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林野庁

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第1部 第6章 第1節 復興に向けた森林・林業・木材産業の取組(2)


(2)海岸防災林の復旧・再生

(海岸防災林の被災と復旧・再生の方針)

東日本大震災では、津波によって青森県、岩手県、宮城県、福島県、茨城県及び千葉県の6県にわたる海岸防災林において、防潮堤や林帯地盤(*7)の損壊、沈下及び流失や、樹木の倒伏及び流失等の被害が発生した。特に、地盤高が低く地下水位が高い場所では、樹木の根が地中深くに伸びず、津波により樹木が根返りし、流木化した。一方、海岸防災林が、津波エネルギーの減衰や漂流物の捕捉等の一定の津波被害の軽減効果を発揮したことも確認された。

林野庁は平成23(2011)年5月から、学識経験者等から成る「東日本大震災に係る海岸防災林の再生に関する検討会」を開催し、平成24(2012)年2月に「今後における海岸防災林の再生について」を取りまとめ、今後の海岸防災林の再生の方針を示した(*8)。被災地の復興に当たっては、同方針を踏まえつつ、被災状況や地域の実情、更には地域の生態系保全の必要性に応じた再生方法等を考慮しながら、津波や潮害、飛砂及び風害の防備等の機能を発揮する海岸防災林の復旧・再生に取り組むこととしている。

「「復興・創生期間」における東日本大震災からの復興の基本方針」では、海岸防災林については、令和2(2020)年度までの復旧完了を目指して造成を推進するとされており、土地利用に関する地元の合意形成等の状況を踏まえつつ、林帯地盤等の復旧が完了した箇所から順次植栽を行っている(*9)。

平成26(2014)年からは、海岸防災林の再生に関する取組事例や提言も踏まえ、様々な植栽樹種・植栽方法について、海岸防災林としての効果やコストの観点から検証する実証試験を実施しており、その成果についても、今後の海岸防災林の復旧・再生に反映していくこととしている。


(*7)海岸防災林の基礎地盤のこと。林帯地盤の復旧に当たっては、盛土を行うことにより植栽木の根系が十分に発達するための生育基盤を確保し、津波等による根返りが起こりにくい林帯の造成を進めている。

(*8)東日本大震災に係る海岸防災林の再生に関する検討会「今後における海岸防災林の再生について」(平成24(2012)年2月)

(*9)復興庁「復興施策に関する事業計画及び工程表(福島12市町村を除く。)(平成29年4月版)」(平成29(2017)年8月1日)、復興庁「福島12市町村における公共インフラ復旧の工程表」(平成29(2017)年8月1日)



(海岸防災林の復旧状況)

東日本大震災の津波により被災し、さらに津波の影響により滞水した海岸防災林において赤枯れ(*10)が拡大したこと等から、海岸防災林の要復旧延長は約164kmとなっている(*11)。平成31(2019)年1月末時点で、帰還困難区域等を除き、約163kmで復旧工事(*12)に着手済みであり、うち約113kmで工事が完了した。

例えば、宮城県石巻(いしのまき)市十八成(くぐなり)では、津波により被災した海岸防災林について、盛土等により生育基盤を復旧した上でマツノザイセンチュウ抵抗性クロマツ(*13)を植栽し、平成30(2018)年5月に復旧工事が完了した。岩手県野田村(のだむら)前浜(まえはま)の被災した海岸防災林では、防潮堤及び生育基盤の復旧と植栽を進める中、平成29(2017)年10月及び平成30(2018)年6月には地域住民による植樹活動が実施された(事例6-1)。

また、平成30(2018)年11月には福島県南相馬(みなみそうま)市鹿島区(かしまく)北海老(きたえび)地内の海岸防災林盛土施工地において、ふるさと再生への思いを込めて「第1回ふくしま植樹祭」が開催された。

事例6-1 地域住民による海岸防災林の再生の取組

植樹イベントの様子

岩手県野田村(のだむら)の前浜(まえはま)地区では、約12haに10,000本のクロマツが植えられ防潮林の役割を担っていたが、東日本大震災による津波で数本を残して流出した。

