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林野庁

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第1部 第2章 第1節 林業の動向(4)

(4)林業経営の効率化に向けた取組

(林業経営の効率化の必要性)

我が国の林業は、地域によってばらつきはあるものの、山元立木価格に対して造林初期費用が高くなっていることが多い。50年生のスギ人工林の平均的な林分条件で主伐を行った場合で試算すると、丸太の販売額が400万円/ha(*35)、うち森林所有者にとっての販売収入である山元立木価格が132万円/ha(*36)であり、この両者の差は伐出・運材等のコストという構造になっている。一方で、地拵(ごしら)えから植栽、下刈りまでの造林初期費用は295万円/ha(*37)と、山元立木価格を上回っている(資料2-20)。

この収支構造を改善し、森林資源と林業経営の持続性を確保していくためには、丸太の販売単価の上昇に加え、伐出・運材や育林の生産性向上、低コスト化などにより、林業経営の効率化を図ることが重要な課題となっている。


(*35)素材出材量を320m3/ha(林野庁「森林資源の現況(令和4年3月31日現在)」におけるスギ10齢級の総林分材積を同齢級の総森林面積で除した平均材積427m3/haに利用率0.75を乗じた値)とし、中丸太(製材用材)、合板用材、チップ用材で3分の1ずつ販売されたものと仮定して、「令和6年木材需給報告書」の価格に基づいて試算。

(*36)一般財団法人日本不動産研究所「山林素地及び山元立木価格調(令和6(2024)年)」に基づいて試算(素材出材量を320m3/haと仮定し、スギ山元立木価格4,127円/m3を乗じて算出。)。山元立木価格の推移については、第1節(1)102ページを参照。

(*37)森林整備事業の令和6(2024)年度標準単価を用い、スギ3,000本/ha植栽、下刈り5回、獣害防護柵400mとして試算。



(ア)施業の集約化

(施業の集約化の必要性)

我が国の人工林は、本格的な利用期を迎えているが、山元立木価格の⾧期低迷等に起因し、森林所有者の林業経営への関心が薄れていることなどにより、適切な利用がされていない人工林も存在する。森林所有者の関心を高めるためには、森林所有者の利益を確保していくことが重要であり、生産性向上やコスト低減、販売力の強化などを図る必要がある。

具体的には、隣接する複数の森林所有者が所有する森林を取りまとめて路網整備や間伐などの森林施業を一体的に実施する「施業の集約化」により、作業箇所をまとめ、路網の合理的な配置や高性能林業機械を効果的に使った作業を可能とするとともに、径級や質のそろった木材をまとめて供給するなど需要者のニーズに応えつつ、供給側が一定の価格決定力を有するようにしていくことが重要である。

私有林人工林において、令和5(2023)年度時点の集積・集約化された面積は約4割(約268万ha)となっており、林野庁は、令和12(2030)年度までに約5割(約320万ha)を集積・集約化させる目標を設定している(*38)。


(*38)林野庁森林利用課調べ。



(森林経営計画制度)

森林所有者又は森林の経営の委託を受けた者がたてる「森林経営計画」

森林法に基づく森林経営計画制度では、森林の経営を自ら行う森林所有者又は森林の経営の委託を受けた者は、林班(*39)又は隣接する複数林班の面積の2分の1以上の森林を対象とする場合(林班計画)や、市町村が定める一定区域において30ha以上の森林を対象とする場合(区域計画)、所有する森林の面積が100ha以上の場合(属人計画)に、自ら経営する森林について森林の施業及び保護の実施に関する事項等を内容とする森林経営計画を作成し、市町村⾧の認定を受けることができる。森林経営計画の認定を受けた者は、計画に基づく造林、間伐等の施業に対し、森林環境保全直接支援事業による支援や税制特例などを受けることができる。

近年、森林所有者の高齢化や相続による世代交代などが進んでおり、森林所有者の特定や森林境界の明確化に多大な労力を要していることから、令和6(2024)年3月末時点の全国の森林経営計画作成面積は467万haで、民有林面積の27%にとどまっている(*40)。

また、森林経営計画の作成に資するよう、各都道府県では、林野庁が発出した森林関連情報の提供等に関する通知(*41)に基づき、林業経営体に対して森林簿、森林基本図、森林計画図等の情報の提供に取り組んでいる。


(*39)原則として、天然地形又は地物をもって区分した森林区画の単位(面積はおおむね60ha)。

(*40)林野庁計画課調べ。

(*41)「森林の経営の受委託、森林施業の集約化等の促進に関する森林関連情報の提供及び整備について」(平成24(2012)年3月30日付け23林整計第339号林野庁⾧官通知)



