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第1部 第3章 第2節 木材利用の動向(2)

(2)木質バイオマスの利用

(ア)木質バイオマスのエネルギー利用

(木質バイオマスエネルギー利用の概要)

木材は、かつて木炭や薪の形態で日常的なエネルギー源として多用されていた。近年では、再生可能エネルギーの一つとして、燃料用の木材チップや木質ペレット等の木質バイオマスが再び注目されている。また、発電、熱利用又は熱電併給といった形での木質バイオマスのエネルギー利用は、エネルギー自給率の向上、災害時等におけるレジリエンスの向上、我が国の森林整備・林業活性化等の役割を担い、地域の経済・雇用への波及効果も大きいなど多様な価値を有している。

一方、木質バイオマス発電の急速な進展により、燃料材の需要が急激に増加し、マテリアル(素材)利用向けを始めとした既存需要者との競合や、森林資源の持続的利用等への懸念が生じている。このため、木材を建材等の資材として利用した後、ボードや紙等としての再利用を経て、最終段階では燃料として利用する「カスケード利用」や、材の状態・部位に応じて製材など価値の高い用材から順に利用し、従来であれば林内に放置されていた未利用の木材を燃料とすることを基本として木材の利用を進める必要がある。その上で、地域でエネルギー変換効率の高い熱利用・熱電併給に取り組む「地域内エコシステム」を推進するとともに、燃料材の安定的かつ低コストな供給に向け、全木集材(*62)による枝条等の活用や未利用材の効率的な運搬収集システムの構築などの取組により、森林資源の保続が担保された形での木質バイオマスのエネルギー利用を図っていく必要がある。


(*62)伐木現場で枝払いを行わず、枝葉付きの伐倒木をそのまま集材すること。



(木質バイオマスエネルギー利用量の概況)

近年では、木質バイオマス発電所の増加等により、エネルギーとして利用される木質バイオマスの量が年々増加している。令和2(2020)年には、薪、木炭等を含めた燃料材の国内消費量は前年比23%増の1,280万m3となっており、うち国内生産量は892万m3(前年比29%増)、輸入量は388万m3(前年比12%増)となっている(資料3-11)。


また、木材チップは、間伐材・林地残材等由来の391万トンのほか、木材生産活動以外から発生する製材等残材(*63)由来が167万トン、建設資材廃棄物(*64)由来が420万トン等となっており、合計1,042万トン(前年比11%増)となっている(*65)。木質ペレットは、国内製造が11万トン、輸入が129万トンとなっており、合計140万トン(前年比42%増)となっている。

木質バイオマス利用量のうち間伐材・林地残材等由来チップ、輸入木材チップ及び輸入木質ペレットについては、発電機のみを所有する事業所の利用が大半を占めている。一方、製材等残材由来チップ、建設資材廃棄物由来チップ及び国内製造の木質ペレットについては、ボイラーのみを所有する事業所による利用も多い傾向にある。なお、発電機のみを所有する事業所では、634万トンの木材チップ(うち輸入が30万トン)と、136万トンの木質ペレット(うち輸入が129万トン)が利用されている(資料3-12)。


このほか、令和2(2020)年には、薪で4万トン(前年比19%減)、木粉(おが粉)で45万トン(前年比6%増)等がエネルギーとして利用されている(*66)。

なお、林野庁は、林地残材(*67)について、平成26(2014)年の年間発生量約800万トンに対し約9%にとどまっている利用率を、令和7(2025)年に約30%以上とすることを目標として設定している(資料3-13)。

資料3-13 木質バイオマスの発生量と利用量の状況(推計)

(*63)製材工場等で発生する端材。

(*64)建築物の解体等で発生する解体材・廃材。国土交通省「平成30年度建設副産物実態調査」によれば、平成30(2018)年度の発生量は約550万トンに上り、そのうち約530万トンが利用されている。

(*65)ここでの重量は、絶乾重量。

(*66)農林水産省「令和2年木質バイオマスエネルギー利用動向調査」

(*67)「木質バイオマスエネルギー利用動向調査」における間伐材・林地残材等に該当する。



(木質バイオマスによる発電の動き)

平成24(2012)年に導入された「再生可能エネルギーの固定価格買取制度(*68)(FIT制度)」では、木質バイオマスにより発電された電気の買取価格が、原料となる木質バイオマスの区分ごとに設定されている。このため、木質バイオマスの適切な分別・証明が行われるよう、林野庁は、「発電利用に供する木質バイオマスの証明のためのガイドライン」を平成24(2012)年に取りまとめた。本ガイドラインでは、伐採又は加工・流通を行う者が、業界の団体等が策定する「自主行動規範」に基づく審査・認定を受け、次の流通過程の関係事業者に対して、納入する木質バイオマスが由来ごとに分別管理されていることを証明することとしている。

