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林野庁

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第1部 第3章 第3節 山村(中山間地域)の動向(2)


(2)山村の活性化

(地域の林業・木材産業の振興と新たな事業の創出)

山村が活力を維持していくためには、地域固有の自然や資源を守るとともにこれらを活用して、若者やUJIターン(*119)者の定住を可能とするような多様で魅力ある就業の場を確保し、創出することが必要である。

平成30(2018)年12月に閣議決定された「まち・ひと・しごと創生総合戦略(2018改訂版)」においては、林業の成長産業化が地方創生の基本目標達成のための施策の一つに位置付けられている。

林野庁は、平成29(2017)年度から、地域の森林資源の循環利用を進め、林業の成長産業化を図ることにより、地元に利益を還元し、地域の活性化に結び付ける取組を推進するため、選定した地域を対象として「林業成長産業化地域創出モデル事業」を実施している(*120)。この中で、地域が提案する明確なビジョンの下で実施されるICT活用、ブランド化等のソフト面での対策に加え、ソフト面での対策と一体的に行われる木材加工流通施設等の整備に対して重点的に支援しており、成功モデルの横展開による林業の成長産業化の加速化を図っている。

農林水産省においては、山村の活性化を図るため、「山村活性化支援交付金」により、薪炭・山菜等の山村の地域資源の発掘、消費拡大や販売促進等を通じ、所得・雇用の増大を図る取組への支援を行うとともに、林業と加工や販売等を融合し、地域ビジネスの展開と新たな業態の創出を行う「6次産業化」の取組を進めており、林産物関係で昨年末までで100件の計画(*121)を認定している。

さらに、農林水産省及び経済産業省は、農林漁業者と中小企業者が有機的に連携し、それぞれの経営資源を有効に活用して新商品開発や販路開拓等を行う「農商工等連携」の取組を推進しており、林産物関係では昨年末までに44件の計画(*122)を認定している。

さらに、内閣官房及び農林水産省は、「ディスカバー農山漁村(むら)の宝」として、農山漁村の有するポテンシャルを引き出すことにより地域の活性化、所得向上に取り組んでいる優良事例を選定し、全国へ発信している(*123)。


(*119)「UJIターン」とは、大都市圏の居住者が地方に移住する動きの総称。「Uターン」は出身地に戻る形態、「Jターン」は出身地の近くの地方都市に移住する形態、「Iターン」は出身地以外の地方へ移住する形態を指す。

(*120)初年度に網走西部流域、大館北秋田、最上・金山、南会津、利根沼田、中越、中津川・白川・東白川、浜松、田辺、日南町・中央中国山地、長門、久万高原町、高吾北、日田市、延岡・日向、大隅の16地域が選定され、平成30(2018)年度に渡島、登米、矢板、伊那、郡上、京都市、千代川流域、隠岐島後、新見・真庭、徳島県南部、糸島、奥球磨の12地域が追加選定された。

(*121)「地域資源を活用した農林漁業者等による新事業の創出等及び地域の農林水産物の利用促進に関する法律」(平成22年法律第67号)に基づき、農林漁業者等が作成する「総合化事業計画」。

(*122)「中小企業者と農林漁業者との連携による事業活動の促進に関する法律」(平成20年法律第38号)に基づき、農林漁業者と中小企業者が作成する「農商工等連携事業計画」。

(*123)平成30(2018)年の第5回選定においては、ニーズに応じた商品開発を可能にする原木・製品加工体制の構築や、住宅メーカーと連携した林業見学ツアーを通じた販売促進等を、雇用創出につなげていることなどが評価され、「一般社団法人吉野かわかみ社中」(奈良県川上村)が、全32地区の一つとして選定された。



(里山林等の保全と管理)

森林の有する多面的機能の発揮には、適切な森林整備や計画的な森林資源の利用が不可欠であるが、山村の過疎化及び高齢化等が進む中で、適切な森林整備等が行われない箇所もみられる。このような中、里山林等の保全管理を進めるためには、地域住民が森林資源を活用しながら持続的に里山林等と関わる仕組みをつくることが必要である。このため、林野庁では、「森林・山村多面的機能発揮対策交付金」により、里山林の景観維持、侵入竹の伐採及び除去等の保全管理、広葉樹のしいたけ原木等への利用と、それらと組み合わせた路網や歩道の補修・機能強化等について、地域の住民が協力して行う取組に対して支援している(事例3-4)。また、森林整備事業により、間伐等の森林施業を支援するとともに、間伐等と一体的に行う侵入竹の伐採及び除去等に対しても支援している。

事例3-4 特殊土壌地の森林再生と里山林整備の取組

北海道蘭越町(らんこしちょう)の「硫酸山」においては、1980年代に行われた大規模な土砂採取によって、約3haにわたって地表に黄鉄鉱(注)が露出し、酸性の硫酸塩土壌となり、20年以上植物が一切生えないはげ山となっていたが、平成16(2004)年から、山林の所有者が個人で在来の森林を復活させる自然再生の取組を行ってきた。平成27(2015)年には、所有者が代表となり、蘭越町住民が参加して「硫酸山の森を育てる会」を立ち上げ、「森林・山村多面的機能発揮対策交付金」も活用したはげ山の自然再生やその周囲にある手入れ不足の里山林の整備を行っている。

この取組には、町外からも元森林管理署森林官や林業イラストレーター、教師、学生等の多様な者が参加し、アドバイザーとして活動をサポートしている。これまでの活動により、酸性硫酸塩土壌に森林を成立させる手法が確立され、「硫酸山」では先駆性樹種を主体とした若齢の森林が成立しつつあり、タラノキ等の山菜を含む多様な在来樹木の植栽が可能になるなど、はげ山の自然再生や景観の改善が進んでいる。

