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林野庁

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第1部 第2章 第2節 森林整備の動向(3)


(3)社会全体で支える森林(もり)づくり

(ア)国民参加の森林(もり)づくりと国民的理解の促進

(「全国植樹祭」・「全国育樹祭」を開催)

国土緑化運動の中心的な行事である「全国植樹祭」が、天皇皇后両陛下の御臨席を仰いで毎年春に開催されている。平成30(2018)年6月には、「第69回全国植樹祭」が福島県の海岸防災林整備地を舞台に開催された(*57)。令和元(2019)年6月には、「第70回全国植樹祭」が愛知県で開催される。

「全国育樹祭」は、皇族殿下によるお手入れや参加者による育樹活動等を通じて、森を守り育てることの大切さについて国民の理解を深めることを目的として毎年秋に開催されている。第1回の全国育樹祭は、昭和52(1977)年9月に大分県で開催され、平成30(2018)年11月には、「第42回全国育樹祭」が東京都の海の森公園予定地(中央防波堤内側埋立地)で、「育樹から 木のある暮らし つないでく」をテーマに開催された。同育樹祭では、「第47回全国植樹祭」(平成8(1996)年開催)で天皇皇后両陛下がお手植えされたイチョウを皇太子同妃両殿下がお手入れされた。令和元(2019)年12月には、「第43回全国育樹祭」が沖縄県で開催される。


(*57)第69回全国植樹祭について詳しくは、トピックス(9-10ページ)を参照。



(多様な主体による森林(もり)づくり活動が拡大)

環境問題等への関心の高まりから、NPOや企業等の多様な主体により森林(もり)づくり活動が行われており、林野庁では、これらの活動を促進するための支援を行っている。

森林(もり)づくり活動を実施している団体の数は、平成27(2015)年度は3,005団体であり、平成12(2000)年度の約5倍となっている(資料2-20)。各団体の活動目的としては、「里山林等身近な森林の整備・保全」や「森林環境教育」を挙げる団体が多い。森林(もり)づくり活動においては、チェーンソー等の機械を使用した活動を行っている団体も多く、参加者やスタッフ、活動資金の確保に次いで安全の確保を課題として挙げる団体が多くなっている(*58)。


また、CSR(企業の社会的責任)活動の一環等として、企業による森林(もり)づくり活動も行われている。近年は民有林を中心に活動の実施箇所数が伸びてきており、平成29(2017)年度の実施箇所数は1,568か所であった(資料2-21)。具体的な活動としては、顧客、地域住民、NPO等との協働による森林づくり活動、基金や財団を通じた森林再生活動に対する支援、企業の所有森林を活用した地域貢献等が行われているほか、森林所有者との協定締結による森林整備の取組も行われるなど、各企業の性格を活かしながら、地域の課題等の解決に向けた役割を果たしている。


こうした森林(もり)づくり活動を含め、企業が適正な森林整備に積極的に関わろうとする取組は、持続可能な開発目標(SDGs)の多くに森林が関連していること(*59)に加え、国際的な企業評価・格付けの取組の中で世界規模でのESG投資(*60)の流れに森林減少リスクが関連付けられる状況となっていることや、森林減少のみならず森林劣化への対応も重要であること等が指摘されている中において(*61)、企業価値の向上に直結する可能性を有する状況となっている。

また、樹木や森林の育成に興味を持つ都市住民等が林業経営体等の提供するサービスを活用し、森林整備費用の一部を負担しながら、植栽や下刈り等の体験イベントに参加する新たな動きもみられる(事例2-2)。

事例2-2 森林育成体験サービスを提供する林業経営体の取組

植樹活動の写真

森林率が9割を占める東京都檜原村(ひのはらむら)を拠点に、造林や素材生産を中心に多様な事業活動を展開している林業経営体である株式会社東京チェンソーズは、「家族で木を育てたい」、「孫の成長時に育てた木の木工品を送りたい」、「東京の森林の育成に貢献したい」等の多様なニーズを捉え、平成27(2015)年から社有林の一部を使用し、主に個人向けの森林育成体験のサービスを提供しており、これまでに約200組の会員が、同社プログラムを通じて森林(もり)づくり活動に参加している。

同社の提供するプログラムに入会した個人や法人は、植栽や育林の費用の一部を出資して3本の苗木を植栽するとともに、植栽後の下刈り、枝打ちなどの森林(もり)づくり活動に参加し、30年間に渡って自ら出資した木の育成に関わることを通じて、次世代の森林の育成に貢献するという長期の体験サービスとなっている。3本の植栽木のうち2本は森林(もり)づくりの過程で間伐されるが、1本は次世代の森林のために残されることになる。間伐された木については、製品に加工した上で会員が受け取ることも可能となっている。

本サービスは、同社が平成26(2014)年に10haの森林を購入し、自ら持続的な林業経営に乗り出したことを契機に、負担となる再造林費用の低減を目指して開始された。代表の青木亮輔氏は、新たな林業の付加価値を創造し、補助金のみに頼らない産業としての林業を目指していきたいとしている。また、同社は、都心から檜原村まで約2時間というアクセス面での利点を活かすとともに、自然体験を求める人々のニーズを捉え、森を育てるために折々で村を訪れてもらうといった、新たな森林と都市住民との関わり方を提案している。