FIT制度の導入を受けて、各地で木質バイオマスによる発電施設が新たに整備されている。主に間伐材等由来のバイオマスを活用した発電施設については、令和3(2021)年9月末現在、出力2,000kW以上の施設47か所、出力2,000kW未満の施設56か所が同制度により売電を行っており、合計発電容量は457,838kWとなっている(*69)。これによる年間の発電量は、一般家庭約101万世帯分の電力使用量に相当する試算になる(*70)。さらに、全国で合計104か所の発電設備の新設計画が同制度の認定を受けている。


(*68)「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法」(平成23年法律第108号)に基づき導入されたもの。

(*69)「電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法」(平成14年法律第62号)に基づくRPS制度からの移行分を含む。発電容量については、バイオマス比率を考慮した数値。

(*70)発電施設は1日当たり24時間、1年当たり330日間稼働し、一般家庭は1年当たり3,600kWhの電力量を使用するという仮定のもと試算。



(燃料材の安定供給に向けた取組)

木質バイオマス発電は、燃料の安定供給や発電コストの7割を占める燃料費の低減が課題となっており、くわえて、近年森林資源の持続的利用などへの懸念も顕在化してきている。

このため、林野庁では、全木集材による枝条等の活用や未利用材の効率的な運搬システムの構築、燃料品質の向上などを通じた燃料材の安定供給を支援するとともに、エネルギー変換効率の高い熱利用・熱電併給の地域内利用を推進することとしている。また、経済産業省と林野庁の連携した事業の下、発電事業者等が、燃料材供給者との連携を図りつつ、燃料用途としても期待される早生樹の植栽等に向けた実証事業を進めている。

なお、木質バイオマス発電については、輸入ペレットやPKS(*71)などの輸入木質バイオマス等の利用を念頭に、原料の製造から最終的な燃料利用に至るまでの温室効果ガス(GHG(*72))の総排出量(ライフサイクルGHG)の削減効果に関する懸念の声が生じている。現在、FIT制度を所管する経済産業省において、バイオマス発電施設におけるライフサイクルGHGの削減に関する議論が行われており、林野庁としても連携して対応していくこととしている。


(*71)「Palm Kernel Shell」の略。パーム残さ。

(*72)「Greenhouse Gas」の略。



(木質バイオマスの熱利用)

木質バイオマスのエネルギー利用においては、地域に賦存する森林資源を地域内で持続的に無駄なく利用することが不可欠である。木質バイオマス発電におけるエネルギー変換効率は、蒸気タービンの場合、通常20%程度であるが、熱利用では80%以上を得ることが可能であり、電気と熱を同時に得る熱電併給を含めて、熱利用を積極的に進めることが重要である。また、熱利用や熱電併給は、薪、ペレット等を利用した初期投資の比較的少ない小規模な施設においても実現できる。例えば、鹿児島県肝付町(きもつきちょう)では、薪を温泉施設のボイラー用燃料として利用し、三重県松阪(まつさか)市では、木材チップを農業ハウス熱源や製品加工熱源に利用している(資料3-14)。

資料3-14 木質バイオマス熱利用の例
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他方で、熱利用、熱電併給の基盤となる木質バイオマスを燃料とするボイラーの稼働数は、令和2(2020)年時点では全国で1,941基であり、種類別では、ペレットボイラーが904基、木くず焚きボイラーが774基、薪ボイラーが142基等となっている(*73)。総稼働数は、平成26(2014)年と比較してもほぼ横ばいであり、木質バイオマスの熱利用の拡大に向けた課題等を整理するとともに、必要な施策について検討する必要がある。

また、欧州諸国においては、燃焼プラントから複数の建物に配管を通し、蒸気や温水を送って暖房等を行う「地域熱供給」に、木質バイオマスが多用されている(*74)。

コラム 木質バイオマスエネルギーの動向

平成24(2012)年に導入された再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT制度)により、各地で木質バイオマスによる発電施設が新たに整備されている。

令和3(2021)年6月に改定された森林・林業基本計画においては、燃料材は主として低質材の利用を見込んでいる。令和12(2030)年における燃料材に係る国産材利用量の目標値については、未利用材の効率的な運搬・収集システムの構築等を通じて、木質バイオマス発電や熱利用向けの燃料用チップへの国産材利用を促進することにより900万m3としている。

全国の燃料用チップの利用量(間伐材・林地残材等に由来するもの)は、年々増加し、令和2(2020)年には860万m3となっている(図表1)。また、国内の木材生産量に対する燃料用チップ利用量の割合は、全国で30%であり、地方別にみると、26~42%程度となっている(図表2)。地域によりばらつきがみられるのは、整備された木質バイオマス発電施設の数や規模、立地などに応じ、燃料材としての木質バイオマスの需要が地域により異なることが一因と考えられる。

今後の燃料材の需要増加に備えつつ、持続的な燃料供給を図るため、林地残材の収集・運搬の効率化を図るなどにより、未利用材の利用率を向上させることが重要である。あわせて、エネルギー変換効率の高い熱利用・熱電併給により、地域の森林資源を無駄なく利用することが重要である。このため、未利用の森林資源を含め、集落や市町村といった地域の関係者の連携の下、安定供給を行い、熱利用や熱電併給に地域内で取り組む「地域内エコシステム」の取組を推進することも重要である。

