第2部 令和5年度 森林及び林業施策
概説
1 施策の重点
森林・林業基本計画(令和3(2021)年6月閣議決定)に沿って、以下の森林・林業施策を積極的に展開した。
(1)森林の有する多面的機能の発揮に関する施策
森林の有する多面的機能を将来にわたって適切に発揮させていくため、1)適切な森林施業の確保、2)面的なまとまりをもった森林管理、3)再造林の推進、4)野生鳥獣による被害への対策の推進、5)適切な間伐等の推進、6)路網整備の推進、7)複層林化と天然生林の保全管理等の推進、8)カーボンニュートラル実現への貢献、9)国土の保全等の推進、10)研究・技術開発及びその普及、11)新たな山村価値の創造、12)国民参加の森林(もり)づくり等の推進、13)国際的な協調及び貢献に関する施策を実施した。
特に、市町村が森林環境譲与税も活用して実施する、森林経営管理法(平成30年法律第35号)に基づく森林整備等の取組を推進した。また、令和5(2023)年4月に設置された「花粉症に関する関係閣僚会議」において同年5月に決定された「花粉症対策の全体像」及び同年10月に決定された「花粉症対策 初期集中対応パッケージ」に基づき、発生源対策や飛散対策の取組を推進した。
また、森林の防災・保水機能を発揮させるため、「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」(令和2(2020)年12月閣議決定)により山地災害危険地区や氾濫した河川の上流域等における治山対策、間伐等の取組を推進した。
(2)林業の持続的かつ健全な発展に関する施策
林業の持続的かつ健全な発展を図るため、1)望ましい林業構造の確立、2)担い手となる林業経営体の育成、3)人材の育成・確保等、4)林業従事者の労働環境の改善、5)森林保険による損失の補塡、6)特用林産物の生産振興に関する施策を推進した。
特に、情報通信技術(ICT)等を活用し資源管理や生産管理を行うスマート林業等の新たな技術の導入により、伐採から再造林・保育に至る収支のプラス転換を可能とする「新しい林業」に向けた林業経営育成を図った。
さらに、令和5(2023)年度から、関係者が連携して地域コンソーシアムを形成してデジタル技術の現場実装を進める「デジタル林業戦略拠点」の取組を開始した。
(3)林産物の供給及び利用の確保に関する施策
林産物の供給及び利用を確保するため、1)原木の安定供給、2)木材産業の競争力強化、3)都市等における木材利用の促進、4)生活関連分野等における木材利用の促進、5)木質バイオマスの利用、6)木材等の輸出促進、7)消費者等の理解の醸成、8)林産物の輸入に関する措置に関する施策を推進した。
特に、国産材の安定供給体制の構築に向けた需給情報連絡協議会を開催し、川上から川下までの関係者の木材需給情報の収集・共有等を図るとともに、海外情勢の影響を受けにくい需給構造構築に向けて国産材供給力の強化、国産の製品等への転換等の取組を支援した。
(4)国有林野の管理及び経営に関する施策
国土保全等の公益的機能の高度発揮に重要な役割を果たしている国有林野の特性を踏まえ、公益重視の管理経営を一層推進した。
また、効率的かつ安定的な林業経営の育成を図るため、国有林野の一定区域において、公益的機能を確保しつつ、一定期間、安定的に樹木を採取できる権利を設定する樹木採取権制度の運用を行った。
(5)その他横断的に推進すべき施策
その他横断的に推進すべき施策として、1)デジタル化の推進、2)新型コロナウイルス感染症への対応、3)東日本大震災からの復興・創生に関する施策を実施した。
特に、東日本大震災によって被災した海岸防災林の復旧及び再生に取り組んだ。また、被災地の森林・林業の再生のため、森林の放射性物質による汚染実態の把握、円滑な林業の再生に資する実証等を実施するとともに、関連する情報の収集、整理、情報発信等を実施した。
(6)団体に関する施策
森林組合が、国民や組合員の信頼を受け、地域の森林施業や経営の担い手の中心として、森林経営管理制度においても重要な役割を果たすよう、事業・業務執行体制の強化及び体質の改善に向けた指導を行った。
2 財政措置
(1)財政措置