(所有者特定、境界明確化等に向けた取組)

森林法により、平成24(2012)年度から、新たに森林の土地の所有者となった者に対しては、市町村⾧への届出が義務付けられている(*42)。その際、把握された森林所有者等に関する情報を行政機関内部で利用するとともに、他の行政機関に、森林所有者等の把握に必要な情報の提供を求めることが可能になった(*43)。

また、林野庁は、平成22(2010)年度から外国資本による森林取得について調査を行っている。令和5(2023)年における外国資本による森林取得の事例(*44)について、居住地が海外にある外国法人又は外国人と思われる者による取得事例は、33件(134ha)であり、利用目的は資産保有、別荘購入等となっている。なお、同調査において、これまで無許可開発など森林法上特に問題となる事例の報告はされていない。

国土調査法に基づく地籍調査は、令和5(2023)年度末時点での進捗状況が宅地で52%、農用地で71%であるのに対して、林地(*45)では47%にとどまっている(*46)。このような中、国土交通省では、リモートセンシングデータを活用した調査手法の活用を促進するなど、山村部における地籍調査の迅速かつ効率的な実施を図っている。林野庁は、平成21(2009)年度から、森林整備地域活動支援対策により、森林境界の明確化を支援している。令和2(2020)年度からは、リモートセンシングデータを活用した測量、令和4(2022)年度からは、性能の高い機器を用いて基準点等と結合する測量への支援を新たに開始した。これら森林境界明確化と地籍調査の成果等が相互に活用されるよう、国土交通省と連携しながら、都道府県、市町村における林務担当部局と地籍調査担当部局の連携を促している。このほか現場では、境界の明確化に当たり、森林GISや全球測位衛星システム(GNSS)、ドローン等を活用した取組が実施されている。


(*42)「森林の土地の所有者となった旨の届出制度の運用について」(平成24(2012)年3月26日付け23林整計第312号林野庁⾧官通知)

(*43)「森林法に基づく行政機関による森林所有者等に関する情報の利用等について」(平成23(2011)年4月22日付け23林整計第26号林野庁⾧官通知)

(*44)林野庁プレスリリース「外国資本による森林取得に関する調査の結果について」(令和6(2024)年7月19日付け)

(*45)地籍調査では、私有林のほか、公有林も対象となっている。

(*46)国土交通省ホームページ「全国の地籍調査の実施状況」



(所有者不明森林への対応)

我が国では、相続に伴う所有権の移転登記が行われていないことなどから所有者が不明になっている森林が生じている。

所有者不明森林については、適切な経営管理がなされないだけでなく、施業の集約化を行う際の障害となっている。令和元(2019)年に内閣府が実施した「森林と生活に関する世論調査」で、所有者不明森林の取扱いについて尋ねたところ、「間伐等何らかの手入れを行うべき」との意見が91%に上った。

森林経営管理制度(*47)の運用において、市町村により意向調査や境界確認が行われているが、森林所有者が不明な場合には、一定の手続を経て、市町村が経営管理権を設定できることとする特例措置が講じられており、林野庁では、令和6(2024)年4月に「所有者不明森林等の特例措置活用のためのガイドライン」を改訂した。同ガイドラインでは、特例措置活用の留意点をQ&A形式で整理するとともに、活用場面をケーススタディで紹介している。令和5(2023)年度までに156市町村で森林所有者の探索を実施し、探索を行った所有者約10,500人のうち、判明した所有者は約5,800人となっている。また、令和6(2024)年度末までに12市町において特例措置が活用されている。

令和5(2023)年度からは、所有者不明土地の発生の抑制を図るため、相続等により取得した土地を国庫に帰属させる「相続土地国庫帰属制度(*48)」の運用が開始されるとともに、市町村においては、森林所有者自らでは管理できない森林等を公有化する取組もみられる。

また、不動産登記法の改正により、令和6(2024)年4月から、相続によって不動産を取得したことを知った日から3年以内に相続登記の申請を行うことが義務化されている。


(*47)森林経営管理制度については、第1章第2節(5)65-66ページを参照。

(*48)相続土地国庫帰属制度については、第4章第2節(2)204ページを参照。



(林地台帳制度)

森林法により、市町村が森林の土地の所有者や林地の境界に関する情報などを記載した林地台帳を作成し、その内容の一部を公表する制度が措置されており、一元的に蓄積された情報を森林経営の集積・集約化を進める林業経営体へ提供することが可能となっている。市町村は、林地台帳の森林所有者情報を更新する際には、固定資産課税台帳の情報を内部利用することが可能となっており、台帳の精度向上を図ることができる。


