第1部 第1章 第4節 国際的な取組の推進(2)
(2)地球温暖化対策と森林
(気候変動に関する政府間パネルによる科学的知見)

地球温暖化は、人類の生存基盤に関わる最も重要な環境問題の一つとなっている。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)(*82)は、地球温暖化問題に関する研究成果についての評価を行い、1990年以降、それらの結果をまとめた報告書を公表しており、2023年3月に第6次評価報告書統合報告書が公表された。
統合報告書では、地球温暖化が人間活動の影響で起きていることは疑う余地がないこと、人為起源の気候変動は多くの気象と気候の極端現象を引き起こし、広範囲にわたる悪影響と関連した損失・損害を引き起こしていることなどを指摘し、この10年間に行う選択や実施する対策が現在から数千年先まで影響を持つとして、この間の大幅で急速かつ持続的な緩和と加速化された適応の行動は、予測される損失と損害を軽減し、多くの共便益をもたらすことを強調している。
森林・林業関連については、適切な森林経営が気候変動緩和・適応の両面で有益であること、木材製品など持続可能な形で調達された農林産物を他の温室効果ガス排出量の多い製品の代わりに使用できることなどが紹介されている。
(*82)世界気象機関(WMO)と国連環境計画(UNEP)により1988年に設立された政府間組織。気候変動に関する最新の科学的知見(出版された文献)について取りまとめた報告書を定期的に作成し、各国政府の気候変動に関する政策に科学的な基礎を与えることを目的とする。IPCC評価報告書は、気候変動対策に不可欠な科学的基礎を提供するものと位置付けられている。
(国連気候変動枠組条約の下での気候変動対策)
気候変動に関する国際連合枠組条約(国連気候変動枠組条約)は1992年に採択された国際的な枠組みであり、大気中の温室効果ガス濃度の安定化を目的としている。2015年の国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)においては、2020年以降の国際的な気候変動対策の枠組みとしてパリ協定が採択された(*83)(資料1-36)。これは先進国、開発途上国を問わず全ての国が参加する公平かつ実効的な法的枠組みであり、全ての参加国と地域に、2020年以降の温室効果ガス削減目標である「国が決定する貢献(NDC)」を定めることなどを求めている。
2018年のCOP24ではパリ協定の本格運用に向けて実施指針(ルールブック)が採択され、これまでと同様、我が国の森林が吸収源として排出削減目標の達成に貢献することが可能となった。
2021年のCOP26では、我が国を含む140か国以上が参加し、2030年までに森林の消失や土地劣化の状況を好転させることにコミットした「森林・土地利用に関するグラスゴー・リーダーズ宣言」が公表され、この目標の実現に向け、 我が国を含む12の国・地域が森林分野の気候変動対策のために合計120億ドルの公的資金の確保を約束した。これに関連して我が国は約2.4億ドルの資金支援を行うことを表明した。これらの取組を加速するため、2022年のCOP27では、英国の主導により「森林・気候のリーダーズ・パートナーシップ(FCLP)」が新たに立ち上げられ、我が国を含む27の国・地域(*84)が参加した。2023年のCOP28では、パリ協定の実施状況を検討し、⾧期目標の達成に向けた全体としての進捗を評価する仕組みであるグローバル・ストックテイクに係る決定文書が採択された。
2024年11月に開催されたCOP29では、国際的に協力して温室効果ガスの削減や吸収・除去対策を実施することを規定しているパリ協定第6条について、詳細な運用ルールが決定され、完全運用化が合意された。これを踏まえ、我が国としては、二国間クレジット制度(JCM)(*85)を活用したプロジェクト(森林分野を含む。)の拡大・加速等に一層取り組むこととしている。

