産材の利用も進みつつある(資料3-12)。

資料3-12 木造軸組住宅の部材別木材使用割合(大手住宅メーカー)

(*41)住宅におけるニーズの変化については「令和3年度森林及び林業の動向」特集2第2節(1)23-25ページを参照。

(*42)ヤング率は材料に作用する応力とその方向に生じるひずみとの比。このうち、曲げヤング率は、曲げ応力に対する木材の変形(たわみ)のしにくさを表す指標。



(地域で流通する木材を利用した住宅の普及)

素材生産者や製材業者、木材販売業者、大工・工務店、建築士等の関係者がネットワークを構築し、地域で生産された木材を多用して、健康的に長く住み続けられる家づくりを行う取組がみられることから、林野庁では、これらの関係者が一体となって消費者の納得する家づくりに取り組む「顔の見える木材での家づくり」を推進している。令和3(2021)年度には、関係者の連携による家づくりに取り組む団体数は559、供給戸数は24,295戸となった(*43)。さらに、国土交通省では、地域型住宅グリーン化事業により、省エネルギー性能や耐久性等に優れた木造住宅等を整備する地域工務店等に対して支援している。令和4(2022)年3月現在、681のグループが選定され、約12,000戸の木造住宅等を整備する予定となっている。

また、一部の工務店や住宅メーカーでは、横架材を含めて国産材を積極的に利用する取組もみられ、特に工務店では製材の使用率が高く、部材によらず国産材の使用率が比較的高い傾向にある(資料3-13)。

資料3-13 木造軸組住宅の部材別木材使用割合(工務店)

(*43)林野庁木材産業課調べ。



(ウ)非住宅・中高層建築物における木材利用の動向

(非住宅・中高層建築物における木材利用の概況)

令和4(2022)年の我が国の建築着工床面積の現状を用途別・階層別にみると、低層住宅以外の非住宅・中高層建築物の木造率は、5.6%と低い状況にある(資料3-9)。一方、低層で床面積の小さい非住宅については、既存の住宅建築における技術をそのまま使える場合があることなどから木造率が比較的高い傾向にある(資料3-14)。

資料3-14 低層非住宅の規模別着工床面積と木造率

(非住宅・中高層建築物での木材利用拡大の取組)

近年、住宅市場の減少見込みや、持続可能な資源としての木材への注目の高まりなどを背景に、建設・設計事業者や建築物の施主となる企業が非住宅・中高層建築物の木造化や木質化に取り組む例が出てきている(資料3-15)。

資料3-15 木材利用の事例
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資料3-15 木材利用の事例2
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非住宅・中高層建築物に関しては、CLT(*44)(直交集成板)や木質耐火部材等に係る技術開発とともに、建築基準の合理化が図られ、技術的・制度的に木材利用の環境整備が一定程度進んできた。その中で、木材を構造部材等に使用した10階建てを超える先導的な高層建築の例も出てきている。


木材利用促進本部事務局「建築物の木造化・木質化支援事業コンシェルジュ」

林野庁では、非住宅・中高層建築物における一層の木材利用を進めるため、国土交通省と連携して、非住宅・中高層建築物の木造化に必要な知見を有する設計者や施工者等の育成を支援している。また、設計・施工コストの低減に向けて、普及性の高い標準的な設計や工法等の普及を図っている。くわえて、一般流通材以外の木質耐火部材やCLT等の低コスト化を図るため、それらの部材の標準化を進めている。

さらに、令和4(2022)年6月の「建築基準法」等の改正を踏まえ、簡易な構造計算で建築できる木造建築物の範囲の拡大及び大規模木造建築物における木材の現(あらわ)しによる設計が可能な構造方法の導入に向けた関係規定の整備を行うなど、建築物における木材利用の更なる促進に向けた建築基準の合理化を進めている。

また、川下から川上までの関係者が広く参画する官民協議会「民間建築物等における木材利用促進に向けた協議会(ウッド・チェンジ協議会)」において、民間建築物等における木材利用に当たっての課題や解決方法の検討、木材利用の先進的な取組等の発信など、木材を利用しやすい環境づくりに取り組んでいる。

さらに、民間建築物等での木材利用を後押ししていくため、都市(まち)の木造化推進法により、建築物木材利用促進協定制度が創設された(資料3-16)。国若しくは地方公共団体と建築主等との2者、又は、木材産業事業者や建築事業者も加えた3者等で協定を結ぶ仕組みであり、令和5(2023)年3月末時点で、国において10件(資料3-17)、地方公共団体において65件の協定が締結されている。

