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第1部 特集1 第2節 林業経営体の収益性向上の取組(1)


生産する素材の用途別割合、販売先や、何にコストをかけるかなど、経営全体として収益をどう確保するかに関する戦略的な取組が重要であり、それぞれの林業経営体に係る森林の状況、マーケットの動向等を見ながら取組を行っていくことが期待される。

本節では、林業経営体が取り組むべき販売強化や生産・育林コストの低減方策について、事例を交えつつ記述する。

(1)販売強化の取組

売上げは販売量と単価のかけ算であり、両者の最大化を図ることが重要である。

近年の我が国の木材需要は、大型の製材工場や合板工場を中心に、並材の需要が中心となってきており、輸入材・製品や他の資材との競争があるため、過去の価格のピーク時のような高い丸太価格は見込めない。こうした中、供給量の変動の大きい原木を安定供給することにより、取引価格の安定化を図っていくことが一つの方向性である。

一方、需要先ごとの注文材等の細やかなニーズへの対応等により付加価値を創出する販売を行う取組も有効となる。また、木材の販売以外に収入源を持つことで経営を安定させる取組もみられる。


(ア)安定供給による売上向上

(安定供給による単価の向上・安定化)

原木の年間消費量が数万m3又は10万m3を超える大型の製材・合板工場等の整備が進み、また木質バイオマス発電等によるエネルギー利用が拡大している。このような大型の工場や発電所は、安定的に原木を確保する必要があることから、大きな需要が生まれている。

こうした中、複数の林業経営体が連携することなどにより安定供給を実現することで木材加工業者等との間に協定を締結し、原木を販売する動きが広がっている。このような協定においては、素材生産業者等が協定に基づき、一定の規格で一定の数量の原木を、年間を通じて安定的に工場等に直送していくこととなる。販売価格についても、数箇月など一定期間は固定し、急激な価格変動が生じないようにしている。林業経営体と木材加工業者の双方で、原木の取扱量と価格が安定し、直送により流通コストを低減できるなどのメリットがある取組となっている。

また、複数の林業経営体が連携して販売量をまとめることにより、価格交渉力が高まるケースもある。具体的には、森林組合連合会や協同組合等が連携する例のほか(事例 特-1)、川中の原木市場等の流通事業者が中心となる場合もある(*16)。

事例 特-1 宮崎県森林組合連合会による原木の安定供給

地域別山元立木価格(スギ)の推移 資料:一般財団法人日本不動産研究所「山林素地及び山元立木価格調べ」

宮崎県森林組合連合会は、平成26(2014)年から年間約30万m3の原木を消費する大型製材工場が県内に稼働することを受け、販売体制を強化するため、平成25(2013)年に宮崎県素材生産事業協同組合、宮崎県木材協同組合連合会と、原木の安定供給に関する協議会を設立した。

協議会では、県内の素材生産事業者、原木市場等と定期的に意見交換を行い、連携・協力を強めるとともに、工場と定期的に協議を行い、必要な原木の規格(長さや径等)を把握し、それを集荷に反映することで、工場に対して原木の安定供給を実現している。

また、宮崎県森林組合連合会は、細島木材流通センターを開設し、製材工場の稼働に合わせて本格稼働させている。その目的は、県内の原木を取りまとめ、製材工場への搬入を一本化して安定供給を実現し、価格交渉力を持つことである。また、これにより、県内の既存製材工場への原木供給を滞らせないよう調整することも狙いとしている。

当該工場以外も含めた連合会の販売量は増加しており、平成30(2018)年の販売量は国内最大規模の106万m3となり、宮崎県の山元立木価格は、工場稼働後の平成28(2016)年に大きく上昇し、全国トップクラスになっている。


(*16)原木の安定供給体制については、第3章第3節(2)200-201ページを参照。



(仕分けによる販売単価向上)

丸太は、一般に建築用の製材に利用されるものが比較的高価格だが、主伐・間伐の際に山から生産される多様な丸太は、曲りや腐れの有無、色といった品質、太さ等によって、建築、土木、梱包、ラミナ等の製材、合板、パルプチップ用、燃料用等の需要先があり、用途によって求められる長さも異なる。

林業経営者や安定供給の取りまとめ役が需要先ごとのニーズを把握し、生産を担う現場に伝えていくことで、販売先ごとのニーズに応じた採材が可能となり、また、それを販売先ごとに仕分けて販売することで、丸太の価値を高めることが可能となる。

