森林鉄道
森林鉄道は、木材を運搬するための林業用の鉄道で、主に、明治時代から昭和40年代頃にかけて活躍しました。建設主体は、国有林を管轄する国によるものが大半で、全国の国有林森林鉄道の全路線数は1,000路線、延長は8,000km以上に及びました。 |
1.国有林の森林鉄道の歴史
(1) 誕生の背景
従来、丸太は、伐採現場から人力、畜力によって河川のそばまで運び、そこから水力によって輸送する方法が一般的でした。上流域では、河川を堰止め、そこに丸太を浮かべ堰を切ることにより鉄砲水とともに一挙に下流に押し出す管流しと呼ばれる方法によりました。これを繰り返すことで大きな河川に達すると、丸太は筏に組まれて流送され集積地まで運ばれました。このような運材方法は危険度が高く人命が数多く失われ、丸太の損傷、消耗率も高く、そして流水量の季節変化により流送量も大きく左右されました。
明治時代以降、電源開発等のためダムが建設されるなど、河川を利用した輸送そのものが不可能になる地域ができたことや、伐採量の増大により、代替の輸送方法が求められました。
(2) 森林鉄道の誕生
明治34年、長野県の阿寺渓谷の宮内省所管の御料林内に、我が国初の森林鉄道と言える、阿寺軽便鉄道が敷設されました。ただこの鉄道の主な目的は、塩や味噌などの従業員の生活物資を輸送することが目的だったようです。
農商務省所管国有林としては、明治37年に、和歌山県高野山国有林において、土場連絡用軌道が建設されたのが、最初となります。そして、木材輸送を目的とする動力車がけん引する本格的な森林鉄道としては、明治41年に運用を開始した、津軽森林鉄道が最初になります。
(3) 国有林の森林鉄道の概要
全国各地の国有林で森林鉄道が整備され、現在把握されているもので、北海道森林管理局管内では134路線1,377km、東北森林管理局管内で473路線2,968km、関東森林管理局管内で127路線846km、中部森林管理局管内で135路線1,076km、近畿・中国森林管理局管内で86路線347km、四国森林管理局管内で133路線1,074km、九州森林管理局管内で170路線1,284km、合計1,258路線8,971kmにも及びました。
(4) 国有林の森林鉄道の終焉
太平洋戦争後の高度経済成長に伴う木材需要の増大に対し、国有林の材木生産の大幅な拡大が迫られる中、国有林の中で木材輸送の主役を担った森林鉄道も、トラックの性能の向上、自動車道の整備に伴い、より機動的なトラック運材に代わっていきます。昭和30年代後半から森林鉄道路線は、急速に廃止または自動車道への転換が進められました。(国有林では屋久島の安房森林鉄道のみ現存)
2.国有林の森林鉄道の運営の組織
国有林の管理は、主に農林省、宮内省、内務省の3省で所管されていたものが、昭和22年の林政統一により、農林省に一元化されました。農商務省林野庁の国有林では、森林鉄道は、営林署長の下に運転主任と保線主任が置かれました。運転主任の管轄下には、停車場手、転てつ手、機関手、機関助手が置かれ、また、保線主任の管轄下には、保線手、線路工夫、保線区長が置かれました。
また、長大路線であった津軽森林鉄道(支線・分線を含めると320km)と王滝森林鉄道(関連路線を含めると211km)の管理のために、特別に、青森運輸営林署と上松運輸営林署が置かれました。
3.森林鉄道の車両
森林鉄道の多くは、動力車をもたず、台車に木材を積み、制動手が手動でブレーキ操作を行いながら自重で勾配を下る豆トロと呼ばれる「軌道」でしたが、輸送量の多い路線は「鉄道」として蒸気機関車が運材列車を牽引しました。鉄道で導入された蒸気機関車は、戦後になるとディーゼル機関車に置き換えられ、小型のディーゼル機関車は動力車の入らなかった路線にも導入されるようになっています。
なお、軌道でも空の台車を山の上の木材を積む箇所まで人力や畜力で回送されましたが、やがて、ガソリンカーなどの小型動力車が台車の回送に用いられるようになりました。
4.現存する森林鉄道
現役の森林鉄道
現役の森林鉄道は、国有林のものでは屋久島の安房森林鉄道及びそれ以外のものは京都大学芦生演習林の森林軌道のみで、これら以外は全て廃止されています。
動力車の保存状況
(1) 蒸気機関車
蒸気機関車では唯一動態保存されているものが、北海道丸瀬布営林署の武利(むりい)森林鉄道で運行していた雨宮製作所製21号サイドタンク蒸気機関車で、現在、丸瀬布いこいの森で観光用に客車を牽引し運行されています。
静態保存されているものは3両で、いずれも米国ボールドウィン製のリアタンク蒸気機関車です。 温根湯森林鉄道で運行していた2号機が東北森林管理局仁別森林博物館に展示されています。温根湯森林鉄道廃止に伴い当時建設された博物館の開館に合わせ秋田営林局に譲渡されたものです。
同様に、群馬県に所在する森林技術総合研修所根利機械化センターには置戸森林鉄道で運行していた3号機が、長野県の赤沢自然休養林には小川、王滝森林鉄道で運行した1号機がそれぞれ保存されています。
(2) ディーゼル機関車
