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第1部 第6章 第1節 復興に向けた森林・林業・木材産業の取組(3)


(3)復興への木材の活用と森林・林業の貢献

(応急仮設住宅や災害公営住宅等での木材の活用)

東日本大震災では、地震発生直後には最大約47万人の避難者が発生し、平成30(2018)年10月12日時点でも約5.6万人が避難生活を余儀なくされている。平成30(2018)年9月時点の避難者等の入居先は、建設型の仮設住宅は約3千戸、借上型の仮設住宅は約6千戸となっており、応急仮設住宅(*17)への入居戸数は減少し、恒久住宅への移転が進められている(*18)。

応急仮設住宅については、被災地の各県が平成25(2013)年4月までに約5.4万戸を建設したが(*19)、被災3県(岩手県、宮城県及び福島県)では、この4分の1以上に当たる約1.5万戸が木造で建設された(*20)(事例6-2)。

事例6-2 福島の木造応急仮設住宅を西日本豪雨の被災地で再利用

福島県いわき市の木造の応急仮設住宅が、平成30(2018)年7月に発生した西日本豪雨で被災した岡山県総社(そうじゃ)市に移築され、再利用された。

解体、移築作業は8月から始まり、10月半ばまでに24棟48戸が完成し、9月には完成した住宅から被災者の入居が開始された。福島県の木造の仮設住宅は、当初から解体、移築が容易な板倉構法(注)で建築されたもので、外壁と基礎杭を除いて木質部材全てを再利用することにより、環境負荷の軽減に貢献している。


注:スギ材の柱や横架材に溝を掘ってスギ材の厚板をはめ込む構法。伝統構法を基本としており、構成部材を骨太にして、補強金物や接着剤による接合を用いず、解体移築再利用を円滑に行うことが可能。同構法を用いた応急仮設住宅の建設については、「平成28年度森林及び林業の動向」207ページを参照。

資料:平成30年8月24日付け共同通信、一般社団法人日本板倉建築協会ホームページ、安藤邦廣(2011)森林技術,2011年10月号:2-7


「一般社団法人全国木造建設事業協会」では、東日本大震災における木造応急仮設住宅の供給実績と評価を踏まえて、大規模災害が発生した場合に、木造の応急仮設住宅を速やかに供給する体制を構築するため、各都道府県との災害協定の締結を進めている。同協会では、平成30(2018)年12月までに、34都道府県(*21)と災害協定を締結している。

また、災害時の木材供給について、地元の森林組合や木材協会等と協定を結ぶ地方公共団体もみられる。

一方、災害公営住宅(*22)については、平成30(2018)年9月末時点で、被災3県において約3万戸の計画戸数が見込まれている。「東日本大震災からの復興の基本方針」では、「津波の危険性がない地域では、災害公営住宅等の木造での整備を促進する」とされており、構造が判明している計画戸数約29,700戸のうち、約8,700戸が木造で建設される予定である。平成30(2018)年9月末時点で、約28,800戸の災害公営住宅が完成しており、このうち約8,300戸が木造で建設されている(資料6-3)。


また、被災者の住宅再建を支援する取組も行われている。平成24(2012)年には、被災3県の林業・木材産業関係者、建築設計事務所、大工・工務店等の関係団体により、「地域型復興住宅推進協議会」が設立された。同協議会に所属する住宅生産者グループは、住宅を再建する被災者に対して、地域ごとに築いているネットワークを活かし、地域の木材等を活用し、良質で被災者が取得可能な価格の住宅を「地域型復興住宅」として提案し、供給している(*23)。

このほか、非住宅建築物や土木分野の復旧・復興事業でも地域の木材が活用されている(*24)(事例6-3)。

事例6-3 新宿御苑で福島県産の木材を内装に使用したカフェが誕生

平成30(2018)年8月、環境省新宿御苑管理事務所が管理する新宿御苑(東京都新宿区)インフォメーションセンター内に併設されているカフェ「はなのき」が、福島県産木材を内装にふんだんに活用し改装され、リニューアルオープンした。

