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林野庁

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第1部 第1章 第2節 林業経営体の動向(3)


(3)林業経営体が行うイノベーションに向けた取組

(木材生産に係るコスト)

現在の木材生産にかかるコストについて、50年生のスギをイメージして、育林にかかるコスト、山元立木価格、丸太価格を比較(*14)してみる。

「平成25年度林業経営統計調査報告」によると、スギ人工林において、50年生までの造林及び保育に係る経費は全国平均で121万円/ha(地域によって114万円/haから245万円/haまで)(*15)となっている。また、同様に50年生のスギ人工林の主伐を行った場合の収入は、平成30(2018)年の山元立木価格に基づき試算(*16)すると、94万円/haであり、立木の売却のみでは育林コストを賄うのが難しい状況がうかがえる。

他方、この森林から生産される木材について、仮にスギの中丸太、合板用材、チップ用材で3分の1ずつ販売(*17)されたものと見込むと、その売上は311万円/haとなる。こうした木材の売上と主伐を行った場合の収入の差には、伐出・運材等のコストが含まれることとなり、我が国におけるこれらのコストは海外と比べて割高となっているとの研究結果(*18)もある。

こうした状況に対応するためには、スマート林業、生産流通構造改革等の推進により、育林や伐出、運材等のコストの低減、新たな木材需要の開拓による丸太価格の上昇等が必要である。林業・木材産業全体のコスト低減、付加価値向上の努力が図られた結果、生産された丸太の売上の一部が山元の付加価値の一部として還元されるようになれば、主伐収入で再造林・保育のコストを賄うことが可能となり、森林資源の循環利用が進んでいくこととなる。また、林業経営体の適正な利益の確保や規模拡大のための投資、林業従事者の賃金水準、安全対策等の労働条件の向上を通じて、山村地域の活性化にもつなげていくことも可能となる(資料1-5)。

資料1-5 現在の木材生産にかかるコストのイメージ

(*14)各々のデータは出典や時点が違うため、前提条件等によって結果が変わる可能性があることに留意。

(*15)地域によりばらつきがある。また、林齢によって標本数が少ないものがあることから、集計結果の利用に当たっては注意が必要とされている。

(*16)スギ山元立木価格2,995円/m3(第3章111-115ページ参照)に、スギ10齢級の平均材積315m3/ha(林野庁「森林資源の現況(平成29(2017)年3月31日現在)」における10齢級の総林分材積を同齢級の総森林面積で除した平均材積420m3/haに利用率0.75を乗じた値)を乗じて算出。

(*17)丸太価格は「平成29年木材需給報告書」を基にha当たり315m3の素材出材量と仮定して試算。

(*18)木材生産にかかるコストについては、「平成29年度森林及び林業の動向」21ページを参照。



(林業経営体が行うイノベーションの事例)

育林や伐出・運材等のコストの低減、木材需要に応じた生産・流通を行うサプライチェーンの構築に向けては、従来より様々な取組が行われている。近年は、ICTの活用などこれまでの林業界ではみられなかった、イノベーションの萌芽といえるような成果を出している事例もあり、こうした成果を全国に広げていくことが必要となっている。

○生産性向上の取組

鹿児島県森林組合連合会(*19)では、平成27(2015)年から、ドローンを活用した森林調査の省力化に取り組んでおり、人が立ち入ることが難しい風倒被害森林の調査等に活用している。この結果について、鹿児島大学と共同で検証したところ、調査人員を半分以下に減らす等の効果を得た事例も得られている。今後は、ドローンによる調査結果を周囲測量や標準地調査等に更に活用していくことを検討している。また、山形県の金山町(かねやままち)森林組合(*20)等では、航空レーザ計測データを活用し、路網のルート設定、林分状況の把握、施業の計画策定等を進めており、作業の効率化につなげている。

また、岡山県新見(にいみ)市の有限会社杉産業では、平成23(2011)年にUターンした専務の下、生産プロセスのボトルネックを見極め、それらを効率化していくためのITや機械の導入を進めてきた。現在では、一本の丸太の付加価値を最大化させるような採材を自動的に行うハーベスタの導入等の取組を行っている。このことにより、生産性及び収益力の向上と生産量の増加を実現しており、平成29(2017)年までの7年間で、素材生産量は2千m3から1万4千m3、従業員も3名から12名に増加している(事例1-1)。

