第2部 1 森林の有する多面的機能の発揮に関する施策
1 適切な森林施業の確保
(1)森林計画制度の下での適切な施業の推進
地域森林計画や市町村森林整備計画において、地域ごとに目標とする主伐量や造林量、発揮が期待される機能に応じたゾーニング等を定め、森林所有者等による造林、保育、伐採その他の森林施業の適切な実施を推進した。また、特に植栽による更新に適した区域の設定のほか、計画策定時に森林資源の保続が可能な主伐量の上限の検討等を進めるよう促し、再造林の実施をより効果的に促進した。
くわえて、森林総合監理士等が市町村への技術的な支援等を適切に担うことができるよう、継続教育等による技術水準の向上を図りつつ、その育成・確保を図った。
(2)適正な伐採と更新の確保
適正な伐採と更新の確保に向け、伐採造林届出書や伐採・造林後の森林の状況報告書の確実な提出、市町村森林整備計画に基づく適切な指導等、伐採及び伐採後の造林の届出等の制度の適正な運用を図った。
また、衛星画像を活用した伐採箇所の効率的な把握などを促し、無断伐採の発生防止に向けた取組を推進した。
2 面的なまとまりをもった森林管理
(1)森林の経営管理の集積等
森林経営計画の作成に向け、市町村や森林組合等による森林情報の収集、森林調査、境界の明確化、森林所有者の合意形成の活動及び既存路網の簡易な改良に対する支援を行うとともに、施業提案や森林境界の確認の手法として3次元地図や過去の空中写真等の森林情報の活用を推進することにより、施業の集約化の促進を図った。
さらに、森林経営計画に基づき面的なまとまりをもって森林施業を行う者に対して、間伐等やこれと一体となった森林作業道の開設等を支援するとともに、税制上の特例措置や融資条件の優遇措置を講じた。また、適切な経営管理が行われていない森林については、森林経営管理制度の下で、市町村が仲介役となり、林業経営者へ森林の経営管理の集積・集約化を図った。
くわえて、森林経営管理制度の円滑な運用を図るため、市町村への指導・助言を行うことができる技術者の養成を進めるとともに、全国の知見・ノウハウを集積・分析し、市町村等への提供を行った。
このほか、民有林と国有林が連携した「森林共同施業団地」の設定等の取組を推進した。
所有者不明の森林については、森林経営管理制度等の活用による所有者情報の把握・確認が進むよう取組を促すとともに、森林経営管理制度の特例措置の円滑な運用に向けた知見等の整理を行った。また、共有林の共有者の一部の所在が不明である場合等には、共有者不確知森林制度の活用による森林の適切な整備を促した。
(2)森林関連情報の整備・提供
森林関連情報については、レーザ測量等のリモートセンシング技術を活用し、森林資源情報の精度向上を図った。また、都道府県等が導入している標準仕様書に基づく森林クラウドにデータを集積し、情報の共有化と高度利用を促進した。
森林の土地の所有者届出制度や精度向上に向けた調査等により得られた情報の林地台帳への反映を促進した。
適正な森林管理、地域森林計画等の樹立及び学術研究の発展に資するため、林況や生物多様性等の森林経営の基準・指標に係るデータを継続的に把握する森林資源モニタリングを引き続き実施し、データの公表・活用を進めた。
3 再造林の推進
(1)優良種苗の安定的な供給
再造林の低コスト化等に資するエリートツリー等の優良種苗の普及を加速するとともに、低コストかつ安定的に供給する体制を構築するため、原種増産技術の開発、採種園等の造成・改良、コンテナ苗の生産施設の整備、生産技術の向上に向けた研修等の取組を推進した。
(2)造林適地の選定
