第1部 第3章 第2節 木材利用の動向(1)
(1)建築分野における木材利用
(ア)建築分野全般における取組
(建築分野全体の木材利用の概況)
我が国の建築着工床面積の木造率を用途別・階層別にみると、1~3階建ての低層住宅は80%を超えるが、低層非住宅建築物は14%程度、4階建て以上の中高層建築物は1%以下と低い状況にある(*46)。住宅は木材の需要、特に国産材の需要にとって重要であり、非住宅・中高層分野については需要拡大の余地があるといえる(*47)。
(*46)国土交通省「建築着工統計調査2021年」を基に試算。
(*47)住宅や非住宅・中高層建築物における木材利用については、特集2第2節22-29ページを参照。
(建築物全般における木材利用の促進)
建築物における木材利用を更に促進するため、対象を公共建築物から建築物一般に拡大すべく「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」が改正され、令和3(2021)年10月1日に「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律(*48)」(以下「木材利用促進法」という。)として、題名を改正して施行された。同日には、法改正により新設された「木材利用促進本部(*49)」において、「建築物における木材の利用の促進に関する基本方針(*50)」が定められた。法改正によって創設された「建築物木材利用促進協定制度(*51)」について、令和4(2022)年3月15日時点で、国において5件、地方公共団体において5件の協定締結を把握しており、事業者等による建築物木材利用促進構想(*52)の実現に向けて情報提供するなどの支援を行っている。
(*48)「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律」(平成22年法律第36号)
(*49)木材利用促進法第4章(第25条-第30条)
(*50)木材利用促進法第10条
(*51)木材利用促進法第15条
(*52)木材利用促進法第15条第1項
(イ)公共建築物等における木材利用
(公共建築物等における木材の利用を促進)
公共建築物は、広く国民一般の利用に供するものであることから、木材を用いることにより、国民に対して、木と触れ合い、木の良さを実感する機会を幅広く提供することができる。このため、政府は、木材利用促進法に基づき、公共建築物における木材の利用を促進している。積極的に木造化を促進する対象としてきた低層の公共建築物の木造率は、平成22(2010)年度の17.9%から、令和2(2020)年度は29.7%まで上昇している(資料3-8)。さらに、建築物における木材の利用の促進に関する基本方針では、公共建築物について、コストや技術の面で木造化が困難であるものを除き、積極的に木造化を促進することとした。令和3(2021)年12月末時点において、地方公共団体では、全ての都道府県と1,626市町村(93%)が、木材利用促進法に基づき木材の利用の促進に関する方針を策定している(*53)。
林野庁では、木造公共建築物等の整備を推進するため、発注者、木材供給者、設計者、施工者等の関係者が連携し、課題解決に向けて取り組む地域協議会に対して、専門家を派遣し、設計又は発注の段階で技術的な助言を行うなどの支援を行ってきており、その結果、地域協議会が木材調達や発注に関するノウハウ等を得ることにつながった(*54)。
コラム 建築物木材利用促進協定制度を活用した多様な木材利用の取組
木材利用促進法において新たに創設された建築物木材利用促進協定制度を活用して、多様な主体による木材利用の取組が進んでいる。
この制度は、建築主だけでなく木材産業事業者や建築事業者も参画した3者協定とすることが可能であり、この場合、木材を供給する側は需要量を見通しやすくなり、使う側は木材の安定的な調達が可能となる。
例えば、令和4(2022)年3月に、野村不動産ホールディングス株式会社、ウイング株式会社と農林水産省が3者協定を締結した。協定では、野村不動産ホールディングス株式会社は、今後5年間で建設予定の建築物において、地域材の活用を段階的に進め、協定期間内で地域材を計10,000m3利用することに努めること、ウイング株式会社は木材の供給体制を整えて木材の供給を適時に行うよう努めること、両者は連携して植林支援を行うこととしている。さらに、協定に基づく両者の国産材利用の取組について農林水産省が発信に努めることとしている。
また、一般社団法人全国木材組合連合会は農林水産省と2者協定を締結し、都市等における木造化・木質化を推進するために必要となるJAS製品等の普及拡大等に取り組むこととしている。