店内には、福島県木材協同組合連合会から寄贈された県産スギのテーブルや、6月の全国植樹祭式典で使用された県産スギのベンチが配置され、福島県産の木製品の常設展示コーナーも設けられた。

新宿御苑は海外からの来園者も多く、このような施設を通じて、福島県産木材の魅力が国内外からの来園者に継続的に発信されていくことが期待される。


資料:環境省プレスリリース「新宿御苑カフェ「はなのき」リニューアルオープン及び福島マルシェの開催について」、平成30(2018)年8月11日付け日刊木材新聞2面


(*17)「災害救助法」(昭和22年法律第118号)第4条第1項第1号に基づき、住家が全壊、全焼又は流失し、居住する住家がない者であって、自らの資力では住家を得ることができないものに供与するもの。

(*18)復興庁「東日本大震災からの復興の状況に関する報告」(平成30(2018)年11月)

(*19)国土交通省ホームページ「応急仮設住宅関連情報」

(*20)国土交通省調べ(平成25(2013)年5月16日現在)。

(*21)協定締結順に、徳島県、高知県、宮崎県、愛知県、埼玉県、岐阜県、長野県、愛媛県、秋田県、静岡県、広島県、東京都、香川県、神奈川県、三重県、大分県、千葉県、滋賀県、富山県、青森県、山梨県、熊本県、山口県、兵庫県、佐賀県、山形県、京都府、北海道、茨城県、長崎県、鹿児島県、和歌山県、福岡県及び岡山県。

(*22)災害により住宅を滅失した者に対し、地方公共団体が整備する公営住宅。

(*23)地域型復興住宅推進協議会ほか「地域型復興住宅」(平成24(2012)年3月)。地域型復興住宅の供給とマッチングの取組については、「平成27年度森林及び林業の動向」196ページを参照。

(*24)土木分野での木材利用については、第4章(205ページ)、土木分野の復旧・復興事業での木材利用については、「平成25年度森林及び林業の動向」45ページを参照。



(木質系災害廃棄物の有効活用)

東日本大震災では、地震と津波により、多くの建築物や構造物が破壊され、コンクリートくず、木くず、金属くず等の災害廃棄物(がれき)が、13道県239市町村で約2,000万トン発生した(*25)。このうち、木くずの量は、約135万トンであった。これらの災害廃棄物は、平成29(2017)年8月末時点で、全ての地域において処理が完了している(*26)。

木くずについては、平成23(2011)年に環境省が策定した「東日本大震災に係る災害廃棄物の処理指針(マスタープラン)」では、木質ボード、ボイラー燃料、発電等に利用することが期待できるとされ、各地の木質ボード工場や木質バイオマス発電施設で利用された。


(*25)福島県の避難区域を除く。

(*26)環境省ホームページ「災害廃棄物対策情報サイト」、復興庁「東日本大震災からの復興の状況に関する報告」(平成30年(2018)年11月)



(木質バイオマスエネルギー供給体制を整備)

「東日本大震災からの復興の基本方針」では、木質系災害廃棄物を活用したエネルギーによる熱電併給を推進するとともに、将来的には、未利用間伐材等の木質資源によるエネルギー供給に移行するとされるなど、木質バイオマスを含む再生可能エネルギーの導入促進が掲げられた。

また、平成24(2012)年に閣議決定された「福島復興再生基本方針」では、目標の一つとして、再生可能エネルギー産業等の創出による地域経済の再生が位置付けられた。このほか、「岩手県東日本大震災津波復興計画」や「宮城県震災復興計画」においても、木質バイオマスの活用が復興に向けた取組の一つとして位置付けられている。

