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林野庁

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第1部 第1章 第2節 森林整備の動向(2)

(2)森林経営管理制度及び森林環境税

(ア)森林経営管理制度

(制度の概要)

森林経営管理制度(森林経営管理法)について

我が国の私有林では、所有者が不明な森林や境界が不明確な森林の存在が問題となっており、その3分の2は森林経営計画が作成されていないなど、適切な経営管理が確認できない状況にある。このような中、平成31(2019)年4月に「森林経営管理法(*33)」が施行され、市町村が主体となって森林の経営管理を行う森林経営管理制度が措置された。

この制度は、市町村が森林所有者に対して経営管理の現況や今後の見通しを確認する調査(以下「意向調査」という。)を実施し、森林の経営管理を委託する希望があった場合には、合意の上で市町村に経営管理権が設定される。このうち、林業経営に適した森林は、一定の要件を満たす民間事業者(*34)に再委託(経営管理実施権の設定)し、林業経営に適さない森林は、市町村が公的に管理する。また、所有者の一部又は全部が不明な場合には、所有者の探索や公告など一定の手続を経て経営管理権を設定することも可能とする特例も措置されている。


(*33)「森林経営管理法」(平成30年法律第35号)

(*34)都道府県が公表している民間事業者については、(ア)森林所有者及び林業従事者の所得向上につながる高い生産性や収益性を有するなど効率的かつ安定的な林業経営の実現を目指す、(イ)経営管理を確実に行うに足りる経理的な基礎を有すると認められるといった条件を満たす者となっている。



(市町村の推進体制への支援)

森林経営管理制度を円滑に進めるためには、地域に密着した市町村の役割が重要であるが、市町村には林務専門の職員が不足しているところもある。このため、林野庁では、地方公共団体による「地域林政アドバイザー制度(*35)」の活用が促進されるよう、支援を行っている。令和2(2020)年度は、156の地方公共団体で228名のアドバイザーが活用された。また、都道府県は、森林環境譲与税も活用しつつ、地域の実情に応じ、森林資源情報の精度向上・高度化、市町村職員を対象とした研修など、多岐にわたる支援を行っている。


(*35)森林・林業に関して知識や経験を有する者を市町村が雇用することを通じて、森林・林業行政の体制支援を図る制度。平成29(2017)年度に創設され、市町村がこれに要する経費については、特別交付税の算定の対象となっている。なお、平成30(2018)年度から都道府県が雇用する場合も対象となった。



(制度の進捗状況)

令和2(2020)年度末までに、私有林人工林が所在する市町村(1,592市町村)の約5割に当たる778市町村において、約40万haの意向調査が実施されるとともに、森林所有者からの委託の申出のあった森林面積も約2,500haに上っている。このほか、意向調査の準備を行っている市町村もあり、これらを含めれば約8割の市町村において制度を活用した取組が実施された。また、経営管理権集積計画(*36)の策定は、149市町村で3,458haとなっており、同計画に基づく市町村による森林整備(77市町村、1,084ha)や、林業経営者への再委託を行う経営管理実施権配分計画(*37)の策定(21市町、322ha)も進められている(事例1-1)。

事例1-1 地域に応じた森林経営管理制度の取組

~林業経営者への再委託~
岡崎(おかざき)市(愛知県) ~境界の確認から意向調査、森林整備までの円滑な実施~
境界確認の状況

愛知県岡崎(おかざき)市では、航空写真を活用した森林資源解析により、人工林資源がまとまっている15地区を制度の対象に選定。所有者が将来にわたり森林管理を行っていけるよう、地区全体の境界確認と測量を実施し、その後に意向調査を行うことで、円滑な意向確認の実施と経営管理の受託につなげている。

令和2(2020)年度は、約57haの森林について市が所有者から経営管理の委託を受け、このうち約23haを林業経営者に再委託。令和3(2021)年度には市が約24haの森林の間伐に着手するなど取組を展開している。

~市町村による森林整備~
神河町(かみかわちょう)(兵庫県) ~未整備森林のトータルコーディネート~
間伐後の状況

兵庫県神河町(かみかわちょう)は、林務専門部署がない中、県と「ひょうご森づくりサポートセンター」の支援を受けながら、地元の森林組合と連携して、既存の取組では対応が難しい条件不利地の森林整備を進めるために制度を活用。多様な森林整備手法を検討するため、条件を絞らず幅広く意向調査を実施。既存事業で対応可能なところとの調整を行いながら、条件不利地については、町が経営管理の委託を受ける方針で取組を進めている。