林業に適した林地における再造林の実効性を高めていくため、林野土壌調査等の過去文献やレーザ測量などを活用した。また、市町村森林整備計画において「木材等生産機能維持増進森林」のうち「特に効率的な施業が可能な森林の区域」の適切なゾーニングを推進した。さらに、「森林の間伐等の実施の促進に関する特別措置法」(平成20年法律第32号。以下「間伐等特措法」という。)に基づく措置により、自然的・社会的な条件からみて植栽に適した区域における再造林を促進した。
(3)造林の省力化と低コスト化
伐採と造林の一貫作業や低密度植栽、エリートツリー等の植栽による下刈り回数の削減等の効率的な施業の導入や、リモートセンシング技術による施工管理等の効率化を推進するとともに、省力化・低コスト化に資する成⾧に優れた品種の開発を進めるほか、苗木生産施設等の整備への支援及び再造林作業を省力化する林業機械の開発に取り組んだ。
また、国有林のフィールドや技術力等を活かし、低コスト造林技術の開発・実証等に取り組んだ。
4 野生鳥獣による被害への対策の推進
森林整備と一体的に行う防護柵等の鳥獣害防止施設の整備や野生鳥獣の捕獲の支援を行うとともに、鳥獣保護管理施策や農業被害対策等との連携を図りつつ、シカ被害を効果的に抑制するため、林業関係者による捕獲効率向上対策や都道府県による広域的な捕獲の取組、情報通信技術(ICT)等を活用した新たな捕獲技術等の開発・実証を推進した。くわえて、近年顕在化しつつあるノウサギ被害の対策手法の確立に向けた試験を行った。
また、野生鳥獣による被害が発生している森林等において、森林法(昭和26年法律第249号)に基づく市町村森林整備計画等における鳥獣害防止森林区域の設定を通じた被害対策や、地域の実情に応じた野生鳥獣の生息環境となる針広混交の育成複層林や天然生林への誘導など野生鳥獣との共存に配慮した対策を推進した。
5 適切な間伐等の推進
不在村森林所有者の増加等の課題に対処するため、地域に最も密着した行政機関である市町村が主体となった森林所有者の確定及び境界の明確化や林業の担い手確保等のための施策を講ずるとともに、森林経営計画に基づき面的なまとまりをもって実施される間伐等を支援するほか、間伐等特措法等に基づき市町村による間伐等の取組を進めることなどにより、森林の適切な整備を推進した。また、市町村による森林経営管理制度と森林環境譲与税を活用した間伐等の取組を推進した。
6 路網整備の推進
傾斜区分と作業システムに応じた目指すべき路網密度の水準を踏まえつつ、林道と森林作業道を適切に組み合わせた路網の整備を推進した。その際、災害の激甚化、走行車両の大型化及び未利用材の収集運搬の効率化に対応できるよう、路網の強靱(じん)化・⾧寿命化を図った。
特に、強靱(じん)で災害に強く、木材の効率的な輸送を可能とする幹線林道の開設や、既設林道の改築・改良による質的向上を推進した。
7 複層林化と天然生林の保全管理等の推進
(1)生物多様性の保全
ア 生物多様性の保全に配慮した森林施業の推進
一定の広がりにおいて、様々な生育段階や樹種から構成される森林がモザイク状に配置されている「指向する森林の状態」を目指して、多様な森林整備を推進した。
このため、国有林において面的複層林施業等の先導的な取組を進めるとともに、市町村による森林経営管理制度と森林環境譲与税を活用した針広混交林化の取組等を促進した。あわせて、育成単層林施業においても、⾧伐期化や広葉樹の保残など生物多様性の保全に配慮した施業を推進した。この際、森林所有者等がそれらの施業を選択しやすくするための事例収集や情報提供、モザイク施業等の複層林化に係る技術の普及を図った。
イ 天然生林等の保全管理の推進
原生的な森林生態系、希少な生物が生育・生息する森林等の保全管理に向けて、継続的なモニタリングに取り組むとともに、民有林と国有林が連携して、森林生態系の保存及び復元、点在する希少な森林生態系の保護管理、それらの森林の連続性確保等に取り組んだ。また、生物多様性にとって重要な地域を保護・保全するために、法令等による保護地域だけでなく、NPOや住民等によって生物多様性の保全がなされている地域などにおける保全管理の取組を推進した。さらに、生活の身近にある里山林等の継続的な保全管理などを推進した。