令和5(2023)年度林野庁関係当初予算においては、一般会計に非公共事業費約1,077億円、公共事業費約1,979億円を計上した。本予算において、
1)「森林・林業・木材産業グリーン成⾧総合対策」として、
(ア)木材需要に的確に対応できる安定的・持続可能な供給体制の構築のための取組を総合的に推進する「林業・木材産業循環成⾧対策」
(イ)都市部における木材利用の強化や建築用木材の供給体制の強化を支援する「建築用木材供給・利用強化対策」
(ウ)非住宅建築物等の木造化・木質化に向けた環境整備や、木材輸出等による木材の需要拡大を支援する「木材需要の創出・輸出力強化対策」
(エ)新技術の導入により収益性等の向上につながる経営モデルの実証等を支援する「「新しい林業」に向けた林業経営育成対策」
(オ)植樹等の森林(もり)づくりや木材利用を国民運動として進めていくための取組を支援する「カーボンニュートラル実現に向けた国民運動展開対策」
2)新技術の開発・実証や実装を支援する「林業デジタル・イノベーション総合対策」
3)林業への新規就業者の育成・定着、これからの林業経営を担う人材等の確保・育成に向けた取組等を支援する「森林・林業担い手育成総合対策」
4)森林の多面的機能の適切な発揮と山村地域のコミュニティの維持・活性化を図るための取組を推進する「森林・山村地域振興対策」
5)花粉症対策苗木への植替え等を支援する「花粉発生源対策推進事業」
6)シカ被害を効果的に抑制するための取組等を支援する「シカ等による森林被害緊急対策事業」
7)間伐や主伐後の再造林、幹線となる林道の開設・改良等を推進する「森林整備事業」
8)激化する降水形態や活発化する地震及び火山活動に対応するため、復旧の加速化・効率化や事前防災力の向上を図るとともに、事業体等の負担軽減を推進する「治山事業」
等に取り組んだ。
また、東日本大震災復興特別会計に非公共事業費約51億円、公共事業費約49億円を盛り込んだ。
くわえて、令和5(2023)年度林野庁関係補正予算に非公共事業323億円、公共事業1,077億円を計上し、
1)林業・木材産業の国際競争力の強化や国内需要の拡大を図るため、林業・木材産業の体質強化に向けた取組等を総合的に支援する「林業・木材産業国際競争力強化総合対策」
2)10年後に花粉発生源となるスギ人工林の約2割減少を目指し、「花粉症対策 初期集中対応パッケージ」に掲げられた取組を実施する「花粉症解決に向けた緊急総合対策」
3)燃油・資材の価格高騰や供給難への対応として、木質バイオマスエネルギーへの転換促進に向けた取組や、きのこ生産者のコスト低減等に向けた取組を支援する「燃油・資材の森林由来資源への転換等対策」
4)シカの生息頭数が増えている地域等における集中捕獲に資する対策を実施する「鳥獣被害防止総合対策」
5)山地災害危険地区や氾濫した河川の上流域等での治山施設の整備等を推進する「治山施設の設置等による防災・減災対策」
6)山地災害危険地区周辺や氾濫した河川の上流域等での間伐等の森林整備や、林道の開設・改良等を推進する「森林整備による防災・減災対策」
7)被災した治山・林道施設や荒廃山地等の速やかな復旧等を推進する「災害復旧等事業」
等に取り組んだ。

(2)森林・山村に係る地方財政措置
「森林・山村対策」、「国土保全対策」等を引き続き実施し、地方公共団体の取組を促進した。
「森林・山村対策」としては、
1)公有林等における間伐等の促進
2)施業の集約化に必要な森林境界の明確化など森林整備地域活動の促進
3)林業の担い手確保及び育成対策の推進
4)民有林における⾧伐期化及び複層林化と林業公社がこれを行う場合の経営の安定化の推進
5)地域で流通する木材の利用のための普及啓発及び木質バイオマスエネルギー利用促進対策
6)市町村による森林所有者情報の整備
等に要する経費等に対して、地方交付税措置を講じた。
「国土保全対策」としては、ソフト事業として、U・Iターン受入対策、森林管理対策等に必要な経費に対する普通交付税措置及び上流域の水源維持等のための事業に必要な経費を下流域の団体が負担した場合の特別交付税措置を講じた。また、公の施設として保全及び活用を図る森林の取得及び施設の整備農山村の景観保全施設の整備等に要する経費を地方債の対象とした。
