第1部 第1章 第3節 森林保全の動向(2)
(2)山地災害等への対応
(治山事業の目的及び実施主体)
治山事業(*57)は、森林の有する公益的機能の確保が特に必要なものとして指定される保安林等において、山腹斜面の安定化や荒廃した渓流の復旧整備などを実施するものであり、森林の維持・造成を通じて森林の機能を維持・向上させ、山地災害等から国民の生命・財産を守ることに寄与するとともに、水源の涵(かん)養や、生活環境の保全・形成を図る重要な国土保全施策の一つである(事例1-7)。
事例1-7 令和7(2025)年9月に発生した大雨における北海道の治山施設の効果
令和7(2025)年9月20日から21日にかけて、前線を伴った低気圧が発達しながら北海道を通過し、低気圧や前線に向かって暖かく湿った空気が流れ込んだ影響により、北海道太平洋側を中心に大雨となり、最大1時間降水量は北海道の厚真町(あつまちょう)で88.5mm、白糠町(しらぬかちょう)で49.0mmを記録するなど、7地点で観測史上1位の値を更新した。
このような中、白糠町新興(しんこう)地区では、北海道が整備した治山ダム3基(平成15(2003)年度及び平成16(2004)年度施工)が渓床勾配を緩和したため、土砂や流木が渓床に堆積し下流への流出が抑制された結果、当地区における山地災害による被害が軽減された。
一方で未対策であった近隣の渓流では流出した土砂が下流の道路を塞ぐ被害が発生し、治山ダムの有無による被害の違いが確認された。

民有林野内は都道府県が、国有林野内は国(森林管理局)が実施主体となる。また、民有林野内であっても事業規模の大きさや高度な技術の必要性を考慮し、国土保全上特に重要と判断されるものについては、都道府県の要請を踏まえ国が実施主体となる場合がある(民有林直轄治山事業)。
(*57)森林法で規定される保安施設事業及び地すべり等防止法で規定される地すべり防止工事に関する事業。
(山地災害等の発生状況、迅速な対応及び復旧状況)
近年は、気候変動の影響により、短時間強雨の年間発生回数が増加し、線状降水帯の発生等による記録的豪雨によって、期間中の総降水量が増加する傾向がみられる。また、このような大雨の激化・頻発化等により全国各地で激甚な山地災害が発生している。令和7(2025)年は、8月6日からの大雨等により、山地災害等の被害箇所は、林地荒廃622か所、治山施設73か所、林道施設等3,700か所の計4,395か所、被害額は約550億円に及んだ(資料1-22)。
このような山地災害等の発生に対し、林野庁では、初動時の迅速な対応に努めるとともに、特に大規模な被害が発生した場合には、国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)との協定に基づく人工衛星からの緊急観測結果の被災県等への提供、ヘリコプターやドローンを活用した被害状況調査、被災地への職員派遣(農林水産省サポート・アドバイスチーム(MAFF-SAT))等の技術的支援及び災害復旧等事業の採択等を通じて、早期復旧に向けて取り組んでいる。令和7(2025)年については、12県へ延べ140人をMAFF-SATとして派遣したほか、国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所等との合同の現地調査等、応急対策や復旧工法に関する技術的助言を行っている。
また、大規模な崩壊地を復旧する場合など、復旧に高度な技術を要する場合には、地方公共団体からの要請を踏まえ、国直轄による復旧整備を行っている。令和6年能登半島地震及び令和6(2024)年9月20日からの大雨で発生した大規模な山腹崩壊等については、復旧の拠点を石川県内に配備し、国直轄による集中的な復旧整備を進めている。これまでに、治山ダムの設置等による土砂の流出抑制対策に加え、荒廃が広域に及んでいることなどを踏まえ、ヘリコプターによる緑化対策も進めてきている(資料1-23)。引き続き、関係機関と連携し面的な復旧対策を実施し、能登地域の早期復旧・復興に取り組んでいくこととしている。
なお、令和7(2025)年は、全国で129か所において災害復旧等事業の採択を行い、各地で復旧対策を実施している。
近年発生した大規模な山地災害からの復旧状況については、例えば、流木災害が顕著に認められた平成29年7月九州北部豪雨や、中国・四国地方を中心に土石流等が多発した平成30年7月豪雨(西日本豪雨)では、国直轄及び関係道府県による集中的かつ計画的な復旧対策が進められ、被災地における森林の回復がみられるようになってきている(資料1-24)。