ウ 生物多様性の保全に向けた国民理解の促進
国民が広く参加し、植樹や森林保全等の生物多様性への理解につながる活動の展開、地域と国有林が連携した自然再生活動や森林環境教育等の取組を推進した。また、森林認証等への理解促進など、生物多様性の保全と森林資源の持続可能な利用の調和を図った。
(2)公的な関与による森林整備
市町村による森林経営管理制度と森林環境譲与税を活用した森林整備等の取組を推進した。都県の森林整備法人等が管理する森林について、針広混交林化等への施業転換や採算性を踏まえた分収比率の見直しなどを進めるとともに、森林整備法人等がその知見を活かして、森林管理業務の受託等を行うことで、地域の森林整備の促進に貢献した。
奥地水源等の保安林について、水源林造成事業により森林造成を計画的に行うとともに、既契約分については育成複層林等への誘導を進め、当該契約地周辺の森林も合わせた面的な整備にも取り組んだ。また、荒廃した保安林等について、治山事業による整備を実施した。
(3)花粉症対策の推進
「花粉症対策の全体像」では、「発生源対策」、「飛散対策」、「発症・曝(ばく)露対策」を3本柱として、10年後に花粉発生源のスギ人工林を約2割減少させ、将来的(約30年後)に半減させることを目指すこととしており、これを踏まえて、農林水産省は、令和5(2023)年5月に花粉発生源スギ人工林減少推進計画を策定した。
また、「花粉症対策の全体像」が想定する期間の初期段階から集中的に実施すべき対応として取りまとめられた「花粉症対策 初期集中対応パッケージ」では、「発生源対策」について、令和5(2023)年度中に重点的に伐採・植替え等を実施する区域を設定し、スギ人工林の伐採・植替え等を加速化すること等が決定された。
これらに基づき、関係行政機関との緊密な連携の下、森林所有者に対する花粉の少ない苗木等への植替えの働き掛けを支援するとともに、花粉発生源となっているスギ・ヒノキ人工林の伐採とコンテナを用いて生産された花粉の少ない苗木等への植替え、広葉樹の導入による針広混交林への誘導等を推進した。また、スギ材等の需要拡大や花粉の少ない苗木の生産拡大に加え、林業の生産性の向上及び労働力の確保に取り組んだ。
さらに、「飛散対策」として、雄花の着花量調査、航空レーザ計測に基づく森林資源情報の提供・公開を進めるとともに、花粉飛散防止剤の実用化等を推進した。
あわせて、これらの成果等の関係者への効果的な普及を行うとともに、より効果的な対策の実施に向けた調査を行った。
8 カーボンニュートラル実現への貢献
(1)森林・林業・木材産業分野における取組
令和12(2030)年度における我が国の森林吸収量目標約3,800万CO2トン(平成25(2013)年度総排出量比約2.7%)の達成や、2050年カーボンニュートラルの実現に貢献するため、森林・林業基本計画等に基づき、総合的に対策を実施した。
具体的には、適切な間伐等の実施、保安林指定による天然生林等の適切な管理・保全等に引き続き取り組むことに加えて、中⾧期的な森林吸収量の確保・強化を図るため、間伐等特措法に基づく措置を活用し、エリートツリー等の再造林を促進した。
また、国連気候変動枠組条約及びパリ協定に基づき、森林吸収量を算定し、国連気候変動枠組条約事務局に報告する義務があるため、森林吸収量の算定対象となる森林の育成・管理状況等を定期的に調査・検証し、適切な吸収量等の把握を行った。具体的には、土地利用変化量や伐採木材製品(HWP)の炭素蓄積変化量の把握等に必要な基礎データの収集・分析、算定方法の検討等を行った。
