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林野庁

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第1部 特集2 第4節 課題と対応(2)

(2)国産材製品の活用

(住宅分野における需要拡大)

我が国では、低層住宅分野が木材需要の相当部分を占めており、工法別では木造軸組構法が最も普及しているが、木造軸組住宅における国産材の使用割合については、大手住宅メーカーと工務店で傾向に違いがあるものの、全体として5割程度にとどまっている。

一般社団法人日本木造住宅産業協会によるアンケート調査によれば、住宅メーカー等が木造軸組住宅において国産材を利用しない主な理由としては、「外国産材に比べて価格が高い」、「必要な時に必要な量が確保できない」などが挙げられている(資料 特2-30)。そのため、これまで製材工場等の大規模化・集約化や流通の効率化に取り組み、国産材の利用割合は徐々に上昇してきているが、引き続き、これらに取り組む必要がある。


令和3(2021)年の木材不足・価格高騰においても、地域の製材工場等と連携して国産材製品を調達していた工務店は木材製品の入手難に陥らなかったという声もあり、川上から川下までの事業者による連携の重要性が再認識された。

また、国産材は、輸入材に比べて強度が劣るので使いにくいとも考えられている傾向にあり、柱材と比べて高い曲げヤング率を求められる梁(はり)や桁等の横架材において、一部の工務店を除き、国産材の使用割合は低位となっている。

しかし、令和3(2021)年の木材不足・価格高騰においては、特に輸入材比率の高い部材の需給が逼(ひっ)迫し、これらの部材について国産材製品で代替しようとする動きが見られた。2階建て木造軸組住宅の構造計算を行ったところ、スギでも大半の横架材に使用できることを示した例もあることから、多くの場合、スギ等の国産材の利用が可能であることが分かっている。このような事例・知見を広めることで、国産材の利用を拡大させていく必要がある。林野庁としても「国産材の安定供給体制の構築に向けた需給情報連絡協議会」等の場を活用し、国産材製品への転換事例の周知等に取り組んでいる。

また、ツーバイフォー工法においても、九州地方や東北地方を中心に国産材のツーバイフォー工法部材の安定供給体制が整備されつつあることから(*66)、三菱地所ホーム株式会社や三井ホーム株式会社等、ツーバイフォー工法の住宅を供給する大手住宅メーカーにおいて国産材の利用が進んでいる。

さらに、住宅メーカー等において、SDGsや地域振興への貢献、他メーカーとの差別化等を考え国産材を利用する例が増えている中、製材・集成材工場と連携し、国産材製品の安定調達・供給体制を構築する取組も見られる(事例 特-6)。

令和3(2021)年の木材不足・価格高騰により、川下の住宅メーカーや工務店等の国産材需要が高まっており、この機会に川上・川中の事業者が連携して様々な性能・品質の木材製品を提案し、流通全体で適材適所での国産材利用に取り組んでいくことが期待される。

事例 特-6 住宅メーカーにおける国産材活用に向けた取組

製材工場等との木材調達会議

令和3(2021)年4月に、株式会社三栄建築設計、株式会社オープンハウス(注)及びケイアイスター不動産株式会社の住宅メーカー3社は、一般社団法人日本木造分譲住宅協会を設立した。同協会は、人々の住環境を持続的に守るために、地球温暖化防止機能や水源涵(かん)養機能を持つ森林を維持・回復することが重要と考え、木造分譲住宅における国産材の利用を促進することを目的としている。

3社は、令和2(2020)年に同協会の設立を企画し、大規模の製材工場等と定期購入を約束した。同協会が製材・集成材を購入し、提携するプレカット工場で加工することで、安定供給を目指しており、令和3(2021)年においてプレカット工場が木材調達に苦労した際にも、同協会が木材を安定的に調達できたことが、プレカット工場との信頼構築に役立ったとしている。

住宅での国産材の活用については、例えば株式会社三栄建築設計では、分譲住宅で用いる木材の国産材率を97%まで向上させ、さらにスギを梁(はり)で使うための技術開発にも取り組んでいる。

