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林野庁

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第1部 第6章 第2節 原子力災害からの復興(1)


東日本大震災に伴う東京電力福島第一原子力発電所の事故により、環境中に大量の放射性物質が放散され、福島県を中心に広い範囲の森林が汚染されるとともに、林業・木材産業にも影響が及んでいる。

以下では、原子力災害からの復興に向けた、森林の放射性物質対策、安全な林産物の供給、樹皮やほだ木等の廃棄物の処理、損害の賠償について記述する。


(1)森林の放射性物質対策

林野庁では、平成23(2011)年度から森林内の放射性物質の分布状況等について継続的に調査を進めているほか、森林の整備を行う上で必要な放射性物質対策技術の実証等の取組を進めている。

平成28(2016)年3月には、復興庁、農林水産省及び環境省による「福島の森林・林業の再生のための関係省庁プロジェクトチーム」が、福島県民の安全・安心の確保、森林・林業の再生に向け、「福島の森林・林業の再生に向けた総合的な取組」を取りまとめた。これに基づき、国は、県・市町村と連携しつつ、住民の理解を得ながら、生活環境の安全・安心の確保、住居周辺の里山の再生、奥山等の林業の再生に向けた取組や、調査研究等の将来に向けた取組、情報発信等の取組を着実に進めている(*30)。


(*30)「福島の森林・林業の再生に向けた総合的な取組」について詳しくは、「平成28年度森林及び林業の動向」209ページを参照。



(ア)森林内の放射性物質に関する調査・研究

(森林内の放射性物質の分布状況の推移)

林野庁は、平成23(2011)年度から、東京電力福島第一原子力発電所からの距離が異なる福島県内の森林を対象として、放射性セシウムの濃度と蓄積量の推移を調査している。

森林内の放射性セシウムは、事故後最初の1年である平成23(2011)年から平成24(2012)年にかけて、葉、枝、落葉層の放射性セシウムの分布割合が大幅に低下し、土壌の分布割合が大きく上昇した。これは、樹木の枝葉等に付着した放射性セシウムが、落葉したり、雨で洗い流されたりして地面の落葉層に移動し、更に落葉層が分解され土壌に移動したためと考えられる。その後も放射性セシウムの土壌への分布割合は更に増えており、平成29(2017)年時点で、森林内の放射性セシウムの90%以上が土壌に分布し(資料6-4)、その大部分は土壌の表層0~5cmに存在している。また、材の放射性セシウム濃度は樹木の葉や枝、樹皮と比べると全般的に低く、大きく変動していないことから、原発事故直後に取り込まれた放射性セシウムの多くは樹木内部に留まり、毎年開葉するコナラの葉に放射性セシウムが含まれていることや、スギやコナラの辺材や心材で濃度変化が見られることなどから、一部は樹木内を転流していると考えられる。さらに、事故後に植栽した苗木にも放射性セシウムが認められることから、根からの吸収が与える影響も調査していく必要がある。

土壌の放射性セシウム濃度については、時間の経過とともに、順次、地上部から落葉層、0~5cmの土壌への移行が見られ、また一部では更に深い層への移行が見られることから、今後もその移行状況を注視していくこととしている。

また、森林全体での放射性セシウムについては、蓄積量の変化が少なく、かつ大部分が土壌表層付近に留まっていることや渓流水中の放射性セシウム濃度の調査等から、森林に付着した放射性セシウムは森林内に留まり、森林外への流出は少ないと考察されている(*31)。


(*31)林野庁ホームページ「平成29年度 森林内の放射性物質の分布状況調査結果について」



(森林整備等に伴う放射性物質の移動)

林野庁は、平成23(2011)年度から、福島県内の森林に設定した試験地において、落葉等除去や伐採等の作業を実施した後の土砂等や放射性セシウムの移動状況について調査を行っている。森林内の地表水や移動土砂等を調べたところ、地表流水からは放射性セシウムがほとんど検出されず、林床の放射性セシウムは主に土砂に付着して移動していると推察された。間伐等の森林整備による放射性セシウムの移動量については、何も実施していない対照区と比べて大きな差は確認されなかった。一方で、落葉等除去を実施した箇所では1年目の移動量が、何も実施していない対照区に比べて多くなることが確認されたが、2年目以降は対照区と同程度であった(*32)。このようなことから、間伐の際には、林床を大きく攪乱しなければ、土砂の移動が少なく、放射性セシウムの移動への影響は小さいと考えられる。また、森林の生育過程において、間伐は、森林内に光を取り込み下層植生の繁茂を促すことで土壌の移動を抑制させることにより、放射性セシウムの移動も抑制する効果が期待される。


(*32)林野庁「平成28年度森林における放射性物質拡散防止等技術検証・開発事業報告書」(平成29(2017)年3月)



(萌芽更新木に含まれる放射性物質)

