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林野庁

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第1部 特集 第3節 気候変動による山地災害の激甚化・形態変化(2)

(2)山地災害の激甚化・形態変化とその対応方針

(山地災害の激甚化・形態変化の分析)

我が国の国土は、豊かな森に覆われるようになったことなどにより山地災害の発生が大幅に減少したが、一方で全国的に山地災害の1箇所当たりの規模は増大傾向にあるなど、近年の気候変動に伴う大雨の激化・頻発化により、山地災害が激甚化するとともに、発生形態も変化しつつあるとみられる(資料 特-18)。


実際に、近年発生した大規模な豪雨災害をみると、「平成29年7月九州北部豪雨」による大規模な流木災害や、「平成30年7月豪雨」による土石流の多発は、多くの犠牲者を出した。また、「令和元年東日本台風」や「令和2年7月豪雨」では、山地災害の発生に加え、広い範囲で河川の氾濫が発生した。

また、平成28(2016)年台風第10号が昭和26(1951)年の統計開始以降初めて東北地方太平洋側に上陸した台風となったほか、これまで山地災害が比較的少なかった青森県において令和3(2021)年及び令和4(2022)年に連続して流木を伴う山地災害が発生するなど、山地災害は全国各地で発生している。

今後の治山対策においては、このような気候変動の影響に対応するため、森林の国土保全機能の更なる高度発揮に資する取組を強化するとともに、山地災害発生のリスクがより高い箇所については、治山施設の効果的な整備等を推進するなど、激甚化する山地災害・洪水被害に対して地域の安全・安心を確保していく事前防災対策が重要となっている。

このような中、林野庁では、近年の山地災害の特徴を詳細に分析・把握するとともに、より効果的・効率的な対策を検討するため、令和2(2020)年度に学識経験者を交えて「豪雨災害に関する今後の治山対策の在り方に関する検討会」を開催し、令和3(2021)年3月に、激甚化する山地災害・洪水被害に対応するため、重点的に取り組むべき治山対策の方向性を取りまとめた。この中で、特に、近年発生した山地災害で顕著となっているものとして以下の特徴が挙げられた。

(ア)表層よりもやや深い層からの崩壊の発生

(イ)流量増による渓流の縦横侵食量の増加

(ウ)線状降水帯の発生等による山地災害の同時多発化

(エ)洪水流量の増加による流木災害の激甚化

今後の気候変動によっても同様の特徴を有する山地災害が発生することが懸念されることから、治山対策により以下の(ア)から(ウ)までの取組を強化するとともに、(エ)についても、流域におけるいわば多重防御施策の一つとして取り組むことで洪水被害等の防止・軽減に貢献していくべきと提言された。今後の治山対策については、本提言を踏まえて実施するとともに、状況に応じて砂防事業等の治水対策と連携するなどにより、効果的・効率的に進めていくこととしている。


(ア)表層よりもやや深い層からの崩壊の発生

森林の表層崩壊防止機能が高まり山地災害の発生件数が減少傾向となっている一方で、多量の雨水が短時間で森林内の凹地形へ集中し、森林土壌の深い層まで雨水が浸透することにより、表層よりもやや深いところにあって、樹木の根が入り込んでいない層からの崩壊が発生するようになっている。こうした現象が集落等から遠い奥地でとどまる程度の規模であれば直ちに対策をとる必要性は低いが、崩壊土砂が大量の土砂・流木を伴って流下するケースもあることから、下流の集落等に大きな被害を与えるおそれがある場合は、発生源の対策や監視に取り組む必要がある。

このため、対策や監視が必要な箇所の抽出については、リモートセンシング技術の有効活用により、過去の山地災害の履歴や湧水の痕跡等、崩壊の起点となりうる微地形を判読し、人家等の集中度合いにも着目しつつ、災害発生のポテンシャルの高い箇所を抽出していく。対策が必要な箇所については、雨水の分散や排水、斜面の安定を図るため、筋工、柵工(さくこう)、斜面補強土工等を設置する(資料 特-19)。

資料 特-19 表層よりもやや深い層からの崩壊の発生とその対応方向
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(イ)渓流の縦横侵食量の増加

降水形態の変化により渓流における流量等が増加していることに伴い、渓流の縦・横方向ともに侵食量が増加し、渓岸が不安定化するとともに土砂の流出量が増加することや、渓流内・渓流沿いの立木が流木化するリスクが高まっていることが懸念される。

このため、集落等の近接地では土石流の衝撃にも耐え得る断面の厚い治山ダムを設置し、また、集落から遠い区域では比較的規模の小さい治山ダムを階段状に設置して渓流の侵食を防止し、山腹斜面の安定化を図るなど、渓流の状況に応じてタイプの異なる治山ダムを効果的に組み合わせて渓流全体を安定化させる。

さらに、流木発生に対しては、流木捕捉式治山ダムの設置等により流出を防ぐ対策を推進するとともに、渓流沿いの立木で侵食を受けて根が浮くなどして流木化のおそれがある危険木を事前に伐採し、伐採跡地は周辺樹種の自然導入を図ることなどにより林相転換を図る(資料 特-20)。

資料 特-20 渓流の侵食量の増加とその対応方向
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(ウ)線状降水帯の発生等による山地災害の同時多発化

近年の豪雨災害では、線状降水帯が発生した地域において山地災害が多発している。例えば、「平成30年7月豪雨」では広島県で約7,600か所、「令和2年7月豪雨」では熊本県で約900か所の山地災害が発生した。今後も、気候変動の影響により比較的広範囲にわたって線状降水帯等が発生するおそれがあり、これに伴って、激甚な山地災害が各地で同時多発的に発生することが懸念されている(資料 特-21)。

このことを踏まえ、土石流等の発生危険度が特に高い地区を対象に、治山対策の実施率を高めるとともに、かさ上げ・増厚等による既存施設の有効活用も推進する。


(エ)洪水被害・流木災害の激甚化

大雨の激化・頻発化により洪水被害が甚大になることが懸念される中、流域視点の治水対策を進めていく上で、森林域においては、浸透能・保水力を有する森林土壌の保持に向けた対策が重要となる。こうした対策を通じ、流域全体として洪水の流出遅延効果を発揮させ降雨のピークから流出までの時間を稼ぐことは、地域住民の避難に要する時間の確保にもつながる。また、河川における通水が阻害されないよう土砂・流木の流出を抑制する対策も重要となる(資料 特-22)。

資料 特-22 流木災害の激甚化
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このため、機能の低下した森林の分布状況を流域レベルで把握し、対策を優先すべき箇所を抽出した上で、保安林整備と筋工等の簡易な土木的工法の組合せにより、森林土壌の移動を抑え、保持する対策を推進する。また、渓流域の危険木の除去や流木捕捉式治山ダムの設置等により流木の発生・流出を抑えるとともに、治山ダム群の整備による土砂流出の抑制も推進する。

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