森林と生物多様性
土砂災害防止や水源涵養といった森林の有する多面的機能の働きから生み出される恩恵は、私たちの生活や経済活動を支えております。
この森林の有する多面的機能は、森林生態系の基盤となる生物多様性の保全を推進することによりさらに高めることができます。
生物多様性をめぐる近年の動き
生物多様性とは、生物多様性基本法において、様々な生態系が存在すること並びに生物の種間及び種内に様々な差異が存在することと定義されています。生態系の多様性は種(種間)の多様性により構成され、種の多様性は遺伝子(種内)の多様性により構成されています。これらは相互に関連しており、生態系の多様性が確保されていることで、異なる生物の種や集団に生育・生息場所を提供し、種間や種内の多様性に貢献します。
生物多様性の保全は、気候変動の問題と並び、次世代にわたって持続可能な社会経済システムを維持していく上で最も重要な課題と認識され、取組の強化が急務となっています。
2022年12月には生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)で「昆明・モントリオール生物多様性枠組」が採択され、2030年までに生物多様性の損失を止め、反転させ、回復軌道に乗せるための緊急の行動をとるという目標が掲げられました(この目標は、「ネイチャーポジティブ(自然再興)」と呼ばれています)。その成果指標として、「30by30」目標(陸と海のそれぞれ少なくとも30%を保護地域及びOECM※により保全)や農林水産業が営まれる地域の持続可能な経営管理等の目標が掲げられました。
図1 2030年までのネイチャーポジティブへの軌跡。出典:www.naturepositive.org(外部リンク)
生物相が豊かな我が国において、森林は陸域で最大の生物種の宝庫です。このことをふまえると、全ての森林を我が国の豊かな自然環境を支える「緑の社会資本」として健全な状態で維持し、適切に経営管理を行っていくことが肝要です。
このため林野庁では、森林・林業基本法に基づき、全ての森林は、豊かな生物多様性を支える重要な構成要素であるとの認識に立ち、森林が多様な生物の生育・生息の場として機能し、持続可能な森林経営を通じて、空間的にも時間的にも多様な森林が形成されるよう、各般の施策を推進しております。
※OECM:Other Effective area-based Conservation Measures 保護地域以外で生物多様性保全に資する地域
我が国の森林の現況
我が国は国土の3分の2を森林が占め、他の国と比べても高い森林率を維持しており、森林そのものが国土の生態系ネットワークの根幹として、我が国の豊かな生物多様性を支える役割を発揮しています。
図2 OECD加盟国森林率上位10か国、2020年
※2020年7月時点のOECD加盟国37か国で計算
出典:FRA2020データを基に林野庁作成
国土の約3分の2を占める我が国の森林は、70年以上にわたってその割合が維持され、面的な広がりにおける生物多様性の保全に寄与しています。
図3 我が国の森林面積の推移
出典:農林省統計表(昭和26年のみ)
林野庁「森林資源の現況」
我が国は、南北に長く、海岸から山岳までの標高差があって多様な気候帯に属するとともに、独特の地史を有する琉球列島、小笠原諸島があること等を背景に、多様な生物の生育・生息環境が広がっています。
※凡例は上図と同じ
図4 日本の高度・緯度による自然植生図
出典:「日本の植生、宮脇昭 編、昭和52年」
環境省生物多様性センターHPより引用
ブナ林(白神山地) 照葉樹林(宮崎県綾川流域)
針葉樹の人工林 ヤクスギ天然林(屋久島)
我が国の森林は、季節風等の気候条件や地形・地質等の立地条件、自然災害、天然更新、人為による伐採や植栽などによって変化しており、天然林、里山林、人工林など様々なタイプの森林が存在しています。原生的な天然林の厳格な保護・管理に加えて、人工林などにおける持続可能な森林経営により、空間的・時間的に多様な森林が形成され、生物の生育・生息環境を創出します。
林野庁では、国有林野のうち原生的な天然林や地域固有の生物群集を有する森林、希少な野生生物の生育・生息に必要な森林を「保護林」に設定し、世界自然遺産となっている保護林は、関係する機関とともに厳格に保護・管理を行っています。併せて、保護林を中心とした森林生態系のネットワークを形成し、野生生物の移動経路を確保するため「緑の回廊」を設定しています。