(*58)林野庁補助事業「森林づくり活動についての実態調査 平成27年調査集計結果」(平成28(2016)年3月)。ボランティア活動における安全確保に向けた取組事例については、「平成29年度森林及び林業の動向」の49ページを参照。

(*59)SDGsと森林について詳しくは、トピックス(7-8ページ)を参照。

(*60)環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の3つの要素に対する企業の取組状況に基づいて投資対象企業を選別する投資手法。

(*61)詳しくは、「平成29年度森林及び林業の動向」の73ページを参照。



(幅広い分野の関係者との連携)

幅広い分野の関係者の参画による森林(もり)づくり活動として、平成19(2007)年から「美しい森林(もり)づくり推進国民運動」が進められている。同運動では、経済団体、教育団体、環境団体、NPO等により構成される「美しい森林(もり)づくり全国推進会議」が、里山整備、森林環境教育、生物多様性保全等に取り組んでいる。同運動の一環として平成20(2008)年に開始された「フォレスト・サポーターズ」制度は、個人や企業等が日常の生活や業務の中で自発的に森林整備や木材利用に取り組む仕組みであり、登録数は平成30(2018)年11月末時点で約6万件となっている。

また、近年では、経済界において、林業の成長産業化を通じた地方創生への期待が高まっており、林業成長産業化の推進のため、川上から川下に至る様々な取組が行われている(*62)。


(*62)トピックス(5-6ページ)参照



(森林環境教育を推進)

現代社会では、人々が日常生活の中で森林や林業に接する機会が少なくなっている。このため、森林内での様々な体験活動等を通じて、森林と人々の生活や環境との関係についての理解と関心を深める「森林環境教育」の取組が進められている。森林や林業の役割を理解し、社会全体で森林を持続的に保全しつつ利用していくことは持続可能な社会の構築に寄与し得るものであることから、「持続可能な開発のための教育(ESD)(*63)」の考え方を取り入れながら森林環境教育に取り組む事例もみられる。

森林環境教育の例として、学校林(*64)の活用による活動が挙げられる。学校林を保有する小中高等学校は、全国の6.8%に相当する約2,500校で、学校林の合計面積は全国で約1万7千haとなっている。学校林は「総合的な学習の時間」等で利用されており、植栽、下刈り、枝打ち等の体験や、植物観察、森林の機能の学習等が行われている(*65)。

こうした学校林等の身近な森林を活用した森林環境教育の活動の輪を広げていくことを目的に「学校の森・子どもサミット(*66)」が開催されている。平成30(2018)年は福井県で、児童による活動事例の発表、「まちづくり学習」や「森のようちえん」をテーマに森林環境教育を考える分科会、三方五湖(みかたごこ)での体験活動等が行われた。

学校林以外の森林環境教育の取組としては、「緑の少年団」による活動がある。緑の少年団は、次代を担う子どもたちが、緑と親しみ、緑を愛し、緑を守り育てる活動を通じて、ふるさとを愛し、人を愛する心豊かな人間に育っていくことを目的とした団体である。平成31(2019)年1月現在、全国で3,290団体、約33万人が加入して森林の整備活動等を行っている(*67)。

また、「聞き書き甲子園(*68)」は、全国の高校生が、造林手(ぞうりんしゅ)、炭焼き職人、漆塗り職人、漁師等の「名手・名人」を訪ね、一対一の対話を「聞き書き(*69)」して、知恵、技術、考え方、生き方等を学ぶ活動である。森林・林業分野では、平成30(2018)年の第17回までに約1,700人の高校生が参加し、高校生の作成した記録はホームページ上で公開され、森林・林業分野の伝統技術や山村の生活を伝達する役割も果たしている。

林野庁においては、林野図書資料館が森林の魅力や役割・林業の大切さについて、分かりやすく表現した「漫画・イラスト」を作成し、地方自治体の図書館等と連携して、企画展示等を実施している(資料2-22)。また、漫画やイラストをホームページで公開し、誰でも自由に使用できるようにしたことで、各森林管理局や林業団体等においても、これらを活用し、地域の小中学校や住民を対象として森林環境教育が行われている。

資料2-22 森林環境教育の企画展示

(*63)環境、貧困等の様々な地球規模の課題を自らの課題として捉え、自分にできることを考え、身近なところから取り組むことにより、課題解決につながる価値観や行動を生み出し、持続可能な社会の創造を目指す学習や活動のこと。ESDは「Education for Sustainable Development」の略。

(*64)学校が保有する森林(契約等によるものを含む。)であり、児童及び生徒の教育や学校の基本財産造成等を目的に設置されたもの。

(*65)公益社団法人国土緑化推進機構「学校林現況調査報告書(平成28年調査)」(平成30(2018)年3月)

(*66)平成19(2007)年度から平成25(2013)年度まで学校林や「遊々の森」における活動を広げることを目的として開催されてきた「「学校林・遊々の森」全国子どもサミット」の後継行事であり、平成26(2014)年度から、林野庁、関係団体、NPO、地方公共団体、地元教育委員会等で構成される実行委員会の主催により開催。

