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林野庁

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第1部 特集1 第1節 我が国の林業経営を取り巻く状況(1)


林業経営体が森林を適切に整備・保全することは、森林の多面的機能を継続的に発揮させるとともに、充実した人工林資源を利用することで、地域の経済・雇用にも貢献する。

本節では、特集の導入として、林業経営体の現状とそれを取り巻く状況等について記述する。

(1)林業経営体の重要性

(森林の多面的機能の発揮)

我が国は、国土の3分の2を森林が占める世界でも有数の森林国である。森林は、水源のかん養、国土の保全、木材を始めとする林産物の供給等の多面的機能を有しており、国民生活及び国民経済に大きく貢献している。政府は、令和2(2020)年10月に、2050年カーボンニュートラルの実現を目指すことを宣言しており(*1)、森林の二酸化炭素吸収量の確保や、製造時のエネルギー消費が少なく、炭素の貯蔵効果もある木材の利用拡大を通じた、我が国の二酸化炭素排出量削減への貢献にも期待がかかる。

こうした機能を持続的に発揮していくためには、人工林を中心に、植栽、保育、間伐等の適切な経営管理を実施していく必要がある。

しかし、我が国の森林所有は小規模・分散的な形態が多いことに加え、森林の所在する地域に居住していない所有者や所有する森林の存在や所在を知らない所有者も多く、森林所有者自らが経営管理を行うことが難しいという課題がある。

そのため、森林所有者自らが林業経営を行う場合に加え、林業経営体による森林の経営管理の集積・集約化を進めていくことが必要である。

これまで、森林所有者から委託を受けた林業経営体等が、森林経営計画制度に基づいて、主体的に森林の経営管理の集積・集約化を進めてきた。これに加え、平成31(2019)年4月からは、市町村が主体となって森林の経営管理を進めていく森林経営管理制度がスタートし、森林所有者や林業経営体のみの努力では適切な経営管理が困難であった条件不利地等にある森林についても、公的主体の関与により経営管理が進むことが期待されている(*2)。この仕組みを積極的に推進していく上でも、市町村から委託を受け森林整備を担っていく林業経営体の役割がますます大きくなっている。


(*1)令和2(2020)年10月26日菅内閣総理大臣所信表明演説。

(*2)森林経営管理制度については、第1章第2節(2)80-86ページを参照。



(山村振興、成長産業化への期待)

我が国の森林面積の約4割を占める人工林では、一般的な主伐期である50年生を超える人工林面積が10年前の2.4倍に増加し、その蓄積量も増大している(資料 特1-1)。


また、国産材供給量は平成14(2002)年の1,692万m3を底として増加傾向にあり、令和元(2019)年は3,099万m3となっている。

この50年間で、活用される樹種別の資源構成も大きく変化し、天然林由来の広葉樹から、人工林由来のスギやヒノキ、カラマツに大きくシフトしている。特にスギの素材生産量は、全体の約6割1,274万m3となり、約50年前の昭和42(1967)年の1,235万m3を超えている(資料 特1-2)。


需要面でみると、住宅着工戸数が減少している一方、環境への配慮や地域の振興など持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)への関心の高まり等を背景に、様々な企業が木材利用に関心を持ち始め、新たな木材利用技術も開発されている。また、燃料材利用の増加もあり、輸入材を含めた全体的な木材利用量は、近年増加傾向にある。

このため、林業経営体には、持続的に森林を管理するとともに、豊富な人工林資源を有効に活用しマーケットニーズに応じて木材を供給することが求められている。

このことは、林業・木材産業を安定的に成長発展させ、山村等における就業機会の創出と所得水準の上昇をもたらす産業へと転換すること、すなわち、「成長産業化」へつながるものである。


(人工林資源の計画的な利用と再造成)

しかし、主伐による丸太生産量が増加する一方で、人工造林面積は主伐面積の3~4割程度となっており、林業に適した場所であっても、再造林が行われていない状況が確認されている。

再造林率が低位な状況が続けば、将来の森林蓄積の減少を招くおそれがあり、長期的には林業経営体や木材産業の事業者の事業継続にも影響がある。

実際に、主伐が進んでいる宮崎県の大淀おおよど川流域や広渡ひろと川流域の民有林では、現状の主伐量と再造林率では、25~60年後には35年生以上で主伐できる人工林がなくなるという試算も報告されている(*3)。

あくまで試算であるが、早い段階から、主伐・再造林を適切かつ計画的に進めていくことが、持続的な森林管理に必要不可欠である。


(*3)藤掛一郎(2019)素材生産持続可能性分析のためのシミュレーション手法-宮崎県民有スギ人工林を対象として-. 林業経済, 72(3): 1-14.



(山元立木価格が下げ止まる中での山元利益の確保)

主伐した後も再造林がされていない理由の一つとして、植栽時と比較して木材価格が低下し、森林所有者が再造林を行う意欲を持てないことが考えられる。

山元立木価格、国産材素材(丸太)価格は、昭和55(1980)年をピークに下落し、近年はほぼ横ばいで推移している(*4)。

素材価格は、自然災害による出材量の減少等、需給状況の変化により局所的に上昇することはあるが、ヒノキを始め住宅の柱等で使われる役物(*5)の需要が減少して並材の需要が中心となっており、輸入材や他の資材との競争がある中ではピーク時のような高い素材価格は見込めない。

このような中で、林業経営体は、安定供給体制を始めとした需要を見据えた生産・販売体制の構築、生産コストの削減等により利益の増加を図り、さらに再造林の原資となる山元への利益還元を進めていく必要がある。


(*4)山元立木価格については第2章第1節(1)121ページを、素材価格については第3章第1節(3)162-164ページを参照。

(*5)和室等の室内で表に見える部分に使用される化粧性の高い製材品。



お問合せ先

林政部企画課

担当者:年次報告班
代表:03-3502-8111(内線6061)
ダイヤルイン:03-6744-2219

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