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第1部 特集2 第2節 建築分野における木材利用の動向(1)

(1)住宅における木材利用の動向

(ア)住宅における木材利用の概況(*11)

製材・合板は、主に建築分野で利用されており、国内で生産された製材については約8割が住宅の構造材や下地材等の建築用として(*12)、合板については住宅等の構造材、フロア台板(*13)等に使用されている。我が国の建築着工床面積の現状を用途別・階層別に見ると、1~3階建ての低層住宅の木造率は約8割に上っており(資料 特2-6)、住宅分野は、我が国の木材、特に国産材の仕向先として重要な市場である。


一方で、新設住宅着工戸数は、長期的にみると減少傾向にあり、令和2(2020)年は新型コロナウイルス感染症等の影響を受けて前年比10%減となった。令和3(2021)年は令和元(2019)年の水準に至らないものの前年比5.0%増の86万戸、このうち木造住宅が前年比7.0%増の50万戸となった。新設住宅着工戸数に占める木造住宅の割合(木造率)は、一戸建て住宅では91%と特に高く、全体では59%(令和3(2021)年)となっている(資料 特2-7)。


令和3(2021)年の木造の新設住宅着工戸数における工法別のシェアは、木造軸組構法(在来工法)が79%、枠組壁工法(ツーバイフォー工法)が19%、木質プレハブ工法が2%となっている(*14)。

一戸建て住宅の高い木造率は、木造での工事費用が安いことが理由の一つと考えられ、構造別の住宅工事費予定額を比べると、木造17万円/m2、鉄骨造28万円/m2、鉄筋コンクリート造29万円/m2となっている(*15)。


(*11)製材・合板等の木材製品の種類別の詳細については、第3章第3節(2)151-155ページを参照。

(*12)農林水産省「令和2年木材需給報告書」

(*13)フローリングの基材となる合板。

(*14)国土交通省「住宅着工統計」(令和3(2021)年)。木造軸組構法については、木造住宅全体からツーバイフォー工法、木質プレハブ工法を差し引いて算出。「木造軸組構法」は、単純梁形式の梁・桁で床組や小屋梁組を構成し、それを柱で支える柱梁形式による建築工法。「ツーバイフォー工法」は、木造の枠組材に構造用合板等の面材を緊結して壁と床を作る建築工法。「木質プレハブ工法」は、木材を使用した枠組の片面又は両面に構造用合板等をあらかじめ工場で接着した木質接着複合パネルにより、壁、床、屋根を構成する建築工法。

(*15)国土交通省「住宅着工統計」(令和3(2021)年)



(イ)住宅におけるニーズの変化

(品質・性能へのニーズの向上)

阪神・淡路大震災における被害等を受け、建築物に関する制度改正が行われ、住宅の品質・性能の明確化が強く求められるようになった。

平成12(2000)年4月に「住宅の品質確保の促進等に関する法律(*16)」が施行され、住宅の構造の安定、劣化の軽減等の性能を評価・表示する制度が創設されるとともに、新築住宅の基本構造部分について10年間の瑕疵(かし)担保責任が義務付けられた。また、同年5月の「建築基準法施行令(*17)」の改正に伴い、国土交通省告示(*18)が制定され、継手(つぎて)・仕口(しぐち)(*19)の仕様が明確化された。

耐震性を向上させるため、木造軸組構法においては、耐力壁(*20)として筋交(すじか)い(*21)の代わりに構造用合板を用いたり、床組に根太(ねだ)(*22)の代わりに厚物合板を用いたりすることによって構造強度を確保する工法が増えている。また、平成30(2018)年3月の国土交通省告示の改正(*23)により、木造軸組構法の耐力壁に係る告示仕様に構造用パーティクルボードと構造用MDF(*24)(中密度繊維板)が加えられたことにより、構造用合板のほか、これらのボード類を耐力壁として利用しやすくなった。

さらに、和室から洋室へ生活様式が変化してきたことに加え、耐震性の確保へのニーズが高まったため、柱が現(あらわ)し(*25)で見える真壁工法が減少し、大壁工法(*26)が普及している。


(*16)「住宅の品質確保の促進等に関する法律」(平成11年法律第81号)