平成25(2013)年度から、東京電力福島第一原子力発電所の事故後に伐採した樹木の根株から発生した萌芽更新木について調査している。同一の根株から発生した萌芽枝に含まれる放射性セシウムの濃度を測定した結果、経年による変化傾向はみられなかったが、直径の大きいものの方がやや低いという傾向がみられた。また、コナラとクヌギの樹種による比較では、クヌギの方が低いという傾向がみられた(*33)。

さらに、平成26(2014)年度から、稲作で効果が確認されているカリウム施肥を行った場合の土壌から樹木への放射性セシウムの吸収抑制効果についても調査している。コナラの萌芽更新木について、カリウム施肥区と非施肥区を設定して試験を行った結果、施肥後2年間は効果がみられなかったが、追肥を実施した3年目に一部で放射性セシウム濃度の低下がみられた(*34)。一方、別の試験で新たに植栽したヒノキについては、土壌中の交換性カリウム(*35)濃度が低い場合には、カリウム施肥による樹木の放射性セシウム吸収抑制が確認されたとする報告(*36)もある。萌芽更新木の放射性セシウム濃度は個体や地域による差が大きいことから、施肥効果やコスト等について引き続き検証することとしている。

これらの取組に加え、林野庁では、福島県及び周辺県のほだ木等原木林の再生に向け、萌芽更新木調査について支援を行っている。


(*33)林野庁「平成28年度森林における放射性物質拡散防止等技術検証・開発事業報告書」(平成29(2017)年3月)

(*34)林野庁「平成29年度森林における放射性物質拡散防止等技術検証・開発事業報告書」(平成30(2018)年3月)

(*35)土壌中に含まれるカリウムのうち、植物などの生物に吸収可能な性質のもの。

(*36)国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所プレスリリース「樹木の放射性セシウム汚染を低減させる技術の開発へ―カリウム施肥によるセシウム吸収抑制を確認―」(平成29(2017)年12月21日付け)



(イ)林業の再生に向けた取組

(林業再生対策の取組)

林業の再生に向けて、平成25(2013)年度から、間伐等の森林整備とその実施に必要な放射性物質対策を推進する実証事業を実施している。平成30(2018)年度までに、汚染状況重点調査地域等に指定されている福島県内44市町村の森林において、県や市町村等の公的主体による間伐等の森林整備を行うとともに、森林整備に伴い発生する枝葉等の処理や、急傾斜地等における表土の一時的な移動を抑制する筋工等の設置を行っている。平成30(2018)年3月末までの実績は、間伐等4,888ha、森林作業道作設559kmとなっている。


(避難指示解除区域等での林業の再開に向けた取組)

平成26(2014)年度からは、避難指示解除区域等を対象に、森林整備や林業生産活動の早期再開に向けて試行的な間伐等を実施し、これまでに得られた知見を活用した放射性物質対策技術の実証事業を実施している。その結果、林内作業における粉じん吸入による内部被ばくはごく僅かであり、作業者の被ばく線量を低減させるには外部被ばくを少なくすることが重要ということが明らかになった(*37)。また、現在では、森林内の放射性セシウムの9割以上が土壌に滞留しており、間伐等による空間線量率の低減効果は限定的であることが明らかになった(*38)。


(*37)林野庁「平成26年度「避難指示解除準備区域等における実証事業(田村市)」報告書」(平成27(2015)年3月)

(*38)林野庁「平成27年度避難指示解除準備区域等の林業再生に向けた実証事業(葛尾村)報告書」(平成28(2016)年3月)



(林内作業者の放射線安全・安心対策)

避難指示解除区域はもとより、避難指示解除準備区域においても、除染作業以外の生活基盤の復旧や製造業等の事業活動が認められ、営林についても再開できることが認められている(*39)ことなどを踏まえ、林内作業者の放射線安全・安心対策の取組を進めている。

平成24(2012)年に改正された「東日本大震災により生じた放射性物質により汚染された土壌等を除染するための業務等に係る電離放射線障害防止規則」(以下「除染電離則(*40)」という。)では、除染特別地域(*41)又は汚染状況重点調査地域内における除染業務に加え、1万Bq/kgを超える汚染土壌等を扱う業務(以下「特定汚染土壌等取扱業務」という。)や、土壌等を扱わない場合にあっても平均空間線量率が2.5µSv/hを超える場所で行う業務(以下「特定線量下業務」という。)について、事業者に雇用される者に係る被ばく線量限度や線量の測定、特別教育の実施など事業者に対する義務を規定している(*42)。

林野庁では、除染電離則の改正を受けて、平成24(2012)年に「森林内等の作業における放射線障害防止対策に関する留意事項等について(Q&A)」を作成し、森林内の個別の作業が特定汚染土壌等取扱業務や特定線量下業務に該当するかどうかをフローチャートで判断できるように整理するとともに、実際に森林内作業を行う際の作業手順や留意事項を解説している(*43)。

