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林野庁

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第1部 第1章 第3節 森林保全の動向(2)

(2)山地災害等への対応

(山地災害等への迅速な対応)

令和3(2021)年の山地災害等による被害額は、3月の融雪(*57)や7月及び8月の大雨などにより、676億円に及んでいる。

近年、「令和2年7月豪雨」や「令和元年東日本台風(台風第19号)」など、山地災害が激甚化・同時多発化する傾向がある(資料1-19)。


林野庁では、山地災害が発生した際には、災害復旧事業等の実施に取り組むとともに、大規模な被害が発生した場合は、国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)との協定に基づく人工衛星からの緊急観測結果の被災県等への提供、ヘリコプターやドローンを活用した被害状況調査、被災地への職員派遣(農林水産省サポート・アドバイスチーム(MAFF-SAT))等の技術的支援を行い、早期復旧に向けて取り組んでいる。


(*57)令和3(2021)年3月4日に新潟県糸魚川市において、融雪に起因する大規模な地すべりが発生した。



(山地災害からの復旧)

近年、毎年のように激甚な山地災害が発生しているが、「令和元年東日本台風」、「平成30年北海道胆振東部地震」、「平成30年7月豪雨」、「平成29年九州北部豪雨」などの令和元(2019)年までに発生した山地災害に対する災害復旧等事業については、令和3(2021)年度までにおおむね完了した。

令和2(2020)年に発生した「令和2年7月豪雨」では、単一の災害では過去10年で最多となる43道府県で山地災害等が発生した。令和4(2022)年3月末時点で、災害復旧等事業が118地区で完了し、162地区で実施中である。特に被害が甚大であった熊本県では、県からの要請を受けた九州森林管理局が、県に代わって36地区の被災した治山施設や林地の復旧を実施している。


(治山事業の実施)

国及び都道府県は、森林の持つ公益的機能の確保が特に必要な保安林等において治山施設の設置等を通じて山腹斜面の安定化、荒廃した渓流の復旧整備等を図る治山事業(*58)を実施している。こうした継続的な事業の実施により森林造成・維持が図られ、その結果として、森林の有する浸透・保水機能や土砂流出・崩壊防止機能が発揮されている。これらに加え、山地災害危険地区(*59)に関する情報を地域住民に提供する等のソフト対策を一体的に実施している。

なお、森林整備保全事業計画では、治山事業の実施により周辺の森林の山地災害防止機能等が確保される集落数を令和5(2023)年度までに58,600集落とする目標を掲げており(基準値56,200集落(平成30(2018)年度))、令和2(2020)年度末は56,800集落となっている。

近年、大雨や短時間強雨の発生頻度が増加傾向にあり、山地災害の同時多発化・激甚化に加え、下流域における河川の氾濫等の水災害も多発している。林野庁では、こうした気候変動に伴う災害の発生形態の変化を踏まえ、令和3(2021)年3月に学識経験者を交えて豪雨災害に関する今後の治山対策の在り方に関する検討を行い、渓流の縦横侵食の激化や流木災害の激甚化を踏まえ、治山ダムの効果的な配置や渓流沿いの流木化する危険のある樹木の事前伐採を各地で推進しているところである。

また、流域全体で森林の有する浸透・保水機能を発揮させるため、保安林整備と一体で斜面の雨水の分散を図る筋工(*60)を設置する対策を面的に進めることとしている。


(*58)森林法で規定される保安施設事業及び「地すべり等防止法」(昭和33年法律第30号)で規定される地すべり防止工事に関する事業。

(*59)都道府県及び森林管理局が、山地災害により被害が発生するおそれのある地区を山地災害危険地区として調査・把握。平成29(2017)年3月末現在、全国で約19.4万か所。

(*60)山地斜面において、丸太を等高線に沿って配置し、地表水を分散させ表面侵食を防止するとともに、土壌を保持し雨水の浸透を促進する工法。



(防災・減災、国土強靱(じん)化に向けた取組)

林野庁では、令和3(2021)年度から「防災・減災、国土強靱(じん)化のための5か年加速化対策」(令和2(2020)年12月11日閣議決定)に基づいて、山地災害危険地区や重要なインフラ施設周辺等を対象とした治山対策及び森林整備に重点的に取り組んでいる。

令和3(2021)年7月及び8月の大雨の際には、こうした取組などにより設置した治山施設が土砂の流出の抑制や崩壊の発生を防止する効果を発揮した(事例1-5)。引き続き、計画的な治山施設の整備等を行い、関係省庁と連携しつつ、地域の安全性向上を図ることとしている。

事例1-5 令和3(2021)年7月に発生した大雨における鹿児島県の治山施設の効果

令和3(2021)年7月9日から10日にかけて、九州南部を中心に線状降水帯が発生し、各地で記録的な大雨となり、浸水や土砂流出等による被害が発生した。

このような中、鹿児島県さつま町(ちょう)平川宮囿(ひらかわみやぞの)地内では鹿児島県が整備した治山ダムが渓床勾配を緩和(注1)し山脚を固定(注2)していたため、渓岸侵食を軽減するとともに土砂や流木が渓床に堆積し下流への流出が抑制され、当地区における山地災害による被害が軽減された。

注1:治山ダムの上流側に土砂が堆積し、渓流の傾斜が緩やかになること。

2:治山ダムの上流側に堆積した土砂が、渓流の両岸の山の斜面脚部をおさえ山腹の崩壊を防ぐこと。



(海岸防災林の整備)

我が国の海岸では、飛砂害や風害、潮害等を防ぐため、マツ類を主体とする海岸防災林の整備・保全が全国で進められてきた。これに加え、東日本大震災では、海岸防災林が津波エネルギーの減衰や漂流物の捕捉、到達時間の遅延等の被害軽減効果を発揮したことを踏まえ、平成24(2012)年に、海岸防災林の整備を津波に対する「多重防御」施策の一つとして位置付け(*61)、被災した海岸防災林の再生及び全国的な海岸防災林の整備を進めてきたところである。

具体的には根の緊縛力を高め、根返りしにくい林帯を造成するため、盛土による生育基盤の確保、植栽等の整備を進めてきたところであり、今後は、海岸部は地下水位が高いエリアが多いことに留意した適切な保育管理等を通じて、津波に対する被害軽減、飛砂・風害の防備、潮害の防備等の機能が総合的に発揮される健全な海岸防災林の育成を図ることとしている。林野庁は、令和5(2023)年度までに、適切に保全されている海岸防災林等の割合を100%とする目標を定めており(基準値96%(平成30(2018)年度))、令和2(2020)年度における割合は97%となっている。


(*61)中央防災会議防災対策推進検討会議「防災対策推進検討会議 最終報告」(平成24(2012)年7月31日)、中央防災会議防災対策推進検討会議南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループ「南海トラフ巨大地震対策について(最終報告)」(平成25(2013)年5月28日)、中央防災会議防災対策推進検討会議津波避難対策検討ワーキンググループ「津波避難対策検討ワーキンググループ報告」(平成24(2012)年7月18日)



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