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林野庁

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第1部 第2章 第2節 森林整備の動向(2)


(2)再造林等の推進に向けた取組

人工林の多くが本格的な利用期を迎え、主伐の増加が見込まれる中、森林の多面的機能を発揮させつつ、資源の循環利用による林業の成長産業化を実現するためには、主伐後の適切な再造林の実施、造林の低コスト化及び苗木の安定供給が⼀層重要になっている。


(優良種苗の安定供給)

我が国における平成28(2016)年度の山行(やまゆき)苗木の生産量は、約60百万本となっているが、このうち約1割をコンテナ苗(*43)が占めるようになるなど、今後の森林施業の在り方を見据えた苗木の安定供給が進められている(資料2-17、18)。

生産された苗木のうち、針葉樹ではスギが約20百万本、ヒノキが約8百万本、カラマツが約14百万本、マツ類が約3百万本となっており、広葉樹では約5百万本となっている。また、苗木生産事業者数は、全国で約850となっている(*44)。苗木の需給については、地域ごとに過不足が生ずる場合もあることから、必要量の確保のため、林業用種苗需給連絡協議会等を活用し、地域間での需給情報の共有等が行われている。


(*43)コンテナ苗について詳しくは後述。

(*44)林野庁整備課調べ。



(「伐採と造林の一貫作業システム」の導入とそれに必要なコンテナ苗の生産拡大)

円滑かつ確実な再造林の実施に向けて、経費の縮減が必要となっている。このため、集材に使用する林業機械を用いるなどして、伐採と並行又は連続して地拵(ごしら)えや植栽を行う「伐採と造林の一貫作業システム(*45)」が、近年新たに導入されつつある。年間を通じて行われる伐採のタイミングと合わせて、同システムにより効率化を図りながら再造林を実施していくためには、従来の裸苗では春又は秋に限られていた植栽適期を拡大していくことが必要となっている。

このような中、「コンテナ苗」は、裸苗(はだかなえ)とは異なり、根鉢があることで乾燥ストレスの影響を受けにくいと考えられ、寒冷地の冬季や極端に乾燥が続く時期を除き、通常の植栽適期(春や秋)以外でも高い活着率が見込めることが研究成果により示されている(*46)。このため、植栽適期を拡大できる可能性があることから、林野庁は、その普及と生産拡大の取組を進めている(*47)。


(*45)「伐採と造林の一貫作業システム」については、第3章(127-128ページ)を参照。

(*46)研究成果については、「平成28年度森林及び林業の動向」14ページを参照。

(*47)コンテナ苗の生産等については第1章(21ページ)を参照。



(成長等に優れた優良品種の開発)

造林・保育の低コスト化、将来にわたる二酸化炭素の吸収作用の強化、伐期の短縮等を図るため、初期成長や材質、通直性に優れた品種の開発が必要となっている。

このような中、国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所林木育種センターでは、収量の増大と造林・保育の効率化に向けて、平成24(2012)年から林木育種による第二世代精英樹(エリートツリー)(*48)の開発を行っており、現在は、第二世代精英樹同士を交配させ、第三世代以降の精英樹の開発に着手している。

第二世代精英樹等のうち成長や雄花着生性等に関する基準(*49)を満たすものは、間伐等特措法に基づき、農林水産大臣が特定母樹として指定しており、平成31(2019)年3月末現在、特定母樹として319種類が指定されており、そのうち271種類が第二世代精英樹から選ばれている。

林野庁では、特定母樹から生産される種苗が今後の再造林に広く利用されるよう、その体制整備を推進しているところであり、都道府県等においても、特定母樹による採種園や採穂園の整備が進められている。


(*48)成長や材質等の形質が良い精英樹同士の人工交配等により得られた次世代の個体の中から選抜される、成長等がより優れた精英樹のこと。

(*49)成長量が同様の環境下の対照個体と比較しておおむね1.5倍以上、雄花着生性が一般的なスギ・ヒノキのおおむね半分以下等の基準が定められている。



(早生樹の利用に向けた取組)

近年、針葉樹早生樹種としてコウヨウザン(*50)が注目されている。コウヨウザンは、成長が早く、伐採後は萌芽更新により植栽を省ける可能性が示唆されていることから、再造林・保育の低コスト化を実現できることが期待されている。また、材質については、スギよりも強く、ヒノキに近い強度を示す例もある(*51)。今後は、未解明な部分が多い育種技術や育苗、萌芽更新、鳥獣被害対策等の造林技術の確立に取り組むことが必要となっている。

また、家具等に利用される広葉樹材については、国外において資源量の減少や生物多様性保全への意識の高まりに伴う伐採規制等の動きがみられることから、近年、国内における広葉樹材の生産への関心が高まってきている。広葉樹は、一般にスギやヒノキ等と比較して単位面積当たりの成長量が小さく、家具材生産のためには、おおむね80年以上の育成期間を要することや、針葉樹と比較して幹の曲がりや枝分かれが発生しやすく、通直な用材の生産が難しいことが課題となっている。このような中、地域レベルでセンダン等の早生樹種の広葉樹の施業技術の開発や利用に向けた実証的な取組が増加してきているほか(事例2-1)、国有林野事業においてもセンダンの試験植栽等の早生樹種の施業技術開発が進められている(*52)。