令和2(2020)年度には約1,100haの意向調査を実施するとともに、経営管理権を設定(約67ha)し、町による間伐事業(約53ha)を実施している。

鹿沼(かぬま)市(栃木県) ~所有者特定を重視した意向調査~
間伐事業の状況

栃木県鹿沼(かぬま)市では、森林所有者の森林経営に対する関心の希薄化などから、相続登記や所有者の届出が行われず、手入れ不足の森林が増えている。そのため、所有者の特定を重視し、法定相続人を探索した上で意向調査を実施。意向調査票を確実に当事者に届けることで、森林整備までの合意形成をスムーズに進めている。

制度の開始に伴い、森林組合や事業体等が構成する「鹿沼市森林環境整備協議会」を設立、市自らが対応する事務と委託事務を組み合わせて効率化を図り、令和3(2021)年度には、意向調査(約1,134ha)、経営管理権(約26ha)の設定、市による間伐事業(約26ha)を実施している。

~都道府県による市町村支援の取組~
愛媛県 ~森林管理支援センターによる市町支援~
説明会の状況

愛媛県では、市町からの支援要請を受けて、複数の市町が連携して事業に当たる広域推進体制の構築を提案。流域を単位とした県下5地域に市町連携組織(森林管理推進センター)を設置。さらに、市町連携組織を支援するための総括組織(森林管理支援センター)を公益財団法人愛媛の森林(もり)基金内に設置。

市町を対象とした研修会の開催、意向調査等の外注に係る設計積算要領等の作成や資料提供のほか、市町職員のマンパワー不足解消に向けた取組として、森林管理支援センターで雇用した技術職員や併任の県職員を各森林管理推進センターへ派遣するなど、実務を担う人材を確保することで全面的に支援している。


(*36)市町村が森林所有者から森林の経営管理の委託を受ける(市町村に経営管理権を設定する)際に策定する計画。

(*37)市町村が経営管理権を有する森林について、民間事業者に再委託を行う(経営管理実施権の設定をする)際に策定する計画。



(イ)森林環境税・森林環境譲与税

(税制の概要)

平成31(2019)年3月に「森林環境税及び森林環境譲与税に関する法律(*38)」が成立し、「森林環境税」及び「森林環境譲与税」が創設された(*39)。

森林環境譲与税は森林環境税の税収を地方公共団体に譲与するものであるが、森林経営管理制度の導入も踏まえ、森林環境税の徴収に先行して令和元(2019)年度から市町村や都道府県に対して、私有林人工林面積、林業就業者数及び人口による客観的な基準で按分して譲与が開始されている。森林環境税は、令和6(2024)年度から個人住民税均等割の枠組みを用いて、国税として1人年額1,000円を市町村が賦課徴収することとされている。


(*38)「森林環境税及び森林環境譲与税に関する法律」(平成31年法律第3号)

(*39)森林環境税の創設に係る経緯等については、「平成29年度森林及び林業の動向」トピックス1(2-3ページ)を参照。



(森林環境譲与税の使途と活用状況)

森林環境譲与税は、市町村においては、間伐や人材育成・担い手の確保、木材利用の促進や普及啓発等の森林整備及びその促進に関する費用に充て、都道府県においては、森林整備を実施する市町村の支援等に関する費用に充てるものとされている(事例1-2)。

令和2(2020)年度の主な取組実績として、森林経営管理制度に基づく森林所有者への意向調査は約21.6万ha実施され、間伐は約10,300ha実施された。

事例1-2 森林環境譲与税を活用した取組


森林整備関係 (森林経営管理制度に基づく意向調査や間伐等)
(ア) 宇都宮市(栃木県)~市による間伐の実施~

宇都宮市では、森林経営管理制度により、私有林の適正な管理と林業経営の効率化を進める方針。

令和2(2020)年度は、56.17haで経営管理権の設定に向けた森林調査を、31.27haで経営管理権の設定を行うとともに、5.91haで市による間伐を実施し、森林の有する公益的機能の発揮が図られた。

(イ) 木曽(きそ)郡6町村(長野県)~広域連携による森林整備の推進~

木曽(きそ)郡6町村(上松町(あげまつまち)、南木曽町(なぎそまち)、木曽町(きそまち)、木祖村(きそむら)、王滝村(おうたきむら)、大桑村(おおくわむら))では、木曽広域連合内に新たに「森林整備推進室」を設置し、森林経営管理制度を推進。