(森林情報の高度利用に向けた取組)

高精度な森林資源情報等の公開について

森林資源等に関する情報を市町村や林業経営体などの関係者間で効率的に共有するため、都道府県において森林クラウド(*49)の導入が進んでおり、令和6(2024)年3月末時点で、39都道府県において導入されている。くわえて、高精度の航空レーザ計測等によるデータの取得・解析が複数の地方公共団体で実施され、この情報を森林クラウドに集積する取組も進んでいる(資料2-21)。林野庁は、航空レーザ計測を実施した民有林面積の割合を、令和8(2026)年度までに80%とする目標を設定しており、令和6(2024)年3月末時点で63%の進捗となっている。

また、林野庁では、森林・林業に関するアプリ開発を行う大学発ベンチャーなど民間企業等における森林資源情報の更なる活用に向け、令和5(2023)年度から森林資源情報をオープンデータとする取組を開始した。令和5(2023)年度には、栃木県、兵庫県及び高知県について、各県の協力の下、航空レーザ計測による森林資源情報をG空間情報センターにおいて公開し、活用実績の創出や公開データに対する意見の聴取をする実証を行った。令和6(2024)年度は、富山県、鳥取県及び愛媛県において森林資源情報を公開するとともに、林野庁が令和6年能登半島地震への対応で整備したデータも公開した。引き続き、民間企業等と意見交換をしながら、利用者ニーズに応える形で、森林資源情報を全国的に公開していくこととしている。

資料2-21 森林クラウドを活用した森林施業の集約化のイメージ

(*49)クラウドとは、従来は利用者が手元のコンピューターで利用していたデータやアプリケーションなどのコンピューター資源をネットワーク経由で利用する仕組みのこと。



(施業の集約化を担う人材)

施業の集約化に関し、専門的な技能を有する「森林施業プランナー」は、森林経営計画の作成や森林経営管理制度の運用において重要な役割を担っている。施業の集約化の推進に当たって、森林施業プランナーによる「提案型集約化施業(*50)」が行われている。

令和7(2025)年3月末時点の現役認定者数は全国で2,385人であり、林野庁は、令和12(2030)年度までに3,500人とする目標を設定し、森林組合や民間事業体の職員等を対象とした研修等の実施を支援している。


(*50)施業の集約化に当たり、林業経営体が森林所有者に対して、施業の方針や事業を実施した場合の収支を明らかにした「施業提案書」を提示して、森林所有者へ施業の実施を働き掛ける手法。



(持続的な林業経営を担う人材)

今後、主伐・再造林の増加や木材の有利販売等の林業経営上の新たな課題に対応するためには、林業経営体の経営力の強化が必要である。林野庁は令和2(2020)年度から、持続的な経営を実践する者として「森林経営プランナー」の育成を開始しているところであり、令和7(2025)年度までに現役人数を500人とする目標を設定している。令和7(2025)年3月末時点で194人が認定され、人材育成を重視した組織経営や木材価値の向上等の取組を通じ、循環型林業の実践を担っている。


(イ)「新しい林業」に向けて

(「新しい林業」への取組)

「新しい林業」について

林業を支える高性能林業機械

林業は、造林から収穫まで⾧期間を要し、自然条件下での人力作業が多いという特性があり、このことが低い生産性や安全性の一因となっており、これを抜本的に改善していく必要がある。これまで、高性能林業機械の導入による生産性の向上等、様々な取組が行われてきた。さらに、森林・林業基本計画では、従来の施業等を見直し、エリートツリー(*51)、自動運転や遠隔操作の機能を有する林業機械の導入等の新技術の活用により、伐採から再造林・保育に至る収支のプラス転換を可能とする「新しい林業」に向けた取組を推進することとしている(資料2-22)。

同計画の検討において、林野庁は施業地1ha当たりのコスト構造の収支試算を行っており、現時点で実装可能な取組による「近い将来」では、作業員賃金を向上させた上で71万円の黒字化が可能と試算された。さらに「新しい林業」では、113万円の黒字化が可能と試算された(*52)。林野庁では、令和4(2022)年度から、全国12か所において、新たな技術の導入による伐採・造林の省力化や、情報通信技術(ICT)を活用した需要に応じた木材生産・販売等、収益性の向上につながる経営モデルの実証事業を行い、「新しい林業」の経営モデルの構築・普及の取組を支援している(事例2-3)。