さらに、森林吸収源対策等の推進を図るため、林地台帳の運用、森林所有者の確定等、森林整備の実施に必要となる地域の主体的な取組に要する経費について、引き続き地方交付税措置を講じた。
3 税制上の措置
林業に関する税制について、令和5(2023)年度税制改正において、
1)林業用軽油に対する石油石炭税(地球温暖化対策のための課税の特例による上乗せ分)の還付措置の適用期限の3年延⾧(石油石炭税)
2)独立行政法人農林漁業信用基金が受ける抵当権の設定登記等の税率の軽減措置の適用期限の2年延⾧(登録免許税)
3)森林組合等が株式会社日本政策金融公庫資金等の貸付けを受けて取得した共同利用施設に係る課税標準の特例措置の適用期限の2年延⾧(不動産取得税)
4)森林組合等が林業・木材産業改善資金等の貸付けを受けて取得した農林漁業者等の共同利用に供する機械及び装置に係る課税標準の特例措置の適用期限の2年延⾧(固定資産税)
5)中小企業投資促進税制について、 対象資産の見直しを行った上、その適用期限の2年延⾧(所得税・法人税)
6)中小企業経営強化税制について、対象資産の見直しを行った上、その適用期限の2年延⾧(所得税・法人税)
7)新型コロナウイルス感染症により影響を受けた事業者に対して行う特別貸付けに係る消費貸借に関する契約書の非課税措置の適用期限の1年延⾧(印紙税)
等の措置を講じた。
4 金融措置
(1)株式会社日本政策金融公庫資金制度
株式会社日本政策金融公庫の林業関係資金については、造林等に必要な⾧期低利資金の貸付計画額を255億円とした。沖縄県については、沖縄振興開発金融公庫の農林漁業関係貸付計画額を110億円とした。
森林の取得、木材の加工・流通施設等の整備、災害からの復旧を行う林業者等に対する利子助成を実施した。
令和6年能登半島地震や東日本大震災により被災した林業者等及び新型コロナウイルス感染症や原油価格・物価高騰等の影響を受けた林業者等に対し、実質無利子・無担保等貸付けを実施した。
(2)林業・木材産業改善資金制度
経営改善等を行う林業者・木材産業事業者に対する都道府県からの無利子資金である林業・木材産業改善資金について貸付計画額を38億円とした。
(3)木材産業等高度化推進資金制度
林業経営の基盤強化並びに木材の生産及び流通の合理化又は木材の安定供給を推進するための木材産業等高度化推進資金について貸付枠を600億円とした。
(4)独立行政法人農林漁業信用基金による債務保証制度
林業経営の改善等に必要な資金の融通を円滑にするため、独立行政法人農林漁業信用基金による債務保証や林業経営者に対する経営支援等の活用を促進した。
債務保証を通じ、重大な災害からの復旧、「木材の安定供給の確保に関する特別措置法」(平成8年法律第47号)に係る取組及び事業承継・創業等を支援するための措置を講じた。
令和6年能登半島地震や東日本大震災により被災した林業者等及び新型コロナウイルス感染症や原油価格・物価高騰等の影響を受けた林業者等に対し、保証料の助成等を実施した。
(5)林業就業促進資金制度
新たに林業に就業しようとする者の円滑な就業を促進するため、新規就業者や認定事業主に対する、研修受講や就業準備に必要な資金の林業労働力確保支援センターによる貸付制度を通じた支援を行った。
5 政策評価
効果的かつ効率的な行政の推進、行政の説明責任の徹底を図る観点から、「行政機関が行う政策の評価に関する法律」(平成13年法律第86号)に基づき、5年ごとに定める農林水産省政策評価基本計画及び毎年度定める農林水産省政策評価実施計画により、事前評価(政策を決定する前に行う政策評価)や事後評価(政策を決定した後に行う政策評価)を実施し、特に実績評価においては、森林・林業基本計画に基づき設定した51の測定指標について、令和4(2022)年度中に実施した政策に係る進捗を検証した。
お問合せ先
林政部企画課
担当者:年次報告班
代表:03-3502-8111(内線6061)
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