このほか、建築物に木材を利用しやすい環境づくりの一環として、令和5(2023)年2月に建築物の木造化・木質化に関する国の支援事業・制度等に関する一元的な案内窓口である「建築物の木造化・木質化支援事業コンシェルジュ」を木材利用促進本部事務局に開設した。

資料3-16 建築物木材利用促進協定の代表的な形態

資料3-17 事業者等と国との協定締結の実績

(*44)「Cross Laminated Timber」の略。一定の寸法に加工されたひき板(ラミナ)を繊維方向が直交するように積層接着したもの。



(エ)公共建築物等における木材利用

(公共建築物の木造化・木質化の実施状況)

公共建築物は、広く国民一般の利用に供するものであることから、木材を用いることにより、国民に対して、木と触れ合い、木の良さを実感する機会を幅広く提供することができる。このため、建築物木材利用促進基本方針では、公共建築物について、積極的に木造化を促進することとしている。

令和3(2021)年度に着工された公共建築物の木造率(床面積ベース)は、13.2%となった。そのうち、低層(3階建て以下)の公共建築物の木造率は29.4%であり、平成22(2010)年の17.9%から10ポイント以上増加している(資料3-18)。都道府県ごとの低層の公共建築物の木造率については、4割を超える県がある一方、都市部では1~2割と低位な都府県がみられるなど、ばらつきがある状況となっている(資料3-19)。


令和3(2021)年度に国が整備した公共建築物のうち積極的に木造化を促進する対象と考えられるものは94棟で、うち木造化した建築物は75棟であり、木造化率は79.8%であった(*45)。林野庁と国土交通省による検証チームが、各省各庁において木造化になじまないと判断された建築物19棟について木造化しなかった理由等を検証した結果、施設が必要とする機能等の観点から木造化が困難であったと評価されたものが17棟、木造化が可能であったと評価されたものが2棟であり、木造化が困難であったものを除いた木造化率は97.4%となった。

なお、令和4(2022)年度以降に整備に着手する国の公共建築物については、建築物木材利用促進基本方針に基づき、計画時点においてコストや技術の面で木造化が困難であるものを除き、原則として全て木造化を図ることとしている。


(*45)農林水産省プレスリリース「「令和4年度 建築物における木材の利用の促進に向けた措置の実施状況の取りまとめ」等について」(令和5(2023)年3月30日付け)



(学校等の木造化・木質化を推進)

学校施設は、児童・生徒の学習及び生活の場であり、学校施設に木材を利用することは、木材の持つ高い調湿性、温かさや柔らかさ等の特性により、健康や知的生産性等の面において良好な学習・生活環境を実現する効果が期待できる(*46)。

このため、文部科学省では、学校施設の木造化や内装の木質化を進めており、令和3(2021)年度に新しく建設された公立学校施設の18.1%が木造で整備され、非木造の公立学校施設の69.9%(全公立学校施設の57.2%)で内装の木質化が行われたことから、公立学校施設の75.4%で木材が利用された(*47)。また、文部科学省、農林水産省、国土交通省及び環境省が連携して行っている「エコスクール・プラス(*48)」において、農林水産省は、内装の木質化等を行う場合に積極的に支援している。


(*46)林野庁「平成28年度都市の木質化等に向けた新たな製品・技術の開発・普及委託事業」のうち「木材の健康効果・環境貢献等に係るデータ整理」による「科学的データによる木材・木造建築物のQ&A」(平成29(2017)年3月)

(*47)文部科学省プレスリリース「公立学校施設における木材利用状況(令和3年度)」(令和5(2023)年1月17日付け)

(*48)学校設置者である市町村等が、環境負荷の低減に貢献するだけでなく、児童生徒の環境教育の教材としても活用できるエコスクールとして整備する学校を、関係省庁が連携協力して「エコスクール・プラス」として認定するもの。



(応急仮設住宅における木材の活用)

東日本大震災以前、応急仮設住宅のほとんどは軽量鉄骨のプレハブ造により供給されていたが、東日本大震災においては木造化の取組が進み、25%以上の仮設住宅が木造で建設された(*49)。

東日本大震災における木造の応急仮設住宅の供給実績と評価を踏まえて、平成23(2011)年9月に、一般社団法人全国木造建設事業協会が設立された。同協会では、大規模災害後、木造の応急仮設住宅を速やかに供給する体制を構築するため、地方公共団体と災害時の協力に係る必要な事項等を定めた災害協定の締結を進め、令和4(2022)年6月までに、40都道府県及び10市と災害協定を締結している。


(*49)国土交通省調べ。



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