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林野庁

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第1部 特集1 第3節 林業従事者の確保・育成と労働環境の向上(2)

(2)労働環境の向上

(安全な労働環境の整備)

給与・待遇に加え、安全な職場づくりを進めることは、林業従事者を守り、林業労働力を継続的に確保するために必要不可欠である。

林業における労働災害発生率は全産業平均と比較して高く、安全確保に向けた対応が急務であり、厚生労働省が策定した「第13次労働災害防止計画」(平成30(2018)年2月)では、林業は重点分野の一つに位置付けられた。また、かかり木処理作業における禁止事項を規定するなど労働安全衛生規則が平成31(2019)年に改正され、令和2(2020)年1月には、チェーンソーによる伐木等作業の安全に関するガイドラインが改正された。

林業経営体や林業従事者には、まず、労働安全衛生規則やガイドラインの遵守が求められる。

林業労働災害は、(ア)伐木作業中の事故が多い、(イ)経験年数の少ない作業者に加え経験豊富なベテランでも被災する、(ウ)被災の状況が目撃されにくいという特徴がある(資料 特1-39)。(ウ)の被災の状況が目撃されにくいという点については、複数名で作業する場合であっても伐木等の際には距離を取るために事故の発見が遅れ、1人で作業する場合はさらに発見が遅れてしまう。特に自伐林家では、1人で作業する割合が高い。

資料 特1-39 林業における死亡災害の発生状況

林野庁、厚生労働省、関係団体等が林業経営体に対して行う安全巡回指導や、林業従事者に対する各種の研修等により、安全対策の確認や従業員の技能向上が期待される。令和2(2020)年には、ベテラン作業員を中心とした学び直し研修も開始されている。

反復練習による技能向上や安全動作の確認が重要であり、いくつかの企業・団体が伐倒練習機等を開発し、研修で用いられている。また、伐木作業に必要な技術及び安全意識の向上に向けた競技大会も開催されている(*57)。

さらに、林業従事者の装備が重要であり、チェーンソー作業時に下肢の切創防止用保護衣着用が義務付けられている。また、林野庁は、安全衛生装備・装置(資料 特1-40)の導入を支援している。高性能林業機械の導入もチェーンソーでの伐倒を避けることができ、安全確保につながる。

資料 特1-40 林業の安全衛生装備・装置

また、農林水産省は、令和3(2021)年2月に、「農林水産業・食品産業の現場の新たな作業安全対策に関する有識者会議」での議論を踏まえ、「農林水産業・食品産業の作業安全のための規範」を策定した。林業経営体や林業従事者自身が、この規範を用い、各作業における安全のための取組をチェックすることで、安全意識の向上が期待される。

これらの対策を講じていても事故が起こる可能性はあるため、携帯電話がつながらない山林内でも、他の従事者に異変を知らせることができる機材が開発されており、また、山林外への連絡も検証が進んでいる(事例 特-9)。

なお、自伐林家や自伐型林業のように、事業主自身が林業従事者として働く場合も、安全講習の受講や安全装備の活用が望ましい。

今後も林業従事者が安全に作業できるよう、労働安全対策を進めることが急務であり、各般の取組を進める必要がある。

事例 特-9 LPWA通信網を活用した労働災害発生時の救助体制づくり

愛媛県久万高原町くまこうげんちょうは、面積583.7km2と愛媛県最大であり、町内の90%が森林に覆われている。森林内は携帯電話の通じない場所が多く点在し、労働災害発生等の際、即時の救助要請が困難な場合があることが課題となっている。

このため、町は、LPWAという低消費電力で遠距離の通信が可能な無線通信技術に着目し、令和2(2020)年に、町内全域を網羅するLPWA通信網を構築し、実証試験を行っている。250mWという高出力の規格を採用し、複数の山上に中継機を設置することで、尾根等の遮蔽物のある森林内でも通信を可能とした。

LPWA子機を持つ林業従事者は、林内から救助要請が可能であり、その後、救援者は要救助者の移動履歴も参照し、現場に向かうことが可能となる。

さらに、町、消防、森林組合等関係者が連携し、自伐林家等で一人で林内作業を行う人も救助要請ができるよう救助に必要な情報をあらかじめ町に登録するなどの体制整備を進めた。LPWA子機からの救助要請を119番通報と同様に取り扱うこととし、令和3(2021)年4月から運用を開始する。



(*57)競技大会については、「平成26年度森林及び林業の動向」第3章第1節(4)の事例3-5(120ページ)を参照。



(雇用環境の安定)

林業作業の季節性や事業主の経営基盤のぜい弱性等により、林業従事者の雇用は必ずしも安定していなかった。また、雇用が臨時的、間断的である場合等、社会保険等が適用にならないこともある。

しかし、近年は、全国的に把握が可能な森林組合についてみると、通年で働く専業的な雇用労働者の占める割合が上昇傾向にあるとともに(資料 特1-41)、社会保険等が適用される者の割合も上昇している(資料 特1-42)。このような傾向は、通年で作業可能な素材生産の事業量の増加によるものと考えられる。なお、自伐林家や自伐型林業等、自営の場合であっても、労災保険の特別加入制度を活用し保険に加入するなど、不測の事態に備えることも重要である。


また、賃金の支払形態についてみると、農林業に従事する者が多いことを背景に月給制が25%と低いが、近年では年間210日以上働く者や社会保険等に加入する者の割合が6割以上となっており、実質的に月給制に近い形に移行している状況にあり、月給制が徐々に増加している。更なる月給制への移行に向け、安定した事業量の確保が課題となっている(資料 特1-43)。


(女性が働きやすい職場環境づくり)

戦後の拡大造林期は造林作業や苗畑での作業が農山村の女性の就業の場であったが、林業の機械化が進んだことで、素材生産や森林調査等で女性が活躍する場も増加している。女性の林業従事者は、伐木・造材・集材従事者においては直近の5年間では610人から690人へと増加に転じている(*58)。

女性の活躍促進は、現場従事者不足の改善に加え、様々な効果をもたらす。女性が働きやすい職場となるために働き方を考えることや、車載の移動式更衣室やトイレの導入、従業員用シャワー室の整備等の環境を整えることが、男性も含めた「働き方改革」にもつながる。育休・産休や介護休暇等の制度とそれを取得しやすい環境整備も望まれる(*59)。


(*58)総務省「国勢調査」による平成22(2010)年と平成27(2015)年の比較。

(*59)林業活性化に向けた女性の取組については、第2章第1節(3)129-130ページを参照。



(「働き方改革」の推進)

このように労働環境の向上は社会的にも求められており、個々人が多様で柔軟な働き方を自ら選択できるようにするため、平成30(2018)年7月に働き方改革関連法が公布された。林業経営者も魅力ある職場を作ることで、人手不足の解消につながることが期待される。

このため、林野庁は、これらの取組を促すよう、平成31(2019)年3月に「林業における「働き方改革」の実現に向けて-林業経営者向けの手引き-」を公表し、本節に示した能力評価、労働安全の確保、労働環境の整備等についてまとめている。

また、森林整備事業等の補助事業において、労働安全や雇用条件等に関する要件を設定するクロスコンプライアンスを実施しており、林業従事者の長期的な定着や、林業における働き方改革が進むことが期待される。


お問合せ先

林政部企画課

担当者:年次報告班
代表:03-3502-8111(内線6061)
ダイヤルイン:03-6744-2219

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