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特集2 グリーン成長のカギを握る木材需要拡大と木材産業の競争力強化

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1.木材需要拡大と木材産業の競争力強化によるグリーン成長の実現

【木材利用の公益的意義】

➢ 我が国の人工林は、50年生を超える人工林面積が過半となり利用期。この人工林について「伐って、使って、植えて、育てる」ことにより、木材利用を拡大しつつ、成長が旺盛な若い森林を造成していくことで森林吸収量を確保

➢ 森林から搬出された木材を建築物等に利用することにより、森林が吸収した炭素を長期的に貯蔵することが可能

➢ 木材は製造・加工時のエネルギー消費が他資材よりも比較的少なく、木質バイオマスの利用により化石燃料を代替するなど、二酸化炭素の排出削減にも貢献

➢ このように二酸化炭素の吸収・排出削減、ひいてはカーボンニュートラルの実現に貢献する木材利用の公益的な意義は、「都市(まち)の木造化推進法」に法定されるとともに、地球温暖化対策計画にも反映


【グリーン成長の実現に向けて】

➢ 2021年6月に閣議決定された新たな森林・林業基本計画では、再造林等により森林の適正な管理を図りながら、引き続き林業・木材産業の成長産業化に取り組むことにより、「グリーン成長」の実現を志向

➢ この実現に向けては、「新しい林業」等の取組により造林及び素材生産コストを下げる取組に加え、木材、特に製材用材の安定的な需要をいかに確保し拡大していくかもポイント

➢ 木材産業は、マーケットニーズに応じて山元から原木を購入し、木材を加工・販売して需要先につなぐ存在であり、森林・林業の持続性の確保と木材の適切な利用の推進の両面から重要な存在であり、その競争力強化は、「グリーン成長」実現のカギ


2.建築分野における木材利用の動向

(1)住宅における木材利用の動向

➢ 低層住宅の木造率は8割。住宅は、我が国の木材、特に国産材の仕向先として重要な市場

➢ 2000年代以降の建築関係法令等の制定・改正により、瑕疵(かし)担保責任の明確化や住宅の性能表示等が進み、住宅の品質・性能に対するニーズの高まり

➢ 大工技能者が減少する中、工期短縮・コスト削減の要求等から、プレカット材が普及

➢ このような変化を背景に、住宅に用いられる木材製品について、寸法安定性や強度等の品質・性能が確かな製品が求められており、人工乾燥材の割合が向上

➢ さらに、大手住宅メーカーでは、寸法安定性の高い集成材の利用が進み、柱材ではスギ集成柱の利用も増加。一方、横架材では、強度に関するニーズから輸入材の集成材が高い競争力を持つ状況

➢ 一部の工務店は、国産材を積極的に利用。その中では無垢材が多く、横架材においてもスギ等を使用



(2)非住宅・中高層建築物における木材利用の動向

➢ 2021年に着工された非住宅・中高層建築物の木造率は未だ6%

➢ 2010年の公共建築物等木材利用促進法の施行以降、各年度で着工された公共建築物の木造率は上昇(2010年度8.3%→2020年度13.9%)

➢ 民間建築物についても、人口減少予測を踏まえた住宅市場の見込みや、持続可能な資源としての木材への注目の高まりなどを背景に、建設・設計業者や建築物の施主となる企業が、非住宅分野・中高層分野で木造化・木質化を志向

➢ 特に低層非住宅建築物で床面積の小さいものについては木造率が比較的高く(500m2未満の木造率は約4割)、店舗や事務所等の様々な建築物が木造で建築

➢ 中高層建築物については、CLTや木質耐火部材等に係る技術開発の進展、建築基準の合理化など、技術的・制度的に利用環境の整備が一定程度進み、木材を使用した12階建て商業施設や11階建ての研修施設等の先導的な建築が進展

➢ こうした状況の中、更に木材利用を進めるため、2021年に公共建築物等木材利用促進法が改正。ウッド・チェンジ協議会など、都市の木造化・木質化に向けた官民挙げた取組も進展