資料2-22 「新しい林業」に向け期待される新技術

事例2-3 「新しい林業」に向けた経営モデル実証の取組

バイオマスパワーテクノロジーズ株式会社(三重県松阪(まつさか)市)、株式会社玉木材(奈良県五條(ごじょう)市)、株式会社古家園(三重県大台町(おおだいちょう))は、京阪奈(けいはんな)地区及び三重地区において、需要地の製材工場や地域密着型の工務店と相互に連携しながら、地域経済の活性化に貢献し、資源循環型経済の構築に寄与する「地方創生型SDGs林業」の実証を進めている。

同実証事業においては、地上レーザを用いた森林調査、新たな架線集材等による素材生産、種苗事業者と連携し、センダン、ウバメガシ、ミズナラ、クヌギ等の広葉樹とスギ、ヒノキ、アカマツ等の針葉樹を組み合わせて植栽するといった多様な樹種による再造林等を進めている。

素材生産では、吉野地域において、ウッドライナー(自走式搬器)等を用いた架線集材を導入したことにより、素材生産コストは11,924円/m3となり、従来のヘリ集材の27,800円/m3と比べて半分以下となった。

再造林では、吉野地域はシカによる被害が甚大であり、平成20(2008)年以降に植林したスギ、ヒノキ等が健全に生育していない状況を踏まえて、地上レーザ等を使用し得られた森林情報を活用し、地形条件を考慮した上で、「獣害防護柵による対策」を実施する区画と「ヘキサチューブによる単木保護」を実施する区画を組み合わせた造林計画を立案した。この結果、シカの歩き道を設けるなどの工夫をして防護柵を設置した箇所及びヘキサチューブを設置した箇所において、共に被害が大きく減少し、双方において獣害防止効果が確認できた。架線集材後に獣害対策資材や苗木を荷上げするといった素材生産と再造林を一体的に行う施業により、獣害対策から地拵(ごしら)え、植栽、下刈り・除伐1回までの造林初期費用は191万円/haとなり、従来の費用から60%程度削減された箇所もあった。今後は植栽木の生育状況や獣害防護柵の被害有無について、玉木材社員が自らドローンを操作し定期的に撮影・確認していくことで森林の適切な維持・管理を進めていく計画としている。

また、生産した木材の流通においては、独自の販路開拓と収益源の多角化に向けて需要者との連携を進めており、同地区の製材工場や工務店との意見交換等を通じて、高品質・高価格製品の流通の仕組みづくりに取り組んでいる。


(*51)エリートツリーについては、第1章第2節(2)61-62ページを参照。

(*52)試算結果については、「令和2年度森林及び林業の動向」特集1第5節49ページを参照。



(「新しい林業」を支える先端技術等の導入)

林野庁は、森林・林業基本計画や、令和4(2022)年に改定した「林業イノベーション現場実装推進プログラム」に基づき、ICT等を活用して資源管理・生産管理を行うスマート林業や、先端技術を活用した林業機械開発などを推進しており、ICTやAIなどの先端技術を活用した自動運転や遠隔操作の機能を有する林業機械の開発・実証が進められている。林野庁では、令和7(2025)年度までに自動化等の機能を持った林業機械等が8件実用化されることを目標としており、令和6(2024)年度末時点で5件が実用化に至っている。

また、「デジタル田園都市国家構想総合戦略」(令和4(2022)年12月閣議決定)等に基づき、令和5(2023)年度から「デジタル林業戦略拠点」の創出を推進している。

デジタル林業戦略拠点では、行政機関、森林組合や林業事業者などの原木供給者、製材工場等の原木需要者に加えて、大学・研究機関、金融機関等の多様な関係者で構成される地域コンソーシアムが主体となり、地域一体で森林調査から原木の生産・流通に至る林業活動の複数の工程でデジタル技術をフル活用することとしており、北海道、静岡県、鳥取県の3地域で取組が進められている(資料2-23)。また、地域の取組を伴走支援するため、林業イノベーションハブセンター(通称:森ハブ)からコーディネーターを派遣し、地域一体となったデジタル技術の活用を推進している。林野庁では、令和9(2027)年度までに、全都道府県においてデジタル林業戦略拠点構築に向けた取組を実施することを目標としている。

さらに、エリートツリー等の種苗についても、根圏制御栽培法(*53)によるスギ種子生産等、現場への普及・拡大に向けた取組が進められているほか、花粉の少ない苗木を早期に大量に得るために、細胞増殖技術を活用してスギの未熟種子からスギ苗木を大量増産する技術の開発も進められている。


(*53)コンテナ等に母樹を植えて、根の広がりを制御し、かん水を調整することで早期に種子を実らせる技術。



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