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林野庁

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第1部 第1章 第3節 森林保全の動向(4)

(4)森林被害対策の推進

(野生鳥獣による被害の状況)

近年、野生鳥獣による森林被害面積は減少傾向にはあるものの、森林被害は依然として深刻な状況にある。令和3(2021)年度の野生鳥獣による森林被害面積は、全国で約4,900haとなっており、このうち、シカによる被害が約7割を占めている(資料1-25)。


シカによる被害の内訳としては、食害による造林木の成長阻害や枯死、木材価値の低下のほか、下層植生の消失等による土壌流出などがある。

環境省によると、北海道を除くシカの個体数(*58)の推定値(中央値)は、令和3(2021)年度末時点で約222万頭(*59)であり、平成26(2014)年度をピークに減少傾向が継続していると考えられている(*60)。また、シカの分布域は、昭和53(1978)年度から平成30(2018)年度までの間に約2.7倍に拡大し、最近では東北地方や北陸地方、中国地方において分布域が拡大している(*61)。

その他の野生鳥獣被害としてはノネズミやクマによる被害などがある。特に北海道のエゾヤチネズミは、数年おきに大発生し、造林地等に大きな被害を引き起こしている。また、クマは、立木の樹皮を剝ぐことによる枯損(こそん)や木材価値の低下を引き起こしている。


(*58)北海道については、北海道庁が独自に個体数を推定しており、令和3(2021)年度末において東部地域31万頭、北部地域18万頭、中部地域20万頭、南部地域3~20万頭と推定。

(*59)推定値は、約192~265万頭(90%信用区間)。信用区間とは、その確率で真の値が含まれる範囲を指す。

(*60)環境省プレスリリース「全国のニホンジカ及びイノシシの個体数推定等の結果について」(令和5(2023)年4月4日付け)

(*61)環境省プレスリリース「全国のニホンジカ及びイノシシの個体数推定及び生息分布調査の結果について(令和2年度)」(令和3(2021)年3月2日付け)



(野生鳥獣被害対策を実施)

造林地等における野生鳥獣対策としては、シカ等の野生鳥獣の侵入を防ぐ防護柵や、立木を剝皮被害から守る防護テープ、苗木を食害から守る食害防止チューブ(*62)の設置等が行われている。また、各地域の地方公共団体、鳥獣被害対策協議会等によりシカ等の計画的な捕獲、捕獲技術者の養成等が行われている。

環境省と農林水産省は、令和5(2023)年度までにシカ及びイノシシの個体数を平成23(2011)年度比で半減させる捕獲目標を設定している。令和3(2021)年度の捕獲頭数は、シカ約72.5万頭(前年度比7.4%増)、イノシシ約52.9万頭(前年度比22.1%減)(*63)であった。半減目標達成に向けては引き続き捕獲強化が必要であり、令和4(2022)年度の狩猟期間にも3年目となる「集中捕獲キャンペーン」を実施した。また、環境省と連携し、野生動物管理に係る専門人材の教育プログラムの作成等に取り組み、令和4(2022)年10月から12月にかけて6大学で教育プログラムを試行的に実施した。

林野庁では、森林整備事業により、森林所有者等による造林等の施業と一体となった防護柵等の被害防止施設の整備や、囲いわな等による鳥獣の誘引捕獲等に対する支援を行うとともに、シカ等による森林被害緊急対策事業等により、林業関係者が主体的に行う捕獲や捕獲技術の実証等への支援を行っている。

国有林野においても、森林管理署等が実施するシカの生息・分布調査等の結果を地域の協議会に提供し、知見の共有を図るとともに、効果的な被害対策の実施等に取り組んでいる(*64)(事例1-4)。

事例1-4 林家によるシカ被害対策の取組

栃木県佐野(さの)市の林家の遠藤氏は、所有山林750haに受託を含めて800haの山林を経営している。近年、シカ被害を受け、様々な対策を実践してきた。その一つが、令和2(2020)年から取り入れた小林式誘引捕獲である。小林式誘引捕獲とは、林野庁の職員が考案した餌とわなを組み合わせた捕獲方法であり、くくりわなの初心者でもシカを効率よく捕獲できる。

遠藤氏は、元々狩猟をしており自身の経験に小林式誘引捕獲のノウハウを加えるとともに、センサーカメラで事前調査を行い、周辺にシカの群れがいることを確認してからくくりわなを設置するという工夫をしている。20基のわなで、令和3(2021)年は70頭以上、令和4(2022)年は133頭と高効率で捕獲している。精力的にシカ捕獲を続けた結果、忌避剤のみで新植地の食害がほぼ無くなるなど被害対策に効果が表れている。

効率よくシカを捕獲できる小林式誘引捕獲は、今後、各地域での普及が期待される。


(*62)植栽木をポリエチレン製等のチューブで囲い込むことにより食害を防止する方法。

(*63)環境省速報値。シカの捕獲頭数は、北海道のエゾシカを含む数値。

(*64)国有林野における取組については、第4章第2節(1)167-168ページを参照。



(「松くい虫」による被害)