(*83)パリ協定の採択については、「平成27年度森林及び林業の動向」トピックス4(5ページ)を参照。
(*84)2024年12月時点で、33の国・地域が参加。
(*85)開発途上国等への優れた脱炭素技術、製品、システム、サービス、インフラ等の普及や対策実施を通じ、実現した温室効果ガス排出削減・吸収への日本の貢献を定量的に評価するとともに、日本の「国が決定する貢献(NDC)」の達成に活用する制度。
(地球温暖化対策計画と森林吸収量目標)
我が国は、2050年ネット・ゼロの実現に向け、令和12(2030)年度の温室効果ガス排出削減目標として平成25(2013)年度排出量比46%削減を掲げ、さらに、50%の高みに向けて挑戦を続けることとしている。
令和7(2025)年2月に閣議決定された地球温暖化対策計画では、令和17(2035)年度及び令和22(2040)年度における我が国の温室効果ガス排出削減目標について、それぞれ平成25(2013)年度排出量比60%削減、同73%削減を掲げている。森林吸収量については、令和22(2040)年度における目標は同上比5.1%確保とされた。これは、算定方法を国際的な標準に合わせ、標本調査による全国レベルの森林調査(National Forest Inventory(NFI))データを活用した直接推計による方法へ見直したことから、従来の算定方法と比べて数値が大きくなっているものである(資料1-37)。
この目標達成に向けては、森林・林業基本計画に基づき、再造林等の確実な実施等の適切な森林の整備、保安林制度等の運用を通じた森林の適切な管理・保全、炭素を⾧期貯蔵する木材の利用を推進することが重要であり、地方公共団体、森林所有者、民間事業者、国民など各主体の協力を得つつ、取組を進めていくこととしている。
森林吸収量(*86)の実績については、令和5(2023)年度に4,517万CO2トン、このうち伐採木材製品(HWP)(*87)に係る吸収量は330万CO2トンであった(*88)。

(*86)従来の算定方法による算出。なお、令和3(2021)年10月閣議決定の地球温暖化対策計画においては、平成25(2013)年度排出量比2.7%(3,800万CO2トン)を目標としている。令和7(2025)年度以降の算定への適用を目指している新たな算定方法については、96ページを参照。
(*87)京都議定書第二約束期間以降、搬出後の木材による炭素貯蔵量全体の変化を温室効果ガス吸収量又は排出量として計上することができる。
(*88)二酸化炭素換算の吸収量については、国立研究開発法人国立環境研究所「2023年度の温室効果ガス排出量及び吸収量について」による。
(開発途上国の森林減少・劣化に由来する排出の削減等(REDD+)への対応)
開発途上国の森林減少・劣化に由来する温室効果ガスの排出量は、世界の排出量の約1割を占めるとされていることから(*89)、パリ協定においては、開発途上国における森林減少・劣化に由来する排出の削減並びに森林保全、持続可能な森林経営及び森林炭素蓄積の強化(REDD+(レッドプラス)の実施及び支援が奨励されている。
我が国は、緑の気候基金(GCF)等への資金拠出を通じた支援や技術支援のほか、 JCMの下でのREDD+活動を推進しており、令和6(2024)年12月時点で、カンボジア及びラオスとの間でガイドライン類が策定されている。
また、国立研究開発法人森林研究・整備機構に開設されたREDDプラス・海外森林防災研究開発センターでは、REDD+の実施に必要な技術解説書や独立行政法人国際協力機構(JICA)と共に立ち上げた「森から世界を変えるプラットフォーム」による情報提供等により、開発途上国や民間企業等のREDD+活動を支援している。
(*89)IPCC(2022)IPCC Sixth Assessment Report: Climate Change 2022: Mitigation of Climate Change, the Working Group Ⅲ contribution, Summary for Policymakers: 6.
