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林野庁

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第1部 第2章 第3節 山村(中山間地域)の動向(2)

(2)山村の活性化

(山村の内発的な発展)

山村地域での生活を成り立たせていくためには、地域資源を活かした産業の育成等を通じた山村の内発的な発展が不可欠である。特に、木の文化については、我が国では、古くから生活のあらゆる場面で木を使い、各地域の気候や食文化等とも連動し、古民家等の木造建築物や木製食器等の多様な文化を生み出してきたところであり、これらを活用した観光コンテンツの育成も取り組まれている。

このため、森林資源を活用して、林業・木材産業を成長発展させるほか、特用林産物、広葉樹、ジビエ等の地域資源の発掘と付加価値向上等の取組を支援するとともに、インバウンドを含めた旅行者に農山漁村に滞在してもらう「農泊」を推進している(事例2-9)。国有林野事業においても、「日本美(にっぽんうつく)しの森 お薦め国有林(*74)」を選定し、外国人観光客も含めた利用者の増加を図るため、標識類等の多言語化、歩道等の施設整備等に取り組んでいる。

事例2-9 宮崎県上鹿川(かみししがわ)における広葉樹の活用事例

宮崎県延岡(のべおか)市北方町(きたかたまち)上鹿川(かみししがわ)で活動しているフォレスト・マントル上鹿川という団体は、上鹿川の森林環境保全や林道・登山道の整備を行っている。

その活動の一つとして、上鹿川の広葉樹を有効活用するため、国有林等のカエデ類の樹液からメープルシロップを作り、延岡市内の観光物産店等で販売している。メープルシロップの生産量は、気候や自然環境に左右されるため、樹液の安定的な確保や生産性等の課題はあるが、樹液の採取時期や期間等の工夫を行い、年々生産量は増加している。また、採取体験やメープルシロップを使ったお菓子等の商品開発にも取り組んでおり、今後も広葉樹の活用を中心に様々な取組が続くことが期待される。



(*74)「日本美しの森 お薦め国有林」については、第4章第2節(3)174ページを参照。



(山村地域のコミュニティの活性化)

山村地域の人口が減少する中、集落の維持・活性化を図るためには、地域住民や地域外関係者による協働活動を通じたコミュニティの活性化が必要である。また、地域資源の活用により山村地域やその住民と継続的かつ多様な形で関わる「関係人口」の拡大につながることが期待されている。

このため、林野庁では、山村の生活の身近にある里山林の継続的な保全管理、利用等の協働活動の取組を支援している(事例2-10)。

事例2-10 森林整備から始まる関係人口・定住人口の拡大

栃木県那珂川町(なかがわまち)を活動拠点とする特定非営利活動法人馬頭(ばとう)農村塾は、青少年の健全育成と都市と山村の交流等を目的として、里山林の再生に取り組んでおり、除間伐や広葉樹の植栽・保育、作業道の整備等を実施している。

当初は地域住民のみの活動であったが、整備後の山林と作業道を利用して、幼児から大学生まで幅広く環境学習の受入れを始めたことで、これに関心を持った大学生が会員となり、その後の森林整備に継続的に参加し地域との関係を深め、さらには地域の森林組合に就職したりするなど、関係人口から定住人口への移行に成功している。

また、令和3(2021)年より全国で自然環境の保全・再生や環境教育活動を行う一般社団法人SEEDS OF LIFE instituteと協働し、都市住民に対しても自然教育等の啓蒙活動を実施している。森林整備作業や「苗木のホームステイ(注)」等を通じて交流しており、今後も更なる関係人口の拡大が期待されている。

注:那珂川町で採取した種子や苗木をボランティアの自宅に持ち帰り育成し、大きく育った段階で那珂川町に植樹する取組。ボランティアの苗木への愛着が森林や那珂川町への関心につながることが期待される。



さらに、地域の新たな支え手を確保できるよう、特定地域づくり事業協同組合(*75)等の枠組みの活用を推進するとともに、林業高校や林業大学校等への進学、「緑の雇用」事業によるトライアル雇用等を契機とした移住・定住の促進を図っている。

このほか、人口の減少、高齢化の進行等により農用地の荒廃が進む農山漁村における農用地の保全等を図るため、令和4(2022)年10月に改正法が施行された「農山漁村の活性化のための定住等及び地域間交流の促進に関する法律」により、「農用地の保全等に関する事業」の中で放牧等の粗放的利用や鳥獣緩衝帯の整備、林地化に取り組むことができるようになった。林地化に当たっては農地転用手続の迅速化が措置されており、山際などの条件が悪く、維持することが困難な荒廃農地を森林として管理・活用を図る取組にも活用されると期待される。