同地区では、防潮堤完成の目途が立った平成29(2017)年10月に初めての植樹イベント「前浜地区防潮林再生記念植樹」(主催:岩手県県北広域振興局、野田村、岩手県緑化推進委員会野田支部)が行われ、地域住民約100名が参加し約0.2haにクロマツ約1,000本が植樹された。

また、平成30(2018)年6月には、地域の住民団体である「のだ千年の松」主催による植樹イベント「天までとどけ!未来への植樹祭」も開催され、村内外から約200名が参加し、防潮林の再生を願って約0.05haに広葉樹約300本が植えられた。

同地区では、令和2(2020)年3月末までに、防潮林の造成工事の完成を目指している。


資料:岩手県「いわて復興だより」2018年7月25日号:3頁、平成30(2018)年6月11日付け岩手日報


(*10)津波によって持ち込まれ、土壌に残留した大量の塩分の影響で、樹木の葉が赤くなり枯れるなどの現象。

(*11)復興庁「復興の現状」(平成30(2018)年11月9日)

(*12)地盤高が低く地下水位が高い箇所では盛土を行うなど、生育基盤を造成した上で、植栽を実施。

(*13)抵抗性マツについては、第2章(92ページ)を参照。



(民間団体等と連携して植栽等を実施)

海岸防災林の復旧・再生については、地域住民、NPO、企業等の参加や協力も得ながら、植栽や保育が進められている(事例6-1)。地域の復興に向けたシンボル的な活動として、このような取組は意義があり、また、大規模災害に対する防災意識の向上を図る観点からも重要である。

国有林では、平成24(2012)年度から、海岸防災林の復旧事業地のうち、生育基盤の造成が完了した箇所の一部において、公募による協定方式を活用して、NPOや企業等の民間団体の協力も得ながら植栽等を進めている。平成29(2017)年度末時点で、宮城県仙台市内と東松島(ひがしまつしま)市内及び福島県相馬(そうま)市内の国有林において延べ77の民間団体と協定を締結しており、植栽等の森林整備活動を実施している。

平成30(2018)年6月に開催された「第69回全国植樹祭」では、福島県南相馬(みなみそうま)市原町(はらまち)区雫(しどけ)地内の海岸防災林が式典会場となり、海岸防災林の復旧・再生についても国内に広く発信された(*14)。


(*14)詳しくは、トピックス9-10ページを参照。全国植樹祭については、第2章(74ページ)を参照。第69回全国植樹祭に向けた取組事例については、「平成28年度森林及び林業の動向」204ページを参照。



(苗木の供給体制の確立と植栽後の管理のための取組)

被災した海岸防災林の再生には、1,000万本程度の苗木が必要になると見込まれている。苗木生産には2~3年を要することから、各地の海岸防災林の再生事業の進捗に合わせて、必要な量の苗木を計画的に確保していくことが必要である。このため、林野庁は、優良種苗の安定供給体制を確立するため、平成24(2012)年度から平成27(2015)年度まで、事業協同組合等に対して育苗機械や種苗生産施設等の整備を支援し、平成28(2016)年度からは、コンテナ苗を低コストで大量に生産するための施設整備等を支援している。平成25(2013)年度から平成27(2015)年度までの3年間においては、国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所林木育種センター東北育種場等が産官共同で、マツノザイセンチュウ抵抗性クロマツの種子生産を増加させる技術の開発等、抵抗性クロマツ苗木の供給体制の確立に向けた取組を行った(*15)。

また、海岸防災林について、潮害、飛砂及び風害の防備等の災害防止機能を発揮させるためには、植栽後も、下刈り、除伐、間伐等を継続的に行う必要がある。このため、植栽が行われた海岸防災林の復旧事業地では、地元住民、NPO、企業等の参加や協力も得つつ、治山事業により必要な保育を実施することとしている(*16)。


(*15)「平成28年度森林及び林業の動向」205ページを参照。

(*16)東日本大震災に係る海岸防災林の再生に関する検討会「今後における海岸防災林の再生について」(平成24(2012)年2月)


お問合せ先

林政部企画課

担当者:年次報告班
代表:03-3502-8111(内線6061)
ダイヤルイン:03-6744-2219

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