これらを受けて、各地で木質バイオマス関連施設が稼動している(*27)(事例6-4)。

事例6-4 木質バイオマス熱電併給による復興の取組

宮城県気仙沼(けせんぬま)市では、市の震災復興計画において再生可能エネルギーの利用検討が掲げられたことを契機に、「気仙沼地域エネルギー開発株式会社」が地元企業の出資により設立され、同社によって地域の森林資源を活用した木質バイオマス発電及び熱供給事業が、平成25(2013)年度から実施されている。

同社は、地元の森林組合や素材生産事業者、林家から調達した間伐材をチップ化し、ガス化炉で発生させたガスで発電を行い、FIT制度(注1)により全量売電を行っている。発電の過程で発生する熱については、チップの乾燥に使うとともに、余剰分を近隣の宿泊施設に温水として提供している。

地域の林家からの木材調達に当たっては、相場より高い価格で木材を買い取る代わりに、その一部を市内の加盟店舗で使用できる地域通貨で支払い、地域内で通貨が循環する仕組みを構築するなど、山林所有者への利益還元と地域経済の活性化に貢献することを重視している。

また、地域の山林所有者等を対象とした自伐林家育成塾「森のアカデミー」を、平成24(2012)年度から平成30(2018)年度までの7年間で16期48回開催(注2)し、延べ600名以上が参加するなど、発電事業開始前から間伐材供給の協力者となる林家の育成支援にも取り組み、震災後の地域林業の活性化へ貢献してきた。

平成28(2016)年7月から東京都環境公社(東京都墨田区)が、さらに、平成30(2018)年4月からは、気仙沼市と友好都市である東京都目黒区が、気仙沼市の復興を支援するとして、同社の間伐材由来のFIT電気の購入を開始し、動物園や小中学校をはじめとした各所有施設で活用を始めた。都市におけるエネルギー利用を通じた復興支援も加わることにより、このような気仙沼地域の林業や山村活性化の取組がますます推進されていくことが期待される。


注1:FIT制度(再生可能エネルギーの固定買取価格制度)について、詳しくは第4章(208-209ページ)を参照。

2:平成27(2015)年度からは、同社を母体に設立されたNPO法人「リアスの森応援隊」により実施。

資料:現代林業(平成30年8月号42-52頁)、林野庁「木質バイオマス熱利用・熱電併給事例集」(平成29(2017)年11月)、「東京都地球温暖化防止活動推進センター」ホームページ、東京都目黒区ホームページ


地域通貨リネリア

(*27)木質バイオマスのエネルギー利用については、第4章(206-210ページ)を参照。



(復興への森林・林業・木材産業の貢献)

「「復興・創生期間」における東日本大震災からの復興の基本方針」では、被災地は、震災以前から、人口減少や産業空洞化といった全国の地域にも共通する課題を抱えており、眠っている地域資源の発掘・活用や創造的な産業復興、地域のコミュニティ形成の取組等も通じて、「新しい東北」の姿を創造するとされている。

これらの課題の解決に向けては、林業・木材産業分野でも、森林資源の活用を通じた復興に向けた取組が行われており(事例6-4)、平成25(2013)年度から平成27(2015)年度にかけて実施された復興庁の「「新しい東北」先導モデル事業」を通じた先導的な取組(*28)等も展開されてきた。また、「「新しい東北」復興ビジネスコンテスト」や「地域復興マッチング「結(ゆい)の場(ば)」」の開催等を通じ、被災地の産業復興に向けた取組が広がっている(*29)。


(*28)詳しくは、「平成27年度森林及び林業の動向」197ページを参照。

(*29)「「新しい東北」復興ビジネスコンテスト」について詳しくは、「平成27年度森林及び林業の動向」197ページを参照。「地域復興マッチング「結(ゆい)の場(ば)」」について詳しくは、「平成28年度森林及び林業の動向」208ページを参照。


お問合せ先

林政部企画課

担当者:年次報告班
代表:03-3502-8111(内線6061)
ダイヤルイン:03-6744-2219

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