令和2(2020)年度は、森林所有者への意向調査や経営管理権設定への同意の取付けを行うなど、森林整備の早期着手に向けた条件整備が進んだ。

(ウ) 西都(さいと)市(宮崎県)~地域林政アドバイザーの活用~

西都(さいと)市では、誤伐・盗伐防止や伐採後の再造林の推進のため、令和2(2020)年度に、伐採箇所の現地確認や伐採届出に伴う現地確認等の業務を地域林政アドバイザー業務として森林組合に委託。これにより、市の林野行政における効率的な業務運営が図られた。

(エ) 中央区(東京都)~地方公共団体間連携による森林整備~

中央区では、東京都檜原村(ひのはらむら)において、二酸化炭素の吸収源となる森林を荒廃から守り、育てるため「中央区の森」事業を実施。令和2(2020)年度は、4.36haの間伐と4.49haの下刈りを実施した。整備により発生した間伐材については、「中央区の森」に設置する案内板等への活用を図ることとしている。

森林整備に必要な人材育成・担い手の確保
(オ) 五島(ごとう)市(長崎県)~林業就業者の技術習得~

五島(ごとう)市では、森林整備の担い手確保のため、令和2(2020)年度に、林業参入を検討している建設業従事者等へのチェーンソー講習会や、林業経営体職員の研修受講等の旅費の一部支援を実施。これにより、現場で求められる技術を習得した担い手の確保が図られた。

木材利用の促進や普及啓発等
(カ) 岡山市(岡山県)~木材利用促進に関する取組~

岡山市では、木材利用を通じて森林整備への住民の理解の醸成に取り組む方針。

令和2(2020)年度は、放課後児童クラブの木造化・木質化、高校生が制作したベンチの小学校への寄贈等を実施。木材利用の意義を伝える授業をあわせて行うことで効果的な普及が図られた。

(キ) 川崎市(神奈川県)~木材利用促進に関する取組~

川崎市では、木の良さを身近に感じられる「都市の森」の実現に向け、公共建築物や民間建築物への木材利用、地方創生に向けた様々な都市との連携を展開。

令和2(2020)年度は、区役所の一部木質化、市民が集まる民間建築物の木質化等を支援。また、小田原(おだわら)市と連携して木の良さや林産地としての地域の魅力等を体感するツアーを実施し、市民の木材利用の意義に対する理解が深まった。

(ク) 西和賀町(にしわがまち)(岩手県)~小中学校での森林環境教育の実施~

西和賀町(にしわがまち)では、町内の子供達に地域の貴重な森林資源に目を向けてもらうため、小中学生を対象に森林環境教育を実施。

令和2(2020)年度は、町内4校の小中学生が、森林の役割等について学んだほか、木に触れる作業などを体験し、地域の森林・林業に対する理解と関心を高めることにつながった。

コラム 森林環境譲与税を活用した森林整備等の取組状況

全国の市町村では、令和元(2019)年度から譲与が開始された森林環境譲与税を活用し、森林整備や人材育成・確保、木材利用・普及啓発など、地域の実情に応じた多様な取組が展開されている。

令和2(2020)年度の活用状況をみると、全体の7割に当たる市町村で森林整備に関する取組(107億円)が実施されており、間伐等の森林整備が約17,900ha実施されたほか、これまで手入れが不十分であった森林の整備に向け、森林経営管理制度に基づく森林所有者への意向調査などの準備作業や森林資源情報の整備等も実施された(事例1-2(ア)~(エ))。

人材育成・確保(12億円)については、全体の約2割の市町村で取り組まれ、林業従事者の安全を確保するための装備の導入支援や林業に必要な技能講習などが実施された(事例1-2(オ))。

木材利用・普及啓発(44億円)については、都市部を中心に、全体の約3割の市町村で取り組まれ、公共建築物等の木質化、植樹や木育などのイベントの開催等による森林や木材とのふれあいの場が提供された(事例1-2(カ)~(ク))。また、その実施に当たっては、流域の上流と下流の市町村や友好都市など、地方公共団体が連携した取組も見られた(事例1-2(エ)(キ))。

いずれの分野においても、令和元(2019)年度と比べると、取り組む市町村の数は増加しており、令和3(2021)年度は、更に増えていく見込みとなっている。

他方で、森林環境譲与税を基金に積み立てている市町村も存在しているが、このような市町村においても、今後、森林整備や木材利用等に活用することが予定されている。

これからも全国の市町村で森林環境譲与税が活用され、森林整備や木材利用・普及啓発等の取組が一層進むことで、森林の公益的機能の発揮や、森林にふれることが少ない都市部住民の森林・林業や森林環境税に対する理解の醸成が図られることに加え、山村地域の活性化にもつながっていくことが期待される。

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