岩手県一戸町(いちのへまち)の(株)柴田産業、同県洋野町(ひろのちょう)の(有)丸大県北農林ではいまだ導入事例の少ない次世代型ハーベスタを活用している。このハーベスタは前方に取り付けたウインチにより、従来の高性能林業機械では作業が不可能であったような急斜面においても、伐倒、集材、造材の作業を一台でこなすことが可能となっており、素材生産作業の大幅な効率化につなげている。

○流通効率化の取組

青森県森林組合連合会では、平成19(2007)年から、外部有識者の助言、先進的な事例の調査を実施し、共販所での原木の販売を減らす一方、買取による原木の集荷、大型工場への積極的な営業活動、船舶等を活用した原木の直送等に取り組んでいる。こうした一連の取組の結果、10年間で丸太の取扱量を10万m3から50万m3へと大幅に伸ばし、地域における原木の安定した受入先等として大きな役割を果たすようになっている(事例1-2)。

長野県中野(なかの)市の北信州森林組合(*21)では、森林情報や原木生産に関する様々な情報をICTを活用して、森林組合全体で共有する新たな生産管理手法を導入している。こうした情報を近隣の林業経営体と連携して、需給調整や運送手配の最適化を可能とする「木材集出荷情報共有システム」を開発し、平成30(2018)年から稼働を始めている。また、国立大学法人信州大学と連携して取り組んでいる、レーザ計測データを活用した収穫調査では省力化や情報化を進めている。

東京都世田谷区の伊佐ホームズ(株)は、プレカット工場、製材工場、山元等との連携により、川上から川下までを結ぶプラットフォームを構築している。ここでは、山林に生育する立木の形状や本数等の情報、製材品の寸法・強度等の情報、工務店が必要とする木材の情報がクラウドサーバー上で共有されており、工務店の需要情報に基づく立木の計画的な伐採、QRコードによる流通管理等が可能となっている。プラットフォームを管理する新会社の森林パートナーズでは、伊佐ホームズ(株)と関係する各社が共同し、このプラットフォームの活用によって、適正な価格での原木の調達、合理的で透明性のあるコストの実現、生産者と加工過程が見えるトレーサビリティの確保等の実現を目指している。


(*19)森林組合連合会とは森林組合を会員とする森林組合系統組織。

(*20)詳しくは、「平成29年度森林及び林業の動向」94ページを参照。

(*21)詳しくは、「平成27年度森林及び林業の動向」26ページを参照。



(林業経営体の事業継承と新規参入の事例)

中小事業者が多い民間事業体では、事業の継承をスムーズに行うことも重要となっている。ここでは、こうした経営者の代替わりを契機とした新たな取組や林業への新規参入を行った者による新たな取組の事例を紹介する。

高知県仁淀川町(によどがわちょう)の(株)明神林業は、事業の継承とともに、事業の拡大を果たした例である。同社は、工務店で大工として働いていた現社長の片岡博一氏がUターンし、所有山林で路網開設や間伐等の作業を開始した後、森林の取得や周辺森林の間伐作業の受託、従業員の雇用、法人化を進め、年間約6,000m3の原木を生産するまでになっている。また、丸太の販路確保のため、町内で生産される丸太を取りまとめて大口需要先に供給する協同組合を地域の関係者と共に立ち上げるなど多様な取組も行っている(事例1-3)。

親族以外の事業の継承としては、長野県松本(まつもと)市の(株)柳沢林業の例がある。同社では平成25(2013)年に創業者から女性従業員に事業の継承が行われた。新たな経営者のもと、山と人とが生かし生かされる豊かな暮らしの創造や、日本の木の文化の伝承、地域の美しい山づくりへの貢献といった同社の理念を明文化し、これらの理念の実現に向け、従業員の能力評価システムづくり等により理念の共有・徹底が図られるよう取り組んでいる。

製材業から林業への参入の例としては、韓国・中国向けのヒノキ製材を主力商品としている岡山県美咲町(みさきちょう)の江与味(えよみ)製材株式会社がある。同社では、台風により、平成18(2006)年に岡山県を中心にヒノキ人工林に大きな風倒被害が発生したことを機に、風倒木の処理と丸太の安定的な調達に対応するため素材生産を開始した。また、自社林の購入も進めており、現在の所有林は約500haとなっている。このほか、苗木生産も年間50万本の規模で行っている(事例1-4)。

お問合せ先

林政部企画課

担当者:年次報告班
代表:03-3502-8111(内線6061)
ダイヤルイン:03-6744-2219

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