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林野庁

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第1部 第1章 第1節 森林の適正な整備・保全の推進(3)

(3)研究・技術開発及び普及の推進

(研究・技術開発のための戦略及び取組)

林野庁では、森林・林業・木材産業分野の課題解決に向けて、研究・技術開発における対応方向及び研究・技術開発を推進するために一体的に取り組む事項を明確にすることを目的として、「森林・林業・木材産業分野の研究・技術開発戦略」をおおむね5年ごとに策定している。令和4(2022)年3月に策定された同戦略では、気候変動が国内外の森林・林業に及ぼす影響の予測、我が国の森林吸収量算定手法の改善に資するモニタリング技術の高度化、森林における放射性セシウムの動態解明と予測技術の高度化、高度なセンシング技術等の応用による造林・育林作業の低コスト化・省力化、CLT(*7)(直交集成板)の更なる利活用技術や生産効率の高い超厚合板(ちょうあつごうはん)(*8)等の新たな木質材料の開発、花粉発生源対策や気候変動適応等に対応した優良品種の開発、改質リグニンやCNF(*9)(セルロースナノファイバー)等の用途開発や製造技術の高度化等の研究・技術開発を推進することとしている。

コラム 国⽴研究開発法⼈森林研究・整備機構の研究成果

ForestGEN スギ参照ゲノム配列(SUGI ver.1)について
(1)スギ全染色体のゲノム配列解読に成功

スギのゲノムは、サイズがイネの20倍以上と大きく、かつその配列が複雑であることから、遺伝子の特定が難しく、解読に時間がかかっていた。国立研究開発法人森林研究・整備機構を代表とする研究グループは、令和5(2023)年2月、スギが持つ11本の全染色体それぞれのゲノム配列を解読し、高精度な参照ゲノム配列(注)を公開した。

この参照ゲノム配列は遺伝子の位置関係等を正確に把握できていることから、比較対象品種が雄性不稔(花粉を生産できないという性質)に関係する遺伝子を持っているか否かを迅速に識別できるようになるなど、品種開発の加速化が期待できる。将来的には、ゲノム配列を分析することで、気候変動へのスギの応答などを予測できるようになることも期待される。

注:種の代表として基準にすることができるゲノム配列で、近縁の種間や種内の品種間のゲノム配列を比較するなどの高度な解析を行うことに役立つ。

(2)国産トリュフの人工的な発生に成功

国⽴研究開発法⼈森林研究・整備機構では、平成27(2015)年度から国産トリュフの栽培化を⽬指した研究に取り組んできた。国産のトリュフであるホンセイヨウショウロの菌を⼈⼯的に共⽣させたコナラ苗⽊を国内の試験地に植栽することで、令和4(2022)年11月にホンセイヨウショウロの発⽣を確認した。ホンセイヨウショウロは、ヨーロッパ産の⽩トリュフと同様に独特の⾵味を有しており、⾼級⾷材として今後⼤きな市場を生むことが期待される。安定した人工栽培に向け研究を進めることとしており、産業化までには10年程度が必要と見込まれている。



(*7)「Cross Laminated Timber」の略。一定の寸法に加工されたひき板(ラミナ)を繊維方向が直交するように積層接着したもの。

(*8)従来の厚物合板(厚さ30mm程度)を超える厚さを持ち、大規模建築物への利用を想定した合板のこと。

(*9)CNFについては、第3章第2節(3)134-135ページを参照。



(「林業イノベーション現場実装推進プログラム」のアップデート)

林業イノベーションハブセンター(森ハブ)

林野庁は、令和元(2019)年12月に策定した「林業イノベーション現場実装推進プログラム」について、これまでの取組成果や令和3(2021)年度に設置した林業イノベーションハブセンター(*10)(通称:森ハブ)における検討、「デジタル田園都市国家構想基本方針」(令和4(2022)年6月閣議決定)等も踏まえ、令和4(2022)年7月にアップデート版を公表した。林業分野のイノベーションに通信技術活用の将来像を追加したほか、林業の課題を8分類35課題に整理し、これらに対応する技術をリスト化するとともに、開発・実証・実用化・普及の4フェーズに分け、令和7(2025)年までのタイムライン等を整理している。さらに、同プログラムに掲げた技術の開発や普及を着実に進めるための支援プラットフォームとして、改めて森ハブを位置付けるとともに、新技術の現場実装に向け、森ハブからのコーディネーター派遣等による地域コンソーシアムの組成等の支援も新たに記載している。


