第1部 第3章 第3節 木材産業の動向(3)
(3)国産材活用に向けた製品・技術の開発・普及
(大径材の利用に向けた取組)
これまで製材工場は中丸太からの柱角生産を中心としてきており、大径材を効率的に製材する体制となっていない工場が多い。一方、人工林が本格的な利用期を迎え大径材の出材量の増加が見込まれる中で、大径材の利用拡大に向けた取組が必要となっている(資料3-32)。
大径材では、横架材に利用される平角や、ツーバイフォー工法用の構造材、内装材等に利用される板材など、様々な木取りを行うことが可能である。
木取りが複雑になると生産効率が落ちることから、国内の製材機械メーカーでは、大径材に対応した機械の改良・開発が進められており、製材工場では自動で効率的な木取りができる大径材用の製造ラインも導入され始めている。
また、大径材では芯を外して平角や板材等を木取りすることは可能であるが、その場合、乾燥時に反りや曲がりが出やすいといった課題がある。そのため林野庁では、大径材に対応した製材や加工、乾燥の技術の開発・普及などを支援している。
(CLTの利用と普及に向けた動き)
非住宅・中高層建築物での木材利用拡大において、CLTが注目されている。CLTは主に壁や床等に使用され、コンクリート等と異なり養生期間が不要なため工期の短縮が期待できることや、建物重量が鉄筋コンクリート造等よりも軽くなり基礎工事の簡素化が可能なことなどが利点として挙げられる。
我が国におけるJAS認証を取得したCLT工場は、令和5(2023)年8月に兵庫県と鹿児島県において2工場が新たに認証されたことにより、計11工場で年間約10万m3の生産体制となっている。また、CLTを活用した建築物は、令和5(2023)年度末までに1,000件を超える見込みとなっており、共同住宅、ホテル、オフィスビル、校舎等、様々な建築物にCLTが使われているほか、大規模なイベント等における建築物への活用に取り組む例も出てきている(*68)(事例3-9)。
CLTの普及に向けて、平成26(2014)年に「CLTの普及に向けたロードマップ(*69)」を林野庁と国土交通省が共同で作成したほか、平成28(2016)年からは「CLT活用促進に関する関係省庁連絡会議」を開催し、政府を挙げてCLTの普及に取り組んでいる。
令和3(2021)年には同連絡会議において令和3(2021)年度から令和7(2025)年度までを期間とする「CLTの普及に向けた新ロードマップ~更なる利用拡大に向けて~」を策定した。令和4(2022)年にはCLTの更なる普及拡大を図るため、新ロードマップを改定しており、従来の取組に加え、標準的な木造化モデルの作成・普及、CLTパネル等の寸法等の標準化、防耐火基準の合理化などの取組を進めている。
そのほか、林野庁では、設計等のプロセスの合理化、低コスト化に資する技術の開発・普及、設計者・施工者向けの講習会の開催等への支援を行っている。
事例3-9 2025年大阪・関西万博日本館での木材利用
令和7(2025)年に開催される大阪・関西万博に出展される日本政府館は、「次のいのちへのリレー」というコンセプトを体現する円環状のパビリオンとなっている。
パビリオンの展示は、炭素中立型の経済社会や循環型社会の実現に向けて、来場者の体験を通じて認識や行動の変化を促すことを目指しており、建築についても展示の内容と一体となった体験ができるよう、内外壁に約1,600m3の国産スギ材CLTが使われる計画となっている。
日本政府館に使用されたCLTの一部については、CLT活用推進パートナー注である一般社団法人日本CLT協会が公募により選定した地方公共団体や企業へ万博終了後に提供し、再利用することとしている。
注:CLT活用推進パートナーは、大規模イベント等におけるCLT活用推進に当たり、関係省庁(内閣官房、林野庁、国土交通省及び環境省)が公募により選定した団体。
(*68)内閣官房ホームページ「CLTを活用した建築物の竣工件数の推移」
(*69)農林水産省プレスリリース「CLTの普及に向けたロードマップについて」(平成26(2014)年11月11日付け)
(木質耐火部材の開発)
建築基準法に基づき、木質耐火部材を用いることなどにより所要の性能を満たせば、木造でも大規模な建築物を建設することが可能である。耐火部材に求められる耐火性能は、建物の階数に応じて定められており、平成29(2017)年には、同法の規定により求められる耐火性能(*70)のうち最も⾧い3時間の性能を有する木質耐火部材の国土交通大臣認定が取得され、これにより耐火要件上は15階建て以上の高層建築物の建築が可能となっている。
木質耐火部材には、木材を石膏(こう)ボードで被覆したものや、モルタル等の燃え止まり層を備えたもの、鉄骨を木材で被覆したものなどがある。さらに、令和5(2023)年4月に施行された建築基準法施行令の改正において新たに基準が設定された1.5時間の耐火性能を有する木質耐火部材の開発が進められている。
(*70)通常の火災が終了するまでの間当該火災による建築物の倒壊及び延焼を防止するために当該建築物の部分に必要とされる性能。
(低コスト化等に向けた新たな工法等の開発・普及)
非住宅・中高層建築物の木造化に向けて、新たな工法・木質部材の開発や低コスト化に向けた技術開発が進んでいる。
例えば、低層非住宅建築物では、体育館、倉庫、店舗等において柱のない大空間が求められる場合があるが、大断面集成材を使わず、一般流通材でも大スパン(*71)を実現できる構法の開発等により、材料費や加工費を抑え、鉄骨造並のコストで建設できるようになってきているとともに、標準的な設計モデルによるコスト比較等の取組も進められている。
また、林野庁では、各地域での拡大が期待できる中層木造建築物について、国土交通省と連携し、4階建ての事務所及び共同住宅をモデルに、コスト・施工性等において高い競争性を有し広く展開できる構法と、製材を始めとする部材供給等の枠組みの整備・普及を推進している。
さらに、中高層建築物については、CLTや木質耐火部材の開発に加えて新たな接合方法の検討・性能検証の取組が進められている。
(*71)建築物の構造材(主として横架材)を支える支点間の距離。
(内装・家具等における需要拡大)
今後、リフォーム等の市場の拡大が期待されることから、内装材についても、消費者ニーズに合わせた技術・製品の開発や販売が行われている。例えば、製造時に接着剤や釘を使用せず、木ダボのみで接合した積層材が開発されており、木の素材感を活かした内装材や家具に利用されている。また、購入者自らが敷くことのできる住宅用の無垢材の床板など、DIY需要に対応した製品も販売されている。
また、広葉樹材の輸入が減少する一方、国内広葉樹資源が増加している中で、これまであまり使用されてこなかった国内広葉樹の活用に向けた製品開発の取組が行われている。例えば、北海道や岐阜県では、小径木の広葉樹を用いた家具の開発が行われている。さらに、福岡県や熊本県では、センダン等の早生樹の広葉樹の家具等への活用に向けた取組とともに、植林地の拡大による資源確保が進められている。
このように山側の資源と消費者ニーズに対応した技術・製品開発により、内装・家具分野における国産材の需要拡大が期待される。
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