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林野庁

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第1部 第1章 第1節 森林の適正な整備・保全の推進(3)

(3)研究・技術開発及び普及の推進

(研究・技術開発のための戦略及び取組)

林野庁では、森林・林業・木材産業分野の課題解決に向けて、研究・技術開発における対応方向及び研究・技術開発を推進するために一体的に取り組む事項を明確にすることを目的として、「森林・林業・木材産業分野の研究・技術開発戦略」をおおむね5年ごとに策定している。令和4(2022)年に策定された同戦略では、高度なセンシング技術等の応用による造林・育林作業の省力化・低コスト化、花粉発生源対策や気候変動適応等に対応した優良品種の開発、気候変動が国内外の森林・林業に及ぼす影響の予測、我が国の森林吸収量算定手法の改善に資するモニタリング技術の高度化、CLTの更なる利活用技術の開発、改質リグニンやセルロースナノファイバー(CNF)(*7)等の用途開発や製造技術の高度化、森林における放射性セシウムの動態解明と予測技術の高度化等の研究・技術開発を推進することとしている。


(*7)改質リグニンやセルロースナノファイバーについては、第3章第2節(3)165-166ページを参照。



(林業イノベーションの推進)

林野庁は、森林資源調査から木材の生産・流通・利用に至る分野の課題解決に向けて、令和4(2022)年に改定した「林業イノベーション現場実装推進プログラム」に基づき、令和7(2025)年までのタイムラインに沿って、情報通信技術(ICT)等を活用した森林資源管理や生産管理等の実証・普及、自動運転や遠隔操作の機能を有する林業機械の開発・実証、第2世代精英樹(*8)(エリートツリー)等の開発・普及、改質リグニンを活用した材料開発等に取り組んでいる(資料1-10)。

また、同プログラムを着実に進めるため、令和3(2021)年に林業イノベーションハブセンター(*9)(通称:森ハブ)を設置した。さらに、令和5(2023)年には、林業活動のデジタル化に取り組む地域に対して、コーディネーター派遣等の伴走支援を開始し、林業イノベーションを推進するために必要な組織・人材・情報が集まる場として「森ハブ・プラットフォーム」を開設した。林業だけでなく、製造業やサービス業などの異分野を含む幅広い業種の事業者等が参画している。

そのほか、林野庁では、自動運転や遠隔操作の機能を有する林業機械の実用化及び普及に向けて、令和6(2024)年7月に「林業機械の自動運転・遠隔操作に関する安全対策検討会」を設置し、実用化段階にある遠隔操作林業機械を対象に、安全性確保のための関係者の取組や使用上の条件等について検討した上で、令和7(2025)年4月に「林業機械の遠隔操作に関する安全性確保ガイドライン~Ver. 1.0~」を公表した。

資料1-10 開発された遠隔操作林業機械の例
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(*8)国立研究開発法人森林研究・整備機構が成⾧や材質等の形質が良い精英樹同士の人工交配等を行って得られた個体の中から成⾧等がより優れたものを選抜して得られた精英樹のこと。

(*9)産学官の様々な知見者等の参画により、異分野の技術探索や先進技術方策の検討・実施などを行う組織。



(「グリーン成⾧戦略」や「みどりの食料システム戦略」による取組)

政府は、「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成⾧戦略」(令和3(2021)年6月策定)において、食料・農林水産業を含む成⾧が期待される産業(14分野)ごとに高い目標を掲げて2050年カーボンニュートラルの実現を目指す実行計画を示している。

林野庁では、高層建築物等の木造化をより一層進めるため、同戦略に基づいて造成されたグリーンイノベーション基金を活用し、縦・横の両方向に同等の強度を有し設計の自由度を高めることに資する新たな大断面部材の開発等を推進している。

また、農林水産省は「みどりの食料システム戦略」(令和3(2021)年5月策定)において、エリートツリー等の開発・普及、自動運転や遠隔操作の機能を有する林業機械の開発・実証等を進めることとしている。


(林業普及指導事業の実施等)