また、平成25(2013)年には、福島県内の試験地において、機械の活用による作業者の被ばく低減等について検証を行い、キャビン付き林業機械による作業の被ばく線量は、屋外作業と比べて35~40%少なくなるとの結果が得られた(*44)。このため、林野庁では、林業に従事する作業者の被ばくを低減するため、リースによる高性能林業機械の導入を支援している。

さらに、平成28(2016)年度には、林内作業者向けに分かりやすい放射線安全・安心対策のガイドブックを作成し、森林組合等の林業関係者に配布し普及を行っている。


(*39)原子力被災者生活支援チーム「避難指示区域内における活動について」(平成29(2017)年5月19日改訂)

(*40)平成23年厚生労働省令第152号。「労働安全衛生法」(昭和47年法律第57号)第22条、第27条等の規定に基づく厚生労働省令。

(*41)「放射性物質汚染対処特措法」に規定されており、平成23(2011)年4月に設定された「警戒区域」又は「計画的避難区域」の指定を受けたことがある地域が指定されている。環境大臣が定める「特別地域内除染実施計画」に基づいて、国により除染等が実施されている。

(*42)「東日本大震災により生じた放射性物質により汚染された土壌等を除染するための業務等に係る電離放射線障害防止規則等の一部を改正する省令の施行について」(平成24(2012)年6月15日付け基発0615第7号厚生労働省労働基準局長通知)

(*43)農林水産省プレスリリース「森林内等の作業における放射線障害防止対策に関する留意事項等について(Q&A)」(平成24(2012)年7月18日付け)

(*44)農林水産省プレスリリース「森林における放射性物質の拡散防止技術検証・開発事業の結果について」(平成25(2013)年8月27日付け)



(ウ)里山の再生に向けた取組組

「福島の森林・林業の再生に向けた総合的な取組」に基づく取組の一つとして、避難指示区域(*45)(既に解除された区域を含む。)及びその周辺の地域においてモデル地区を選定し、里山再生を進めるための取組を総合的に推進する「里山再生モデル事業」を実施しており、平成31(2019)年3月末までに14か所のモデル地区を選定している(*46)。同地区では、林野庁の事業により間伐等の森林整備を行うとともに、環境省の事業による除染、内閣府の事業による線量マップの作成等、関係省庁が県や市町村と連携しながら、里山の再生に取り組んでおり(資料6-5)、間伐等の森林整備については、平成31(2019)年3月末時点で、川俣町(かわまたまち)、広野町(ひろのまち)、川内村(かわうちむら)、楢葉町(ならはまち)及び大熊町(おおくままち)で作業完了、葛尾村(かつらおむら)、伊達(だて)市、富岡町(とみおかまち)、浪江町(なみえまち)、飯舘村(いいだてむら)、相馬(そうま)市及び二本松(にほんまつ)市で実施中である。

資料6-5 里山再生モデル事業のイメージ

(*45)東京電力福島第一原子力発電所の事故により、国が設定し避難を指示した、避難指示解除準備区域、居住制限区域及び帰還困難区域の3つの区域。

(*46)平成28(2016)年9月に、川俣町、葛尾村、川内村及び広野町の計4か所、同12月に、相馬市、二本松市、伊達市、富岡町、浪江町及び飯舘村の計6か所、平成30(2018)年3月に田村市、南相馬市、楢葉町、大熊町の計4か所を選定。



(エ)森林除染等の実施状況

汚染状況重点調査地域(*47)のうち国有林については、平成29(2017)年3月末現在、林野庁が福島県、茨城県及び群馬県の3県約29haで除染を実施済みである。

また、林野庁では、地方公共団体等から汚染土壌等の仮置場用地として国有林野を使用したいとの要請があった場合、国有林野の無償貸付け等を行っている(*48)。


(*47)「平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法」(放射性物質汚染対処特措法)(平成23年法律第110号)に規定されており、空間線量率が毎時0.23µSv以上の地域を含む市町村が指定されている。指定を受けた市町村は「除染実施計画」を定め、この計画に基づき市町村、県、国等により除染等の措置等が実施されている。

(*48)詳しくは、第5章(237ページ)を参照。



(オ)情報発信とコミュニケーション

これまでの取組により、森林における放射性物質の分布、森林から生活圏への放射性物質の流出等に係る知見等が蓄積されてきている。これらの森林の放射性物質に係る知見を始めとして、森林・林業の再生のための取組等について最新の情報を分かりやすく丁寧に提供するとともに、専門家の派遣も含めてコミュニケーションを行うため、シンポジウムや出前講座の開催、パンフレットの作成・配布及び農林水産省「消費者の部屋」特別展示等の普及啓発活動を実施している。

お問合せ先

林政部企画課

担当者:年次報告班
代表:03-3502-8111(内線6061)
ダイヤルイン:03-6744-2219

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