さらに、製造時のエネルギー消費の比較的少ない木材の利用拡大、化石燃料の代替となる木質バイオマスのエネルギー利用の拡大、化石資源由来の製品の代替となる木質系新素材の開発、加工流通等における低炭素化等を通じて、二酸化炭素の排出削減に貢献してきた。HWPによる炭素の貯蔵拡大に向けて、住宅における国産材の利用促進とともに、非住宅分野等についても、製材やCLT(直交集成板)、木質耐火部材等に係る技術開発・普及や建築の実証に対する支援を実施した。エネルギー利用も含めた木材利用については、「合法伐採木材等の流通及び利用の促進に関する法律」(平成28年法律第48号。以下「クリーンウッド法」という。)等の運用を通じ、木材調達に係る合法性確認の徹底を図った。
あわせて、これらの取組が着実に進められるよう、デジタル技術の活用といった林業イノベーションや、森林(もり)づくり・木材利用に係る国民運動、森林由来のJ-クレジットの創出・活用の拡大等も推進し、川上から川下までの施策に総合的に取り組んだ。
(2)森林の公益的機能の発揮と調和する再生可能エネルギーの利用促進
森林の公益的機能の発揮と地域の合意形成に十分留意しつつ、林地の適正かつ積極的な利用を促進した。
具体的には、風力や地熱による発電施設の設置に関し、マニュアルの周知等を通じた国有林野の活用や保安林の解除に係る事務の迅速化・簡素化、保安林内作業許可基準の運用の明確化、地域における協議への参画等を通じた積極的な情報提供等を行い、森林の公益的機能の発揮と調和する再生可能エネルギーの利用促進を図った。
また、令和4(2022)年に改正した森林法施行令(昭和26年政令第276号)等による太陽光発電に係る林地開発許可基準の見直しを踏まえ、林地開発許可制度の適切な運用を図った。
(3)気候変動の影響に対する適応策の推進
気候変動適応計画(令和5(2023)年5月閣議決定)及び農林水産省気候変動適応計画(令和5(2023)年8月改定)に基づき、事前防災・減災の考えに立った治山施設の整備や森林の整備、森林病害虫のまん延防止、森林生態系の保存及び復元、開発途上国における持続可能な森林経営や森林保全の取組への支援等に取り組んだ。
9 国土の保全等の推進
(1)適正な保安林の配備及び保全管理
水源の涵(かん)養、災害の防備、保健・風致の保存等の目的を達成するために保安林として指定する必要がある森林について、水源かん養保安林、土砂流出防備保安林、保健保安林等の指定に重点を置いて保安林の配備を計画的に推進した。また、指定した保安林については、伐採の制限や転用の規制をするなど適切な運用を図るとともに、令和4(2022)年に改正した森林法施行令等における保安林の指定施業要件の植栽基準の見直しや、衛星デジタル画像等を活用した保安林の現況等に関する総合的な情報管理、現地における巡視及び指導の徹底等により、保安林の適切な管理の推進を図った。
このほか、宅地造成及び特定盛土等規制法(昭和36年法律第191号。宅地造成等規制法の一部改正(令和4(2022)年5月)により名称変更)に基づき危険な盛土等に対する規制が速やかに実効性を持って行われるよう、規制区域の指定や盛土等の安全性把握等のための基礎調査、危険が認められた盛土等の土砂撤去や崩落防止対策等を支援し、盛土等に伴う災害の防止に向けた取組を推進した。
(2)国民の安全・安心の確保のための効果的な治山事業等の推進
近年、頻発する集中豪雨や地震等による大規模災害の発生のおそれが高まっていることを踏まえ、山地災害による被害を防止・軽減し、地域の安全・安心を確保するため、効果的かつ効率的な治山対策を推進した。
具体的には、山地災害を防止し、地域の安全性の向上を図るための治山施設の設置等のハード対策と、地域の避難体制と連携した、山地災害危険地区に係る監視体制の強化や情報提供等のソフト対策を一体的に実施した。さらに、河川の上流域に位置する保安林、重要な水源地や集落の水源となっている保安林等において、浸透能及び保水力の高い森林土壌を有する森林の維持・造成を推進した。