「松くい虫(*65)被害」は、マツノザイセンチュウという体長約1mmの外来の線虫が、在来のマツノマダラカミキリ等に運ばれてマツ類の樹体内に侵入し枯死させるマツ材線虫病である。松くい虫被害は、全国的に広がっており、北海道を除く46都府県で被害が確認されている。

令和3(2021)年度の松くい虫被害量(材積)は約26万m3で、昭和54(1979)年度のピーク時の9分の1程度に減少しているが、依然として我が国最大の森林病害虫被害であり、継続的な対策が必要となっている(資料1-26)。


林野庁は、令和7(2025)年度までに、保全すべき松林(*66)の被害率が1%未満に抑えられている都府県の割合を100%とする目標を設定しており、令和3(2021)年度は85%となっている。また、保全すべき松林の被害先端地域(*67)の被害率が全国の被害率を下回ることも目標としているが、令和3(2021)年度における全国の被害率0.21%に対し、被害先端地域は0.23%となっている。

これらの目標達成に向け、都府県と連携しながら、保全すべき松林を対象として、薬剤散布、樹幹注入等の予防と被害木の伐倒くん蒸等の駆除を実施している。令和4(2022)年度は、更なる効率化のため、ドローンを活用した被害木の探査や薬剤散布の実証等を実施した。また、保全すべき松林の周辺では広葉樹等への樹種転換を推進している。

さらに、国立研究開発法人森林研究・整備機構は、マツノザイセンチュウに対して抵抗性を有する品種の開発を行い、令和3(2021)年度までに565品種を開発した(*68)。令和3(2021)年度には、これらを用いた抵抗性マツの苗木が約124万本生産され、マツ苗木の9割を占めるようになっている(*69)。


(*65)松くい虫は、「森林病害虫等防除法」により、「森林病害虫等」に指定されている。

(*66)保安林等公益性の高い森林を対象に都道府県知事等が高度公益機能森林又は地区保全森林として定めた松林。

(*67)高緯度、高標高等被害拡大の先端地域となっている区域。

(*68)林野庁研究指導課調べ。

(*69)林野庁整備課調べ。



(ナラ枯れ被害の状況)

「ナラ枯れ」は、ナラ菌が体長5mm程度の甲虫であるカシノナガキクイムシ(*70)によってナラ類やシイ・カシ類の樹体内に持ち込まれ樹木を枯死させるブナ科樹木萎凋病である。

令和3(2021)年度のナラ枯れの被害は42都府県で確認されている。被害量(材積)は約15万m3で、令和2(2020)年度の約8割に減少したものの、16都府県で被害量が増加するなど、依然として大きな被害が発生している(資料1-27)。


このため、林野庁では、特に守るべき樹木及びその周辺において、健全木への粘着剤の塗布やビニールシート被覆等による侵入予防と被害木のくん蒸による駆除等を実施している。また、ナラ枯れ被害は高齢化した森林の大径木に多くみられることから、伐採・更新を行い、若返りによる被害を受けにくい健全な森づくりを推進している。

なお、ナラ枯れ被害との関連性については十分に解明されていないものの、ナラ枯れの枯死木付近でカエンタケが確認されている。カエンタケは強い毒性のあるきのこで、触れるだけでも皮膚に炎症を起こすといわれており、少量の摂取でも死亡事例があることからむやみに触らないなどの注意が必要である。


(*70)カシノナガキクイムシを含むせん孔虫類は、「森林病害虫等防除法」により、「森林病害虫等」に指定されている。



(外来カミキリムシの確認)

国際自然保護連合(IUCN)が世界の侵略的外来種ワースト100に挙げているツヤハダゴマダラカミキリが、令和2(2020)年に兵庫県で発見されたのを皮切りに、本州各地で生息が確認されている。本種は、海外において幅広い樹種の樹木に甚大な被害を及ぼしており、その中の多くの樹種は日本国内の森林にも自生し被害を受ける可能性があることから、林野庁では、関係省庁や地方公共団体と連携して注意喚起や情報発信を行うなど監視強化に努めている。


(林野火災の状況)

令和3(2021)年における林野火災の発生件数は1,227件、焼損面積は約789haであった(資料1-28)。

林野火災は、冬から春までに集中して発生しており、原因のほとんどは不注意な火の取扱い等の人為的なものである。このため、林野庁では、入山者が増加する春を中心に、消防庁と連携して「全国山火事予防運動」を行っている。


(森林保険制度)

森林についての火災、気象災及び噴火災による損害を塡補する森林保険(*71)は、国立研究開発法人森林研究・整備機構が実施しており、契約面積は、令和3(2021)年度末時点で約57.1万haと減少傾向が続いている。本制度の普及のため、ウェブサイト等を活用した情報発信の強化に取り組んでいる。なお、令和3(2021)年度の保険金支払総額は約4億円であった。


(*71)「森林保険法」に基づく公的保険。


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