第1章 森林の整備・保全
1.森林の適正な整備・保全の推進






(1)我が国の森林の状況と多⾯的機能
森林の多⾯的機能がSDGsや2050年カーボンニュートラル等の⽬標達成、GXの実現、国⼟強靱化に寄与
➢ 森林⾯積は国⼟⾯積の約3分の2。このうち約4割を占める⼈⼯林は、約6割が50年⽣を超え、本格的な利⽤期
➢ 森林蓄積は⼈⼯林を中⼼に年々増加し、2022年3⽉末時点で約56億m3。森林は、⼭地災害の防⽌、⽔源涵養、地球温暖化の防⽌、林産物の供給等の多⾯的機能を通じて、国⺠⽣活・国⺠経済に貢献
➢ 森林の多⾯的機能がSDGsや2050年カーボンニュートラルの⽬標達成に寄与。⽊材を建築物等で利⽤することで炭素が⻑期間貯蔵されることも期待
➢ クリーンエネルギー中⼼の産業構造・社会構造に転換する「グリーントランスフォーメーション(GX)」の実現に向けて、吸収源の機能強化と森林由来素材を活かしたイノベーションを促進
➢ 災害に対する国⼟の強靱化に向けて、きめ細かな治⼭ダムの配置等による⼟砂流出の抑制や再造林の確実な実施等を⾏うことで、森林の国⼟保全機能の維持・発揮を推進
(2)森林の適正な整備・保全のための森林計画制度
全国森林計画等により、森林の整備・保全を計画的に推進
➢ 「森林・林業基本計画」(2021年6⽉閣議決定)では、森林の整備・保全や林業・⽊材産業等の事業活動等の指針とするための「森林の有する多⾯的機能の発揮」並びに「林産物の供給及び利⽤」に関する⽬標や、森林及び林業に関し、政府が総合的かつ計画的に講ずべき施策等を規定
➢ 森林法に基づく全国森林計画(2023年10⽉閣議決定)や、地域森林計画、市町村森林整備計画等により、森林の整備・保全を計画的に推進
(3)研究・技術開発及び普及の推進
林業イノベーションを推進するため、「森ハブ・プラットフォーム」を開設
➢ 「森林・林業・⽊材産業分野の研究・技術開発戦略」において、造林等の低コスト化、気候変動への対応、CLTの利活⽤技術の開発等、研究・技術開発における対応⽅向等を明確化
➢ 「林業イノベーション現場実装推進プログラム」(2019年12⽉策定、2022年7⽉アップデート)を踏まえて、林業イノベーションを推進するために必要な組織・⼈材・情報が集まる場として、2023年9⽉に「森ハブ・プラットフォーム」を開設し、事業者間のマッチング等を推進
➢ 「みどりの⾷料システム戦略」(2021年5⽉農林⽔産省策定)では、エリートツリー等の開発・普及、⾃動化林業機械の開発等を推進
➢ 林業普及指導員は技術・知識の普及、施業等に関する指導等を実施
➢ 森林・林業に関する専⾨知識・技術を有し、地域の森林づくりの全体像を⽰すとともに、市町村の森林⾏政を技術的に⽀援する⼈材として、「森林総合監理⼠(フォレスター)」を育成。2024年3⽉末時点で1,686名が登録
2.森林整備の動向






(1)森林整備の推進状況
森林の多⾯的機能の発揮に向け、間伐や再造林等の森林整備を推進
➢ 森林の多⾯的機能の発揮に向け、間伐や主伐後の再造林等の森林整備を着実に⾏うことが必要。また、⾃然条件等に応じて針広混交林化を図るなど、多様で健全な森林への誘導も必要
➢ 2030年度の森林吸収量⽬標約2.7%(2013年度総排出量⽐)の達成や、2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、森林吸収量の確保・強化が必要。他⽅、⼆酸化炭素吸収量は減少傾向にあり、主伐後の再造林が進んでいないことも課題
➢ 森林所有者等による間伐、再造林、路網整備等を森林整備事業により⽀援
➢ 適正な森林施業を確保するため、伐採造林届出制度を運⽤
➢ また、再造林の推進に向けて、都道府県や市町村における造林適地の選定を促進
(2)優良種苗の安定的な供給
吸収量の向上、育林の効率化等に向け、成⻑に優れた種苗の供給を推進
➢ 我が国における2022年度の苗⽊の⽣産量は、約6,700万本。再造林を推進するため、苗⽊の安定供給が⼀層重要
➢ 成⻑に優れたエリートツリー等について、成⻑量、材質、花粉量が⼀定の基準を満たすものを特定⺟樹として、538種類(2024年3⽉)を指定。特定⺟樹を増殖する事業者の認定や採種園・採穂園の整備を推進
(3)路網の整備
森林整備の基盤となる路網の整備や路網の強靱化・⻑寿命化を推進
➢ 効率的な森林施業や⽊材の安定供給に対応した林道など、森林整備の基盤となる路網整備を推進
➢ ⼭地災害の激甚化や⾛⾏⾞両の⼤型化に対応するため、路網の強靱化・⻑寿命化を推進

