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林野庁

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第1部 特集 第2節 これまでの治山事業の取組と成果(2)

(2)治山対策と森林整備による山地災害の減少

(森林の回復により表面侵食は減少)

治山対策と森林整備の推進により、全国各地の裸地・荒廃地において森林が回復・成長したことで、表面侵食は著しく減少した。

表面侵食を減少させる効果を実際に計測した例として、滋賀県南部の風化花崗岩地帯における調査では、1km2当たりの年間流出土砂量について、裸地では5,000~10,000m3だったものが、山腹工を施工することで15m3程度になり、長期的にみると3m3以下へと減少した(資料 特-11)。これは、階段状の山腹工により土砂の移動が抑えられ、さらに森林が成長することによって土砂の移動を止める効果が長期間継続するとともに、土壌表面が樹冠、下草や落葉等に覆われ表面侵食防止機能が高まっていくことを示していると考えられる。

資料 特-11 風化花崗岩地帯における裸地と林地の土砂流出量

(地域単位でみた治山対策の効果)

森林の回復・成長に伴い、過去の豪雨と同等の降雨強度でも山地災害の発生箇所数が大幅に減少していることが確認されている。長野県伊那谷(いなだに)地域では、「昭和36年梅雨前線豪雨」において800か所を超える山腹崩壊や土石流といった山地災害が発生したため、国による直轄治山事業を実施し崩壊地や荒廃渓流の復旧を進めたほか、流域全体で森林整備が進められた。現在では広く森林に覆われ、「令和2年7月豪雨」では当時と同等以上の豪雨に見舞われたが山地災害発生箇所数は58か所と大幅に減少した(資料 特-12)。また、静岡県伊豆(いず)地域でも同様に、「昭和33年狩野川台風」において5,000か所近くの山地災害が発生したが、当時と同等の豪雨に見舞われた「令和元年東日本台風(台風第19号)」では17か所にとどまった(資料 特-13)。



さらに、令和4(2022)年8月の大雨において特に被害が大きかった新潟県下越(かえつ)地方での山地災害の被害額は、同地方を襲った「昭和42年羽越豪雨」と比較して約4割に抑えられた。これは、これまでの継続的な治山対策と森林整備の実施により、森林が健全に回復・成長した成果と考えることができ、実際に、治山施設が土砂・流木の流出を抑制するとともに、土砂・流木の流下部に存在した林地が緩衝林として機能するなど、森林の防災・減災機能を発揮する状況も確認されている(資料 特-14)。


(全国的に山地災害の発生は減少)

森林が大きく回復・成長したことにより、現在では全国的にも山腹崩壊等の山地災害の発生件数は減少している。

全国の山腹崩壊地の新規発生面積で比較すると、「治山治水緊急措置法」制定前の5年間(昭和30(1955)年~34(1959)年)は年平均で約1.1万haの崩壊が発生していたのに対し、近年の状況として、西日本を中心とした全国各地で山地災害が発生した「平成30年7月豪雨」を含む平成30(2018)年においては約740ha、同年から令和4(2022)年までの5年間の年平均は約320haとなっており、約50年という歳月を経て我が国の国土は山地災害に強い状態に変化してきているといえる。

コラム 海岸防災林造成の取組

我が国の平野部の海岸線では、河川が上流の山地等から土砂を運んでくることによって砂浜海岸が発達しやすく、特に、森林荒廃が進んだ江戸時代以降には、各地で土砂供給量が増え、砂丘等からの砂が季節風等により飛砂となって農地や集落に達するなどの被害が深刻となったことから、先人たちは、潮風等に耐性があり、根の張りが良く、高く成長するマツ類を主体とする海岸防災林を造成してきた。明治以降も各地で地域特性に合わせて工夫が重ねられ、垣根等で砂の移動を止めて砂丘を形成させ、その上に植栽するなどの手法が確立された結果、海岸防災林の造成は加速した。現在、全国各地の海岸防災林は地域の暮らしや農業等の保全に重要な役割を果たしているほか、白砂青松(はくしゃせいしょう)の美しい景観を提供するなど人々の憩いの場ともなっている。

さらに、東日本大震災では、海岸防災林が津波エネルギーの減衰や到達時間の遅延、漂流物の捕捉等の被害軽減効果を発揮したことを踏まえ、被災した海岸防災林の再生を進めてきた。特に、大きな被害を受けた仙台湾沿岸の海岸防災林においては、国が直轄治山事業として沿岸の民有林及び国有林を一体的に整備し、令和2(2020)年度をもって植栽等の復旧事業が完了した。

これらの効果や復旧の取組により得られた知見等を踏まえ、現在、津波被害の軽減、飛砂害の防止等の機能が総合的に発揮される健全な海岸防災林の育成を全国的に進めている。

加賀海岸防災林造成事業(石川県加賀(かが)市)

         資料:林野庁ホームページ「後世に伝えるべき治山~よみがえる緑~」


東日本大震災において
海岸防災林が漂流物を捕捉した事例

海岸防災林復旧事業
(宮城県亘理(わたり)町)

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