(*17)「建築基準法施行令」(昭和25年政令第338号)

(*18)「木造の継手及び仕口の構造方法を定める件」(平成12年建設省告示第1460号)

(*19)「継手」とは、2つの部材を継ぎ足して長くするために接合する場合の接合部分で、「仕口」とは、2つ以上の部材を角度をもたせて接合する場合の接合部分。

(*20)風圧力や地震力に抵抗するための壁面。

(*21)風圧力や地震力に抵抗するため、軸組に対角線に入れる材。

(*22)床板を受ける横木。

(*23)「建築基準法施行令第四十六条第四項表一(一)項から(七)項までに掲げる軸組と同等以上の耐力を有する軸組及び当該軸組に係る倍率の数値を定める件等の一部を改正する件」(平成30年国土交通省告示第490号)

(*24)「Medium Density Fiberboard」の略。

(*25)構造材等に用いられる木材を壁等で隠さず、利用者に見える形で用いる方法。

(*26)木造軸組構法のうち、壁一面を板張り又は壁塗りとする工法のこと。



(省エネルギーに対するニーズの向上)

昭和55(1980)年に制定された「省エネルギー基準(*27)」は、平成4(1992)年と平成11(1999)年に順次強化され、平成25(2013)年には、建物全体の省エネルギー性能を評価する基準が加わった。さらに、省エネルギーに加え、太陽光発電等の導入により年間の一次エネルギー消費量の収支をゼロとすることを目指したネット・ゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH(ゼッチ))(*28)について、「第6次エネルギー基本計画」(令和3(2021)年10月閣議決定)において、令和12(2030)年度以降新築される住宅について、ZEH基準の水準の省エネルギー性能の確保を目指す(*29)とされるなど、普及が進められている。

このように住宅における省エネルギーの動きが活発になる中で、住宅の隙間をなるべく作らず、断熱材を壁の中に充塡したり、外側に張ったりするなどの高気密・高断熱を目指した工法が普及している。断熱材や省エネ設備の設置に伴って建築物が重量化する傾向にあり、一層の構造安全性の確保が必要となる中で、強度等の品質・性能が確かな木材製品が更に求められている。


(*27)住宅の省エネルギー性能を計る基準。当初は外皮(外壁や窓等)の熱性能のみの基準であったが、平成25(2013)年に空調・冷暖房等の設備を含む建物全体の省エネルギー性能を評価する一次エネルギー消費量の基準が加わった。

(*28)快適な室内環境を保ちながら、住宅の⾼断熱化と⾼効率設備によりできる限りの省エネルギーに努め、太陽光発電等によりエネルギーを創ることで、1年間で消費する住宅のエネルギー量が正味(ネット)でおおむねゼロ以下となる住宅。

(*29)ZEHの強化外皮基準(断熱性能の基準)への適合及び再生可能エネルギーを除いた一次エネルギーの消費量を現行の省エネルギー基準値から20%削減。



(住宅の長寿命化の動きと中古住宅市場等の拡大)

我が国では、住宅の平均的な寿命は徐々に延びているが、欧米に比べて短い(資料 特2-8)。また、全住宅流通量に占める既存住宅の流通戸数のシェアについても、欧米諸国に比べて低い水準にある(*30)。このような中、「いいものを作って、きちんと手入れをして長く大切に使う」ストック活用型の社会への転換を目的として、長期にわたり住み続けられるための措置が講じられた優良な住宅(長期優良住宅)を普及させるため、「長期優良住宅の普及の促進に関する法律(*31)」が平成21(2009)年に施行された。長期優良住宅の認定を受けた場合は減税措置があるなど、住宅の長寿命化に向けた取組が進められている。


一方で、空き家を除く住宅ストックの87%は、現行の外皮性能に係る省エネルギー基準を満たしておらず(*32)、また、住宅の22%は、現行の耐震基準が導入された昭和56(1981)年より前に建築されたものである(*33)。さらに、約850万戸の空き家が存在しており(*34)、過疎化地域だけでなく都市部においても、空き家の増加が問題となっている。