(4)森林経営管理制度及び森林環境税・森林環境譲与税
森林経営管理制度による経営管理の受委託や森林環境譲与税の活⽤額は年々増加
森林経営管理制度
➢ 森林経営管理制度は、森林所有者⾃らでは森林の経営管理を⾏うことができない場合に、市町村が森林所有者から経営管理を受託し、林業経営に適した森林は地域の⺠間事業者に再委託するとともに、林業経営に適さない森林は市町村が公的に管理する仕組み
➢ 2022年度末までに、1,070市町村において、約81万haの意向調査が実施。回答があったもののうち、約4割について市町村への委託希望あり
➢ また、累計で337市町村が、森林所有者から経営管理を受託する経営管理権集積計画を策定(2022年度末 15,658ha)。70市町村が、林業経営者に再委託する経営管理実施権配分計画を策定(2022年度末 2,150ha)。いずれの⾯積も、前年度末から約1.7~2倍に増加
➢ このほか、⺠間事業者へあっせん、協定の締結、独⾃補助の活⽤等といった、集積計画によらない⼿法もあわせて、市町村への委託希望のうち、約6割で森林整備につながる動き
森林環境税・森林環境譲与税
➢ 2019年3⽉に森林環境税及び森林環境譲与税が創設。森林環境譲与税については、森林経営管理制度の導⼊に合わせて2019年度から市町村及び都道府県への譲与開始、森林環境税は2024年度から課税
➢ 森林環境譲与税の譲与額は段階的に引き上げられ、2023年度は500億円。活⽤額は年々増加してきており、2023年度の活⽤予定は537億円。間伐等の森林整備⾯積が2022年度は初年度の約7倍となるとともに、上下流などの地⽅公共団体間の連携による取組も進展
➢ 譲与基準について、2024年度から私有林⼈⼯林⾯積の譲与割合を55/100(現⾏:5/10)、⼈⼝の譲与割合を25/100(現⾏:3/10)とする⾒直しを実施
市町村に対する⽀援
➢ 国は地域林政アドバイザーの活⽤推進等により市町村の体制整備を⽀援
(5)社会全体で支える森林(もり)づくり
多様な主体による森林(もり)づくりや、森林分野のクレジット化等の取組を推進
➢ 「第73回全国植樹祭」は岩⼿県、「第46回全国育樹祭」は茨城県で開催
➢ 「森林×脱炭素チャレンジ」により、カーボンニュートラルへの貢献等の視点から企業等による森林(もり)づくりを促進
➢ J-クレジット制度における森林管理プロジェクトのクレジット認証量は62.6万CO2トン(2024年3⽉時点)となり、昨年度より44.8万CO2トン増加の⼤幅な伸び
➢ ⾝近な森林を活⽤した森林環境教育に取り組む保育所等が増加
3.森林保全の動向





