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林野庁

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第1部 特集1 第4節 持続的な林業経営を担う人材育成及び体制整備(2)

(2)森林資源及び林業経営の持続性を確保するための体制整備

(森林の所有や長期的な使用収益権の確保)

林業経営を長期に持続していくためには、間伐、主伐のどちらの場合でも次の収穫を見据えた施業を行うことが重要であり、一過性の収穫として施業を捉えてしまうと、将来を見通した選木や作業道の作設につながりにくい。林業経営を委託する場合でも、林業経営体が将来を見越して受託できることが重要である。森林を自ら所有し、又は長期間経営し得る権利を取得することにより、長期的な計画を立て、将来の収穫を見通すことや恒久的に使う路網の整備を進めていくことが可能となる。

林家(*63)の保有山林面積の変化を農林業センサスでみると、林家全体の面積は変わらないものの、小規模林家の面積が減り、100haを超える所有者の面積は108万haと増加しており、大規模林家へ集約化されていく状況となっている(資料 特1-45)。また、林業経営体が主伐に伴い、森林を所有するケースもみられる。


森林所有者から森林施業を長期的に受託する場合は、森林経営計画を作成し、主伐後の再造林や間伐等の森林施業や路網整備に対する補助を活用することが有利となる。森林経営計画制度では、集約化により生産性を向上させるとともに、面的に森林整備が行われることを目指しているため、森林経営計画の作成には一定以上の面積が必要となるが、市町村森林整備計画において定められる区域内で30ha以上の森林を取りまとめた場合等に作成することも可能であり、森林組合によるもののほか、森林所有面積の小さい自伐林家が集まるなどして作成した例もみられる(*64)。森林経営計画の認定作成面積は495万ha(令和元(2019)年度)となっている(*65)。

さらに、平成31(2019)年4月から開始した森林経営管理制度は、所有者自らによる経営管理が行われていない森林について、市町村が森林所有者の意向を確認し、市町村が経営管理の委託を受け、林業経営に適した森林を林業経営者に再委託することとしており、実際に委託も始まっている。これにより、林業経営体が主体となった集約化に加え、市町村が仲介役となった集約化も進むとともに、林業経営体が長期にわたる権限を確保することが可能になると期待される(*66)。


(*63)保有山林面積が1ha以上の世帯。

(*64)一般社団法人全国林業改良普及協会「林業新知識」令和2(2020)年12月号:8-15.

(*65)森林経営計画については、第2章第1節(4)131-132ページを参照。

(*66)森林経営管理制度については、第1章第2節(2)80-86ページを参照。



(森林所有者への再造林の働きかけ)

我が国の人工林の半数が50年生以上となっている中、素材生産を行う林業経営体は自ら、又は造林事業者と連携して、主伐後の再造林を実施していくことが期待されている(*67)。

この際、森林所有者に適切な更新を働きかけることが重要である。

これまで森林組合は、間伐の際に提案型集約化施業を行ってきたが、組合によっては、主伐の働きかけの際に再造林とその後の見通しについても示すなど、主伐・再造林型施業提案とも言うべき取組により地域の森林管理と安定的な事業確保を行うものも出てきている。

例えば、当麻町とうまちょう森林組合(北海道)では、循環型林業の確立に向けた「長期ビジョン」を策定し、森林所有者に伐採の働きかけを行う際に、収入や費用、将来の収入見込み等を森林経営プラン書として示し、同意が得られたものについて、主伐、造林、下刈り等を順次実施している。さらに南佐久みなみさく中部森林組合(長野県)は、分収林制度を導入し、収穫時の収益配分を森林所有者と取り決め、森林所有者の負担なしで再造林を進める取組を導入している(*68)。

また、他の素材生産事業者が主伐を行う場合にも、素材生産事業者と連携し、伐採を開始する前に、森林所有者を交え、どのように更新を行うか打合せを行う取組も始まっている(事例 特-10)。

事例 特-10 造林事業を行う森林組合と素材生産事業者との連携

素材生産事業者、森林所有者と、どのように更新を行うか打合せ

島根県は、平成28(2016)年9月に、伐採者と造林者が連携し、主伐の促進と伐採跡地の確実な更新を図るとともに、伐採と造林の一貫作業等による再造林等の低コスト化を推進していくことを目的に「伐採者と造林者の連携による伐採と再造林等のガイドライン」を策定した。