これらの住宅はリフォーム等による性能の向上が可能である。令和元(2019)年の我が国の住宅リフォーム市場規模は、約7.3兆円と推計されており、10年前と比べて1兆円以上増加している(*35)。国土交通省では、既存住宅の流通の活性化を目指し、長期優良住宅の認定制度やリフォームへの支援等を実施している。


(*30)全住宅流通量に占める既存住宅の流通戸数のシェアは、日本14.5%、米国79.8%、英国(イングランドのみ)89.0%(国土交通省「住宅経済データ集」(令和3(2021)年度版))。

(*31)「長期優良住宅の普及の促進に関する法律」(平成20年法律第87号)

(*32)国土交通省「脱炭素社会の実現に向けた、建築物の省エネ性能の一層の向上、CO2貯蔵に寄与する建築物における木材の利用促進及び既存建築ストックの長寿命化の総合的推進に向けて」(社会資本整備審議会建築分科会(令和4(2022)年1月20日)資料1-1)

(*33)総務省「平成30年住宅・土地統計調査」

(*34)総務省「平成30年住宅・土地統計調査」

(*35)公益財団法人住宅リフォーム・紛争処理支援センター「住宅相談統計年報2021」。エアコンや家具等のリフォームに関連する耐久消費財、インテリア商品等の購入費を含む。



(プレカット率の向上など工期短縮等への取組)

大工技能者が減少する中、工期短縮、コスト削減の要求等から、住宅を現場で建築しやすいように、柱や梁(はり)の継手や仕口等を工場で機械加工したプレカット材が普及しており、令和2(2020)年には、木造軸組構法におけるプレカット率は約93%に達している(*36)。また、継手や仕口の加工を金物に置き換えたプレカット材を用いる金物工法も普及している。

さらに、木造軸組住宅においても、プレハブ工法のように、あらかじめ工場で、構造材や羽柄(はがら)材(*37)に耐力面材、断熱材、窓のサッシ、防水シート等を一体的にパネル成型する工法を利用する取組が進展している。

これらのような工法に用いられるプレカット材は、狂いがないことを前提に加工されるため、より一層の寸法安定性が求められる。


(*36)一般社団法人全国木造住宅機械プレカット協会「プレカットニュース Vol.101」(令和3(2021)年7月)

(*37)木造住宅に用いられる柱、土台等の構造材以外の比較的寸法の小さい製材品の総称。



(ウ)住宅向けの木材製品への品質・性能に対する要求

住宅におけるニーズの変化を背景に、住宅に用いられる木材製品について、より一層の寸法安定性や強度等の品質・性能を求めるニーズが高まっている。

この結果、建築用製材において、寸法安定性の高い人工乾燥材の割合が増加している(資料 特2-9)。さらに、木造軸組構法の住宅を建築する大手住宅メーカーでは、柱材、横架材で寸法安定性の高い集成材の割合が増加している。この中で、柱材ではスギ集成柱が普及するなど国産材の利用も進みつつあるが、横架材については、高いヤング率(*38)や多様な寸法への対応が求められるため、米(べい)マツ製材やヨーロッパアカマツ(レッドウッド)集成材等の輸入材が高い競争力を持つ状況となっている(資料 特2-10)。

資料 特2-10 木造軸組住宅の部材別木材使用割合(大手住宅メーカー)

一方、一部の工務店は、大手住宅メーカーよりも製材を多く使用しており、その中でも国産材の割合が高く、横架材においてもスギ等の国産材の割合が高くなっている(資料 特2-11)。

資料 特2-11 工務店での木材使用割合

また、平成27(2015)年3月にツーバイフォー工法部材の日本農林規格(JAS)が改正(*39)され、国産材(スギ、ヒノキ、カラマツ)のツーバイフォー工法部材強度が適正に評価されるようになった。その後、ツーバイフォー工法の住宅を供給する大手住宅メーカーでも国産材を利用する事例がみられている。

住宅分野において国産材製品の利用が進む中、国産材を原料とした木材製品の安定供給がより一層求められている。


(*38)材料に作用する応力とその方向に生じるひずみとの比。このうち、曲げヤング率は、曲げ応力に対する木材の変形(たわみ)しにくさを表す指標。

(*39)「枠組壁工法構造用製材の日本農林規格の一部を改正する件」(平成27年農林水産省告示第512号)


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