第1部 第4章 第2節 国有林野事業の具体的取組(2)
(2)森林・林業の再生への貢献
(低コスト化等の実践と技術の開発・普及)
現在、森林・林業の再生に向けた造林の低コスト化等が課題となっている。国有林野事業では、平均して約2,000本/haの植栽本数となっているほか、下刈り回数・方法の見直し、情報通信技術(ICT)等を活用した効率的な森林管理、効率的なシカ防護対策、早生樹の導入等の技術の試行を進め、現地検討会の開催等により民有林における普及と定着に努めている(事例4-4)。
特にコンテナ苗の活用により、効率的かつ効果的な再造林手法の導入・普及等を進めるとともに、伐採から造林までを一体的に行う「伐採と造林の一貫作業システム(*5)」の導入・普及に取り組んでいる。この結果、国有林野事業では、令和2(2020)年度には4,396haでコンテナ苗を植栽し(資料4-4)、1,168haで伐採と造林の一貫作業を実施した。
また、ドローンを活用した、山地災害の被害状況及び事業予定のある森林の概況の調査等に取り組んでいる。
事例4-4 低コスト造林技術の実証と民有林への普及
九州森林管理局では、平成29(2017)年度に熊本南部森林管理署管内の西浦(にしうら)国有林(熊本県人吉(ひとよし)市)に「低コストモデル実証団地」を設定し、令和3(2021)年度までの5年間を試験期間として、研究機関と連携し、下刈りの省略、低密度植栽等の実証試験に取り組んだ。
本団地では、(ア)特定母樹由来の70~100cm程度のスギコンテナ苗を植栽することで、植栽後3年で植栽木の高さが雑草木よりも高くなり、翌年以降の下刈りを省略できる注可能性や、(イ)1~2年生時の下刈りにおける雑草木を刈る高さを、通常よりも高い位置(地上部から50cm程度)とすることにより、シカ被害に加えて植栽木の誤伐を低減できる可能性等が示唆された。技術の実証のため、今後も経過観察等を継続する予定である。
また、1つの団地内で様々な取組が一覧できるため、令和3(2021)年12月末までに森林・林業の幅広い関係者を集めた現地検討会等を計70回実施し、延べ来訪者数は約1,400名にのぼっており、低コストで効率的な施業が普及・定着するよう取り組むこととしている。
注:通常、植栽後5年程度は下刈りが必要。
(*5)伐採と造林の一貫作業システムについては、第2章第1節(4)114ページを参照。
(民有林と連携した施業)
国有林野事業では、民有林と連携することで事業の効率化や低コスト化等を図ることのできる地域においては、「森林共同施業団地」を設定し、民有林野と国有林野を接続する路網の整備や相互利用、連携した施業の実施、民有林材と国有林材の協調出荷等に取り組んでいる。
令和3(2021)年3月末現在、森林共同施業団地の設定箇所数は166か所、設定面積は約43万ha(うち国有林野は約23万ha)となっている(資料4-5)。
(森林・林業技術者等の育成)
近年、都道府県や市町村の林務担当職員の不在、職員の森林・林業に関する専門知識の不足等の課題がある中、国有林野事業では、専門的かつ高度な知識や技術と現場経験を有する「森林総合監理士(フォレスター)(*6)」等を系統的に育成し、森林管理署と都道府県の森林総合監理士等との連携による「技術的援助等チーム」の設置等により、市町村行政に対し「市町村森林整備計画」の策定とその達成に向けた支援等を行っている。
(*6)森林総合監理士については、第1章第1節(3)60-61ページを参照。
(森林経営管理制度への貢献)
国有林野事業では、森林経営管理制度(*7)により、市町村が集積・集約した森林の経営管理を担う林業経営者に対し、国有林野事業の受注機会の拡大に配慮するほか、市町村林務行政に対する技術的支援や公的管理の手法の普及、地域の方々の森林・林業に対する理解の促進への寄与等に取り組むこととしている。また、国有林野事業で把握している林業経営者の情報を市町村に提供している。これらの取組を通じて地域の林業経営者の育成を支援することとしている。
(*7)森林経営管理制度については、第1章第2節(2)65-67ページを参照。
(樹木採取権制度の推進)
「国有林野の管理経営に関する法律等の一部を改正する法律(*8)」が令和2(2020)年4月から施行され、効率的かつ安定的な林業経営の育成を図るために、国有林野の一定区域を樹木採取区として指定し、当該区域で一定期間、安定的に樹木を採取できる「樹木採取権制度」が創設された。樹木の採取に当たっては、国有林の伐採ルールに則り国が樹木採取区ごとに定める基準や国有林野の地域管理経営計画(*9)に適合しなければならないこととしており、公益的機能の確保に支障を来さない仕組みとしている。
令和3(2021)年度は、区域面積200~300ha程度(皆伐相当)、権利存続期間10年程度の規模の樹木採取区で公募を行い、6か所(令和4(2022)年3月現在)で樹木採取権が設定された。樹木採取権の設定を受けることにより、長期的な事業の見通しが立ち、計画的な雇用や林業機械の導入が促進され、経営基盤の強化につながることが期待される。
(*8)「国有林野の管理経営に関する法律等の一部を改正する法律」(令和元年法律第31号)
(*9)国有林野の管理経営に関する法律第6条
(林産物の安定供給)
国有林野事業から供給される木材は、国産材供給量の1割強を占めており、令和2(2020)年度の木材供給量は、立木によるものが120万m3(丸太換算)、素材(*10)によるものが269万m3となっている。
国有林野事業からの木材の供給に当たっては、集成材・合板工場や製材工場等と協定を締結し、林業事業体の計画的な実行体制の構築に資するため、国有林材の安定供給システムによる販売を進めており、令和2(2020)年度には素材の販売量全体の61%に当たる164万m3となった(資料4-6)。
さらに、国有林野事業については、全国的なネットワークを持ち、国産材供給量の1割強を供給し得るという特性を活かし、地域の木材需要が急激に変動した場合に、地域の需要に応える供給調整機能を発揮することが重要となっている。このため、平成25(2013)年度から、林野庁及び全国7つの森林管理局において、学識経験者のほか川上、川中及び川下関係者等から成る「国有林材供給調整検討委員会」を開催することにより、地域の木材需給に応じた国有林材の供給に取り組んでいる。令和3(2021)年度は、木材不足・価格高騰(いわゆるウッドショック)(*11)の影響により、国産材の需要が増加したことから、各森林管理局では、需給動向を踏まえつつ立木販売物件の前倒し販売等の対策を実施した。このほか、ヒバや木曽ヒノキなど民有林からの供給が期待しにくい樹種や広葉樹の材を供給している。
(*10)製材・合板等の原材料となる丸太。
(*11)令和3(2021)年の木材価格の動向については、特集1第1節13-14ページを参照。
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