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林野庁

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第1部 第4章 第2節 国有林野事業の具体的取組(1)

(1)公益重視の管理経営の一層の推進

(ア)重視すべき機能に応じた管理経営の推進

(重視すべき機能に応じた森林の区分と整備・保全)

国有林野事業では、管理経営基本計画に基づき公益重視の管理経営を一層推進するとの方針の下、国有林野を重視すべき機能に応じて「山地災害防止タイプ」、「自然維持タイプ」、「森林空間利用タイプ」、「快適環境形成タイプ」及び「水源涵(かん)養タイプ」の5つに区分している(資料4-2)。木材等生産機能については、これらの区分に応じた適切な施業の結果として、計画的に発揮するものと位置付けている。


また、間伐の適切な実施や主伐後の確実な更新を図るほか、針広混交林やモザイク状に配置された森林への誘導を進めるなど、多様な森林を育成するとともに、林地保全や生物多様性保全に配慮した施業に取り組んでいる(事例4-1)。

事例4-1 天然力を活用した多様な森林づくりに向けた現地検討会

北海道森林管理局管内の人工林の多くが伐期を迎える中で、針葉樹が順調に生育しているところがある一方で、広葉樹がまとまって天然更新している箇所や、植栽した針葉樹と天然更新した広葉樹が混じり合っている箇所などが見られる。このため、令和2(2020)年度からは、管内全ての森林管理署・支署において、次年度に主伐を予定している人工林をフィールドとして、多様な森林づくりを実現するため、職員の技術力の向上を目的とした現地検討会を実施している。

現地検討会では、現況林分、土質、林地傾斜、作業の効率性等の評価を行いながら、広葉樹が育成している箇所の森林施業の取扱い、皆伐、複層伐、間伐など適切な伐採方法、機械による施業が困難な区域の伐採の回避など、様々な角度から施業方法を検討し、その現地に適した施業方法を検討した。

また、多様な森林づくりを国有林において実現するだけでなく、民有林への普及を図るため、これらの現地検討会には地方公共団体や林業事業体の参加を得ながら取り組んでいる。




(治山事業の推進)

国有林野には、公益的機能を発揮する上で重要な森林が多く存在し、令和2(2020)年度末現在で面積の約9割に当たる686万haが水源かん養保安林や土砂流出防備保安林等に指定されている。また、集中豪雨や台風等により被災した山地の復旧整備、機能の低下した森林の整備等を推進する「国有林治山事業」を行っている。

さらに、民有林野においても、大規模な山腹崩壊や地すべり等の復旧に高度な技術が必要となる箇所等では、地方公共団体からの要請を受けて、「民有林直轄治山事業」と「直轄地すべり防止事業」を行っており、16県22地区(令和3(2021)年度)の民有林野でこれらの事業を行っている。また、「令和2年7月豪雨」において甚大な被害が発生した熊本県芦北(あしきた)地区の民有林野では、「特定民有林直轄治山施設災害復旧等事業」を行っている。

このほか、大規模な山地災害が発生した際には、専門的な知識・技術を有する職員の被災地派遣やヘリコプターによる被害調査等を実施し、地域への協力・支援に取り組んでいる(事例4-2)。

事例4-2 「山地災害調査アプリ」を活用した被害状況の把握

林野庁では、豪雨や地震等により山地災害の発生が懸念される場合、ヘリコプターによる緊急調査を実施し速やかな被害状況の把握に努めているが、従来の調査手法においては、迅速かつ正確な被害状況の把握や分析が課題となっていた。

このため、令和元(2019)年度にスマートフォン・タブレット端末で操作できる「山地災害調査アプリ」を開発した。アプリを活用することで、撮影画像、撮影位置・方向、飛行ルート等の情報を取得でき、林野庁-森林管理局-森林管理署-現場間で迅速に共有可能となる。令和3(2021)年度には、7~8月に発生した大雨等の際にアプリを活用し、被災した都道府県等への情報提供に要する時間を大幅に短縮することができた。

また、現在、これまでの運用により得られた知見をもとに、治山・林道施設の点検等にも活用可能な現地調査用のフォーマットを新たに整備するなど、より実用的となるようにアプリの機能改善を進めている。



(路網整備の推進)

国有林野事業では、機能類型に応じた適切な森林の整備・保全や林産物の供給等を効率的に行うため、林道及び森林作業道を自然条件や作業システム等に応じて組み合わせて路網整備を進めている。このうち、基幹的な役割を果たす林道については、令和2(2020)年度末における路線数は1万3,378路線、総延長は4万6,028kmとなっている。


(イ)地球温暖化対策の推進

国有林野事業では、森林吸収源対策への貢献も踏まえ、令和2(2020)年度には、全国の国有林野で約10万haの間伐を実施した。

また、将来にわたる二酸化炭素の吸収作用の保全及び強化を図る必要があることから、主伐後の確実な再造林にも取り組み、令和2(2020)年度の人工造林面積は、全国の国有林野で約1.1万haとなっている。


(ウ)生物多様性の保全

(国有林野における生物多様性の保全に向けた取組)

国有林野における生物多様性の保全を図るため、国有林野事業では「保護林」や「緑の回廊」におけるモニタリング調査等を通じた適切な保全・管理に取り組んでいる。また、地域の関係者等との協働・連携による森林生態系の保全・管理や自然再生、希少な野生生物の保護等の取組を進めている。


(保護林の設定)