3.木材産業の競争力強化

(1)木材製品製造業における動向

➢ 建築向けの木材製品について、製材、集成材、合板の製品別に国産材・輸入材の供給量を見ると、製材が最も国産材の利用が多く、3製品全体の自給率は50%程度

➢ マーケットニーズに対応した製品を安定的に供給することが重要



【国際競争力の強化】

➢ 大手住宅メーカー等のニーズは、品質・性能の確かな木材製品(一般流通材)を大ロットで安定的に調達すること

➢ 輸入材、他資材との競争がある中、大手住宅メーカーへの木材供給を行う工場は、規模拡大による収益の確保を進める必要。各地に国産材を利用する大規模工場を展開

➢ 製材工場では、年間の原木消費量が1万m3以上の工場数と原木消費量が増加するなど、大規模化が進展

➢ 大規模工場は、規模拡大等による低コスト化に加え、製材と集成材の複合的な生産や木質バイオマス発電などの複合経営を行うことなどにより、コスト競争力を確保

合板工場の規模別工場数と原木消費量

➢ 合板工場においても、年間の原木消費量が10万m3以上の工場数と原木消費量が増加するなど、大規模化が進展

➢ 構造用合板を中心に、国産材利用率が向上。輸入材製品のシェアが高いフロア台板用合板、コンクリート型枠用合板においても国産材利用の取組が進展

➢ 単板製造時に発生する端材の高度利用に向け、パーティクルボードやMDF(中密度繊維板)等の生産も実施

コラム:規模拡大と差別化が進むオーストリアの製材工場の状況を分析

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事例 大規模工場の戦略


➢ 中国木材株式会社は、宮崎県日向(ひゅうが)市に年間約70万m3の原木を消費する製材工場を保有

➢ 小径から大径まで幅広い径の原木も受入れ、加工歩留りの向上を図りつつ、人工乾燥材、集成材等に加工

➢ さらに木材製品が取れなかった原木や端材を、パルプ原料として販売したり、木質バイオマス燃料として利用するなど、原木のフル活用による付加価値最大化にも取組


【地場競争力の強化】

➢ 地域の製材工場等では、地域の工務店等の関係者の様々な個々のニーズにも対応した優良材を提供

➢ 森林所有者から住宅生産者までの関係者が一体となって家づくりを行う「顔の見える木材での家づくり」の取組は、2020年度には540団体、供給戸数は19,898戸

➢ 住宅以外の木材需要にも対応。国産材の家具建具用材向けの製材品出荷量は、2015年の3.0万m3から2020年には4.9万m3まで拡大(原木消費量換算では8.9万m3まで拡大)

コラム:国産広葉樹の需要拡大の可能性を分析

【木材輸出の取組】

➢ 木材輸出額は増加傾向であり、2021年は前年比33%増の475億円

➢ 輸出先は中国向けが約5割と最も多く、その8割が丸太で輸出され、梱包材、土木用等に利用。また、米国向けは、フェンス材として使用されるスギ製材の輸出が増加

➢ 「農林水産物・食品の輸出拡大実行戦略」において、製材及び合板を重点品目とし、中国、米国、韓国、台湾等をターゲットに、建築部材、高耐久木材の海外販路の拡大やマーケティング等に取り組む方針

➢ 2021年度は、インターネットを活用し、商談会や日本産木材製品・木造技術に関する講習会を実施


(2)木材流通業の動向

【安定供給体制の構築】

➢ 安定供給体制の構築に向け、製材工場等は森林組合連合会等との間で協定を結ぶことで、供給量及び取引価格を安定させる動きが進展

➢ 大規模工場等との協定取引の進展等により素材生産者から製材・合板工場等への原木の直送量も増加

➢ 川中では、原木市売市場や製材工場等が原木を安定的に確保するため林業へ参入するなど、林産複合型経営が拡大する動き


【プレカット工場の役割の拡大】

➢ 製材工場からの木材製品の出荷先としては、約半数は木材市売市場や木材販売業者等に販売。一方で、プレカット工場や集成材工場への出荷割合が増加傾向

➢ 木造軸組構法におけるプレカット率は年々上昇し、2020年には93%。プレカット工場が設計の一部や木材の調達・品質管理を担う場面も多く、木材製品の流通においてプレカット工場の役割が拡大

➢ 木材市売市場、プレカット工場とも規模拡大・集約化が進展

4.課題と対応

(1)山の資源のフル活用

➢ 森林資源の循環利用を進めていくには、材の品質や特性に合わせた利用がなされるよう需要先を開拓し、原木をフル活用することができる環境整備が重要

➢ 丸太価格は、製材用、合板用、チップ用の順に低下するため、どれだけ製材で利用できるかは、再造林をするための費用を得るためにも重要

➢ 製材工場では、原木の利用率を上げるため、小径から大径まで幅広い径の原木を受け入れ、製材品と併せて集成材ラミナを生産し、低質材や端材等を製品乾燥やバイオマス発電の燃料用に利用する取組もみられるようになっており、こうした取組の横展開が課題


(2)国産材製品の活用

【住宅分野における需要拡大】

➢ 木造軸組住宅において国産材利用割合は徐々に上昇。ツーバイフォー工法においても、九州地方や東北地方を中心に国産材のツーバイフォー工法部材の安定供給体制が整備されつつあり、大手住宅メーカーにおいて国産材の利用が進展

➢ 2021年に、特に輸入材比率の高い横架材等の需給がひっ迫。こうした状況に対応し、一部で国産代替の動き。今後、こうした事例の横展開が必要


【非住宅分野・中高層分野における需要拡大】

➢ 非住宅分野・中高層分野の木造化・木質化に必要な知見を有する設計者が不足しており、林野庁と国土交通省が連携して講習会開催等により設計者の育成を支援

➢ 設計・施工コスト低減に向け、普及性の高い標準的な設計や工法等の横展開が必要

➢ 品質・性能の確かなJAS製品の供給体制の構築が重要であり、林野庁は、利用実態に即したJAS規格の区分や基準の合理化等を図るとともに、JAS構造材の実証支援を実施


【大径材の利用に向けた取組】

➢ 直径が30cmを超える大径材の出材量の増加が見込まれる一方、大径材を効率的に製材する体制となっていない工場が多く、利用拡大に向けた取組が必要

➢ 林野庁は、製材工場に対し、効率的な木取りが自動でできる大径材用の製造ラインの導入を支援


(3)木材産業における労働環境の改善等

➢ 国産材の供給力強化に向けて、林業に加え、木材産業においても労働力不足への対応が必要

➢ 林野庁は、自動製材機等の省人化・省力化機械の導入を支援するとともに、労働安全対策を推進。業界団体は、外国人技能実習2号への木材加工職種追加に向けた取組を実施


(4)更なる国産材活用に向けた技術開発

➢ 横架材など国産材率の低い分野での利用拡大のため、大径木からの平角生産に必要な乾燥技術の確立に向け、国立研究開発法人森林研究・整備機構で技術開発を実施

➢ 非住宅・中高層建築物の木材利用拡大に向け、CLTや耐火部材等の技術開発・普及が重要。CLTは、2021年4月には、計9工場で年間8万m3の生産体制

➢ 内装・家具・リフォーム分野における需要拡大に向け、圧密加工により表面硬度を高めた床板等の製品を開発



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