また、同協会会員が消費した木材を丸太に換算し、その本数を植林することとしており、苗木約3万本の寄附を行った。今後、会員数の増加に合わせて植林規模を拡大するため、造林事業者・森林組合と検討を行っている。


注:令和4(2022)年1月以降、株式会社オープンハウスグループ。


(*66)取組の事例については、「平成30年度森林及び林業の動向」第4章第3節(2)の事例4-8(199ページ)を参照。



(非住宅分野・中高層分野における需要拡大)

我が国の新設住宅着工戸数が全体として減少する可能性も踏まえ、木造率の低い非住宅・中高層建築物において木造化や内外装の木質化を進め、国産材需要を拡大していくことが必要である。非住宅・中高層建築物での木材利用の環境整備は一定程度進んだものの、更に木材利用を進めるための課題として、木造化・内外装の木質化に詳しい設計者が少ないこと、設計・施工の手法が標準化されておらずコストが増加すること、木材使用量が多くなることで木材の調達に手間や時間を要すること、強度等の品質・性能の確かなJAS製品の供給体制の整備が十分でないことなどが挙げられる。

設計者の不足については、林野庁と国土交通省が連携して、講習会の開催等を通じて、CLT等の建築用木材を活用した非住宅・中高層建築物の木造化に必要な知見を有する設計者や施工者等の育成を支援している。また、公益財団法人日本住宅・木材技術センターは、令和3(2021)年2月に中大規模木造建築の設計に関する情報を一元的に集約して提供するポータルサイトを開設している。さらに、大断面集成材やCLT等を生産する製材・集成材工場では、中大規模木造建築の設計に協力している例がある。

設計・施工コストの低減に向けては、普及性の高い標準的な設計や工法等が建築業者等から提案されている。特に低層非住宅建築物については、これまでの住宅建築での技術等を活用し、一般流通材等を用いて設計することで、低コスト化を図ることが可能である。

例えば、公益財団法人日本住宅・木材技術センターは、1~2階建ての小規模店舗や4~7階の中規模ビルのモデル設計の事例集を作成した(資料 特2-31)。また、一般社団法人中大規模木造プレカット技術協会は、一般流通材を活用した低層の中大規模木造建築物に求められる技術の開発・標準化等に取り組んでおり、標準図の公表や積算ツールの開発、設計者向けのセミナー等を実施している。


また、一般流通材以外の木質耐火部材やCLT等は特注品となることが多く、低コスト化を図るためには、それらの部材の標準化を進めていくことが必要である。

木材の調達の課題解決に向けては、川上から川下までの木材の需要と供給にかかる情報を、事業者間で共有することが必要である。具体的には、川上側に早い段階で使用量を伝えることで、調達を円滑化する取組も見られる。また、中小の製材工場単独では、大規模建築物に必要な供給量に対応することは難しい場合もあるが、製材工場が連携することで供給した例もある。

このほか、一定規模以上の建築物では、設計時に構造計算による構造安全性の確認が求められるため、強度等の品質・性能が確かなJAS製品の供給体制の整備が必要である。このため、林野庁では、平成29(2017)年度から、JAS製品のうち特に構造材の供給や利用の拡大を宣言する「JAS構造材活用拡大宣言」を行った木材関連事業者・建築事業者等の見える化や、JAS構造材を利用した建築実証の支援を実施している。また、JAS規格については、科学的根拠を基礎としつつ、必要に応じて利用実態に応じた区分や基準の合理化等を図ることとしている。JAS制度に基づく認証を取得した事業者の割合は、合板工場では7割を超えているものの、製材工場では小規模零細な工場が多いため1割程度である(*67)。また、製材品のうちJAS製材品の割合も1割程度となっており、供給体制は十分ではない。なお、令和2(2020)年度のJAS製材(機械等級区分構造用製材(*68))の認証工場数は90工場であり、林野庁は、令和7(2025)年度までに110工場とすることを目標としている。