造林事業を行う石央せきおう森林組合(島根県浜田はまだ市)は、このガイドラインに基づき、平成29(2017)年度に3社、平成30(2018)年度に3社、合計6社の素材生産業者と連携協定を締結し、令和元(2019)年度は7.65haの造林地全てで伐採と造林の一貫作業を実施した。

一貫作業の実施に当たっては、まず、森林組合が持つ森林簿等の情報と、素材生産業者が持つドローン撮影による森林の現況等の情報を共有、分析することで、伐採から再造林までの計画が共有できるようになった。

次に、森林所有者に対し、素材生産業者と森林組合が一体となって伐採・搬出・再造林の提案を行うことで、森林所有者の理解が深まり、森林経営計画の了解を得やすくなった。これにより、森林の適切な管理、事業地の確保、事務経費の軽減につながり、三者とも利点が生まれている。

一貫作業により再造林の労力も低減されており、今後も連携により適切な森林管理が行われることが期待される。


資料:岡本茂(2020)一貫作業による再造林の低コスト化への取組. 森林計画研究会会報, 478・479:16-21.


素材生産事業者の側でも、再造林に取り組むことが必要と考える動きがある。特に主伐が進んでいる宮崎県では、特定非営利活動法人ひむか維森の会が「伐採搬出ガイドライン」を作成し、責任ある素材生産事業体認証制度が運用されている。このガイドラインでは、伐採から植林まで自社で一貫して引き受ける体制を取るか、森林組合など造林事業体との連携体制を築くことを定めており、29事業体(令和2(2020)年)がガイドラインに基づく事業を行っているとして認証されている。この取組に対し、宮崎銀行は令和2(2020)年4月に林業者等の運転資金や設備資金として活用できる融資制度「SDGs林業応援ローン山のちから」を創設した。ガイドラインに基づく認証を受けた事業者等に対し金利優遇を行っており、再造林等の森林資源持続のための取組が、経営面でもメリットとなっている。


(*67)森林経営管理法第36条第2項に規定する「経営管理を効率的かつ安定的に行う能力を有すると認められること」については、主伐後の再造林の確保を判断項目の一つとしている。

(*68)令和2(2020)年7月11日付け日刊木材新聞2面



(苗木生産者との連携)

主伐後の再造林を着実に行うためには、再造林面積に見合う苗木の確保が必要であり、苗木生産者との連携が欠かせない。主伐の増加に伴い造林面積の増加が見込まれるが、苗木生産者は小規模な者を中心に減少しており、苗木の安定供給体制の構築が重要である。

苗木生産には植付から出荷まで1~3年かかるため、苗木の安定供給を図るためには植付時点でどれくらいの需要が見込めるかの把握が重要となる。そのため、造林事業者・苗木生産者間での予約生産を行うなど、両者が連携する取組が始まっている。


(木材産業や木材利用者の再造林への貢献)

製材工場や木材市場等が持続的に原木を調達するため、各地で林業経営へ参入する動きや再造林を支援する動きがみられる。

例えば、製材・集成材生産を行う株式会社トーセン(栃木県矢板やいた市)は、山林の買取・経営受託事業を展開し、条件によっては小面積から買取を行っている。所有・委託管理森林面積は、令和2(2020)年3月末には、栃木県を中心に3県で667haまで拡大し、伐採した木材は自社で利用し、伐採後は再造林を行っている。

住宅メーカーのタマホーム株式会社は、国産材の使用比率を高める中で、木材流通を通じて各地の森林組合等と関係を深め、大分県や宮崎県、栃木県において再造林に関わる協定を結び、花粉の少ない苗木の植林への支援を進めており、令和2(2020)年度までに約1,800haの造林を支援してきた。

また、青森県では、再造林を促進するため、木材の生産、流通、利用に関わる事業者が原木取扱量に応じた協力金を拠出して「青い森づくり推進基金」を創設し、再造林や下刈りを行う森林所有者に対し、コストの10%を助成している(資料 特1-46)。同様の取組は、北海道、岩手県、山形県、大分県等でも始まっている。

資料 特1-46 再造林を促進する基金の仕組み

これらの動きは、関係者それぞれが事業を今後とも安定的に展開していくためには、我が国の森林資源を適切に保続していくことが欠かせないという意識の高まりによるものと考えられ、今後さらに広がっていくことが期待される。

挿絵1

お問合せ先

林政部企画課

担当者:年次報告班
代表:03-3502-8111(内線6061)
ダイヤルイン:03-6744-2219

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