(*67)公益社団法人国土緑化推進機構ホームページ「緑の少年団」

(*68)林野庁、水産庁、文部科学省、環境省、関係団体及びNPOで構成される実行委員会の主催により実施されている取組。平成14(2002)年度から「森の聞き書き甲子園」として始められ、平成23(2011)年度からは「海・川の聞き書き甲子園」と統合し、「聞き書き甲子園」として実施。

(*69)話し手の言葉を録音し、一字一句全てを書き起こした後、一つの文章にまとめる手法。



(イ)森林整備等の社会的コスト負担

(森林整備等を主な目的とした地方公共団体独自の住民税の超過課税の取組)

平成30(2018)年4月現在、37の府県において、森林整備等を目的とした住民税の超過課税により、地域の実情に即した課題に対応するために必要な財源確保の取組が行われており、全37府県で森林整備・保全に活用されているほか、各府県の実情に即して木材利用促進、普及啓発、人材育成等に幅広く活用されている。なお、関係府県においては、超過課税の期限や見直し時期も踏まえつつ、必要に応じて国の森林環境税導入後の超過課税の取組が検討され、地域独自の取組と国の森林環境税がそれぞれの役割分担の下で効果的に活用され、森林整備等が一層進むことが期待される(資料2-23)。


(「緑の募金」により森林(もり)づくり活動を支援)

「緑の募金」は、「緑の募金による森林整備等の推進に関する法律(*70)」に基づき、森林整備等の推進に用いることを目的に行う寄附金の募集である。昭和25(1950)年に、戦後の荒廃した国土を緑化することを目的に「緑の羽根募金」として始まり、現在では、公益社団法人国土緑化推進機構と各都道府県の緑化推進委員会が実施主体となり、春と秋の年2回、「家庭募金」、「職場募金」、「企業募金」、「街頭募金」等が行われている。平成29(2017)年には、総額約21億円の寄附金が寄せられた。

寄附金は、(ア)水源林の整備や里山林の手入れ等、市民生活にとって重要な森林の整備及び保全、(イ)苗木の配布や植樹祭の開催、森林ボランティアの指導者の育成等の緑化の推進、(ウ)熱帯林の再生や砂漠化の防止等の国際協力に活用されているほか、東日本大震災等の災害からの復興のため、被災地における緑化活動や木製品提供等に対する支援にも活用されている(*71)。


(*70)「緑の募金による森林整備等の推進に関する法律」(平成7年法律第88号)

(*71)緑の募金ホームページ「震災復興事業」



(森林関連分野のクレジット化の取組)

農林水産省、経済産業省及び環境省は、平成25(2013)年4月から、「J-クレジット制度」を運営している。同制度は、温室効果ガスの排出削減や吸収のプロジェクトを実施する者が、審査機関による審査と検証を受けて、実施したプロジェクトによる排出削減量や吸収量をクレジットとして国から認証を受けるものである。クレジットを購入する者は、入手したクレジットをカーボン・オフセット(*72)等に利用することができる。森林分野の対象事業としては、森林管理プロジェクトとして森林経営活動と植林活動が承認されており、平成31(2019)年3月現在で27件が登録されているほか、旧制度(*73)からのプロジェクト移行件数は48件となっている。また、木質バイオマス固形燃料により化石燃料又は系統電力を代替する活動も承認されており、57件が登録されているほか、旧制度からの移行件数は81件となっている。

J-クレジット制度のほかにも、地方公共団体や民間団体など多様な主体によって、森林の二酸化炭素吸収量を認証する取組が行われている(事例2-3)。

事例2-3 新潟県版カーボン・オフセットの取組

新潟県は、「一歩進んだ地球温暖化対策」として、森林整備事業などのCO2吸収活動に資金提供される「新潟県版カーボン・オフセット」を推進している。

これまで、「トキ」の生育環境の向上や地域の特産品を産む「雪」や「水」を守るための森づくりなど、豊かな森林が育む効果を明確にした7つのプロジェクトが登録され、県が認定・発行したクレジットを県内外200社以上の企業等が活用し、そのクレジットの収益は森林整備事業者の負担軽減に役立てられている。

新潟県では、首都圏で開催される大規模ビジネスイベントへの出展や、県と協定を締結した県内地方銀行が企業に制度の案内を行うコーディネーター制度を開始するなど、県内外の企業等によるクレジットの活用を促進し、地域の森林整備にもつながるカーボン・オフセットの普及拡大に取り組んでいる。

事例2-3 新潟県版カーボン・オフセットの取組

(*72)温室効果ガスを排出する事業者等が、自らの排出量を認識して主体的に削減努力を行うとともに、削減が困難な排出量について、他の事業者等によって実現された排出削減・吸収量(クレジット)の購入等により相殺(オフセット)すること。

(*73)「国内クレジット制度」と「J-VER制度」であり、この2つを統合して「J-クレジット制度」が開始された。


お問合せ先

林政部企画課

担当者:年次報告班
代表:03-3502-8111(内線6061)
ダイヤルイン:03-6744-2219

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