非住宅・中高層建築物での木材利用を進めるためには、様々な課題を解決するとともに、木材利用のメリットを建築物の施主や利用者等に周知することも重要である。

例えば、木材は調湿作用及び高い断熱性を持つことや、生理・心理面への好影響があることが報告されており(*69)、施主が集客効果等を期待し建築物の木造化・木質化を進める場合もある。

また、SDGsへの関心が高まっており、木材利用による地域振興や環境面等の社会的な意義を重視する企業も見られる。林野庁は、令和3(2021)年10月に、建築物への木材利用による地球温暖化防止への貢献について対外的に発信する手段として、建築物に利用されている⽊材の炭素貯蔵量を分かりやすく表示する方法を示したガイドラインを定めた。例えば、三井ホーム株式会社は、同ガイドラインに基づき、鉄筋コンクリート・木造混構造5階建ての集合住宅の炭素貯蔵量を738CO2トンと公表している。

さらに、構造体に木材を利用することにより、他の構造と比べて施工期間を短縮できることや、建物の軽量化に伴い基礎工事のコストを低減できることから、これらを木材利用のメリットとして訴求できる場合がある。


(*67)合板工場については、公益財団法人日本合板検査会が認証しているJAS認証工場数(令和3(2021)年3月末現在)を全合板工場数(令和2(2020)年12月末現在)で除した割合。製材工場については、一般社団法人全国木材検査・研究協会及び一般社団法人北海道林産物検査会が認証している製材等JAS認証工場数(令和3(2021)年3月末現在)を全製材工場数(令和2(2020)年12月末現在)で除した割合。

(*68)構造用製材のうち、機械によりヤング係数を測定し、等級区分するもの。

(*69)公益財団法人日本住宅・木材技術センター「内装木質化した建物事例とその効果-建物の内装木質化のすすめ-」(令和4(2022)年3月)



(大径材の利用に向けた取組)

これまで製材工場は中丸太からの柱角生産を中心としてきており、大径材を効率的に製材する体制となっていない工場が多い。一方、人工林が本格的な利用期を迎え、直径30cmを超える大径材の出材量の増加が見込まれる中で(資料 特2-32)、大径材の利用拡大に向けた取組が必要である。


大径材では、横架材に利用される平角や、内装材等に利用される板類、ツーバイフォー工法用の製材など、様々な木取りを適用することが可能である。

木取りが複雑になると生産効率が落ちることから、国内の製材機械メーカーでは、大径材に対応した機械の改良・開発が進められており、製材工場では自動で効率的な木取りができる大径材用の製造ラインも導入され始めている。例えば、令和2(2020)年4月に成立した補正予算により、14の事業体が大径材に対応した加工ライン等を新たに整備し、間柱等の割物や集成材用ラミナ等の増産を図っている(*70)。

また、川上から川下までが連携し、大径材の販路を作ることで、大径材の活用を図る取組も行われている(事例 特-7)。

事例 特-7 大径材を有効活用するJAPAN WOOD PROJECT

住宅内装の様子(写真提供:株式会社アイジーコンサルティング)

静岡県浜松(はままつ)市の川上から川下までの事業者が連携してJAPAN WOOD PROJECTを立ち上げ、各々の要望や課題を共有しながら、大径材の住宅構造材への活用を計画的に実施している。

大径材から梁(はり)だけを取ろうとすると製材時の歩留りが低くなるが、本プロジェクトでは、建具・家具製造業者と連携することで出口を増やし、側材を無垢の建具や階段に加工し、さらに樹皮に近い部分を屋根下地材として利用している。様々な事業者が連携することで、付加価値のある製品が生まれ、原木1本の価値を高めており、関係者全員にメリットのある取組となっている。

また、住宅会社は、設計を検討し梁(はり)の長さと断面サイズの種類を絞り込むことでも、加工・流通業者における原木の加工や在庫減少に貢献している。

このような取組により、平成31(2019)年1月の発足以来、令和4(2022)年3月までに約140棟の住宅を建築し、2,000m3以上の原木を活用している。


(*70)令和3(2021)年3月31日付け日刊木材新聞1面


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