特に、山地災害等が激甚化・頻発化する傾向を踏まえ、山地災害の復旧整備を図りつつ、「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」に基づき山地災害危険地区等における治山対策を推進した。くわえて、尾根部からの崩壊等による土砂流出量の増大、流木災害の激甚化、広域にわたる河川氾濫等、災害の発生形態の変化等に対応して、流域治水と連携しつつ、土砂流出の抑制、森林土壌の保全強化、流木対策、海岸防災林の整備・保全等の取組を推進した。
また、治山施設の機能強化を含む⾧寿命化対策、民有林と国有林の連携による計画的な事業の実施、他の国土保全に関する施策と連携した取組、工事実施に当たっての木材の積極的な利用、生物多様性の保全等に配慮した治山対策の実施を推進した。
(3)大規模災害時における迅速な対応
異常な天然現象により被災した治山施設について、治山施設災害復旧事業により復旧を図るとともに、新たに発生した崩壊地等のうち緊急を要する箇所について、災害関連緊急治山事業等により早期の復旧整備を図った。
また、林道施設、山村環境施設及び森林に被害が発生した場合には、林道施設災害復旧事業、災害関連山村環境施設復旧事業、森林災害復旧事業(激甚災害に指定された場合)等により、早期の復旧を図った。
さらに、大規模災害等の発災時においては、国の技術系職員の派遣(MAFF-SAT)、ヘリコプターを活用した被害状況調査等により、被災地域の復旧支援を行った。
令和6年能登半島地震においては、地震発生翌日から、森林管理局による被害状況のヘリコプター調査を実施するとともに、MAFF-SATとして林野庁及び森林管理局署の治山・林道技術者を派遣し、被災施設等の復旧支援を行った。さらに、MAFF-SAT内に「能登半島地震山地災害緊急支援チーム」を編成し、避難所・集落周辺の森林や治山施設等の緊急点検を石川県と連携して行うとともに、復旧計画の作成等に向けた支援を行った。また、国土地理院と連携し、目視では確認できない地形変化を把握して復旧整備に反映するため、航空レーザ測量に着手した。
くわえて、奥能登地域の大規模な山腹崩壊箇所等について、石川県の要請を受けて国直轄による災害復旧等事業の実施を決定した。
(4)森林病虫害対策等の推進
マツノマダラカミキリが媒介するマツノザイセンチュウによる松くい虫被害対策については、保全すべき松林において被害のまん延防止のための薬剤散布、被害木の伐倒駆除及び健全な松林の整備や広葉樹林等への樹種転換を推進した。また、抵抗性マツで造成された海岸防災林の被害リスクや効果的な対策について調査を実施するとともに、抵抗性マツ品種の開発及び普及を促進した。
カシノナガキクイムシが媒介するナラ菌によるナラ枯れ被害対策については、被害の拡大防止に向け予防や駆除を積極的に実施するとともに、被害を受けにくい森林づくりなどの取組を推進した。また、既存防除手法の費用対効果や被害先端地域での効率的な防除方法についての実態調査を実施した。
林野火災の予防については、全国山火事予防運動等の普及活動や予防体制の強化を図るとともに、林野火災発生危険度予測システムの構築等を実施した。
さらに、各種森林被害の把握及び防止のため、森林保全推進員を養成するなどの森林保全管理対策を地域との連携により推進した。
10 研究・技術開発及びその普及
(1)研究・技術開発の戦略的かつ計画的な推進
「森林・林業・木材産業分野の研究・技術開発戦略」(令和4(2022)年3月策定)等を踏まえ、国及び国立研究開発法人森林研究・整備機構が都道府県の試験研究機関、大学、学術団体、民間企業等との産学官連携の強化を図りつつ、研究・技術開発を戦略的かつ計画的に推進した。