(気候変動への適応)
気候変動の悪影響を最小限に抑える気候変動適応は、気候変動緩和と並ぶパリ協定の目的であり、我が国の気候変動対策として緩和策と適応策は車の両輪と位置付けられている。気候変動適応計画(令和5(2023)年5月閣議決定)及び農林水産省気候変動適応計画(令和5(2023)年8月改定)を踏まえ、森林・林業分野では、異常な豪雨による土石流等の災害の発生に備え、保安林の計画的な配備や、治山施設の整備、路網の強靱(じん)化・⾧寿命化等のほか、渇水等に備えた森林の水源涵(かん)養機能の適切な発揮に向けた森林整備、高潮や海岸侵食に対応した海岸防災林の整備、気候変動による影響の継続的なモニタリング、病害虫対策、気候変動の影響に適応した品種開発等の調査・研究の推進等に取り組んでいる。
コラム 全国レベルの森林調査を活用した森林吸収量の算定
森林は大気中の二酸化炭素を吸収し、立木や木材等として炭素を固定することなどにより、地球温暖化の防止に貢献しており、森林による二酸化炭素の吸収量は、樹木の幹材積の合計である森林蓄積の変化量等のデータを用いて算定されている。
森林蓄積の変化量については、収穫予想表等の成⾧モデルを用いて間接的に推計する方法を採用しているが、特に高齢級人工林や天然林において、その推計に誤差が出やすいなどの課題が指摘されている。このため林野庁では、令和6(2024)年度に有識者からなる「森林吸収量の算定方法等に関する検討会」を設置し、算定方法についての議論を行った結果、標本調査による全国レベルの森林調査(NFI)(注1)の結果から森林蓄積の変化量を直接推計する方法へ見直す方針が取りまとめられた。
京都議定書が採択された平成9(1997)年当時、我が国は諸外国のようにNFIを行っていなかった。一方、森林の所在地や面積、樹種、地位、林齢等の情報を記載した台帳である森林簿が各都道府県に整備され、林齢と森林蓄積の相関を表した成⾧モデルも全国的に整備されていたことから、地域別に樹種ごとの成⾧モデルを適用して毎年度の森林蓄積の変化量を推計することで森林吸収量を算定する方法を採用することとした。
しかしながら、成⾧モデルは林業生産活動への活用を目的に整備されたものであるため、人工林では植栽木の標準的な蓄積成⾧推移のみを示しており、植栽木以外の自然に生えてきた樹木等の蓄積は考慮されていない。また、我が国の人工林は6割以上が50年生を超えるなど高齢級化が進んでいるが、成⾧モデルはある一定の林齢までの森林に関するデータを基に調製されているため、森林の高齢級化に伴いモデルの再調製を繰り返す必要がある。
一方、林野庁では平成11(1999)年度から令和5(2023)年度までの25年間にわたりNFIを実施し、特に平成21(2009)年度以降、第三者機関によるデータ品質の管理・保証を通じた統計的信頼性の向上等に取り組み、NFIを活用した森林蓄積変化量の直接推計による森林吸収量の算定を国家温室効果ガスインベントリ(注2)に適用することがようやく可能となった。このため、国際的な標準に合わせ、NFIデータを活用した算定方法へと切り替えることを目指し、令和7(2025)年度分の森林吸収量の実績算定から適用可能となるよう詳細な検討を進める予定である。新たな算定方法では、成⾧モデルによる算定方法よりも精緻化され、従来よりも算定結果が大きくなることが見込まれる。
令和7(2025)年2月に閣議決定された地球温暖化対策計画では、令和17(2035)年度及び令和22(2040)年度における我が国の温室効果ガス排出削減目標について、それぞれ平成25(2013)年度排出量比60%削減、同73%削減としている。森林吸収量については、新たな算定方法を適用した場合に見込まれる数値として、令和22(2040)年度において7,200万CO2トン(同上比5.1%)確保することを目標としている。
注1:我が国においては、林野庁が継続して行っている「森林生態系多様性基礎調査」を指す。国土全域に4km間隔の格子点を想定し、その格子点を調査地点(森林は約1.5万点)とする標本調査であり、5年間で全国を一巡するサイクルで実施されている。調査は、全国レベルでの蓄積推定の誤差を3%以下(信頼度95%)となるように調査点を設定している。本調査では、森林の状態とその変化の動向を全国統一した手法に基づき把握しており、胸高直径1cm以上の立木を対象としている。
2:一定期間内に温室効果ガスがどの排出源・吸収源からどの程度排出・吸収されたかを示すもの。
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