事例2-1 センダンの利用及び植樹活動を通じた循環型ビジネスの構築

「協同組合福岡・大川家具工業会」は、平成30(2018)年6月、大川市内の保育園児、幼稚園児やその家族等約50名参加のもと、木材関連事業者三者との共催による早生樹センダンの植樹活動を実施し、大川市文化センター、大川中学校に合計20本を植樹した。

センダンは、植栽後15年程度で家具用材として活用可能とされており、同組合は、センダンとスギ合板とのハイブリッドパネルを開発し、同組合に所属する木工事業者によって、テーブルや棚等のインテリア家具等に製品化されている。

同組合は、木工事業者自らがセンダンの植樹活動を行い、近隣の森林事業者とのパートナーシップを築くとともに、センダンを永続的に地元で育成し、その木材を家具として活用することで、川上から川下までを一連につなげ、「木工産地大川」のブランド化を目指す「早期循環型ビジネス」の取組を開始し、植樹活動は通算3回目となった。

同プロジェクトでは、植樹に参加した子供達が成人する頃に成木となったセンダンを伐採し、大川市内の木工事業者が机や椅子等の製品に加工して、子供達が通った保育園や学校等に寄贈することを計画している。


資料:「SOUSEI 地域材開発プロジェクト」パンフレット、田中智範(2018)地域材開発プロジェクト. 森林技術,2018年6月号: 12-13.



(*50)中国大陸や台湾を原産とし、学名は、Cunninghamia lanceolataである。我が国には江戸時代より前に寺社等に導入され、国有林等では林分として育成されているものもある。

(*51)国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所林木育種センターホームページ「コウヨウザンの特性と増殖の手引き」

(*52)センダン等の施業技術開発については、「平成28年度森林及び林業の動向」17-18ページを参照。国有林野事業におけるセンダンの試験植栽の取組については、「平成27年度森林及び林業の動向」179ページを参照。



(花粉発生源対策)

近年では、国民の3割が罹(り)患し(*53)国民病ともいわれる花粉症(*54)への対策が課題となっている。このため、関係省庁が連携して、発症や症状悪化の原因究明、予防方法や治療方法の研究、花粉飛散量の予測、花粉の発生源対策等により、総合的な花粉症対策を進めている。

林野庁では、(ア)花粉を飛散させるスギ人工林等の伐採・利用、(イ)花粉症対策に資する苗木(*55)による植替えや広葉樹の導入、(ウ)スギ花粉の発生を抑える技術の実用化の「3本の“斧”」による花粉発生源対策に取り組んできている。

花粉症対策に資する苗木の生産拡大に向けては、少花粉スギ等の種子を短期間で効率的に生産する「ミニチュア採種園」や苗木生産施設の整備、コンテナ苗生産技術の普及等に取り組んでいる。その結果、スギの花粉症対策苗木の生産量は、平成17(2005)年度の約9万本から平成29(2017)年度には約971万本(スギ苗木全体の約4割)へと12年間で約100倍に増加した(資料2-19)。引き続き、同苗木の需要及び生産の拡大を推進することとしている。

また、スギ花粉の発生を抑える技術の実用化については、自然界に生育し、スギ雄花を枯らす菌類を活用したスギ花粉飛散防止剤が開発され、その抑制効果が証明された。現在、実用化に向けて、スギ林への効果的な散布方法の確立や薬剤散布による生態系への影響調査等を進めている(*56)。さらに、これらの取組に加えて、毎年春の花粉飛散予測に必要なスギ雄花の着花量調査に加え、ヒノキ雄花の観測技術の開発も進めている。

平成30(2018)年4月、林野庁は、国、都道府県、市町村、森林・林業関係者等が一体となってスギ花粉発生源対策に取り組むことが重要であるとの観点から技術的助言等を取りまとめた「スギ花粉発生源対策推進方針」を改正した。この中ではスギ苗木の年間生産量に占めるスギの花粉症対策に資する苗木の割合を令和14(2032)年度までに約7割に増加させる目標や、森林資源の循環利用のサイクルの確立といった林業の成長産業化に向けた取組を通じてスギ花粉発生源対策を推進することなどが盛り込まれた。


(*53)馬場廣太郎、中江公裕(2008)鼻アレルギーの全国疫学調査 2008(1998年との比較)―耳鼻咽喉科およびその家族を対象として―, Progress in Medicine, 28(8): 145-156

(*54)花粉に対して起こるアレルギー反応で、体の免疫反応が花粉に対して過剰に作用して、くしゃみや鼻水等を引き起こす疾患であるが、その発症メカニズムについては、大気汚染や食生活等の生活習慣の変化による影響も指摘されており、十分には解明されていない。

(*55)ほとんど、又は、全く花粉をつくらない品種の苗木及び間伐等特措法第2条第2項に規定する特定母樹から採取された種穂から生産された苗木。

(*56)菌類を用いたスギ花粉飛散防止剤の開発については、「平成28年度森林及び林業の動向」30ページを参照。


お問合せ先

林政部企画課

担当者:年次報告班
代表:03-3502-8111(内線6061)
ダイヤルイン:03-6744-2219

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