国立研究開発法人森林研究・整備機構において、森林・林業基本計画等に基づく森林・林業施策について、
1)環境変動下での森林の多面的機能の適切な発揮に向けた研究開発
2)森林資源の活用による循環型社会の実現と山村振興に資する研究開発
3)多様な森林の造成・保全と持続的資源利用に貢献する林木育種
等を推進した。
(2)効率的かつ効果的な普及指導の推進
研究・技術開発で得られた成果等に関しては、林業普及指導員の知識・技術水準を確保するための資格試験や研修の実施、林業普及指導事業交付金の交付による普及員の設置を適切に行うことなどを通じ、現場へ普及し社会還元を図った。
11 新たな山村価値の創造
(1)山村の内発的な発展
森林資源を活用して、林業・木材産業を成⾧発展させ、山村の内発的な発展を図るため、
1)森林経営の持続性を担保しつつ行う、川上から川下までが連携した顔の見える木材供給体制の構築や、地域内での熱利用・熱電併給を始めとする未利用木質資源の利用を促進するための木質バイオマス利用促進施設整備等の取組の支援
2)自伐林家等への支援や、漆、薪、木炭、山菜等の山村の地域資源の発掘・活用を通じた所得・雇用の増大を図る取組の支援
3)健康、観光、教育等の多様な分野で森林空間を活用して新たな雇用と収入機会を生み出す「森林サービス産業」の創出・推進の取組
を実施した。
(2)山村集落の維持・活性化
ア 山村振興対策等の推進
山村振興法(昭和40年法律第64号)に基づいて、都道府県が策定する山村振興基本方針及び市町村が策定する山村振興計画に基づく産業の振興等に関する事業の推進を図った。
また、山村地域の産業の振興に加え、住民福祉の向上にも資する林道の整備等を支援するとともに、振興山村、過疎地域等において都道府県が市町村に代わって整備することができる基幹的な林道を指定し、その整備を支援した。
さらに、山村地域の安全・安心の確保に資するため、治山施設の設置等や保安林の整備のハード対策と、地域の避難体制と連携した、山地災害危険地区に係る監視体制の強化や情報提供等のソフト対策を一体的に推進した。
振興山村及び過疎地域の農林漁業者等に対し、株式会社日本政策金融公庫による⾧期かつ低利の振興山村・過疎地域経営改善資金の融通を行った。
イ 再生利用が困難な荒廃農地の森林としての活用
農地として再生利用が困難であり、森林として管理・活用を図ることが適当な荒廃農地について、地域森林計画へ編入し、編入後の森林の整備及び保全を推進した。
また、林地化に当たっては、「農山漁村の活性化のための定住等及び地域間交流の促進に関する法律」(平成19年法律第48号)に基づく農用地の保全等に関する事業により、地域の話合いによる計画的な土地利用を推進した。
ウ 地域の森林の適切な保全管理
森林の多面的機能を適切に発揮させるとともに、関係人口の創出を通じ、地域のコミュニティの維持・活性化を図るため、地域住民や地域外関係者等による活動組織が実施する森林の保全管理、森林資源の活用を図る取組等の支援を実施した。
エ 集落の新たな支え手の確保
特定地域づくり事業協同組合や地域おこし協力隊の枠組みを活用した森林・林業分野における事例の収集・発信に取り組んだ。
さらに、林業高校や林業大学校等への進学、「緑の雇用」事業によるトライアル雇用、地域おこし協力隊への参加等を契機とした移住・定住の促進を図った。
(3)関係人口の拡大
関係人口や交流人口の拡大に取り組むため、農泊や国立公園等とも連携しながら、健康、観光、教育等の多様な分野で森林空間を活用して新たな雇用と収入機会を生み出す「森林サービス産業」の創出・推進の取組を実施するとともに、森林景観を活かした観光資源の整備を実施した。
12 国民参加の森林(もり)づくり等の推進
(1)森林整備に対する国民理解の促進
森林整備に対する国民理解の醸成を図るため、各地方公共団体における森林環境譲与税を活用した取組の実施状況やその公表状況について、取りまとめて情報発信を行った。
