第1部 第1章 第3節 森林保全の動向(1)
(1)保安林等の管理及び保全
(保安林制度)
森林は、山地災害の防止、水源の涵(かん)養、生物多様性の保全等の公益的機能を有しており、公益的機能の発揮が特に要請される森林については、農林水産大臣又は都道府県知事が森林法に基づき「保安林」に指定し、立木の伐採、土地の形質の変更等を規制している(*54)。保安林には、「水源かん養保安林」を始めとする17種類がある(事例1-4)。令和2(2020)年度には、新たに約1.5万haが保安林に指定され、同年度末で、全国の森林面積の49%、国土面積の32%に当たる1,225万haの森林が保安林に指定されている(資料1-17)。
事例1-4 長野県諏訪(すわ)市における山地災害防止のための保安林の指定及び管理
長野県諏訪(すわ)市の西山(にしやま)地域は、地形が急峻(しゅん)であり、地質的にもぜい弱なことから豪雨に伴い幾度となく土砂流出等による災害が発生していた。
その対策として、明治時代から現在に至るまで土砂流出防備保安林の指定区域が広げられ、林地の表面侵食及び崩壊による土砂流出の防止が図られてきた。現在では地域の森林面積(約350ha)のうち約9割が土砂流出防備保安林に指定されている。
西山地域では、保安林を含む流域全体において、治山ダムの設置や山腹工(注)等の治山工事や森林整備が実施されるとともに、地元住民による自主的なパトロールや倒木・落石等の撤去などの維持管理が行われるなど、山地災害を未然に防ぐための取組が行われている。
注:土留工等の施設と植生を回復するための植栽工等の組合せにより森林を再生する工法。
(*54)森林法第25条から第40条まで
(林地開発許可制度)
保安林に指定されていない民有林において、工場・事業用地や農用地の造成、土石の採掘等の一定規模を超える開発を行う場合は、森林法に基づく「林地開発許可制度」により、都道府県知事の許可が必要とされている(*55)。
令和2(2020)年度には、2,410haについて林地開発の許可が行われた。このうち、工場・事業用地及び農用地の造成が1,469ha、土石の採掘が627haなどとなっている(*56)。再生可能エネルギー推進の手段として期待される太陽光発電施設の設置については、近年、森林内で大規模な土地改変を伴う事例が見られ、災害発生等の懸念があることから、森林の公益的機能の確保と調和した太陽光発電の利用促進を図ることが重要な課題となっている。
このため、林野庁では、太陽光発電施設について、斜面の現地形に沿った設置が可能であるなど、その利用形態に他の開発目的とは異なる特殊性が見受けられることを踏まえ、令和元(2019)年に太陽光発電施設の設置を目的とした開発行為の許可基準の整備を行ったほか、近年の山地災害発生リスクの高まりも踏まえ、林地開発許可制度の厳正な運用を徹底するよう都道府県に通知するなど(資料1-18)、森林の公益的機能の確保に向けて取り組んでいる。
(*55)森林法第10条の2
(*56)林野庁治山課調べ。令和元(2019)年度以前については、林野庁「森林・林業統計要覧」を参照。
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