ディーゼル機関車では、山形県真室川町「まむろがわ温泉梅里苑」の秋田営林署管内で運用されていた加藤製作所製4.8tディーゼル機関車、高知県馬路村の円山公園の野村組製4.8tディーゼル機関車など、全国で8両が動態保存されています。なお、馬路村の馬路温泉前では、外観をポーター製蒸気機関車に似せた垣内製ディーゼル機関車が観光客を乗せています。静態保存車両の数は39両にも及びます。
なお、長野県上松町の赤沢自然休養林内を走る森林鉄道の路線は、小川森林鉄道の赤沢支線の路線を復元して利用していますが、運用機は、北陸重機製の5tディーゼル機関車で、観光運行用に新造されたものです。
(3) ガソリン機関車、モーターカー
ガソリン機関車、モーターカーでは、動態保存14両、静態保存6両が存在します。
5.近代化遺産としての森林鉄道
平成21年、高知県の魚梁瀬森林鉄道の5カ所の隧道と9基の橋梁が森林鉄道遺構としては我が国で最初に国重要文化財の指定を受けました。また、経済産業省が認定する近代化遺産として、平成20年の認定近代化遺産群の一つに「山間地の産業振興と生活を支えた森林鉄道の歩みを物語る近代化産業遺産群」が決定しました。この遺産群には、動態、静態保存されている蒸気機関車や小川森林鉄道の軌道や橋梁、芦生演習林軌道、魚梁瀬森林鉄道の橋梁、隧道遺構、屋久島の安房森林鉄道が選ばれています。
このほか、青森県中泊町博物館が所蔵する津軽森林鉄道のディーゼル機関車や津軽の林業用具が平成24年に青森県の登録有形民族文化財に指定されています。
さらに、日本森林学会は、創立100周年を記念して平成25年から林業遺産を選定しており、木曽森林鉄道、いの町の森林鉄道跡、屋久島の林業集落跡及び森林鉄道跡、蒸気機関車「雨宮21号」と武利意・上丸瀬布森林鉄道遺構群、我が国初の森林鉄道「津軽森林鉄道」遺構群及び関係資料群、遠山森林鉄道の資料および道具類・遺構群が選ばれています。
6.森林鉄道の映像・画像
北海道
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芦別森林鉄道
・森林鉄道輸送(芦別森林鉄道サキペンベツ輸送)(昭和30年頃) 制作:上芦別営林署
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東北
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よみがえれ!ディーゼル機関車(平成19年) 制作:東北森林管理局
遠野の森林鉄道について(令和2年) 制作:東北森林管理局
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関東
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藤原林道楢俣線6号橋(水上営林署)
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四万林道自動トロ正面(中之条営林署) |
四万林道自動トロ側面(中之条営林署) |
四万林道日向見線(昭和10年8月25日水害) |
四万林道摩耶滝線 |
万座林道(草津1号・2号) |
万座林道(草津2号) |
万座林道(草津営林署) |
万座林道・草津1号による運材 |
万座林道の難所「千枚岩」(昭和26年7月27日) |
万座林道への機関車輸送(ア)〔加藤製作所製木炭瓦斯発生装置付5トン内燃機関車「草津2号」(昭和26年7月19日)) |
万座林道への機関車輸送(イ)(加藤製作所製木炭瓦斯発生装置付5トン内燃機関車「草津1号(昭和26年7月20日)) |
猪苗代林道小野川線・会津営林署 (JPG:1,896KB) |
博士山林道(会津営林署) |
茂庭林道第9号橋(福島森林管理署HPへ) |
浪江林道・磐城営林署(福島森林管理署HPへ) |
中部
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近畿・中国
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高野山林道(PDF : 686KB) | 高野山林道1(PDF : 677KB) |
高野山林道2(PDF : 653KB) |
四国
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シェー式蒸気機関車(PDF : 1,810KB) |
トロ輸送(PDF : 2,163KB) |
ワルシャード蒸気機関車(PDF : 1,609KB) |
釜ケ谷口通過(PDF : 1,750KB) |
魚梁瀬橋(PDF : 1,911KB) |
和田山付近その1(PDF : 2,374KB) 和田山付近その2(PDF : 1,781KB) |
魚梁瀬営林署上げ荷トロリー |
魚梁瀬営林署中川事業所 |
魚梁瀬営林署酉川事業所インクライン |
魚梁瀬橋(PDF : 1,911KB) |
和田山付近その1(PDF : 2,374KB) 和田山付近その2(PDF : 1,781KB) |
九州
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代表:03-3502-8111(内線6012)
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