新たな需要を開拓していくことも重要である。例えば平成14(2002)年頃から技術の進展により合板用に曲がり材・小径木等の間伐材の利用が可能となり、合板工場へ安定供給することで国産材利用が広がった。また、近年は製紙用にも使われなかった部位が燃料用として使用され、大きな需要が生み出されている。このため、立木の樹幹の一番玉、二番玉(*17)等の製材・合板用の素材だけでなく、末木枝条や根株等のそれまで利用できなかった部材を燃料用に販売することなどで、立木1本の販売価値を高めることができるようになってきている。

用途別の仕分けは、川上側が取りまとめ役となる場合は、山土場で需要先に応じた選別を行い、山土場から工場へ直送する形が一例である。森林組合連合会等の取りまとめ役が価格交渉等を担うことになるが、取りまとめ役側から木材産業側に新たな規格を提案し、販売単価向上に結びつけた例がある(事例 特-2)。また、中国での需要を開拓し、大径材を輸出に仕向けている森林組合で構成される協議会も存在する。

事例 特-2 青森県森林組合連合会による直送販売

西日本向けの船積み

青森県森林組合連合会は、平成19(2007)年度に、3か所の木材流通センターに直送販売の地域の拠点としての役割を持たせ、大部分を占める並材については直送による協定販売に転換した。

その後、連合会は、A材、B材、C材としていた原木の格付けについて、集成材のラミナ工場に対し、ラミナ積層の外側の層に求められる品質の丸太を選別してB1規格として提案し、受け入れられたことで、他の合板等に用いられるB材よりも500~1,000円高い価格で取引を可能としている。また、製材工場に対しても、原木供給が逼迫する時期にはB1規格の材を販売しており、バッファーの役割も担っている。

さらに営業担当が製材工場を中心に各地を回り販路を確保するとともに、連合会で需要先と素材生産現場の情報を取りまとめている。素材生産業者との信頼関係も構築し、買取りに際しては製材向けの採材を基本的に3.65mと指示している。

このような取組の結果、丸太を連合会に供給するのは傘下の森林組合12組合と民間の素材生産業者の大半にのぼり、協定による直送先は50社、遠くは西日本にまで及んでいる。


注:一般財団法人日本木材総合情報センター「木材サプライチェーンマネージメントの先進的な事例調査報告書」(令和2(2020)年)、遠藤日雄ほか (2019) 丸太価値最大化を考える「もったいない」のビジネス化戦略, 全国林業改良普及協会: 76-89.


令和2(2020)年5月28日に成立した「森林組合法の一部を改正する法律(*18)」(令和3(2021)年4月1日施行)により、これまで推進してきた合併に加え、販売部門等の事業ごとの連携も可能となった。販売が得意な森林組合もあれば、生産が得意な森林組合もあり、得意分野を活かし連携することで、多様なニーズに対応するなど、森林組合のマーケティング機能が強化されることが期待される(*19)。

原木市場が取りまとめ役となる場合は、従来の市場の集荷機能を活用し、優良材の競り売りや中小製材工場等のきめ細かい供給に対応するとともに、新たに商流と物流を分離し、市場土場を経由せず並材を山土場から直送する取組等も拡大している。

製材用と合板や燃料用の木材の価格差が縮まる中、仕分け土場の確保や仕分けの手間とコストを考慮して、原木を、受け入れる品質の幅が広い合板や燃料用材として一括して販売する林業経営体もあるが、仕分けは売上げを向上させる手段ともなる。地域の需要、流通構造を見ながら、販売先の開拓や効率的な生産、集材、運材を行うことが重要である。


(*17)立木を伐倒し、玉切り(造材)した際に、一番根元に近い部分を一番玉と言い、上の方に向かって二番玉、三番玉と呼ぶ。

(*18)「森林組合法の一部を改正する法律」(令和2年法律第35号)

(*19)森林組合法の改正については、第2章第1節(2)125-127ページを参照。



(イ)多様な木材の販売

(役物等の販売)

木造住宅でも柱を表に出さない大壁工法が普及し、役物の需要は減っているが、中小規模の工務店や大工の中には、木材を「あらわし(*20)」で使うなどの意匠性の高い木造住宅の建築を続けている者もおり、原木市場でも優良材は高値で取引されている。このような需要に向けて、枝打ちを行い、優良材生産や長伐期施業を続けていく選択肢もある。この場合でも、販路を確保するため、自ら需要先と結びつくことの重要性が増している。