研究や技術開発で得られた成果は、林業現場で活用するために普及を進める必要がある。各都道府県に配置された林業普及指導員は、林業普及指導事業として、関係機関等との連携の下、地域全体の森林の整備・保全や林業・木材産業の成⾧産業化を目指した総合的な視点に立ち、森林所有者や林業従事者、これらの後継者、市町村の担当者等に直に接して、森林・林業に関する技術及び知識の普及や、森林の施業等に関する指導等を行っている(事例1-1)。令和6(2024)年4月時点で、全国で活動する林業普及指導員は1,224人となっている。また、林業普及指導事業の効果的な推進を図るため、森林整備や林業経営等の各分野において先進的な技術や知識を有している林業研究グループ等の人材を林業普及指導協力員とするなど、関係組織等との役割分担や連携強化が進められている。

さらに、林野庁では、森林・林業に関する専門知識・技術について一定の資質を有する「森林総合監理士(フォレスター)」の育成を進めている。森林総合監理士は、⾧期的・広域的な視点に立って地域の森林づくりの全体像を示すとともに、市町村森林整備計画の策定等の市町村行政を技術的に支援するほか、施業集約化を担う「森林施業プランナー」等に対し指導・助言を行う人材である(事例1-2)。林野庁では、森林総合監理士を目指す技術者の育成を図るための研修や、森林総合監理士の技術水準の向上を図るための研修等を行っている。なお、令和7(2025)年3月末時点で、都道府県職員や国有林野事業の職員を中心とした1,914人が森林総合監理士として登録されている。

事例1-1 林業普及指導員によるリモートセンシングデータの活用支援

鳥取県は令和5(2023)年度に、市町村の森林経営管理制度の実務を支援するため、公益財団法人鳥取県造林公社内に「鳥取県森林経営管理支援センター」(県と造林公社の共同運営組織)を設置した。同センターの活動において、県内の市町村が森林経営管理制度を推進していくに当たって、地籍調査未実施により森林の境界が不明確であることが、大きな課題であることが判明した。

このため、同センターに駐在している県の林業普及指導員が中心となり、森林境界明確化の効率化や地籍調査に資するリモートセンシングデータ(以下「リモセンデータ」という。)の活用を推進している。具体的には、リモセンデータを活用した地籍調査の規定に準拠した森林境界明確化業務の参考仕様書や、地籍調査事業へ適応可能な参考歩掛を策定したほか、市町村職員への研修会等を実施した。

これらの取組を通じて、リモセンデータを活用した森林境界明確化や地籍調査に取り組む市町村が増える中、森林経営管理制度の更なる進展に向け、引き続き林業普及指導員による市町村への支援が期待される。


事例1-2 森林総合監理士による主伐・再造林の促進支援

静岡県賀茂(かも)地域の民有林では、人工林が小規模で分散している上に、木材加工施設や木材市売市場までの距離が遠いことなどから、素材生産量が伸び悩んでいた。そこで、次世代の森林の育成と素材生産量の拡大を図るため、地域の市町や林業経営体等が参画する協議会と県が連携し、市町村森林整備計画における「特に効率的な施業が可能な森林の区域」を設定の上、対象とする森林において重点的に路網整備と主伐・再造林を推進することとなった。

県の森林総合監理士は、区域の設定に当たり、航空レーザ計測で得られたデジタル情報を活用してゾーニングする手法に不慣れな市町職員に対して、個別訪問による技術指導を行うとともに、地域で素材生産を担う林業経営体に対しては、路網を効率的に整備できるよう、航空レーザ計測で得られた高精度な地形情報を活用した路網線形の計画手法等について技術指導を行った。

これらの支援を通じて、主伐・再造林を重点的に行う森林の明確化と路網整備の効率化が図られ、当該地域では令和2(2020)年度からの3年間で、主伐・再造林面積が1.50haから9.52haに約6倍増加、素材生産量が年間約15,000m3から約24,000m3に約9,000m3増加するとともに、10トン積トラックが通行可能な路網が約2km開設されるなど、着実に成果が上がっている。



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