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林野庁

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第1部 特集 第1節 森林の機能と治山事業の役割(1)

(1)国土を保全する森林の諸機能

(山地災害の多い我が国)

日本列島の近辺には、地球の表面を形成するプレートが複数ぶつかり合う境界が存在しており、造山活動が活発なため、我が国は、急峻(しゅん)な山地が多く、かつ火山灰地や、断層の発生に伴って岩石が破砕されてできる破砕帯など脆(ぜい)弱な場所が多いという地形・地質条件にある。また、世界有数の多雨地域であり、台風や梅雨などによる豪雨にも見舞われやすい(資料 特-1)。これらにより、我が国では世界的にも降水による侵食を受けやすく、山地災害や洪水被害が発生しやすい。同時に、湿潤な環境により森林は成立しやすく、国土の約3分の2が森林からなる世界有数の森林国となっている。

資料 特-1 世界の年平均降水量の分布

(森林の有する国土保全機能の概要)

森林は、その多面的機能として、大気中の二酸化炭素を吸収して地球温暖化防止に貢献する地球環境保全機能、木材等の林産物を産出・供給する木材等生産機能などとともに、国土保全機能を有している。主な国土保全機能には、山地災害防止機能・土壌保全機能と水源涵(かん)養機能がある。そのほか、防風や津波被害の軽減といった防災機能もある。

山地災害防止機能・土壌保全機能や水源涵(かん)養機能は、山崩れ等の山地災害や洪水を防止・軽減し、地形が険しく地質が脆(ぜい)弱で雨の量が多い我が国の国土保全上重要な役割を果たしている。

このような森林の機能が適切に発揮されるためには、森林土壌を健全に保つことが重要である。健全な森林土壌は落葉落枝等が分解されてできた有機物に富み、柔らかくて隙間が多く、スポンジのように水を吸収し、蓄える働きがある。この働きは、土壌の表面から水を吸収する速さを表す浸透能と、土壌の中に蓄えることのできる水の量を表す保水力の二つの観点から把握できる。例えば、土壌の種類や厚さ等の条件によるが、森林土壌の浸透能は草地の2倍、裸地の3倍にも及び(*1)、保水力も比較的高いとされている(*2)。

以下では、森林の有する国土保全機能の詳細について説明する。


(*1)村井宏・岩崎勇作「林地の水および土壌保全機能に関する研究(第1報)」(林業試験場研究報告(No.274)昭和50(1975)年8月号)

(*2)国立研究開発法人森林研究・整備機構ホームページ「森林と水の謎を解く」



(山地災害防止機能・土壌保全機能)

山地災害防止機能・土壌保全機能とは、森林が土砂の流出や崩壊を防ぐ機能であり、具体的には表面侵食防止機能と表層崩壊防止機能がある(資料 特-2)。

資料 特1-2 山地災害防止機能・土壌保全機能

樹冠、下草や落葉等は雨滴の衝撃を吸収し、土が雨滴に潰されて地表に水を通しにくい膜ができることを防止する。この働きにより、森林では土壌の浸透能が高い状態で維持され雨水のほとんどが地中に浸透するため、表面流の発生が抑えられ、表面侵食防止機能が発揮される。一方、下草や落葉等で覆われていない裸地の場合、雨滴の衝撃によって表面の土粒子が潰され、水を浸透させにくい膜が形成される。これにより、水が土壌中に浸透せず、傾斜に沿って流れる表面流が発生する。この結果、表面流によって地表面が削り取られる現象である表面侵食が進行する。

また、表土層の下にある基岩層は雨水を浸透させにくいため、大雨の時には表土層と基岩層の境界付近に水がたまって表土層が滑り、表層崩壊が発生するが、森林がある場合は、根が土砂や岩石を固定することで滑り落ちないようにつなぎとめる力と、隣接した樹木の根が絡み合って支え合う力が働く。これらの力により、表層崩壊防止機能が発揮される。

なお、山地で起こる崩壊現象の一つとして、表層崩壊よりも深い層の岩盤から崩れる深層崩壊がある。深層崩壊の場合は樹木の根による土砂や岩石をつなぎとめる力が及ばず、森林の機能によって崩壊を防ぐことはできないとされている。深層崩壊が発生した近年の事例として「平成23年紀伊半島大水害」がある(資料 特-3)。

資料 特1-3 表層崩壊と深層崩壊

(水源涵(かん)養機能)

森林は、降水を樹冠や下草等で受け止め、その一部を蒸発させた後、保水力の高い森林土壌に蓄える。森林土壌は隙間に蓄えた水を徐々に地中深くに浸透させて地下水を涵(かん)養するとともに、時間をかけて河川に流出させる。これにより、森林は洪水時のピーク流量を低減させる機能を発揮する(洪水緩和機能)(資料 特-4)。また、蓄えた水を徐々に流し出すことにより無降雨時においても安定的な河川流量を維持する機能(水量調整機能)や、浸透した水をろ過し、流出する水の濁りを浄化する機能(水質浄化機能)がある。これらの機能を総称して水源涵(かん)養機能という。

資料 特1-4 水源涵養機能(洪水緩和機能)

(その他の国土保全機能)

森林にはその他の国土保全機能として、防風や飛砂防止、なだれ防止、津波被害の軽減等の防災機能がある。防風林、なだれ防止林、海岸防災林等はこれらの機能により災害を防ごうとするものであり、防災林と呼ばれる。

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