(防災・減災、国土強靱(じん)化に向けた取組)
「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」(令和2(2020)年12月閣議決定)において重点的に取り組むべきとされている、人命・財産の被害を防止・最小化するための対策として、林野庁では、山地災害危険地区(*58)や重要なインフラ施設周辺などを対象とした治山対策及び森林整備に取り組むとともに、あらゆる関係者で協働して水災害対策を実施する「流域治水(*59)」の取組を関係省庁と連携して推進しており、具体的には、森林の保水力の維持・向上のための対策、砂防事業と連携した土砂・流木の流出抑制対策を実施している。
また、森林・林業基本計画及び全国森林計画における位置付けを踏まえ、土砂流出量の増大や流木災害の激甚化等に対応して、きめ細かな治山ダムの配置等による土砂流出の抑制や渓流域での流木化のおそれのある危険木の伐採等を推進するとともに、洪水被害が甚大になることが懸念される中、森林の保水機能向上を図る筋工(すじこう)(*60)等の設置と保安林整備による森林土壌の保全強化を推進している。さらに、既存治山施設を有効活用するため、補修や機能強化(かさ上げ、増厚、流木捕捉機能の付加等)を各地で進め、効率的な事前防災対策につなげている。
これらの事業の実施に当たっては、災害の激甚化や急峻(しゅん)な地形など厳しい施工条件等を踏まえて、事業者の労働安全確保も図りつつ、より短期間で効率的に事業を実施し、地域の安全性を高めるため、航空レーザ計測データの活用やICTの導入等を推進している。これらに加え、地域における避難体制の整備等の取組と連携して、地域住民に対する山地災害危険地区の地図情報の提供、防災講座等のソフト対策を実施している。
これらに加え、地域における避難体制の整備等の取組と連携して、地域住民に対する山地災害危険地区の地図情報の提供、防災講座等のソフト対策を実施している。
こうした治山対策を計画的に推進するため、「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」においては、土石流等の山地災害等リスクが高い山地災害危険地区における治山対策の実施率向上等を重要業績評価指標(KPI)として設定している。また、森林整備保全事業計画においては、治山事業の実施により周辺の森林の山地災害防止機能等が確保される集落数の増加を目標として設定している。具体的には、令和10(2028)年度までに6万500集落を目標としており(基準値5万8,100集落(令和5(2023)年度))、令和6(2024)年度末では約5万8,400集落となっている。
令和7(2025)年6月には、気候変動に伴い激甚化・頻発化する気象災害や、南海トラフ地震等の大規模地震への対応に向けて、令和5(2023)年6月に改正された「強くしなやかな国民生活の実現を図るための防災・減災等に資する国土強靱化基本法」に基づき、「第1次国土強靱化実施中期計画」が閣議決定された。同計画は、令和8(2026)年度から令和12(2030)年度までの5年間を計画期間とし、推進が特に必要となる施策として山地災害危険地区等における森林整備対策・治山対策が位置付けられている。山地災害危険地区については、近年の山地災害の発生状況を踏まえ、令和6(2024)年度から令和7(2025)年度にかけて全国で再点検を実施したところであり、その結果も活用しながら、山地災害危険地区や重要なインフラ周辺などのうち特に緊要度の高いエリア等において、森林の防災・保水機能を発揮させるため、再造林等の森林整備や治山施設の整備・強化などを実施することとしている。

くわえて、近年の山地災害の激甚化や事業の担い手を取り巻く環境の変化などを踏まえ、林野庁では、令和7(2025)年度に、学識経験者等を交えて「気候変動や社会情勢の変化を踏まえた今後の治山対策の在り方検討会」を開催した。同検討会では、(ア)災害の激化及び複合的な要因による山地災害への対応、(イ)自然的・社会的変化に応じた予防治山対策、(ウ)流域保全の対策、(エ)事業実施の効率化、(オ)中期的な視点による技術開発等の方向性について取りまとめており、林野庁では、この内容を今後の治山対策に反映していくこととしている。
(*58)都道府県及び森林管理局が、山地災害により被害が発生するおそれのある地区を調査・把握しているものであり、昭和47(1972)年に調査が開始されて以来、事業実施箇所の選定等に活用している。
(*59)流域治水の取組については、「令和4年度森林及び林業の動向」特集第4節(2)21-22ページを参照。
(*60)山地斜面において、丸太を等高線に沿って配置し、地表水を分散させ表面侵食を防止するとともに、土壌を保持し雨水の浸透を促進する工法。
(海岸防災林の整備)
我が国の海岸では、飛砂・風害、潮害等を防ぐため、マツ類を主体とする海岸防災林の整備・保全が全国で進められてきた。これに加え、東日本大震災では海岸防災林が津波エネルギーの減衰や到達時間の遅延、漂流物の捕捉等の被害軽減効果を発揮したことを踏まえ、平成24(2012)年に、海岸防災林の整備を津波に対する「多重防御」施策の一つとして位置付け(*61)、被災した海岸防災林の再生及び全国的な海岸防災林の整備を進めている。
具体的には、根の緊縛力を高め、根返りしにくい林帯を造成するため、盛土による生育基盤の確保、植栽等の整備を進めてきたところであり、今後は、海岸部は地下水位が高いエリアが多いことに留意した適切な保育管理等を通じて、津波に対する被害軽減を含む潮害の防備、飛砂・風害の防備等の機能が総合的に発揮される健全な海岸防災林の育成を図ることとしている。林野庁は、令和10(2028)年度までに、適切に保全されている海岸防災林等の割合を100%とする目標を定めており(基準値98%(令和5(2023)年度))(*62)、令和6(2024)年度における割合は98%となっている。
(*61)中央防災会議防災対策推進検討会議「防災対策推進検討会議 最終報告」(平成24(2012)年7月31日)
(*62)森林・林業基本計画(令和3年(2021)年6月閣議決定)に則し政策評価を行うために設定された測定指標における目標値
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