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第1部 第3章 第3節 山村(中山間地域)の動向(1)


その多くが中山間地域(*110)に位置する山村は、住民が林業を営む場であり、森林の多面的機能の発揮に重要な役割を果たしているが、過疎化及び高齢化の進行、適切な管理が行われない森林の増加等の問題を抱えている。一方、山村には独自の資源と魅力があり、これらを活用した活性化が課題となっている。

以下では、山村の現状と活性化に向けた取組について記述する。


(*110)平野の外縁部から山間地を指す。国土面積の約7割を占める。



(1)山村の現状

(山村の役割と特徴)

山村は人が定住し、林業生産活動等を通じて日常的な森林の整備・管理を行うことにより、国土の保全、水源の涵(かん)養等の森林の有する多面的機能の持続的な発揮に重要な役割を果たしている。

「山村振興法(*111)」に基づく「振興山村(*112)」は、平成29(2017)年4月現在、全国市町村数の約4割に当たる734市町村において指定されており、国土面積の約5割、林野面積の約6割を占めているが、その人口は全国の3%の393万人にすぎない(資料3-40)。振興山村は、まとまった平地が少ないなど、平野部に比べて地理的条件が厳しい山間部に多く分布しており、面積の約8割が森林に覆われている。産業別就業人口をみると、全国平均に比べて、農業や林業等の第1次産業の占める割合が高い(資料3-41)。


また、山村の生活には、就業機会や医療機関が少ないなどの厳しい面がある。平成26(2014)年6月に内閣府が行った「農山漁村に関する世論調査」によると、農山漁村地域の住民が生活する上で困っていることについては、「仕事がない」、「地域内での移動のための交通手段が不便」、「買い物、娯楽などの生活施設が少ない」、「医療機関(施設)が少ない」を挙げた者が多い。都市住民のうち農山漁村地域への定住願望がある者が定住のために必要だと思うことについても、「医療機関(施設)の存在」、「生活が維持できる仕事があること」を挙げた者が多い。

林業は、雇用の確保等を通じて、山村の振興に貢献する産業である。これらの地域の振興を図る上でも、林業の成長産業化が大きな政策的課題となっている。


(*111)「山村振興法」(昭和40年法律第64号)

(*112)旧市町村(昭和25(1950)年2月1日時点の市町村)単位で林野率75%以上かつ人口密度1.16人/町歩未満(いずれも昭和35(1960)年時点)等の要件を満たし、産業基盤や生活環境の整備状況からみて、特にその振興を図ることが必要であるとして「山村振興法」に基づき指定された区域。1町歩は9,917.36m2である。



(山村では過疎化・高齢化が進行)

山村では、高度経済成長期以降、若年層を中心に人口の流出が著しく、過疎化及び高齢化が急速に進んでいる。昭和40(1965)年以降、全国の人口が増加してきた一方で振興山村の人口は減少を続け、また、65歳以上の高齢者の割合(高齢化率)も上昇を続け、全国平均23%に対して34%となっている(資料3-42)。

また、過疎地域等の集落の中でも、山間地の集落では、世帯数が少ない、高齢者の割合が高い、集落機能が低下し維持が困難である、消滅の可能性がある、転入者がいないなどの問題に直面する集落の割合が、平地や中間地に比べて高くなっている(資料3-43)。


平成30(2018)年3月に厚生労働省国立社会保障・人口問題研究所が公表した「日本の地域別将来推計人口」によると、令和27(2045)年における総人口が平成27(2015)年に比べて2割以上減少する市区町村は、全市区町村数の73.9%を占める1,243に上り、また、65歳以上の人口が50%以上を占める市区町村数は、全地方公共団体の3割近くを占める465に上ると推計されている。このような中で、山村においては、過疎化及び高齢化が今後も更に進むことが予想され、山村における集落機能の低下、更には集落そのものの消滅につながることが懸念される。


(過疎地域等の集落と里山林)

平成28(2016)年に国土交通省及び総務省が公表した「過疎地域等条件不利地域における集落の現況把握調査」の結果によると、条件不利地域における平成27(2015)年4月時点の集落数は75,662集落あり、また、99市町村において190集落が平成22(2010)年4月以降消滅している。消滅した集落における森林・林地の管理状況については、これらの集落の59%では元住民、他集落又は行政機関等が管理しているものの、残りの集落では放置されている(資料3-44)。また、過疎地域等の集落では、空き家の増加を始めとして、耕作放棄地の増大、働き口の減少、獣害や病虫害の発生、林業の担い手不足による森林の荒廃等の問題が発生しており、地域における資源管理や国土保全が困難になりつつある(資料3-45)。