これ以外にも、公益社団法人日本建築士会連合会が、木造建築物の設計・施工に係る人材育成や木造建築物の普及活動等を推進するため、国土交通省と協定を締結したほか、学校法人立命館は、大分県内で初となる木造3階建ての準耐火建築物である教学棟への地域材の積極的な活用等を推進するため大分県と協定を締結した。
今後、2者協定や3者協定に加え、都市部と山村地域との連携につながる協定など、幅広い取組が展開されることが期待される。
(*53)木材利用促進法第11条及び第12条
(*54)一般社団法人木を活かす建築推進協議会ホームページ「木造公共建築物等の整備に係る設計段階からの技術支援事業成果物「木造化・木質化に向けた20の支援ツール」」、「地域における民間部門主導の木造公共建築物等整備推進報告書」
(公共建築物の木造化・木質化の実施状況)
国、都道府県及び市町村が着工した木造の建築物は、令和2(2020)年度には1,974件で、公共建築物の木造率(床面積ベース)は、13.9%となった。そのうち、低層(3階建て以下)の公共建築物の木造率は29.7%であった(資料3-8)。都道府県ごとの低層の公共建築物の木造率については、4割を超える県がある一方、都市部では1~2割と低位な都府県があるなど、ばらつきがある状況となっている(資料3-9)。
令和2(2020)年度に国が整備した公共建築物のうち積極的に木造化を促進することとされたもの(*55)は154棟で、うち木造で整備を行った建築物は132棟であり、木造化率は85.7%であった(*56)。林野庁と国土交通省による検証チームが、各省各庁において木造化になじまないと判断された建築物22棟について木造化しなかった理由等を検証した結果、施設が必要とする機能等の観点から木造化が困難であったと評価されたものが16棟、木造化が可能であったと評価されたものが6棟であり、木造化が困難であったものを除いた木造化率は、95.7%となった。木造化が可能であったと評価された6棟はおおむね自転車置場、倉庫等の小規模な建築物であった。
(*55)令和3(2021)年の改正法施行前に木材利用促進法の基本方針に位置付けられたもの。
(*56)農林水産省プレスリリース「「令和3年度 建築物における木材の利用の促進に向けた措置の実施状況」等について」(令和4(2022)年4月1日付け)
(学校等の木造化を推進)
学校施設は、児童・生徒の学習及び生活の場であり、学校施設に木材を利用することは、木材の持つ高い調湿性、温かさ、柔らかさ等の特性により、健康や知的生産性等の面において良好な学習・生活環境を実現する効果が期待できる(*57)。
このため、文部科学省では、学校施設の木造化や内装の木質化を進めており、令和2(2020)年度に新しく建設された公立学校施設の19.1%が木造で整備され、非木造の公立学校施設の67.7%(全公立学校施設の54.8%)で内装の木質化が行われたことから、公立学校施設の73.9%で木材が利用された(*58)。さらに、文部科学省、農林水産省、国土交通省及び環境省が連携して行っている「エコスクール・プラス(*59)」において、農林水産省では、内装の木質化等を行う場合に積極的に支援することとしている(資料3-10)。
なお、保育園の園舎と小学校の校舎について、木造と他構造のコストを比較すると、園舎については、木造と鉄骨造(木造と同等の内装木質化を実施)を比較した場合、スパンの小さい保育室では木造の方が安く、スパンの大きい遊戯室では同等であるとの結果が出ている(*60)。また、校舎については、2教室と中廊下、2階建てを基本単位として木造と鉄筋コンクリート造(内装木質化)のコストを比較した場合、木造の工事費の方が安くなるとの結果が出ている(*61)。
(*57)林野庁「平成28年度都市の木質化等に向けた新たな製品・技術の開発・普及委託事業」のうち「木材の健康効果・環境貢献等に係るデータ整理」による「科学的データによる木材・木造建築物のQ&A」(平成29(2017)年3月)
(*58)文部科学省プレスリリース「公立学校施設における木材利用状況に関する調査結果について(令和2年度)」(令和4(2022)年1月18日付け)
(*59)学校設置者である市町村等が、環境負荷の低減に貢献するだけでなく、児童生徒の環境教育の教材としても活用できるエコスクールとして整備する学校を「エコスクール・プラス」として認定し、再生可能エネルギーの導入、省CO2対策、地域で流通する木材の導入等の支援を行う事業。
(*60)一般社団法人木を活かす建築推進協議会ホームページ「平成28年度木造公共建築物誘導経費支援報告書」
(*61)一般社団法人木を活かす建築推進協議会ホームページ「平成29年度木造公共建築物誘導経費支援報告書」
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