(*10)異分野の技術探索や産学官の様々な知見者によるアドバイザリーコミッティにおいて先進技術方策の検討等を行うプラットフォーム。



(「グリーン成長戦略」や「みどりの食料システム戦略」によるイノベーションの推進)

政府は、「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」(令和2(2020)年12月策定)において、脱炭素化で成長が期待される産業(14分野)ごとに高い目標を掲げて脱炭素社会の実現を目指す実行計画を示している。食料・農林水産業分野はその一つに位置付けられており、スマート農林水産業等の実装の加速化による化石燃料起源の二酸化炭素のゼロエミッション化、森林及び木材・農地・海洋における炭素の長期・大量貯蔵の技術確立等に取り組んでいく必要があるとされている。

林野庁では、同戦略に基づいて造成されたグリーンイノベーション基金を活用し、高層建築物等の木造化をより一層進めるため、縦・横の両方向に同等の強度を有し設計の自由度を高めることに資する新たな大断面部材の開発等を推進している。また、農林水産省が策定した「みどりの食料システム戦略」(令和3(2021)年5月策定)に基づき、第二世代精英樹(*11)(エリートツリー)等の開発・普及、自動化林業機械の開発、情報通信技術(ICT)等を活用した森林資源管理や生産管理、高層建築物等の木造化、改質リグニン等を活用した材料開発等を進めることとしている。


(*11)国立研究開発法人森林研究・整備機構が成長や材質等の形質が良い精英樹同士の人工交配等を行って得られた個体の中から成長等がより優れたものを選抜して得られた精英樹のこと。



(林業普及指導事業の実施等)

各都道府県に設置された林業普及指導員は、関係機関等との連携の下、地域全体の森林の整備・保全や林業・木材産業の成長産業化を目指した総合的な視点に立ち、森林所有者や林業従事者、これらの後継者、市町村の担当者等に直接接して、森林・林業に関する技術及び知識の普及や、森林の施業等に関する指導等を行っている(事例1-1)。林業普及指導員には、林業普及指導員資格試験の合格者等資格を有する者が任命されており、令和4(2022)年4月現在、全国で活動する林業普及指導員は、1,237名となっている。

さらに、林野庁では、森林・林業に関する専門知識・技術について一定の資質を有する「森林総合監理士(フォレスター)」の育成を進めている。森林総合監理士は、長期的・広域的な視点に立って地域の森林づくりの全体像を示すとともに、市町村森林整備計画の策定等の市町村行政を技術的に支援し、また、施業集約化を担う「森林施業プランナー」等に対し指導・助言を行う人材であり、森林総合監理士を目指す若手技術者の育成を図るための研修や、森林総合監理士の技術水準の向上を図るための継続教育等を行っている。なお、令和5(2023)年3月末現在で、都道府県職員や国有林野事業の職員を中心とした1,578名が森林総合監理士として登録されている。

事例1-1 林業普及指導員の取組事例

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(1)大阪府の取組

平成30(2018)年9月に台風第21号により大阪府高槻(たかつき)市では壊滅的な風倒木災害が発生し、同年12月に局地激甚災害の指定を受け、風倒木処理及び跡地造林を実施することになった。市や森林組合が未曾有の大規模森林災害の復旧事業に取り組むこととなったため、大阪府の林業普及指導員が中心となり、被害状況の把握に際してのドローンの活用支援や、関係者間の連携、検討会の開催等を重ねた。災害復旧事業では、高性能林業機械の本格的な活用による風倒木処理を行ったほか、地域の協働により森林所有者の要望を踏まえた森林再生に取り組んだ。




(2)長野県の取組

長野県では、森林組合が森林所有者に説得力ある施業提案を行えるよう、林業普及指導員がドローンにより撮影された画像の施業提案への活用方策を提案するなど、森林組合に対するスマート林業に関する技術的な指導に取り組んだ。今後もICT技術の活用方策の提案や技術的指導に取り組む予定である。

お問合せ先

林政部企画課

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