図表1 国内の燃料用チップ利用量の推移・図表2 令和2(2020)年 地方別の燃料用チップ利用量

(*73)農林水産省「令和2年木質バイオマスエネルギー利用動向調査」

(*74)欧州での地域熱供給については、「平成23年度森林及び林業の動向」第1章第3節(2)37ページを参照。



(「地域内エコシステム」の構築)

我が国における地域熱供給等の取組である「地域内エコシステム」は、地域の関係者の連携の下、熱利用又は熱電併給により、森林資源を地域内で持続的に活用するものである。このような取組は、森林資源の保続が担保された形での木質バイオマスの利用の推進に合致するものであり、カーボンニュートラルの実現に向けたライフサイクルGHGの削減の観点から重要である。また、林業収益の向上による山元への利益還元等、林業の持続的かつ健全な発展や森林の適正な整備及び保全に貢献することが期待されている。

農林水産省では、「地域内エコシステム」のモデル構築に向け、地域協議会の運営や木質バイオマスの技術開発・改良等を支援する取組などを実施し、令和3(2021)年度までに全国の42地域でその成果や課題を検証している。


(イ)木質バイオマスのマテリアル利用

木材の新たなマテリアル利用技術開発

化石資源由来の既存製品等からバイオマス由来の製品等への代替を進めるため、木質バイオマスから新素材等を製造する技術や、これらの物質を原料とした具体的な製品の開発が進められている。

令和3(2021)年5月に農林水産省が策定した「みどりの食料システム戦略」において、改質リグニンやCNF(セルロースナノファイバー)を活用した高機能材料の開発及び改質リグニン等に続く木質由来新素材の開発に取り組むこととされている。

CNFは、木材の主要成分の一つであるセルロースの繊維をナノ(10億分の1)メートルレベルまでほぐしたもので、軽量ながら高強度、膨張・収縮しにくいなどの特性を持つ素材である。現在、数百トンの生産能力を持つ量産施設を含むCNF製造設備が各地で稼動しており、紙おむつ、筆記用インク、運動靴、化粧品、食品、塗料等一部で実用化も進んでいる。なお、直近5年間のCNF成形品の国内特許出願件数は2千数百件に上り、実用化が進んでいることが分かる。

リグニンは、木材の主要成分の一つであり、高強度、耐熱性、耐薬品性等の特性を有する高付加価値材料への展開が期待される樹脂素材である。化学構造が非常に多様であるため、工業材料としての利用が困難であったが、研究コンソーシアム「SIPリグニン(*75)」において国立研究開発法人森林研究・整備機構が化学構造の比較的均質なスギリグニンを原料に、地域への導入を見据えた改質リグニンの製造システムの開発に成功し、平成31(2019)年4月には、SIPリグニンの活動を引き継ぐ「地域リグニン資源開発ネットワーク(リグニンネットワーク)」が設立された。同ネットワークには、林業や木材産業に加え、化学産業や電機産業など幅広い業種が参画しており、自動車用ボンネット、電子基板やタッチセンサーへの展開が可能なハイブリッド膜、生分解可能な3Dプリンター用樹脂等、改質リグニンの実用化に向けた製品開発が進められ、振動板に改質リグニンを使用したスピーカーが既に商品化されたところである(資料3-15)。

資料3-15 改質リグニン製品開発の例
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令和3(2021)年6月に、茨城県常陸太田(ひたちおおた)市に改質リグニンの安定⽣産を実証するプラントが竣(しゅん)工し、⽣産技術の効率化を進めるとともに、試験⽣産を開始した(事例3-1)。

そのほか、林野庁の新素材の研究・技術開発の補助事業での開発・実証見込件数は、令和3(2021)年度で3件あり、竹を分解・調整し様々な成分を利用するための技術開発と消臭抗菌剤・化粧品等開発製品の事業化等の支援を行っている。

事例3-1 世界初の改質リグニン実証プラントが稼働

令和3(2021)年6月、株式会社リグノマテリアを中心とする共同事業体は、茨城県常陸太田(ひたちおおた)市に改質リグニンを製造する実証プラントを竣(しゅん)⼯し、試験⽣産を開始した。

実証プラントは、改質リグニンの安定⽣産を実証する世界初のプラントで、年間約100トンを生産可能であり、連続運転試験を進めるとともに、産業界へのサンプル供給を行うことで、改質リグニンを用いる製品開発を促進する。また、株式会社リグノマテリアでは、今後年産数千トン規模の商用プラントを近辺に整備することを目指している。

改質リグニンの製造技術は日本独自のもので、様々な高付加価値製品への展開が可能であり、国内の中山間地域を資源供給ステーションとし、地域経済を豊かにする新産業として期待されている。



(*75)「SIPリグニン」とは、総合科学技術・イノベーション会議の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の課題のうち、「次世代農林水産業創造技術」の「地域のリグニン資源が先導するバイオマス利用システムの技術革新」の課題を担当する産学官連携による研究コンソーシアム(研究実施期間は平成26(2014)~平成30(2018)年度)。国立研究開発法人森林研究・整備機構を代表とする。



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