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第1部 特集1 第4節 持続的な林業経営を担う人材育成及び体制整備(1)


林業従事者が安心して林業作業に従事し、その能力を十分に発揮する上で、事業地の安定的な確保や、木材の販売先の確保が必要である。このため、施業の集約化や、適切な事業管理を行いつつ、安定した生産や販売、再造林を支える人材育成が重要である。

また、持続的な林業経営を長期にわたって行い得るよう、伐採跡地の再造林を着実に進め森林資源を保続させていくことが不可欠である。

以下では、持続的な林業経営を担う人材育成と、再造林による森林資源の保続を図るための体制整備について記述する。

(1)持続的な林業経営を担う人材育成

(施業集約化を担う人材育成)

収益性を向上させ、経営を安定させるためには一定の事業量が必要である。また、雇用の安定のためにも、事業量の確保は欠かせない。我が国の私有林の所有構造は小規模・分散的であるため、森林所有者の協同組織である森林組合や、施業を受託する割合が高い林業経営体においては、施業の集約化により事業地を確保していくことが重要である。

施業の集約化に当たっては、林業経営体から個々の森林所有者に対して、施業の方針や事業を実施した場合の収支を明らかにした施業提案書を提示し、施業を働きかける「提案型集約化施業」が行われている(*60)。

提案型集約化施業によりまとまった施業団地を確保することは、高性能林業機械等の稼働率の向上のみならず、将来の施業を見据えた適切な路網の作設や、長期的な事業の見通しが可能となり、計画的な投資や生産性の向上に寄与する。

林野庁や都道府県は、この提案型集約化施業を担う「森林施業プランナー」を育成するための研修を実施し、一定の技能を持つ者について、森林施業プランナー協会が、森林施業プランナーの認定を行っている。令和3(2021)年3月までに、2,405名が認定を受けており(*61)、森林組合には、このうち1,985名が在籍している。

森林施業プランナーには、現場からの収益を最大化するコスト計算能力、施業団地の路網計画、森林計画制度等、森林施業に係る総合的な知識と経験が求められる。また、集落座談会の開催等を通じて森林所有者に森林施業の重要性を説明するなど、林業経営体と森林所有者をつなぐ役割も担っている。

森林施業プランナーの認定期間は3年であるが、9割の者が認定を更新しており、年々認定者数は増加している(資料 特1-44)。森林組合以外の民間事業体にも420名の森林施業プランナーが在籍しており、新たな施業技術を現場に導入しながら、活躍していくことが期待される。


(*60)提案型集約化施業は、平成9(1997)年に京都府の日吉町森林組合が森林所有者に施業の提案書である「森林カルテ」を示して森林所有者からの施業受託に取り組んだことに始まり、現在、全国各地に広まっている。

(*61)森林施業プランナー認定制度ポータルサイト「認定者一覧」



(経営を担う人材育成、外部人材の活用)

人工林の過半が利用期を迎え、主伐が本格化していく中で、林業における最大の収入の機会である伐採による収入を高め、安定的に販売していくことは、持続的な経営や従事者の処遇改善に加え、再造林のための原資を確保する上で重要である。そのためには、持続的に森林資源を利用しつつ、地域を取り巻く経済動向や木材需要、社会情勢等を見据えた経営を行っていくことが必要となる。また、森林施業プランナーと連携して個々の施業団地に適した作業システムの選択や、個々の作業班や事業者との連携を図ることも重要である。経営者層には、このような森林・木材の価値を最大化して循環型林業を目指し、実践していく人材が求められている。

このため、林野庁は、令和2(2020)年度から、これからの経営を担う人材として、「森林経営プランナー」の育成を開始し、人材育成を進めている。育成に当たっての研修では、マーケティング、営業ネットワーク、労務・財務管理等を学ぶ一般科目に加え、木材需要の変化や森林・林業を取り巻く国際的な動向、主伐・再造林の先進事例等を学ぶ専門科目があり、持続的な循環型林業を目指す林業経営体の運営に必要な知識を広範に学ぶものとなっている。

輸入材や他の資材との競争があり過去のピーク時のような高い丸太価格が見込めない中、森林・木材の価値を最大化するためには、従来通りの丸太の売り方のみならず、地域ごと、林業経営体ごとの特性に合った木材の売り方、そのための森林づくりについて改善を重ねていくことが重要である。例えば、秋田県湯沢ゆざわ市を中心とする雪深い地域をエリアとする雄勝おがち広域森林組合では、根曲がりによる材価への影響をできるだけ緩和するために根元を太らせるように、80年生を超える長伐期施業に取り組んでいる。今後、森林経営プランナーには、木材の価値を高めるような活躍が期待される。

また、内部の人材育成に加え、木材販売を含め経営強化のために外部人材の活用も考えられる。林業に関わる経営コンサルタント等の外部企業に、経営上の課題を相談し、人材育成、販路開拓等の経営改善に取り組む例もみられる。

さらに、令和2(2020)年5月28日に成立した「森林組合法の一部を改正する法律」(令和3(2021)年4月1日施行)により、森林組合には、販売事業等に関し実践的な能力を有する理事を1人以上配置することとされ、員外からの理事の確保も行いやすくなった。また、理事の年齢及び性別に著しい偏りが生じないことへの配慮規定が設けられ、女性や若者など多様な背景を持つ者の参画による理事会の活性化が期待される(*62)。

これまでも、他分野での実務経験のある者が森林組合の組合長に就任後、異業種を含めた事業連携等、組合の経営改革を実施し、事業量・取扱高が飛躍的に上昇した事例がある。また、外部の流通事業者の協力を得ながら、効率的な運送により流通コストの削減を図った事例もみられる。

このように林業経営体内部での人材育成を進めつつ、外部人材の活用を組み合わせることにより、経営体制を強化し、製材工場等との安定的な取引や、海外輸出など新たな販路の開拓、コスト削減等、経営基盤の強化につながることが期待される。


(*62)森林組合法の改正については、第2章第1節(2)125-127ページを参照。



お問合せ先

林政部企画課

担当者:年次報告班
代表:03-3502-8111(内線6061)
ダイヤルイン:03-6744-2219

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