国有林野事業では、我が国の気候又は森林帯を代表する原生的な天然林や地域固有の生物群集を有する森林、希少な野生生物の生育・生息に必要な森林を「保護林」に設定し厳格に管理している(資料4-3)。令和3(2021)年3月末現在の保護林の設定箇所数は661か所、設定面積は97.8万haとなっており、国有林野面積の13%を占めている。


(緑の回廊の設定)

野生生物の生育・生息地を結ぶ移動経路を確保することにより、個体群の交流を促進し、種の保全や遺伝的多様性を確保することを目的として、国有林野事業では、保護林を中心にネットワークを形成する「緑の回廊」を設定している。令和3(2021)年3月末現在、国有林野内における緑の回廊の設定箇所数は24か所、設定面積は58.4万haであり、国有林野面積の8%を占めている。


(世界遺産等における森林の保護・管理)

我が国の世界自然遺産(*2)は、その陸域の86%が国有林野であるため、国有林野事業では、遺産区域内の国有林野のほとんどを「森林生態系保護地域」(保護林の一種)に設定し、関係する機関とともに厳格な保護・管理に努めている。

例えば、令和3(2021)年7月に我が国5件目の世界自然遺産に登録された「奄美大島(あまみおおしま)、徳之島(とくのしま)、沖縄島北部(おきなわじまほくぶ)及び西表島(いりおもてじま)」についても、その登録区域の約7割を占める国有林野を森林生態系保護地域に設定し、関係する機関と連携して、イリオモテヤマネコ等の希少種保護のための巡視や、ギンネム等の外来植物の分布状況調査、駆除等に取り組んでいる。


(*2)現在、我が国の世界自然遺産は、「知床」(北海道)、「白神山地」(青森県及び秋田県)、「小笠原諸島」(東京都)、「屋久島」(鹿児島県)及び「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」(鹿児島県・沖縄県)の5地域となっている。



(希少な野生生物の保護等)

国有林野事業では、希少な野生生物の保護を図るため、野生生物の生育・生息状況の把握、生育・生息環境の維持、改善等に取り組んでいる。

また、地域の特性を活かした効果的な森林管理が可能となる地区においては、地域、ボランティア、NPO等と連携し、生物多様性についての現地調査、荒廃した植生回復等の森林生態系の保全等の取組を実施している。

さらに、国有林野内の優れた自然環境や希少な野生生物の保護等を行うため、環境省や都道府県の環境行政関係者との連絡調整や意見交換を行いながら、「自然再生事業実施計画(*3)」や「生態系維持回復事業計画(*4)」を策定し、連携した取組を進めている。


(*3)「自然再生推進法」(平成14年法律第148号)に基づき、過去に損なわれた生態系その他の自然環境を取り戻すことを目的とし、地域の多様な主体が参加して、森林その他の自然環境を保全、再生若しくは創出し、又はその状態を維持管理することを目的とした自然再生事業の実施に関する計画。

(*4)「自然公園法」(昭和32年法律第161号)に基づき、国立公園又は国定公園における生態系の維持又は回復を図るために、国又は都道府県が策定する計画。



(鳥獣被害対策等)

シカやクマ等の野生鳥獣による森林被害は依然として深刻であり、希少な高山植物など、他の生物や生態系への脅威ともなっている。このため、国有林野事業では、防護柵の設置等のほか、GPSや自動撮影カメラ等によるシカの生息・分布調査や被害調査、職員による捕獲、効果的な捕獲技術の実用化等の対策に取り組んでいる。また、地域の関係者等と協定を締結し、国有林野内で捕獲を行う地域の猟友会等にわなを貸し出して捕獲を行うなど、地域全体で取り組む対策を推進している(事例4-3)。また、松くい虫等の病害虫の防除にも努めている。

事例4-3 国有林野職員による効率的・効果的な鳥獣被害対策の推進

近畿中国森林管理局では、くくりわなの応用として職員が考案した「小林式誘引捕獲わな」(以下「小林式くくりわな」という。)の使用によるシカの捕獲対策を推進している。従来は狩猟の熟練者が獣道を探してくくりわなを設置していたが、小林式くくりわなは、わなの周囲に誘引用の餌を置き、シカが採食時に出す前足がわなにかかるように工夫されており、初心者でも簡単に効率良く捕獲できることから、見回りや捕獲したシカの運搬に便利な林道近くに設置を行っている。同局では、平成28(2016)年度から普及を進め、初年度では捕獲数55頭(採用率(注)約1割)だったが、令和2(2020)年度には496頭(採用率約6割)に上昇した。

小林式くくりわなの全国的な普及を図るため、令和3(2021)年度には、関東、四国及び九州の各森林管理局において、地元の県や市町村職員の民有林関係者、地方農政局の農業関係者等も参加して技術交流会等を開催し、近畿中国森林管理局の職員が説明を行った。小林式くくりわなへの関心や期待は極めて高く、各地域における捕獲技術の向上が期待される。


注:全捕獲数のうち小林式くくりわなを採用した捕獲数の割合。




(エ)民有林との一体的な整備・保全

(公益的機能維持増進協定の推進)

国有林野に隣接・介在する民有林野の中には、森林所有者等による間伐等の施業が十分に行われず、国土の保全等の国有林野の公益的機能の発揮に悪影響を及ぼす場合や、民有林野における外来樹種の繁茂が国有林野で実施する駆除に支障となる場合もみられる。このような民有林野の整備・保全については、森林管理局長が森林所有者等と「公益的機能維持増進協定」を締結して、国有林野事業により一体的に整備及び保全を行っており、令和3(2021)年3月末現在までに20か所(595ha)の協定が締結された。


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