(*75)地域人口の急減に直面している地域において、農林水産業、商工業等の地域産業の担い手を確保するための特定地域づくり事業を行う事業協同組合。特定地域づくり事業とは、マルチワーカー(季節ごとの労働需要等に応じて複数の事業者の事業に従事する者)に係る労働者派遣事業等をいう。



(多様な森林空間利用に向けた「森林サービス産業」の創出)

森林サービス産業 ポータルサイト 人と森と。フォレストスタイル

森林空間の利用については、心身の健康づくりのための散策やウォーキングのほか、スポーツ、文化、教育等の分野での活用にも一定のニーズがある(資料2-32)。近年、人々のライフスタイルや社会情勢が変化する中で、森林環境教育やレクリエーションの場に加え、メンタルヘルス対策や健康づくりの場、社員教育の場等として森林空間を利用しようとする新たな動きもある(*76)。さらに、新型コロナウイルス感染症の影響により、自然豊かなリゾート地等で余暇を楽しみつつ仕事を行うワーケーションにも注目が集まっている。人生100年時代を迎える中、様々なライフスタイルやライフステージにおいて森林空間を活用する取組によって、「働き方改革」の実現、健康寿命の延伸、アクティブ・ラーニング(*77)やウィズコロナの生活様式の実践等が図られ、社会課題の解決につながることが期待される。


このような中、健康、観光、教育等の多様な分野で森林空間を活用することで、山村地域においては、体験プログラムを提供するガイド等の収⼊機会の確保や、都市から山村地域に訪れる人が増えたり、体験プログラム等により旅行者の滞在期間が延びることで、飲⾷店や小売店等の地域の関係者の収入増加が期待されるとともに、山村の活性化に向けた関係人口の創出・拡大につながる。

林野庁では、森林空間が生み出す恵みを活用して、老若男女の多様な生活者を意識したサービスを地域内で複合的に提供する産業を「森林サービス産業」と称して、その推進に取り組んでいる。令和4(2022)年度は、森林空間を活用することによる心身の状態の変化を測定するモニターツアー等の取組を3地域で、研修会の開催を2地域で実施した(*78)(事例2-11)。これまでの取組地域の中には国有林の「レクリエーションの森」を観光資源として活用する取組もみられる(*79)。さらに、森林サービス産業の創出・推進に関心のある地方公共団体や民間事業者、研究者等の様々なセクターで組織する「Forest Style ネットワーク」では、シンポジウムの開催などを通じて、森林空間利用に関する様々な情報共有等を行っている。

また、農林水産省では、「農泊」の推進の一環として、森林空間を観光資源として活用するための体験プログラムの開発、ワーケーションやインバウンド受入環境の整備及び古民家等を活用した滞在施設の整備等を支援している。

事例2-11 多様な地域主体と取り組む滞在型ツアーと健康効果

図表 ツアー後の心理的回復効果

長野県木曽町(きそまち)の開田(かいだ)高原を拠点として活動する一般社団法人木曽おんたけ健康ラボは、開田高原の貴重な自然環境や地域資源を活かし、「運動により心身ともに健康になる」ことを目的として、木曽馬と歩く健康ウォークやマウンテンバイク体験、スノーシュー体験、ヨガ教室など日帰りで楽しめるプログラムを提供している。

また、木曽おんたけ健康ラボでは更なる集客と地域活性化を目指して、周辺の宿泊施設や食事処、町営の温浴施設など、地域全体の多様な主体と連携することで滞在型ツアーの開発にも取り組んでいる。

令和4(2022)年に実施されたモデルツアーでは心身の健康効果を実証するためのエビデンスの取得にも取り組み、ツアー後の心理的回復効果が確認された(図表)。

木曽おんたけ健康ラボはこの成果を活かして健康経営に取り組む企業等へ滞在型ツアーの利用を呼び掛けており、更なる地域全体の活性化につながることを期待している。



(*76)森林空間を利用したアウトドアスポーツやメンタルヘルス、社員教育等の事例については、「令和元年度森林及び林業の動向」特集第2節(3)25-29ページを参照。

(*77)主体的・対話的で深い学びのこと。

(*78)令和4(2022)年度に実施したモデル事業の成果については、林野庁ホームページ「「森林サービス産業」創出・推進に向けた活動支援事業の成果等(令和4年度実施分)」を参照。

(*79)国有林の観光資源としての活用等に向けた取組については、第4章第2節(3)174ページを参照。



お問合せ先

林政部企画課

担当者:年次報告班
代表:03-3502-8111(内線6061)
ダイヤルイン:03-6744-2219

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