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第1部 第1章 第5節 森林・林業・木材産業や木材の利用に関わる人材


林業の成長産業化と森林の適切な経営管理を実現するためには、十分に活用されていない森林資源を今まで以上に木材として持続的に将来にわたって活用していくことが必要である。このためには、川下の需要者が必要とする木材を川上の森林所有者・林業経営体が適時・適量供給するマーケットインの発想に立つことが重要である。一方で、森林資源の状況から見て、今後は大径材の供給量の増加が見込まれるなど、実際に供給しうる木材の品質や径級を念頭に置きながら、新たな木材需要を創出していく視点も重要である。

本項では、川下側を意識したイノベーションとして、川上から川下までのサプライチェーンの構築や、木材需要の創出により森林資源の価値を向上させるような事例について示していくこととする。また、森林・林業・木材産業を支える様々な資格についても紹介する。


(木材のコーディネートの必要性)

木材の需給については、川下側からは、必要な製品を必要なタイミングで調達できるか、川上側からは、どのような素材、製品がいつごろの時期に必要となるかという需給の情報が双方にとって不明確なため、需給のミスマッチが生じるということが指摘されている。特に、木材は、現存する森林資源の状況によって、生産し得る木材の種類や品質が定まってしまうという資源の性質上、木材の需給に関する情報をコーディネートすることが重要な課題の一つとなっている。

このため、一般製材用、集成材用、合板用、チップ用等様々なニーズに対応した原木を効率的に供給できるよう、供給可能量情報等を活用して、個別需要者のニーズに対応した原木を供給するのに適した森林の選定、生産された原木の取りまとめ、あっせん、調整等を実施するコーディネーター役が必要である。

このような業務を行うためには、川上側と川下側の双方の情報を収集する能力、素材生産を実行する者を取りまとめる能力等が必要である。

兵庫県丹波(たんば)市のNPO法人サウンドウッズでは、森と街をつなぐ取組として、(ア)森林所有者への資源活用の提案、(イ)森と街をつなぐ人材の育成、(ウ)木を活かした住宅や公共施設のプロデュース、(エ)森と街をつなぐイベントの実施などに取り組んでいる。人材の育成では、平成22(2010)年から木材コーディネート基礎講座を実施し、平成30(2018)年末時点で104名が修了している。同講座修了者で構成する「木材コーディネート研究会」では、木を活かした暮らしの提案等により木材の新たな需要をつくり、山村の活性化にも寄与するなど、川上から川下までの様々な現場で活躍する会員の事例等を学ぶ機会を提供している(事例1-10)。

大分県佐伯(さいき)市の佐伯(さいき)広域森林組合では、同組合が生産する地域材の製材を使用した「木造大型パネル」を、地域工務店に供給している。「木造大型パネル」の使用により、住宅施工の作業の一部を工場で行うことができるようになり、大工の負担軽減や工期の短縮につなげることができる。また、素材生産や木材製品生産の視点からも、工務店の受注に基づく計画的な生産を行うことが可能となる。同組合では、この事業を通じて、地域材の付加価値を高め、山元への利益還元を促進することとしている(事例1-11)。


(木材需要等の新たな価値の創出に関わる取組)

新たな木材需要の創出に当たっては、非住宅分野への進出、そのためのCLT等の新たな部材を活用した中大規模建築物の木造化等を推進することが重要である。

このような中大規模木造建築物の建設に当たっては、設計にかかる構造計算に高度な技術が必要となるほか、都市部では防耐火部材の使用が必要とされる場合が多い。しかしながら、こうした木造建築物の設計に対応できる設計者は少ない。このため、林野庁では中大規模木造建築物を設計できる者の育成・確保に向けた技術セミナーや構造計算を容易にするために必要な情報ツールの整備といった支援を行っている。