(2)国民参加の森林(もり)づくり
国民参加の森林(もり)づくりを促進するため、全国植樹祭、全国育樹祭等の国土緑化行事、緑の少年団活動発表大会等の実施を支援するとともに、NPO・企業等が行う森林(もり)づくり活動に対するサポート体制構築への支援、森林(もり)づくりに関する情報提供等を通じNPO等による森林(もり)づくり活動を推進した。また、国有林におけるフィールドや情報の提供、技術指導等を推進した。
また、幼児期からの森林を活用した森林環境教育を推進するため、行政機関、専門家等による発表や意見交換等を行う「こどもの森づくりフォーラム」を開催した。
13 国際的な協調及び貢献
(1)国際対話への参画等
世界における持続可能な森林経営に向けた取組を推進するため、国連森林フォーラム(UNFF)、国連食糧農業機関(FAO)等の国際対話に積極的に参画するとともに、関係各国、各国際機関等と連携を図りつつ、国際的な取組を推進した。モントリオール・プロセスについては、他の国際的な基準・指標プロセスとの連携等を積極的に行った。
また、持続可能な森林経営に関する日中韓3か国部⾧級対話を通じ、近隣国との相互理解を推進した。
さらに、令和5(2023)年5月に我が国で開催された「G7広島サミット」において、持続可能な森林経営と木材利用の促進へのコミットなどが盛り込まれた成果文書が採択された。
このほか、世界における持続可能な森林経営に向けて引き続きイニシアティブを発揮するため、FAOと林野庁の共催により、世界森林資源評価(FRA)2025東京ワークショップ等の国際会議を開催した。
(2)開発途上国の森林保全等のための調査及び技術開発
開発途上国における森林の減少及び劣化の抑制並びに持続可能な森林経営を推進するため、二国間クレジット制度(JCM)におけるREDD+等の実施ルールの検討及び普及を行うとともに、民間企業等の知見・技術を活用した開発途上国の森林保全・資源利活用の促進や民間企業等による森林(もり)づくり活動の貢献度を可視化する手法の開発・普及を行った。また、民間企業等の海外展開の推進に向け、開発途上国の防災・減災に資する森林技術の開発や人材育成等を支援した。
このほか、開発途上国における我が国の民間団体等が行う海外での植林及び森林保全活動を推進するため、海外植林等に関する情報提供等を行った。
(3)二国間における協力
開発途上国からの要請を踏まえ、独立行政法人国際協力機構(JICA)を通じ、専門家派遣、研修員受入れや、これらと機材供与を効果的に組み合わせた技術協力プロジェクトを実施した。
また、JICAを通じた森林・林業案件に関する有償資金協力に対して、計画立案段階等における技術的支援を行った。
さらに、日インド森林及び林業分野の協力覚書等に基づく両国間の協力を推進するとともに、東南アジア諸国と我が国の二国間協力に向けた協議を行った。
(4)国際機関を通じた協力
熱帯林の保全と脱炭素社会の実現に貢献するため、国際熱帯木材機関(ITTO)への拠出を通じ、熱帯林減少の著しいアフリカにおける持続可能な土地利用の推進を通じた食料生産等と調和した森林経営の確立及び東南アジアの木材輸出国における木材の持続可能な生産・利用に向けた取組を支援した。
また、FAOへの拠出を通じ、世界の森林減少・劣化の抑止のための森林と農業を取り巻くサプライチェーンにおける森林保全と農業の両立に有効なアプローチを浸透させるとともに、地域強靱(じん)化のための総合的で持続可能な森林の保全・利活用方策の普及に向けた取組を支援した。
お問合せ先
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代表:03-3502-8111(内線6061)
ダイヤルイン:03-6744-2219