同会は、今後も「硫酸山」の森林の保育・保全管理等の森林づくり活動、自然観察会等の森林教育活動、動植物調査も含めた森林生態系調査活動を継続するとともに、地元での講演等による活動の紹介を積極的に行い、自治会や地元集落にとって森林が身近で利用価値のあるものになるよう働き掛けていきたいとしている。


注:空気に触れると硫酸を生成する鉱物。

参考:「活動事例集(平成29年度作成)」(林野庁ホームページ「森林・山村多面的機能発揮対策交付金」)


(農泊等による都市との交流により山村を活性化)

近年、都市住民が休暇等を利用して山村に滞在し、農林漁業や木工体験、森林浴、山村地域の伝統文化の体験等を行う「山村と都市との交流」が各地で進められている。

平成30(2018)年に実施された世論調査(*124)では、農山漁村に滞在するような旅行について、約半数が「今後旅行してみたい」と回答しており、このうち約6割が「自然・風景(山、川、海、棚田など)」を興味があることとして挙げた。

このような中、農林水産省では、インバウンドを含めた旅行者に農山漁村に滞在してもらう「農泊」ビジネスを、農山漁村の所得向上に向けた重要な柱として位置付け、平成29(2017)年度から、各地の取組を支援している。この一環として、美しい森林景観や保養・レクリエーションの場としての森林空間を、観光資源として活用するための体験プログラムの作成等に対する支援も行っている。森林散策や林業体験等を中心とした農泊の取組の中には、国有林の「レクリエーションの森」を観光資源として活用する取組もみられる(*125)。

また、「子ども農山漁村交流プロジェクト」によって、子供の農山漁村での宿泊による農林漁業体験や自然体験活動等を推進できるよう、農林水産省では山村側の宿泊・体験施設の整備等に対して支援している。


(*124)内閣府「食と農林漁業に関する世論調査」(平成30(2018)年8月30日~9月9日に全国の18歳以上の日本国籍を有する者3,000人を対象に実施(回収率58.1%))

(*125)「日本美しの森 お薦め国有林」の選定等の国有林の観光資源としての活用等に向けた取組については「平成29年度森林及び林業の動向」トピックス(8-9ページ)を参照。


(多様な森林空間利用に向けて)

最近では、森林環境教育の場、アウトドアスポーツ等のレクリエーションの場に加え、森林空間を積極的に活用したメンタルヘルス対策や健康づくり、ワーク・ライフ・バランスの実現のための場としての、新たな森林空間利用のニーズが高まっている。こうした中で、平成30(2018)年10月、林野庁は、中国、韓国の研究者、行政関係者を迎え、日中韓三か国が連携して、森林空間における保養活動を推進していくことを目的としたフォーラムを開催した。フォーラムでは、各国がそれぞれ実例や取組を発表するとともに、意見交換を行った。

また、森林・林業が医療・福祉、観光、教育等の多様な分野と連携し、国民の価値観やライフスタイルの変革の動きに合わせた森林空間の利活用を通じて、新たな森と人との関わりを創り出す「森林サービス産業」への関心が高まっている。

これを受け、林野庁では、平成31(2019)年2月、「「森林サービス産業」キックオフ・フォーラム」を開催し、多様な分野との連携・協働による「森林サービス産業」の在り方や、これを通じた地方創生に関する意見交換等が行われた。

また、併催イベントとして、山村地域を有する自治体や観光関係・森林体験プログラム関係の事業者などの幅広い関係者を集めて「森林資源を活用した観光促進に向けたマッチング・セミナー」を開催した。この中で、森林を観光資源として活用する新たなニーズや先進事例についての報告や、各地域における課題等の解決に向け個別相談等を実施した。

コラム 林業の外国人材受入れを巡る現在の状況

中小・小規模事業者を始めとした人手不足の深刻化を受け、一定の専門性・技能を有し即戦力となる外国人材の受入れの取組を進めるため、新たな在留資格が創設され、平成31(2019)年4月から農業などの特定産業分野で運用が始まる。このような情勢の中、林業分野においても外国人材の受入れについて議論が活発化している。

林業においてはこれまで外国人技能実習制度による外国人材の受入れが可能であったが、労働安全の確保の問題等もあり、職種を問わない技能実習1号の活用実績も乏しく、技能実習2号の対象職種となっていない。この制度は、開発途上国等の外国人を日本で一定期間に限り受け入れ、OJTを通じて技術を移転する国際貢献のための制度として平成5(1993)年に創設されており、平成30(2018)年末時点で、全産業で約31万人の実習生が在留している。

このような中、愛媛県では平成29(2017)年度からの3か年の事業として、林業分野での技能実習1号の受入れに必要な研修等を支援するモデル事業を実施しており、平成30(2018)年1月にベトナムから実習生を受け入れている。また、同年8月には愛媛県が、実習生受入れにかかる手続や経費、安全講習や実習体制等について行政、林業事業体、業界団体等への報告会を実施したところ、多くの参加者が集まり積極的な質疑が行われるなど、取組への関心の高さがうかがわれた。

加えて、業界団体において、現場技能者にとって必要となる技能の習得レベルを国として証明する技能検定制度への林業の追加を検討することとなった。この検討は、技能検定の試験が技能実習2号の評価試験につながることから、労働安全の確保など林業従事者の処遇の改善に加え、外国人材受入れの議論の活発化にも資するため、今後も更に検討が進むことが期待される。


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お問合せ先

林政部企画課

担当者:年次報告班
代表:03-3502-8111(内線6061)
ダイヤルイン:03-6744-2219

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