また、これまでにはなかった視点を有する者が川上側の森林・林業と関わることで、森林資源に新たな価値を見いだしていくことも重要である。

たとえば、岐阜県飛騨(ひだ)市の(株)飛騨の森でクマは踊る(通称「ヒダクマ」)では、森林の活用と地域経済の創出を目標に掲げ、地域の森林を活用した、木製品の加工販売、企業や学校向けの合宿・滞在、ものづくりカフェ「FabCafe Hida」の運営による地域内の交流等の事業を実施している。このような事業を通じ、「ヒダクマ」は、様々なクリエイターを飛騨地域に呼び込み、広葉樹等を用いた商品の開発等につなげている(事例1-12)。

三重県大台町(おおだいちょう)の宮川森林組合では、虫害対策の一環として、大学の協力を得てスギ・ヒノキの適地に関する調査を実施した。この結果に基づき、同組合は、虫害が予想される森林ではスギ・ヒノキではなく広葉樹による造林を森林所有者に提案するとともに、これに必要となる広葉樹苗木の生産に取り組んでいる。また、同組合では、このようにして植林された広葉樹の枝葉等を活用し、デザイナー等と連携して様々な製品の開発・販売も行っている。新規に植林してから木材そのものを活用するまでには長い時間を要するが、このように、枝葉を活用することによって新たな価値を創出し、山元への還元につなげている(事例1-13)。

また、医療・福祉、観光、教育等の分野と連携し、国民の価値観やライフスタイルの変革の動きに合わせた森林空間の利活用を通じて、新たな森と人との関わりを創り出す「森林サービス産業」等の新たな分野の展開が有望となっている。今後は、こういった様々な分野に対応できる柔軟な発想を持つ人材の育成や、外部の人材との連携等を進めていく必要がある。


(森林・林業・木材産業に関する資格)

森林・林業・木材産業を支える人材の技術水準を確保していくためには、資格制度の活用も重要となってくる。森林・林業・木材産業を支える技術者の国家資格には技術士(森林部門)があり、また、民間資格として林業技士、森林情報士といった資格がある。

技術士制度は、「科学技術に関する技術的専門知識と高等の専門的応用能力及び豊富な実務経験を有し、公益を確保するため、高い技術者倫理を備えた、優れた技術者の育成」を図るための国による資格認定制度である。科学技術に関する高度な知識と応用能力及び技術者倫理を備えている有能な技術者に技術士の資格を与え、有資格者のみに技術士の名称の使用を認めることにより、技術士に対する社会の認識と関心を高め、科学技術の発展を図ることとしている。森林部門には、林業、森林土木、林産、森林環境の各選択科目があり(*50)、1,398名の有資格者が登録されている。

林業技士、森林情報士は(一社)日本森林技術協会が認定している資格である。林業技士は、昭和53(1978)年度に発足した森林・林業に関する専門的技術者の資格認定・登録によるものであり、13,447名の有資格者が登録されている。また、森林情報士は、空中写真やリモートセンシングからの情報の解析技術、GIS技術等を用いて森林計画、治山、林道事業、更には地球温暖化問題の解析などの事業分野に的確に対応できる専門技術者を養成することを目的に平成16(2004)年度に創設され、815名の有資格者が登録されている。

木材産業に関わる資格として、(公社)日本木材加工技術協会が認定する木材接着士、木材乾燥士、木材切削士、構造用集成材管理士や、(公社)日本木材保存協会が認定する木材保存士等があり、木材製品の品質の安定化に寄与している。

このほか、森林レクリエーションに関わる資格として、(一社)全国森林レクリエーション協会が実施する森林インストラクターが、また、樹木の保護管理に係る資格として、(一財)日本緑化センターが実施する樹木医などの資格がある。こうした資格等は、それぞれの分野における高い技術を有しているものであり、地域における技術の向上や普及を担う重要な役割を果たすよう、より一層の活用を図っていく必要がある(資料1-25)。


(*50)令和元(2019)年度から林業と林産が統合され林業・林産となる。


お問合せ先

林政部企画課

担当者:年次報告班
代表:03-3502-8111(内線6061)
ダイヤルイン:03-6744-2219

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