例えば、林家による林業研究グループである額田林業クラブ(愛知県岡崎おかざき市)は、ヒノキの無節優良材生産を目指し枝打ちを行ってきた。近年の役物の需要減少に伴い、地域の林業事業体、製材所、木材会社等と連携して内装材の生産・販売に取り組み、新たな販路を確保している(*21)。

また、森林所有者から大工、工務店等の住宅生産者までの関係者が一体となって家づくりを行う「顔の見える木材での家づくり」の取組は、令和元(2019)年度には全国で543団体、供給戸数は17,642戸となっている。木造戸建注文住宅の約5割の13万戸は、年間受注戸数が50戸以下の中小の大工や工務店が供給しているが、一般社団法人JBN、全国工務店協会等が平成27(2015)年度に行った調査によれば、中小規模の大工や工務店は、大手住宅メーカーに比べ国産材を使用する割合も高く、森林所有者、製材所、設計者等との連携に取り組んでいる、又は取り組みたいという企業割合も9割と高い(*22)。そのため、特に中小規模の林業経営体は、このような中小の大工、工務店等との連携に取り組んでいくことが重要と考えられる。

例えば「熊本の山の木で家をつくる会」(熊本県熊本市)は、林家、製材所及び工務店(設計者)でネットワークをつくり、家づくりを進めており、伝統的な住宅工法で建築する住宅に合わせて、一般的な住宅では使われない長さの木材を伐り出すことで、スギ2万円/m3、ヒノキ3万円/m3の価格を実現している。

さらに、大手建築会社や家具製造業者等が様々な地域の林業経営体と結びつき、中高層建築物の建設や家具の製造を行うなど、住宅以外でも、様々な連携により産地が見える形での木材の供給が行われている(*23)(事例 特-3)。

事例 特-3 北山丸太と京都の文化で和の空間を創出

北山丸太を使用したオフィス例

京都府の北山きたやま地域は、古くから北山杉の磨き丸太生産地として有名だが、近年では、和室建築の減少に伴う北山丸太の需要減少と価格下落が問題となっていた。そのため、地域の関係者が連携し、北山丸太の新たな使い道として、リノベーションのニーズに応える内装材として提案するプロジェクトを行っている。

このプロジェクトでは、磨き丸太の生産業者や加工業者の組合を始め、地域工務店、空間デザインの設計者、デザイナー、伝統工芸品制作業者が連携し、林業・木材産業の経営コンサルタント会社である株式会社古川ちいきの総合研究所が、コーディネートと運営を担っている。北山丸太の新商品開発に加え、京唐紙など京都の伝統工芸品とセットにした総合的空間をデザインするなど、新しさと伝統の両面を持つ和の空間として提案している。さらに、試作した事例を展示して北山林業のストーリーと共に伝える発表会や、消費者を北山丸太の産地に案内して五感でストーリーを体感してもらうツアーを開催し、北山林業ファンの創出と製品購入への導線づくりにも取り組んだ。

地域材としての特色を重んじ、かつ時代に即した高付加価値製品を考案したことにより、北山丸太の新たな市場の開拓や、林業事業者の誇りの復活につながっている。


資料:一般社団法人全国木材組合連合会「令和元年度 顔の見える木材での快適空間づくり事業実施報告書」


(*20)構造材等に用いられる木材を壁等で隠さず、利用者に見える形で用いる方法。

(*21)一般社団法人全国林業改良普及協会編 (2021) 地域の担い手を育てる林研活動情報集: 第1部40-43.

(*22)一般社団法人JBN、全国工務店協会「木造住宅における木材の使用状況に関する調査」(平成28(2016)年)

(*23)産地が見える形での木材供給の取組については、「令和元年度森林及び林業の動向」特集第4節(1)34ページを参照。



(様々な木材利用への対応・開拓)

木材は様々な用途への利用が可能であり、製材、合板、チップ以外のニッチな需要が存在する。このニーズを掴み、需要者の要望に対応することで、高単価で販売できる可能性がある。経営の規模により出荷できる量は異なるが、小規模の林業経営体であっても、小回りが効き、大量生産に向かない細かな需要に対応した生産が行いやすいと考えられる。

