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林野庁

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第1部 特集 第3節 生物多様性を高める林業経営と木材利用に向けて(1)

(1)生物多様性への林業経営の貢献

(生物多様性に対する林業経営の意義)

我が国においては、森林資源の状況や森林・林業をめぐる情勢、社会の要請等も踏まえつつ、森林における生物多様性保全に関する施策を講じてきた。原生的な天然林など自然の推移に委ねることを基本とする森林においては、厳格な保護・管理を引き続き行っていくとともに、今後は、林業生産活動等を通じた経営管理が一定程度行われてきた森林について、生物多様性を確保していくことが一層重要となっている。しかしながら、これまで生物多様性を高めるための森林の管理手法については明確には示されておらず、森林における生物多様性に関する取組の情報発信も十分には行われてこなかった。

このため、林野庁では令和6(2024)年3月に、これまでの生物多様性保全のための森林管理の実践例も参考にしつつ、生物多様性を高めるための林業経営の在り方を示すことを目的として、林業事業体等(*31)を対象に「森林の生物多様性を高めるための林業経営の指針」を取りまとめた。「森林の生物多様性を高める」とは、同指針において「生物多様性への負の影響を回避し、機能の低下した森林の再生を通じた生物多様性の回復を図ることも含め、生物多様性の保全に一層配慮した森林管理を実践することにより、多様な動植物の生育・生息空間としての森林の質を現状より高めること」を意図している。このため、生物多様性への林業経営の貢献については、個々の森林施業のまとまりである林分単位だけでなく、地域の森林全体としての生物多様性に貢献するという視点が重要である。

森林生態系の生産力に基礎を置く林業は、その生産力の範囲内で行う伐採やその後の更新を通じて、様々な生育段階からなる森林の造成に寄与する。現在、森林の多くが資源として成熟し、利用期を迎えていることを踏まえれば、林業経営には、生物多様性の保全を図りつつ、林業生産活動を実施していくことにより、多様で健全な森林への誘導を担い、総体としての生物多様性の確保に貢献していくことが求められる(事例 特-2、特-3)。

林業事業体等が取り組むべきことは持続的な経営であり、森林の有する多面的機能の発揮や生態系に配慮した施業等を実践することである。また、持続的な経営の結果として供給される木材を利用していくことは、森林資源の循環利用を通じて、地球温暖化防止等にも寄与するものであり、社会経済に貢献する。

事例 特-2 林業を通じて多様な林齢・樹種からなる森林配置へ誘導

株式会社山一木材(和歌山県新宮(しんぐう)市)は、苗木生産から木材販売までを行う会社であり、「伐採と造林の一貫作業システム」を採用し、伐採した後は自社で生産したコンテナ苗により確実に植栽を実施している。

植栽に当たっては、林業適地では、スギ、ヒノキによる再造林を実施し、森林資源の循環利用のサイクルの確立を図るとともに、経済的に不利で林業に適さない箇所では、木材生産を目的とせず、ウバメガシやクヌギなど広葉樹等を植栽することで、野生生物の生育・生息に適した森林を造成している。また、伐採木の集材には架線を、苗木の運搬には大型ドローンを用いることにより林地の保全にも配慮している。

このような林業経営における工夫が、多様な林齢、樹種からなる森林配置への誘導に貢献し、地域の森林の生物多様性を確保することにつながっている。

事例 特-3 里山広葉樹林の適切な更新の確保と利用

富山県では、燃料革命後に利用されなくなり50年生以上となったコナラ等からなる里山林が広く分布している。コナラ林は、かつて薪炭材等としての利用のため、20年生程度での伐採とぼう芽更新による再生を通じて維持されていたが、大径木となった高齢級のコナラ林はぼう芽更新が困難であることから、母樹を残した上で伐採し天然下種更新を促すことで若返りを図ることが必要となっている。

このため、富山県西部森林組合(富山県南砺(なんと)市)では、里山広葉樹林の適切な更新と広葉樹資源の利用を目的として、管内に広く分布するコナラ林の伐採を実施している。伐採率は70%程度として発生した稚樹の刈り出し等を行っており、これまで伐採した箇所においては、コナラ以外にもホオノキやカエデ類など多様な高木性の広葉樹により更新が図られている。また、搬出した広葉樹材は、同組合が所有する工場に運搬し、きのこ栽培用のおが粉や薪等に加工している。


(*31)実質的に森林の管理の担い手となっている森林組合、林業事業体、社有林保有企業体、森林所有者等と協定を結んで森林管理に取り組む企業体、自伐林家、公有林を所有する自治体等。



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