特に、居住地近くに広がる里山林等の森林は、これまで薪炭用材の伐採、落葉の採取等を通じて、地域住民に継続的に利用されることにより維持・管理されてきたが、昭和30年代以降の石油やガスへの燃料転換や化学肥料の使用の一般化に伴って利用されなくなり、藪(やぶ)化の進行等がみられる。また、我が国における竹林面積は、長期的に微増傾向にあり、平成29(2017)年には16.7万haとなっているが(*113)、これらの中には適切な管理が困難となっているものもあり、放置竹林の増加や里山林への竹の侵入等の問題が生じている地域がみられる(*114)。


(*113)林野庁「森林資源の現況」。竹の利活用については、137-138ページを参照。

(*114)里山林の保全と管理については、145ページを参照。



(山村独自の資源と魅力)

一方、山村には、豊富な森林資源、水資源、美しい景観のほか、食文化を始めとする伝統や文化、生活の知恵や技等、有形無形の地域資源が数多く残されていることから、都市住民が豊かな自然や伝統文化に触れる場、心身を癒す場、子供たちが自然を体験する場としての役割が期待される。

山村は、過疎化及び高齢化や生活環境基盤の整備の遅れ等の問題を抱えているが、見方を変えれば、都市のような過密状態がなく、生活空間にゆとりがある場所であるとともに、自給自足生活や循環型社会の実践の場として、また、時間に追われずに生活できる「スローライフ」の場としての魅力があるともいえる。

平成26(2014)年6月に内閣府が行った「農山漁村に関する世論調査」によると、都市と農山漁村の交流が必要と考える者の割合は9割に上り、そのような交流等の機会を学校が提供する体験学習について、「取り組むべき」と考える者の割合も9割を超えている(資料3-46)。また、都市住民のうち農山漁村地域への定住願望がある者の割合は31.6%であり、前回調査(平成17(2005)年)の20.6%よりも増えている。


平成27(2015)年に農林水産省が実施した「森林資源の循環利用に関する意識・意向調査」によると、緑豊かな農山村に一定期間滞在し休暇を過ごすことについて、「過ごしてみたい」と回答した者の割合は8割であった(資料3-47)。これらの者が森林や農山村で行いたいことについては、「森林浴により気分転換する」、「森や湖、農山村の家並みなど魅力的な景観を楽しむ」、「野鳥観察や渓流釣りなど自然とのふれあい体験をする」等の割合が高かった。


平成30(2018)年3月に総務省が公表した「「田園回帰」に関する調査研究(*115)報告書」によると、複数の国勢調査時点における都市部から過疎地域各区域(*116)への移住者の増減をみると、平成12(2000)年から平成22(2010)年にかけてよりも、平成22(2010)年から平成27(2015)年にかけての方が、都市部からの移住者が増加している区域数が多くなっている。また、平成22(2010)年から平成27(2015)年にかけて都市部からの移住者が増加している区域を人口規模別にみると、人口規模の小さい区域の方が増加区域数の割合が高くなっているほか、振興山村といった条件不利地域に該当する区域では、増加区域数の割合が非指定地域の数値と比べて高くなっている(*117)。また、民間団体による国勢調査を用いた人口動態等の分析においても、過疎指定市町村(平成28(2016)年4月時点)の約4割で30代女性の増加が、約1割で実質社会増が実現されていることや、特に離島・山間部等の小規模町村で増加している傾向が明らかになっている(*118)。


(*115)若い世代を中心に都市部から過疎地域等の農山漁村へ移住しようとする「田園回帰」の意識が高まっていることから、過疎地域への移住の実態や都市住民の意識等を分析し、その潮流をとらえ、今後の過疎対策の検討材料とすることを目的として実施。

(*116)過疎地域における平成12(2000)年4月1日時点の旧市町村の区域を1区域としている。

(*117)総務省地域力創造グループ過疎対策室「「田園回帰」に関する調査研究報告書」(平成30(2018)年3月)

(*118)一般社団法人持続可能な地域社会総合研究所(島根県益田市)による分析。詳しくは「平成29年度森林及び林業の動向」の118ページを参照。


お問合せ先

林政部企画課

担当者:年次報告班
代表:03-3502-8111(内線6061)
ダイヤルイン:03-6744-2219

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