保護林について
緑の回廊について
世界遺産の森林について
また、林業生産活動を通じた経営管理が一定程度行われてきた森林においては、これまで明確化されてこなかった生物多様性を高めるための林業経営のあり方を検討し、「森林の生物多様性を高めるための林業経営の指針」を策定・公表しました。
森林の生物多様性を高めるための林業経営の指針
令和5年12月に「生物多様性保全に資する森林管理のあり方に関する検討会」を設置して、森林における生物多様性の保全に資する森林管理の実践例について既存の知見を整理するとともに、森林の生物多様性を高めるための林業経営のあり方について検討し、林業生産活動を通じた経営管理が行われてきた森林における生物多様性を高める森林管理の手法を示した、「森林の生物多様性を高めるための林業経営の指針」を令和6年3月に策定しました。
(主な内容)
〇林業の生産活動自体が生態系サービスの発揮に貢献すること、民間企業との連携による生物多様性保全は林業経営の新たな
収益機会となること
〇生物多様性を高めるための課題を整理(森林管理の手法、社会・経済的課題、活動の評価等)
〇生物多様性を高めるための具体的な森林管理手法を提示(面的な管理、施業手法、病虫獣害への対応、里山林の整備等)
〇森林経営計画等の計画において、自ら活動目標を設定した上で、活動状況と森林環境のモニタリングにより、「PDCAサイ
クル」を回すことを推奨
また、森林の生物多様性を高める林業経営に取り組む林業事業体等の優良事例を事例集として紹介しています。
森林の生物多様性を高めるための林業経営の指針【概要】(令和7年3月)(PDF : 4,760KB)
森林の生物多様性を高めるための林業経営の指針(令和7年3月改定)(PDF : 606KB)
森林の生物多様性を高めるための林業経営事例集(令和7年3月)(PDF : 8,736KB)
第1回~第3回検討会の資料及び概要
渓流沿いの森林の保全 猛禽類の狩場創出
伐採時に広葉樹を保残
森林に関するTNFD情報開示の手引き
林野庁では、2024年12月に「森林の有する多⾯的機能に関する企業の⾃然関連財務情報開⽰のあり⽅検討会」を設置して、「森林の有する多面的機能に関する企業の自然関連財務情報開示に向けた手引き(通称:森林に関するTNFD情報開示の手引き)」を策定しました。
森林に関するTNFD情報開示の手引き
(リーフレット)(PDF : 489KB) 第一回~第三回検討会の資料及び議事概要
本手引きでは、企業活動と森林の有する多面的機能との関わりを適切に分析・評価するため、TNFD情報開示が求める「LEAPアプローチ」に基づく分析方法、開示項目、開示指標を例示しております。
木材利用や森林整備・保全等に取り組む先行的な企業のTNFD情報開示の事例を参考として紹介しております。
関連リンク
〇森林生態系多様性基礎調査
森林生態系多様性基礎調査は平成11年に調査が開始され、森林の状態とその変化の動向を把握するため、全国統一した方法により森林生態系に関する様々な調査を実施しております。
〇森林における⽣物多様性の保全及び持続可能な利⽤の推進⽅策(PDF : 1,017KB)
林野庁では、平成21年7月に、生物多様性への理解の一助となることや生物多様性の保全に向けた森林・林業施策の展開に活用されることを目的とした「森林における生物多様性の保全及び持続可能な利用の推進方策」を公表しました。同推進方策では、主に(ア)生物多様性の損失とはどのような問題か、(イ)森林における生物多様性の保全に向けた望ましい方向、(ウ)森林における生物多様性の保全及び持続可能な利用に向けた具体的施策についてとりまとめしております。
〇国有林野の森林施業における生物多様性への配慮事例集
国有林野における林業経営の中で行われた生物多様性に配慮した森林施業事例をまとめました。
生物多様性に配慮した森林施業への取組がますます求められていく中で、これから新たに生物多様性への配慮に取り組もうとする森林管理や林業経営に関わる方が、身近なところから取組を開始するために参考となるような情報を紹介しています。
生物多様性の保全に配慮した森林施業(事例集以外の関連する情報も掲載しています)
〇ネイチャーポジティブ経営推進プラットフォーム(外部リンク、環境省ウェブサイト)
お問合せ先
森林整備部森林利用課
担当者:森林環境保全班
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