(1)保安林等の管理及び保全
保安林制度等を適切に運⽤するとともに、盛⼟等による災害防⽌に向けた取組を推進
➢ 公益的機能の発揮が特に要請される森林を保安林に指定し、伐採、転⽤等を規制。保安林以外の森林が転⽤される場合は、林地開発許可制度を適切に運⽤
➢ ⼟地の⽤途(宅地、森林、農地等)にかかわらず、危険な盛⼟等を全国⼀律の基準で包括的に規制する「宅地造成及び特定盛⼟等規制法」(盛⼟規制法)が2023年5⽉に施⾏
(2)山地災害等への対応
早期復旧に向けた迅速な対応を⾏うとともに、防災・減災、国⼟強靭化に向けた取組を推進
➢ 2023年に発⽣した⼭地災害等に伴う被害額は、934億円。短時間強⾬の増加とともに、線状降⽔帯の発⽣等により総降⽔量が増加し、⼭地災害が激甚化
➢ ⼤規模な被害が発⽣した地域には、ヘリ等を活⽤した被害状況調査や林野庁職員の派遣(MAFF-SAT)等の技術的⽀援及び災害復旧等事業を実施
➢ 「防災・減災、国⼟強靱化のための5か年加速化対策」(2020年12⽉閣議決定)等に基づき、治⼭対策や森林整備を推進
➢ これらの取組により、森林の維持・造成を通じて森林の機能を維持・向上させ、⼭地災害等から国⺠の⽣命・財産を守ることに寄与
(3)森林における生物多様性の保全
多様な森林づくり、原⽣的な森林⽣態系の保護・管理等を推進し、⽣物多様性を保全
➢ 針広混交林化、⻑伐期化等による多様な森林づくり、原⽣的な森林⽣態系の保護・管理等を推進し、⽣物多様性を保全。世界遺産、ユネスコエコパークにおいても森林の適切な保護・管理等を推進
➢ ⽣物多様性保全に対する⺠間企業の関⼼の⾼まりを受け、⽣物多様性保全に資する森林管理のあり⽅を検討し、林業事業体等向けの「森林の⽣物多様性を⾼めるための林業経営の指針」を2024年3⽉に取りまとめ
(4)森林被害対策の推進
野⽣⿃獣被害や、松くい⾍被害、ナラ枯れ被害等への対策を実施
➢ 野⽣⿃獣による森林被害は依然として深刻であり、約7割がシカによる被害
➢ 防護柵の設置等による植栽⽊の防護、捕獲等の対策を総合的に推進。2022年度は約71.7万頭(前年度⽐1.1%減)のシカを捕獲したが、2028年度までの半減⽬標達成に向けて、シカの⽣息頭数が増えている地域等を中⼼に捕獲を強化
➢ 松くい⾍被害は、⻑期的に減少傾向にあるものの、我が国最⼤の森林病害⾍被害であり、抵抗性マツの苗⽊⽣産、薬剤等による予防、被害⽊の伐倒による駆除等を実施
➢ ナラ枯れ被害は近年、⾼⽔準で推移しており、特に守るべき樹⽊及びその周辺において、粘着剤の塗布やビニールシート被覆による侵⼊予防、被害⽊くん蒸による駆除等を実施
➢ 本州各地でツヤハダゴマダラカミキリの⽣息が確認され、関係省庁と地⽅公共団体が監視を強化。2023年9⽉に特定外来⽣物に指定されたことから、飼養や運搬の禁⽌等を周知
4.国際的な取組の推進





(1)持続可能な森林経営の推進
世界の森林⾯積は依然として減少傾向、我が国は持続可能な森林経営に向けた取組を推進
➢ 2020年の世界の森林⾯積は41億ha(陸地⾯積の31%)で、アフリカ、南⽶等の熱帯林を中⼼に依然として減少傾向
➢ 我が国は、国連森林フォーラム(UNFF)、モントリオール・プロセス等の国際対話に積極的に参画し、持続可能な森林経営に向けた取組を推進
➢ 持続可能な森林経営がされていることを認証する森林認証は、国際的なFSC認証とPEFC認証、我が国独⾃のSGEC認証(PEFC認証と相互承認)等が存在。我が国の認証森林の割合は1割程度であり、認証⾯積は増加傾向
(2)地球温暖化対策と森林
地球温暖化対策計画の⽬標達成に向け、森林吸収源対策を推進
➢ 2050年カーボンニュートラル等の実現に向け、地球温暖化対策計画(2021年10⽉閣議決定)では、2030年度の我が国の温室効果ガス排出削減⽬標を46%(2013年度総排出量⽐)、森林吸収量の⽬標を約2.7%に設定
➢ この⽬標の達成に向け、間伐やエリートツリー等も活⽤した再造林等の森林整備、⽊材利⽤の推進等の森林吸収源対策を着実に実施する必要
➢ 開発途上国の森林減少及び劣化に由来する排出の削減等(REDD+)の取組や、気候変動適応計画(2023年5⽉閣議決定)等に基づく適応策を推進

(3)⽣物多様性に関する国際的な議論
2030年までの新たな世界⽬標である「昆明・モントリオール⽣物多様性枠組」が採択
➢ 2022年に開催されたCOP15の第⼆部において、2030年までの新たな⽣物多様性に関する世界⽬標である「昆明・モントリオール⽣物多様性枠組」が採択

(4)我が国の国際協力
JICAを通じた技術協⼒や、国際機関を通じたプロジェクトを実施
➢ JICAを通じた技術協⼒や、資⾦協⼒等の⼆国間協⼒、国際機関(FAO、ITTO)を通じたプロジェクトの実施等の多国間協⼒等により、対象国における持続可能な森林経営や⽊材利⽤拡⼤、合法性・持続可能性が確保された⽊材等の流通体制の構築、気候変動対策、森林保全、⼭地災害対策等の推進に貢献

事例 ケニア乾燥・半乾燥地域における⻑根苗植林技術の開発
➢ 国⼟の80%が乾燥・半乾燥地であるケニアにおいて、公益財団法⼈国際緑化推進センター(JIFPRO)が林野庁補助事業の下、厳しい乾燥にも耐えられる⻑根苗の技術開発と普及を実施
➢ 2022年度から参画したコマツの建設機械により、70⼾以上の⼩規模農家の保有地で⻑根苗植林活動を通じた技術実証を展開
お問合せ先
林政部企画課
担当者:年次報告班
代表:03-3502-8111(内線6061)
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