例えば、年間8万5千m3の素材を生産する千歳林業株式会社(北海道倶知安町くっちゃんちょう)は、多樹種・多規格の生産を行っている。特に、土木工事に使われる杭材は、直材である必要があり、必要な支持力により長さ、太さが変わるため非常に種類が多い。注文に応じ生産を行っており、生産の手間はかかるが、特殊な規格であるため高価格での販売が可能となっている。

速水林業(三重県紀北町きほくちょう)は、カキの養殖いかだ用の木材の生産、販売を行っている。全国的に若齢級の森林が比較的少ない中で、細い丸太を12m程度の長さで搬出できる優位性があり、三重県内に加え、中国・九州地方へ販売している。

また、商品を開発し、新しい需要を開拓している林業経営体も存在する。例えば、株式会社東京チェンソーズ(東京都檜原村ひのはらむら)は、1本の木の価値を最大化するため、製材として使えない部分も含めて樹木を丸ごと使うことを目指し、様々な商品を開発し販売している。例えば製材としては使えない枝や梢の部分も、おもちゃや雑貨等での販売や商業施設等でのディスプレイでの活用をしている(資料 特1-17)。

資料 特1-17 枝等を用いた商品
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(広葉樹材の販売と持続的な生産)

人工林の高齢級化が進む中で、混在する広葉樹も成長し、製材用材として利用可能なものも増えている。また、広葉樹材の輸入の減少により、需要サイドからも、家具やフローリング用として国産広葉樹を使いたいとの要望が高まっている。チップ用と考えられていた広葉樹から製材用材に使用可能なものを選別して出荷することで、チップ用よりも高価格での販売が可能となる。

岐阜県飛騨ひだ市は、森林面積の7割がブナ、ミズナラ等の天然林となっており、「広葉樹のまちづくり」を目指している。令和2(2020)年6月には、川上・川中の事業者に加え、建築業者、木製品製造者等が参加する「飛騨市広葉樹活用推進コンソーシアム」を設立し、小径木広葉樹を市内で加工し、価値を高めようとしている。これにより、これまでチップ材として市外に流れていた広葉樹の価値を高め地域に還元するとともに、間伐により広葉樹を持続的に生産していくことを狙っている(資料 特1-18)。

また、宮崎県諸塚村もろつかそんは、土壌や地形等を考慮し、戦後の拡大造林期に針葉樹だけでなく、原木しいたけのほだ木となる広葉樹の植林も進めたことにより、現在、村の広葉樹資源が、ほだ木に加え、家具メーカー等で用いられている。


(ウ)収入の多様化による経営安定

小規模の経営体は、売上げが小さく、林業のみを収入とすると、市況の影響を受けやすく収入を安定させることが難しい場合がある。一方、立地や環境を活かした農業等の他の生業と兼業し、複合経営を行うことで、収入の安定化を図ることも可能である。

例えば菊池林業(愛媛県西予せいよ市)は、約28haの森林と約2haのみかん畑での複合経営を行っている。林業では、約400m/haの路網を整備し、原木市場や製材工場のニーズに合わせて搬出間伐を行うことで、木材の単価を向上させ、売上げを確保している。さらに、みかんの売上げが下がれば間伐をして木材を出荷し、逆にみかんの安定した売上げが出せれば枝打ちや除伐等の施業を行うとしており、兼業により安定的な収入を実現している。

また、森林のレクリエーション的利用等、森林を様々な形で活用し収入を安定させる経営体も存在する。例えば辻村農園・山林(神奈川県小田原市)は、株式会社T-Forestryを設立し、約70haの所有林の一部においてアウトドアパークやマウンテンバイクのコース、約300年生のスギや大正時代の水力発電跡など地域の歴史を体感できる散策路の整備を行い、安定的な収入に結びつけている(*24)(資料 特1-19)。

農業や森林活用以外にも、平日に林業を行い週末はカフェ営業を行う者や、アウトドアのガイドを行い主に秋の閑散期に林業を行う者等、多種多様な複合経営が行われている。


(*24)林野庁(2020)「森林資源を活用した新たな山村活性化に向けた調査検討事業」報告書(参考資料)「森林サービス産業」先進事例集:10.



お問合せ先

林政部企画課

担当者:年次報告班
代表:03-3502-8111(内線6061)
ダイヤルイン:03-6744-2219

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