第1部 第1章 第1節 森林の適正な整備・保全の推進（1）
（1）我が国の森林の状況と多面的機能
（森林の役割及び我が国の現状）
森林は、国土の保全、水源の涵（かん）養、地球温暖化の防止、木材を始めとする林産物の供給等の多面的機能を有しており、国民生活の安定向上及び国民経済の健全な発展に大きく貢献している。このような機能を持続的に発揮していくためには、森林の適正な整備・保全を推進する必要がある。
我が国の森林面積はほぼ横ばいで推移しており、平成29（2017）年3月末現在で2,505万haであり、国土面積3,780万ha（＊1）のうち約3分の2が森林となっている。
我が国の森林の約4割に相当する1,020万haは人工林である。終戦直後や高度経済成長期に造林されたものが多く、その半数が一般的な主伐期である50年生を超え、本格的な利用期を迎えている（資料1－1）。
我が国の森林蓄積は人工林を中心に年々増加してきており、平成29（2017）年3月末現在で約52億m3となっている。このうち人工林が約33億m3と約6割を占めている（資料1－2）。
所有形態別にみると、森林面積の57％が私有林、12％が公有林、31％が国有林となっている（資料1－3）。私有林は、総人工林面積の65％、総人工林蓄積の72％（＊2）を占めている。
（＊1）国土地理院「令和4年全国都道府県市区町村別面積調」（令和4（2022）年1月1日現在）による。
（＊2）林野庁「森林資源の現況」（平成29（2017）年3月31日現在）
（森林の多面的機能）
森林には山地災害防止機能・土壌保全機能、水源涵（かん）養機能、地球環境保全機能、木材等生産機能、文化機能、生物多様性保全機能、保健・レクリエーション機能等の様々な働きがあり、「森林の有する多面的機能（＊3）」と呼ばれている。
山地災害防止機能・土壌保全機能とは、森林の樹冠による雨水の遮断や、下草や落葉落枝による土壌の被覆により、雨水等による土壌の侵食や流出を防ぐとともに、樹木の根が土砂や岩石等を固定することで、土砂の崩壊を防ぐ機能のことである。
水源涵（かん）養機能とは、森林の土壌が、水を徐々に地中深くに浸透・貯留することにより、時間をかけて河川へ送り出し、洪水の緩和や流量の安定化が図られるとともに、水質を浄化する機能のことである。
地球環境保全機能とは、樹木が大気中の二酸化炭素を吸収し、立木や木材として固定するとともに、バイオマス燃料として化石燃料を代替すること等により地球温暖化防止に貢献する機能のことであり、適切に手入れがされている36～40年生のスギ約451本分の年間吸収量が令和元（2019）年度における家庭からの1世帯当たりの年間排出量約3,971kgに相当すると試算されている（＊4）。
木材等生産機能とは、木材やきのこ等の林産物を産出・供給する機能のことである。
文化機能とは、文化的価値のある景観や歴史的風致を構成し、文化財等に必要な用材等を供給する機能のことである。
生物多様性保全機能とは、希少種を含む多様な生物の生育・生息の場を提供する機能のことである。
保健・レクリエーション機能とは、安らぎや癒し・行楽やスポーツの場を提供する機能のことである。
内閣府が令和元（2019）年10月に実施した「森林と生活に関する世論調査」において、森林の有する多面的機能のうち森林に期待する働きについて尋ねたところ、「山崩れや洪水などの災害を防止する働き」、「二酸化炭素を吸収することにより、地球温暖化防止に貢献する働き」、「水資源を蓄える働き」と回答した者の割合が多かった（資料1－4）。
（＊3）森林の有する多面的機能について詳しくは、「平成25年度森林及び林業の動向」第1章第1節（1）-（2）8-18ページを参照。
（＊4）林野庁ホームページ「よくある質問」森林の地球温暖化防止機能について及び全国地球温暖化防止活動推進センターホームページ「家庭からの二酸化炭素排出量（2019年度）」より試算。
（森林・林業・木材産業とSDGs、2050年カーボンニュートラル）
地球環境や社会・経済の持続性への危機意識を背景に持続可能な開発目標（SDGs（＊5））に対する注目が高まっている。SDGsでは、17の目標の中の一つに「持続可能な森林の経営」を含む目標（目標15）が掲げられているなど、森林の多面的機能がSDGsの様々な目標の達成に貢献している（＊6）。そのような中で、我が国においては、林業・木材産業関係者を中心に、企業、個人、行政等が連携して森林の持続可能性の確保に取り組んでいる（＊7）。
SDGsの17の目標のうち、目標13は「気候変動及びその影響を軽減するための緊急対策を講じる」となっている。我が国は令和32（2050）年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする「2050年カーボンニュートラル」の実現を目指しており、大気中の温室効果ガスの吸収源として、森林が大きな役割を果たすことが期待されている。また、生産した木材を建築物等で利用することで、炭素が長期間貯蔵されることも期待されている。我が国の令和2（2020）年度の二酸化炭素吸収量のうち、森林の吸収量は約9割を占めている。このように、森林及び木材利用は、カーボンニュートラルの実現に貢献するものである。
（＊5）「Sustainable Development Goals」の略。
（＊6）森林・林業・木材産業とSDGsとの関係については、「令和元年度森林及び林業の動向」特集第1節（2）6-11ページを参照。
（＊7）企業・個人等の取組については、「令和元年度森林及び林業の動向」特集第2節12-29ページを参照。
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